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東電会議映像・何が分かったのか
8月6日 21時00分
東京電力福島第一原子力発電所の事故の直後、現場と東京の本店とのやりとりを記録したテレビ会議の映像が、6日、報道関係者に公開されました。
生々しい事故対応の様子が確認できる一方、公開されたのは映像の一部に限られ、しかも映像や音声がところどころ加工されたものでした。
今回報道機関に提供された1時間半の映像をNHKのサイトですべて公開するとともに、内容を細かく検証します。
映像には何が記録されていたか
報道機関に提供された映像は、東京電力が「社会的に関心が高いと思われる」場面を選んで編集したもので、約1時間半の長さに、大きく7つの場面が収められています。
映像には社員が特定されないよう、画面がモザイクで加工されたり、音声に「ピー」という音がかぶせられたりしています。また約1時間半の映像のうち、音声が収録されているのは約24分間だけでした。
映像は5つまたは6つの画面から成っています。
例えばこの画面の場合、上段は左から「東京電力本店の非常災害対策室」「新潟県の柏崎刈羽原発」、「福島第一原発の免震重要棟」、
下段は「福島第二原発の免震重要棟」「福島オフサイトセンター」に設置されたカメラの映像となっています。
福島第一原発の対策拠点の免震重要棟の映像では、画面の左側の机に、吉田前所長が座っています。
映像は大きく7つの内容に分かれます。それぞれ内容を検証します。
今回特に注目されるのが、政府と東京電力との認識に大きな隔たりがある、原発からの「撤退問題」を巡る【5】の場面と、菅前総理大臣が東京電力本店を訪問した際の様子を記録した【7】の場面です。
【1】「原発1号機で水素爆発が発生」(約2分・音声なし)
(※以下、映像の冒頭にあるタイトルは、すべて東京電力によるものです)
撮影:東京電力
1号機が水素爆発を起こした、去年3月12日の午後3時36分ごろの映像です。
音声はありませんが、5分割された画面のうち右上の、福島第一原発の事故対応の拠点、免震重要棟の2階の対策本部が、突然3秒ほど激しく揺れる様子が映し出されています。
映像開始から20秒ほどの場面です。
対策本部にいる東京電力の社員らは、揺れがおさまってから驚いた様子で天井を見上げたり、大きな身振りで慌ただしく周りに指示を出したりしています。
【2】「1号機に海水注入の指示を受ける」(約3分10秒・音声なし)
撮影:東京電力
3月12日午後7時半ごろに1号機の原子炉を冷却するための海水の注入を中断するよう、本店から現場に指示があったときの様子です。
【3】「原子炉建屋で爆発・混乱する現場」(約4分40秒・音声あり)
撮影:東京電力
3月14日午前11時すぎに、3号機が水素爆発したときの様子です。
開始から1分10秒ほどの場面。福島第一原発の対策本部の映像が僅かに揺れて、対策本部は急に慌ただしくなり、吉田前所長が、「本店、大変です、大変です。3号機、爆発が、今、起こりました」と大声で伝えています。
吉田前所長がその後、「地震とは明らかに違う横揺れが来ました。たぶん、これは1号機と同じ爆発だと思います」と説明すると、本店との間で、3号機の状況確認や作業員の現場退避の指示が飛び交い、混乱する様子が映し出されています。
【4】「2号機の対応遅れ」(約12分・音声あり)
撮影:東京電力
最も多くの放射性物質を放出したとみられる2号機で3月14日午後4時すぎに原子炉の圧力を下げる作業を巡るやり取りです。
2号機では、去年3月14日の午後に冷却装置が止まったあと、原子炉に水を入れるため圧力を下げる操作や、格納容器の気体を放出するベントの操作に手間取り、格納容器が壊れて大量の放射性物質が放出する可能性が高まる危機的な状況に陥りました。
映像の開始から2分後の場面に注目です。
福島第一原発の吉田前所長が、東京にいる原子力安全委員会の班目委員長から電話を受けて、「格納容器のベント」よりも「原子炉の圧力を下げること」を優先するよう指示があった、ということを説明します。
その後、現場と本店の間で対策が議論された結果、現場の判断が尊重され、班目委員長の指示とは異なる「格納容器のベント」をまず行う方針が確認され、吉田前所長は本店に対し班目委員長への説明を要請しました。
