第十八使徒・涼宮ハルヒの憂鬱、惣流アスカの溜息
二年生
第三十八話 エンドレス・ワルツ


<第二新東京市北高校 SSS団部室>

雨がしとしと降りつづける外を眺めながら、団長席に座っているハルヒは苛立った様子で怒鳴り立てる。

「毎日雨ばっかりでうざったいったらありゃしないわ!」
「梅雨入りしたんだから仕方ないだろう?」

キョンが言い聞かせてもハルヒの怒りは収まらない。

「特にゲリラ豪雨ってのが腹立つのよね、アレのせいで何回もの試合が雨天中止になったのよ!」
「この時期に野球とかサッカーとかは雨天中止がつきものだ」
「せっかくSSS団にホームランを量産する4番バッターや盗塁王が誕生したって言うのに!」

ハルヒはエツコとヨシアキを指差してキョンに訴えかけた。
先日行われたゲンドウ達との野球勝負ではエツコはゲンドウの投げたストレートの球を軽く場外に運び、ヨシアキは気配を感じさせないタイミングと足の速さでゲンドウの牽制球が間に合わないほどだった。
しかし、SSS団優位に進めていた試合もゲリラ豪雨によって中止になってしまったのだった。

「彼女は中学時代バスケのMVP選手だったんだろ? SSS団でバスケをすればいいじゃないか」
「それは難しいでしょう」

キョンがエツコを指差してハルヒに提案すると、イツキが口を挟んで否定した。

「古泉、どうしてだ?」
「男女混合バスケは男性の方が女性に配慮して力加減をしながら、パスやシュートブロックを行う紳士的なスポーツです」
「あたしは真剣勝負がしたいのよ、それに力加減を知らないで全力でぶつかりあったらどうなるか分かってるの?」
「私は男の人に胸を触られたりするのは嫌です」

イツキが解説をして、ハルヒはさらにキョンを叱りつけた。
ミクルは胸に手を当ててそうつぶやいた。

「全くキョンってばバスケに関して無知なんだから。少し前にバスケ漫画が流行ったじゃない」
「ああ、引きこもりでメタボの高校生が鬼教師に無理やりバスケをやらされる漫画か」
「バスケが無理なら、この前のお花見で話題になったダンス対決をするというのはどうでしょう?」
「良いじゃないハルヒ、ダンス対決、やりましょうよ!」

イツキの提案に乗っかってアスカが熱心にハルヒに詰め寄った。

「アスカってばそんなにあたし達に勝つ自信があるの? そう言えば、この前の漫才対決の罰ゲームはまだして無かったわね」

ニヤついた顔でハルヒがそう言うと、アスカはギクリとした顔になってつばを飲み込んだ。

「まあ良いわ、今度のダンス対決でアスカ達が勝てばチャラにしてあげる。でも、あたし達が勝ったら2倍罰ゲームをしてもらうからね!」

ハルヒはアスカに不敵な笑顔でそう言い放った。

 

<第二新東京市 ショッピングモール>

それからしばらく経ったとある日曜日、SSS団はダンス大会で着る服を手に入れるためにイツキの父親の系列会社が経営する洋服店に来ていた。
ハルヒの父親の親友でもあるパワーレスリングダンス協会の会長ゴメスが、ハルヒとアスカのダンス対決のセッティングをしたのだった。
2人1組がペアになって踊るユニゾンダンスで審査をするとまで内容が明らかにされた。

「ドレスなどの代金は、パワーレスリングダンス協会の方で負担して下さるとの事なのでご自由にお選びください」
「結構高い物もあるけど、大丈夫なの?」
「ええ、ユニゾンダンス対決をイベント化してさらに協会の入会者を増やす宣伝経費で落ちるそうですよ」
「それは太っ腹ね! じゃ、さっそくあたし達の服を選ぶわよ!」

ハルヒはイツキの説明に納得したのか、嬉しそうにキョンの手を引いて店の奥へと駆けて行った。

「実は今回のSSS団メンバーの洋服代は、あなたのお父様からの誕生日プレゼントなんです」
「父さんが?」
「高校生の息子に何十万もプレゼントするなんて豪勢ね」

ハルヒの姿が消えた後、イツキはシンジにそっと真相を話した。
アスカはあきれたようにため息をついた。

「株式会社ネルフは超法規的組織ですからね、ありとあらゆる手段で売り上げを増やしています。特に涼宮さん関係では国連からいくらでも予算を引き出せますから」
「いつか天罰が下りそうな気がするよ」

