真・恋姫†無双 変革する外史。 (たいち)
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四十七話

洛陽




この日は朝起きた時から胸騒ぎがしていた。
何かとんでもないことが起きるような、そんな胸騒ぎが・・・


「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・あの、お茶のおかわりとか・・・は。」
「いらないわ。」
「喜媚様、結構です。」


今、私の店の個室でこうしてお互い睨み合っているのは、桂花と劉花ちゃんだ。

何があったかというと・・・話は簡単なのだが、
以前 桂花から書簡で書かれていた通り、曹操さんが洛陽に来たのだ。
曹操さんは 「久しぶりに会ったんだから色々積もる話もあるでしょう?
終わるまで待っててあげるから 話してらっしゃい。」
と言い 表の座席で李典さんと一緒にお茶とお菓子を楽しんでいる。


「・・・・・で? この女は何なの?」
「・・・・この方が荀彧様ですか・・・・フッ。」
「アンタ今私(の胸を)見て笑ったわね!」
「いいえ、そんな事はありませんよ?
喜媚様の幼馴染の方と会えて嬉しくて頬が緩んだだけですよ。」
「あ、あの・・・・」
「なによ!?」
「ひっ・・・こ、こっちの方は劉花ちゃんと言って、
以前、洛陽で揉め事が起きた時に ちょっと色々会って私が助けることになったんだけど・・
その辺のことは書簡で説明してあったと思うけど。」
「そう・・・それがこの女なのね。」
「えぇ、私は喜媚様に命を助けられて、
そのご恩返しにこうして 一緒に暮らして お世話をしているのです。」
「くっ・・私も一応自己紹介しておこうかしら。
私は荀文若、喜媚と 子供の頃からずっと一緒に 過ごしてきて、
少し前に とても深い関係 になったの。
今は華琳様、曹孟徳様の所で軍師をしているわ。」
「・・・・そんなっ!? 喜媚様!?」
「な、なに!?」
「荀文若様とはどういう深い関係なのですか!?」
「どういうって・・・」
「男と女の関係と言ったらわかるかしら?」
「・・・・っ!?」
「あ~・・・えっとその、まぁ、そうなんですけど。」
「なんでそういう大事な事を、もっと早くおっしゃってくれなかったんですか!!」
「いや、だって、そんな人に風潮するようなことでもない・・ですし。」
「くっ・・・でも今は一緒じゃ無いんですよね?
・・・別れたんですか?」
「違うわよ! ちょ、ちょっと色々会ってお互い生き方を模索しているところなのよ。」
「つまり、今は婚約関係にあるとかではなく、ただの幼馴染という事ですね。
生き方を模索しているという事は、
お互い別々の道を歩んでいらっしゃると言う事ですね。」
「・・・そ、それが何よ。」
「いいえ、喜媚様も人間ですもの、たまには過ちを犯すこともありますね。
過ちを許して 相手の過去を受け入れてこそ、夫婦は長続きするものですわ。
そう思いませんか? 荀文若殿?」
「何が言いたいのよ・・・あんたはただの使用人でしょう。」
「今 は そうですわね。
将来はどうなるかわかりませんけど。」
「くっ・・・・」
「むっ・・・・」


怖い、女同士の話し合いって怖いよ。
私は何も悪い事してるわけじゃないのに、
すごい罪悪感を感じる。

桂花とはちゃんとした関係なはずだし、
劉花ちゃんと浮気したとか そいいうわけでもないのに、
なんで私がこんな胃の痛い思いをしなくちゃいけないんだろう。

劉花ちゃんが私の事をどう思っているかくらいは察しがついているつもりだけど、
桂花と私の事をもう少しはっきりというべきだったんだろうか?

