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社会保障と税の一体改革の行方に、暗雲が垂れこめてきた。自民党の谷垣総裁が野田首相に対し、関連法案成立後の衆院解散を、参院での採決前に確約するよう迫っている。[記事全文]
将来のエネルギー政策を考える「討論型世論調査」が2日間の日程を終えた。この方式での調査は、政府として初の試みだ。政策の決定過程に国民がかかわる新しい場づくりに取り組んだ[記事全文]
社会保障と税の一体改革の行方に、暗雲が垂れこめてきた。
自民党の谷垣総裁が野田首相に対し、関連法案成立後の衆院解散を、参院での採決前に確約するよう迫っている。
応じなければ、7日にも衆院に内閣不信任決議案、参院に首相の問責決議案を出すという。
不信任案はいまのところ可決の可能性は低いが、問責決議案が提出されれば可決される公算が大きい。そうなれば民主、自民、公明の3党合意は空中分解し、法案成立は難しくなる。
だが、ここで改革を頓挫させることは許されない。将来世代に負担をつけ回しする政治を続けるわけにはいかないからだ。
民主、自民両党は互いに譲るべきは譲りあい、法案成立を最優先にすべきである。
まず理不尽なのは自民党の姿勢だ。
「民主党が公約にない消費増税をやれば、国民に信を問うのが筋だ」。谷垣氏ら自民党執行部の指摘には、一定の理があると私たちも思う。
だとしても、いま解散を約束しなければ法案が潰れてもいいということにはなるまい。
衆院議員の任期満了まであと1年。いずれにせよ総選挙はそんなに先の話ではない。
自民党は2年前の参院選で10%への消費増税を公約した。3党合意は、それに基づいての決断だったはずだ。
これを実らせてからの解散・総選挙ではなぜだめなのか。
野田内閣の支持率が低迷している間に総選挙をやれば、自民党に有利だ。9月の党総裁選前に解散を勝ち取らなければ谷垣総裁の続投は難しい。
自民党内ではそんな声が聞こえる。
もしそれで解散を迫っているのなら、まさに党利党略、私利私略ではないか。
公明党が自民党の姿勢に「説得力がない」と自制を求めているのは当然のことだ。
民主党の言動も不可解だ。
党執行部は、一体改革法案の参院採決より前に、赤字国債発行法案や衆院の「一票の格差」是正法案を衆院通過させるべきだと主張してきた。
きのうになってやっと一体改革法案の先行処理を受け入れたが、参院採決でさらなる離党者が出るのを恐れて先送りを図っていたとしたら、これもまた党利党略というほかない。
私たちは、一体改革をめぐる3党合意を「決められる政治」への第一歩に、と期待した。
首相と谷垣氏は党首会談も含めあらゆる手立てを尽くし、すみやかに事態を打開すべきだ。
将来のエネルギー政策を考える「討論型世論調査」が2日間の日程を終えた。
この方式での調査は、政府として初の試みだ。政策の決定過程に国民がかかわる新しい場づくりに取り組んだ姿勢は、大いに評価したい。
資料を参考にしたり、専門家や、自分と異なる意見の人から情報を得たりしながら、参加者が議論する。質問に1回限りで答える通常の世論調査や、選ばれた人が自分の考えを述べて終わり、という意見聴取会にはない利点もあった。
「こういう場に参加すると『わからない』『政府にお任せ』とは言えなくなる」「政治家や官僚や電力会社はあくまでプレーヤーで、監督はぼくらだと実感できる」。40代男性の感想が印象的だ。
無作為の電話調査に答えた約7千人から、希望して集まった286人の意見や態度は、議論をへてどう変わったのか。考えを左右した要素は何か。8月中旬には、大学の研究者らによる実行委員会の分析結果が出る。
肝心なのは、こうした試みをどう政策に生かすかだ。多くの人が納得する手法を見つけるのは、簡単ではないだろう。それでも国民の根深い政治不信を乗り越えるためには、試行錯誤を重ねていくしかない。
議論の進め方でも、改善すべき点がないか検証したい。
今回の調査は、米スタンフォード大学が開発した手法を忠実に守った。たとえば進行役は裏方に徹する。参加者の疑問に答えてはいけない、などだ。
その結果、小グループでの討論では、疑問点が確認できずに議論が止まったり、事実と異なる意見をベースに、やりとりが続いたりする場面もあった。
「対象者に予断を与えない」というのは、正しいやり方かもしれない。
だが、国民的議論には、世論の動向を探るだけでなく、政策決定に国民が「かかわったと実感できる」仕組みづくりという目的もあるはずだ。
そう考えれば、米国方式にこだわらず、議論をより深めるため、参加者を支援する仕組みをもっと組み込む会議のやり方を考えてもいい。
たとえば、参加者が専門家と双方向で質疑できる機会をつくってはどうか。あるいは、参加者に配られる資料やアンケートを一般にも公開し、各地での自主的な取り組みを支援する手もある。
国民と政策とをつなぐ回路のひとつとして、熟議の場へと大切に育てていきたい。