ところがその僅か数分後、この映像では開始から9分50秒ほどの場面ですが、本店にいる清水元社長が、「班目先生の方式でいって下さい」と指示をし、本店が、現場の判断よりも班目委員長の指示を優先するよう現場介入し、混乱する状況が記録されています。
国会の事故調査委員会によりますと、その約2時間後の午後6時半前には、2号機の原子炉の燃料が水で冷やせずにむき出しになったとみられています。
こうした対応について国会の事故調査委員会は、「結果的に、原子炉の水位の急速な低下を招き、燃料が露出するタイミングを大幅に早めた」と指摘し、本店が現場の判断よりも専門家の指示を優先させた結果、判断を誤ったと批判しています。
【5】「原発からの退避を巡って」
(約7分20秒・音声あり・この映像は3つのパートにわかれています)
撮影:東京電力
2号機が危機的な状況に陥った去年3月14日夜から15日朝にかけて、東京電力が福島第一原発から作業員全員を撤退させる判断をしたかどうかを巡っては、政府は「全面撤退」と主張しているのに対し、東京電力は「一部の退避」と主張し、両者の認識には大きな隔たりがあります。
テレビ会議では3月14日の午後7時28分、(公開されたこの映像で開始から1分ほどの場面)原発近くのオフサイトセンターにいた東京電力の小森常務が、「退避基準の検討を進めて下さい」と発言し、退避する際の基準を検討するよう要請しています。
このあと本店の高橋フェローが、「全員のサイトからの退避は何時ごろになるのか」と発言していますが、その後、(映像で6分45秒ごろの場面)清水元社長が「現時点でまだ最終避難を決定しているわけではないことをまず確認してください」と話しています。
国会の事故調査委員会は、こうした映像の分析から「東京電力で全面撤退が決まった形跡はなく、官邸の誤解だった」と結論づける一方で、「この問題の最大の責任は、あいまいで要領をえない説明に終始した清水元社長にある」と厳しく批判しています。
【6】「菅首相が東電本店に来社」(約37分・音声なし)
撮影:東京電力
3月15日午前5時半すぎに、菅前総理大臣が東京電力本店を訪れたときの様子です。
この映像に音声はありません。
上段真ん中の画面を見ると、映像開始から1分ほどの場面で菅前総理大臣が到着します。
その後、大きな動作を交えて東京電力の幹部らを相手に10分以上、演説している様子が記録されています。(開始から9分ほどの場面です)
またテーブルを離れて前に進み、話している様子も収められています。(開始から19分半ほどの場面)
国会の事故調査委員会によりますと、菅前総理大臣は東電の本店を訪れたとき「このままでは日本が滅亡だ」、「撤退などありえない。命がけでやれ」、「60になる幹部連中は現地に行って死んだっていいんだ。俺も行く」などと述べ、激しい口調で演説を行ったとしています。
【7】「4号機で水素爆発が発生」(約22分・音声なし)
撮影:東京電力
3月15日の午前6時ごろ、4号機で水素爆発が起きた時の様子です。
映像提供の経緯と課題は
今回公開されたテレビ会議の映像は、ことし3月、国会の事故調査委員会の指摘から注目されましたが、東京電力は当初、「社員のプライバシーが侵害される恐れがある」として公開を拒否し続けてきました。
これに対し、原発事故を巡る株主代表訴訟を起こした株主がことし6月、「記録が消去されるおそれがある」として、東京地方裁判所に証拠として確保するよう求める手続きを行い、枝野経済産業大臣も7月、事実上の行政指導として東京電力に公開を求めました。
こうしてようやく公開された映像は、しかし、事故当日の去年3月11日から5日分、およそ150時間に限り、社員が特定されないように画面がモザイクで加工されたり音声にデジタル音がかぶせられたりしています。
また東京電力本店で閲覧する際も録画や録音も認めないなどの取材制限が設けられています。
さらに閲覧用の映像とは別に報道関係者に提供される映像も、東京電力が報道関係者からの意見を聞いたうえで社会の関心が高い時間帯を選んで編集していて、およそ1時間半に限られています。
こうした対応に対し日本新聞協会は「東京電力は国が出資する企業で情報公開や説明責任がより厳しく求められる」として全面的な公開を強く求めているほか、株主代表訴訟を起こした株主からも改善するよう求めていて、東京電力の姿勢に批判の声が高まっています。