二人のにらみ合いは続いていたが、
そんな中、今は救いの女神とも言える曹操さんが、個室の扉を開けてやってきた。


「あなた達まだやってたの?
桂花、いい加減私達に喜媚を紹介なさいな。」
「・・・はい、華琳様。」
「劉花ちゃんは、お茶を入れなおしてきて。
冷めちゃったから。」
「・・・はい。
(喜媚様、荀文若様の事はあとで 詳しく 話を聞かせてもらいますから。)」
「(・・・はい)」


一度個室から出て、店の方に向かい、曹操さん達が座っている机に皆で座る。

劉花ちゃんがお茶を入れなおして来て、再度各々の紹介からやり直す。


「私の紹介は知ってるからいいわね、
この子は真桜、李曼成ウチで武官をやってもらってるわ。」
「ご紹介にあずかりました李曼成いいます。
李典と呼んでくださって結構です。」
「よろしくお願いします、私は胡喜媚です、喜媚と呼んでください。
この店の主をしてます。」
「やっぱりあんたが! 話は聞いてますで、
あの春蘭様と秋蘭様がいる眼の前で、華琳様に身体を要求したとか!」
「ブフゥッ・・・コホッコホッ・・・どんな話ですか!?」
「あら、事実じゃない。」
「あれは、あの時は事情があってそうしたんであって、
本気で曹操さんの身体を要求したわけじゃないですよ。」
「でも、身体を要求したのは事実なんや!
ほんま、どんなすごい豪傑や思うたら、来ないな可愛い娘やなんて。」
「あの、私一応男なんですけど。」
「あぁ、すんまへん。
男やっちゅうのは聞いてたんやけど、どう見ても女の子にしかみえんから。」
「もういいです・・・」
「せやけど、よう生きてましたな、あの春蘭様の目の前でそないな要求して。」
「まぁ、曹操さんが止めて下さったお陰ですよ。」
「あの時はそうせざるを得ないからしょうがないわよ。
私は何を言われても怒らないって約束したわけだし。」
「もうあんな思いは二度とごめんですよ。」
「あら? でもそのおかげで桂花を抱けたんでしょう?
男を見せたってところかしら。
三日後に桂花が私の所に着た時はすごかったわよ?
完全に腰が砕けてて なんとか立っていたけど、
わずか三日でただの生娘がああも色気だつ女に変わったかと思ったら・・
私、思わずそのまま桂花を閨に連れ込もうと思ったもの。」
「華琳様!」
「無理矢理は流石に勘弁して下さいよ?」
「今は そんな事しないわよ。
私にも責任ってものがあるんだから。」

(つまり立場や責任がなかったらやるのか・・・)

「アレから桂花を何度か閨に誘ったんだけど、
良い返事がもらえなくて・・・やっぱり貴方と一緒じゃないとダメみたいね。」
「私は三人一緒とかそんな趣味無いですよ。」
「大丈夫よ。 人間慣れるものだから。
春蘭や秋蘭も最初は戸惑ってたわ。」
「そんな話聞きたくありませんし 慣れたくありません。」
「あら? 男なら好きそうな話題じゃない?」


このままだと曹操さんのペースになりそうなので、私は無理やり話を切り替える。


「それで、今回はなんのためにいらっしゃったんですか?
献帝様のお祝いですか。」
「そうよ。 漢の臣民として当然のことよね。」
「で、本当は?」
「董卓を見定めるのと、貴方を勧誘するのと、桂花の気晴らしにね。」
「随分と正直に教えてくれるんですね。」
「貴方は見当ついてるでしょう?
これから身内に誘おうという人間に偽りを言って心象を悪くしてどうするのよ。」
「残念ながら私はこの店の事があるので、曹操さんの仕官のお話は受けられませんよ?」
「今日は私の意思を伝えるだけだからいいわ。
私は 諦めない って事だけわかってもらえれば。」
「私なんてその辺にいる農家の息子ですよ。
曹操さんのお役になんか立てませんって。」
「あら、桂花から色々聞いてるわよ。
貴方が作った算盤、アレもいいわね、私も使わせてもらってるけど、
随分使いやすくなってるわね、今まであったものとは大違いよ。」
「基礎を作った人は違いますよ、私は真似しただけですから。
それに大体基礎は前からあったものですし。」
「そうね、でもあそこまで使いやすい物は今までなかったわ。
お陰で仕事がはかどってるわ。」
「それは良かったです、もともと桂花に送ったものですが、
曹操さんのお役に立てたのなら。」


