[ 会社の仕事 ]
金曜日に私はついにブチ切れた。よくもまあここまで私の癇に障る言動を繰り返すものだと腹の底から怒りが込み上げてくると同時に、私の性格に潜む、相手を徹底的に叩きのめしてやりたいという衝動が蠢いたのだ。
企業という環境のなかで仕事をしていると、気が合わない相手とでもなんとか上手くやっていくように努力するというのが当たり前だ。しかし、相手に全くその気がなく、むしろ私の配慮や施策を鼻先で笑うような言動に出た場合には、私は絶対に容赦しない。徹底的に追い詰めて、相手を精神的に殺してやるのが私のやり方だ。それで私が会社を首になるなら本望である。
会社など他に五万とあるわけだし、私の実力を持ってすれば再就職など屁でもないし、キャリアアップ+昇給だって可能だ。まあ、会社の大切な人的資産となる私を会社が易々と首にするわけはないわけだが、そんなことよりも、今なによりも重要なことは、私の自尊心が傷つけられ、私の好意を踏みにじった相手を徹底的に叩き潰してやることなのだ。
Bの担当者と私の付き合いは、私が当社に入社した7月に遡る。初めて会った瞬間から、何を考えているのか分からない女だという印象を受けた。一体全体どのような過去を経て、いかなる価値観を形成し、何を目的として仕事をしているのかなど、彼女の外見や言動からは推察不可能だった。
そろそろ45歳を超えるだろう高齢のため、美貌には陰りが見られるが、容貌から察するに昔はかなりの美人だったはずだ。しかし、左手の薬指に「幸福の輪」が見られないことからも、結婚はしてないことが伺われる。
これは私の主観に発する仮説でしかないが、30代後半若しくは40代を超えて結婚していない人間には、人と協調しながら仕事を含めて物事を進めていくことができないということだ。ここには、他社との意思の疎通を不得意とすることも含まれる。ただし、離婚は別であるが。
要は、自分と相手の意図や感情をしっかり読みながら、自分の思いを伝え、また相手の気持ちにも配慮しながら協力して物事を遂行していくことができないということである。結婚できないのは「出会いがない」とか「運が悪い」のではない。このようなことを言っているのは、己を知らないがために、自分の人生においてどのような伴侶が欲しいのかも明確にできず、よって他者との健全な関係を構築していくことができない人間がほざくたわごとでしかないのだ。
この点は、彼女の仕事振りを見ていても明確で、まずコミュニケーション・マネージャーとしての主体性が一切ない。製品PRを行っていくうえで、何を達成したいのか、市場の動向を見据えた上でどのような戦略を用いて戦いたいのか等、全く明確にされていない。もちろん、マーケティングとの連携を通じて仕事を進めていくわけだが、PR活動となれば、そこにPRの視点や戦略が入ってくるのが当たり前であり、これなくしては何も達成されず、むしろ他部署の見解に左右されて意見が常に揺れ動くことから混乱を招くだけなのだ。
木曜日のミーティングに続いて、金曜日に電話口で私が切れた理由も、まさにここにある。B社のPR部は、薬事や規制管理部のメッセンジャー係に成り下がっているのだ。これらの部署からのアドヴァイスや修正を私に伝えるのみで、これらから少しでも外れる方向に話が向かうとヒステリックに反応し、負のエネルギーをこれでもかと発散しながら、「もし問題が起こった場合」にも自分が責任を取らなくてもよいよう責任回避のための交渉に全てを切り替えてしまう。これでは両社の間でPR活動における建設的な話し合いなどできたものではない。
弊社のPR戦略や目的を踏まえて企画し、作成したものをB社でもレビューするから送ってくれという。両社で確認することが契約で定められているため、レビューされることは問題ない。しかし、B社に送っても、レビューするのは薬事や規制であり、PRではないのだ。だから、レビューを経てもPRからの新たな視点や建設的な見解が提案されてくることは一切ない。帰ってくるのは、超保守的な薬事法の解釈によってPRの視点や意図が全て徹底的に批判され、「添付文書」の焼き直しのレベルにまで「創造性」を殺さないと容赦できないという見解のみなのだ。
薬事や規制からのアドヴァイスや指示を踏まえた上で、PRとしてどうして行くべきかを考えるのが彼女の仕事であり、責任であるわけで、これを実行しないということは、普通に考えれば職務怠慢の他のなんでもないのだ。PRとしてはこれらをどう反映させていくのか、また必要とあれば再度議論したり交渉したりして、少しでもPRとしての活動の成果を出すために積極的に動くべきなのだ。レビューから戻ってくるものには、一切B社PR側からのロアクティブな働きかけは見られない。それもこれも、彼女のなかでPRとしての目標設定もなされていなければ、戦略的思考もできてないからだ。ぼーっとして、一切合財を命令されるがままに切り盛りしているだけである。
木曜日のミーティングでは、私がB社の薬事やレギュラトリーからの見解について反論したり、交渉の余地について相談をすると、彼女とその部下の石田という一見アンパンマンを女にしたらこうなるだろうという容貌の女は、私を「無知なアマチュア」と言わんばかりに鼻先でせせら笑ったのだ。
石田に至っては、以前からもそうであったが、私に対して終始アグレッシブであった。一言言ってやろうかと一瞬思ったが、その時は止めておくことにした。後で更に強力な一撃を加えてやる機会があるに違いないから、とりあえずその時まで怒りは納めておくことにした。それでも、自分より全てにおいて劣っている女どもに鼻先で笑われたことについて、私は心の中では怒り心頭に発していた。この怒りはなんとしても精神的な打撃を与える復習という形で石田に返さないと気がすまない。
話を戻すが、私は、怒りを爆発させる代わりに、強い口調で上記のような趣旨のことについて滔滔と語ってやった。「無知でアマチュア」の私から上記のような彼女らの存在の意味を問う発言をされたことに、彼女らはショックを受けると同時に、これは私の推測でしかないが、この度の問題の核心を突いた「図星」であったことから、黙り込んでしまった。
その後、より気の強い石田は気を取り直し、再び私と当社に対する攻撃を再開したが、そんなことはどうでも良かった。要は、筋を通った意見を言うことが大切で、それ以外の発言は全てノイズの他のなんでもないのだ。プリンシパルのない彼女らの言うことには一切の筋も通っておらず、今後徹底的に叩きのめしてやるためには好都合であると思った。
ただ、私もまだ30代中盤で完璧な仕事人としての成熟のレベルに達していない。怒りを胸に収めたことからくるストレスへの耐性はまだ確立されていないといえる。そのため、金曜日は朝からむしゃくしゃしていた。そこへ、木曜日に両社の間で合意したにもかかわらず、また薬事などの細かい修正についごちゃごちゃメールをGが書いてよこしてきた。昨日の怒りが沸々と込み上げてきて、私は電話を取った。
次回に続く
最終更新日
2010年05月02日 15時55分28秒