曹操さんは一旦お茶を飲んで、店の中をぐるりと見回した後・・


「一つ 相談なんだけど、
この店、二階に空き部屋がたくさんあるわよね?
さっき外から見たところ従業員が全員住んでいるとしても、
明らかに屋敷の規模が大きいわ、庭まであるようだし。
そこで相談だけど 私達が洛陽にいる間、ここに泊めてくれないかしら?
宿代は出すし、貴方はその間桂花を好きにできるし、
それに真桜に話を聞かせてやってほしいのよ。」
「李典さんですか?」
「はいな。」
「この娘、ウチでは絡繰りと言うか、工兵もやってるんだけど、
手先が器用でね、桂花の算盤を見てから作った人の話を聞きたかったらしいのよ。
今回真桜を連れてきた理由がそれなんだけど、その辺の話を聞かせてやってほしいの。
貴方が ただの店の主 なら問題無いわよね?」

(私と董卓さんの繋がりに気がついているのか・・?
流石は曹操さんか。)

「う~ん、ウチは宿屋じゃないので、
たいしたおもてなしも出来ませんし、食事は私達が食べるものと同じ物になりますが、
それでもよろしいですか?」
「良いわよ。 桂花に聞いたところだと貴方 料理もうまいんですって?
期待してるわよ。」
「あんまり期待されても困るのですが・・・でしたら部屋を用意させますが、
三部屋でいいですか?」
「二部屋でいいわ、桂花は貴方と一緒でいいでしょう?」
「か、華琳様!?」

「だ、ダメです!!」


給仕をしていた劉花ちゃんがいきなり私達の話に入ってきた。


「あら? 貴方は?」
「この子は劉花ちゃんと言って、ウチで働いてもらっている娘です。
もともとこの屋敷は彼女の両親の物で、
私が彼女を助けた時にお礼として譲り受けたものなんですが、
彼女は両親を失って天涯孤独になってしまったので、
ウチで一緒に暮らしてるんです。」
「ふ~ん、でもただの従業員なら、店主の決定に口を出すべきじゃないわよね?」
「・・・・むっ!」


劉花ちゃんは裙子(スカート)を握りしめ悔しそうにしている。


「いいわよね? 桂花。」
「・・・・」
「あの劉花って娘・・・」
「喜媚と一緒の部屋で結構です!」
「いいそうよ。」
「あの、私の意見は・・・」
「あんたの意見なんて無いのよ!
私と一緒にあんたの部屋で寝る!
それでいいわね!?」
「・・・・はい。」


こうして曹操さんが洛陽に滞在している間、
ウチの店に泊まることが決定してしまった。

下手に断って董卓さんとの繋がりを疑われるのもまずいし、
久しぶりに桂花と過ごせるというのも今の私には何よりもうれしい事だ。

それに李典さんがいるのなら、お風呂の配管の事で相談したら、
いい話を聞けるかもしれない。
兵器の話をされたらぼかしておいて、
平和利用できるものに関しての話だけにしておこう。


この日は曹操さんが着たということで、
従業員の一人に屯所に行ってもらい、
董卓さん達にしばらく家に来ないように言付けして。
曹操さん達をもてなすために 少し豪華な料理とお酒を出したのだが、
料理の方はなんとか曹操さんを納得させられたのだが、
何点かダメ出しされてしまった。

あと、お酒の出自を聞かれて、私が作ったものだと言ったら、
是非製法を教えるか 譲って欲しいと言われたが、
とりあえず陳留に帰る時に数本譲ることで納得してもらった。

その日は久しぶりに桂花と一緒になれたということで、
いろいろ愚痴を言われたが、お互い、少々燃え上がってしまい、
翌朝、曹操さんにからかわれる事になる。
私の家の壁が厚く作ってあってほんとうに良かったと思った。
後で賈詡さんにお酒とお菓子を差し入れしておこう


翌日、曹操さんは宮殿に向かい、協ちゃんとの面会の予約を取り付け、
その後は洛陽を見て回っている。

現在の洛陽の統治方法は、私と桂花、郭嘉さんで考えたものに合わせて、
私の知恵袋の知識も導入されているので、
桂花ならすぐに私が関与しているとわかるだろう。
今夜桂花に何を聞かれるか恐ろしくてたまらない。


その夜・・・


「どういうことよ。」
「な、何がでしょうか?」
「とぼけんな! あんた董卓の統治に手を貸してるわね!
私と一緒に生きる道を探さすんじゃなかったの!?」
「・・・色々桂花には話せない事情があるんだけど。
コレは私なりに考えた最善なんだよ。
荀桂さんから聞いてるかもしれないけど、
この先、この国は戦乱の世に巻き込まれるかもしれない。
その前に董卓さんの手によって この国が安定すれば、
私と桂花が争うこと無く、いずれは一緒にこの国のために働いていけると思ってる。」
「・・・・何があったのよ?
あんた、アレだけ政治に関わるのを嫌がってたのに。」
「・・・関わらざるを得ない状況に・・追い込まれた。
そうしないと大切な人達が不幸な目に会うことがわかっているから・・・
もちろん桂花も含めて。」
「・・・どういうことよ?」
「コレは・・・曹操さんに話してもいいけど できたら桂花の胸の内に締まっておいて欲しい。
これから先、董卓さんは袁紹さん、美羽ちゃんのが主導して、
反董卓連合が組まれる可能性がある。
先の霊帝崩御、何進様暗殺、丁原さん暗殺、宦官の粛清、
董卓さんが横から掻っ攫うように何進さんの地盤を継ぎ、
今や最大勢力なっている。
宦官の粛清を実行した袁紹さん達や生き延びた宦官達がこのまま黙っているとは思えない。
でも、彼女達の勢力じゃ、董卓さんを討てないし、
討とうとしたら陛下に弓を引くことになる。」
「・・・・」
「ならばどうするか? 討つ理由を作ればいい。
例えば董卓さんが陛下を蔑ろにして洛陽で暴政を行なっている。
なんて噂を立てて。
そして連合を組んで皆で董卓さんを討てばいい。」
「・・・だから先手を打って董卓の善政の噂を流しているのね。」
「うん、しかし反董卓連合が組まれると この国は戦乱の世に突入する。
だから私はそれを防ぐために董卓さんに内政分野で手を貸して、
それを防ごうとしている。
コレを防げたら最低数年から数十年は国が安定する。
その間に董卓さんや、曹操さんの様な善良な諸侯達にこの国を中から変えて欲しい。」
「・・・・」
「私と桂花、今は立場は違うけど 同じ道を歩んでいけないかな?
将来董卓さんと曹操さんが同盟でも組めたら、一緒になることもできるかもしれない。」
「・・・・難しいわね、華琳様は覇道を歩まれる覚悟をしてらっしゃるし、
私もそれに共感している。
この国を変えるには、外から変えるしか無いと・・・」
「桂花 今が最後の機会なんだ、袁紹さん達が宦官を宮中から排除してくれた今こそが!」
「わかってるわよ!
・・・・だけど、私は華琳様に忠誠を誓ったのよ。
そう簡単に忠義を変えるわけには行かないわよ。」
「・・・そっか。」
「・・・ホント、なんでこんなにうまく行かないかな。
あんたと一緒に生きる事が・・こんなに障害が多いなんて。」
「・・・・なんでかな・・・」

「・・・・ねぇ、何があったの?
何があったら ヘタレなあんたがそこまでの覚悟をしなくちゃいけないことになるの?」
「それは・・・・」
「言えないの?」
「桂花には言いたい・・・知ってほしい。
でも曹操さんに知られると・・・・」
「・・・・そう、じゃあ聞かない。
私が聞いたら華琳様に聞かれた時に言わなくちゃいけ無くなるから・・・」
「ごめん。」
「いいわよ、私も政治に関わってるんだから、
身内でも言いたいけど言えない事がある事くらいわかってるわ・・・
だけど・・・今は一緒にいて。」
「うん。」
「せめて私がここにいる間だけは離さないで。」
「うん、桂花・・・愛してる。」
「・・・・・・久しぶりね、アンタにはっきりそう言われるの。」
「そうだね。」
「・・・・・私も・・・その、す、好きよ。」
「うん。」
「・・・もっと嬉しそうにしなさいよ。」
「嬉しいけど、なんか気恥ずかしくて。」
「私だって・・・そうよ。」
「うん。」
「・・・・・今だけは全てを忘れさせて。
今だけでいいから。」
「うん、私も今だけは桂花だけを感じていたい。」
「私も・・・・」


・・・・・・・



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