シンジはゲッソリとした顔でため息を吐き出した。

「ミクルっ!」
「あ、鶴屋さん!」

遅れて店の中に入って来たのは鶴屋さんだった。

「参加人数が半端なので、数合わせに協力して頂きました」
「じゃあ、私達も服を選びに行くにょろ」
「は、はい……」

ミクルはイツキの方を名残惜しそうにチラッと見ると鶴屋さんと一緒に行ってしまった。

「あれ、朝比奈さんとペアじゃないんですか?」
「僕は今回、長門さんとペアを組む事になりました。鶴屋さんも長門さんが相手では意思の疎通が難しいかもしれないと思いまして」

イツキはシンジの質問に答えると、入口の方で無言で立ちつくしているユキの方へと歩いて行った。
アスカはそんなイツキの姿を見てため息をつく。

「誰にでも優しい所があると、彼女としては落ち着かない気分になるわね」
「そうなの?」
「優しさを独占したいって思っちゃうもんなのよ」

アスカはシンジを見つめながらそう答えた。
ダンス用の衣装を選び終えたSSS団のメンバーは店舗に隣接するダンスホールへと足を運んだ。

「うわあ、こっちも広いですね」
「なかなかの物ね」

ミクルとハルヒに続いて、他のSSS団のメンバー達も感嘆の声を上げていた。

「こちらはダンスレッスン教室に使われているんですよ」
「へえ、そうなの」
「今日は皆さんにダンスの基本を学んで頂こうと思いまして、講師の方をお招きしました」

イツキがそう言うと、入口の方から姿を現したのは去年の夏合宿でも一緒になった新川さんと森さんの2人だった。
荒川さんはモダンなシャツとパンツで、森さんは以前のメイド服では無くダンス用のドレスを着ている。

「新川です、本日はよろしくお願いします」
「森です」

ダンスのための化粧をした森さんは笑顔の表情もまるで違って見えた。

「森さんって何歳ぐらいなのかな」
「マヤより年下なのかもしれないわ」
「ミサト先生より上って事は無いだろう」
「皆さん、おしゃべりはそのくらいにして、始めますよ?」
「はい!」

ボソボソと話をしていたシンジとアスカとキョンは森さんが声を掛けると姿勢を正した。

「スカートだと動きにくいな……えいっ!」
「ちょっと、下着が丸見えだよ」
「だって、今までスパッツしか履いた事が無いんだもん」

エツコがドレスのすそをめくりあげると、アスカとハルヒは慌ててシンジとキョンの目隠しをした。

新川さんと森さんに指導してもらうのは、本格的な社交ダンス(競技ダンス)では無く、パーティ用に踊る簡単なものだった。
同じステップを繰り返すだけで踊りが完成するので、SSS団のメンバーも簡単に覚えられた。
しかし、ハルヒは物足りなさそうな顔をしている。

「うーん、つまらないわね。もっと本格的な競技ダンスじゃないと対戦が盛り上がらないわ」
「困りましたな、競技ダンスは我々では指導が難しいですから」

ハルヒの言葉を聞いて、新川さんは渋い顔をした。

「涼宮さん、競技ダンスは男性がリードしなくてはいけない上に、互いの体が密着する事も多いのです。それこそ互いの吐息が掛かるほど身近な距離に」
「何よ古泉君、止めろって言うの?」
「複雑なステップを覚えなければなりませんから、簡単に楽しむというわけにはいかないのです」
「涼宮先輩、私も今のステップを覚えるだけで精一杯だよ。楽しく踊れればそれでいいじゃん!」

イツキは上手い言い訳を考えたと思ったのだが、ハルヒの反応は予想外なものだった。

「あっそう、じゃあ競技ダンス対決はあたし達と、アスカ達のペアでやるから他のみんなは気楽に踊りなさい」
「おい、待てハルヒ!」

キョンがうろたえて制止しようとすると、ハルヒは流し目でキョンを見つめた。

「もしかして、あたしが相手じゃ不満だとか?」
「いや、そう言うわけじゃない」
「それじゃあ問題無いわね」
「ハルヒに告白した時は勢いでハルヒを抱きしめてしまったが……治まれ俺の煩悩!」

いきなり手を合わせてブツブツとお経を唱えて平常心を保とうとするキョンを見て、アスカは勝利を確信したのかほくそ笑む。

「アタシ達はダンスの経験があるから、有利ね」
「そうでもないよ」
「ユニゾンダンスの時もアタシの手に腰を回したりしてたじゃないの」
「あの時は僕達は中学生だったじゃないか。でも今は高校2年生だし、アスカも色っぽくなっちゃったと言うか……」
「失礼ね、アタシは子供だったって言いたいの!?」

アスカは怒ってシンジの両耳を思いっきり引っ張った。
2人が言い争うのを見て、今度はハルヒが余裕の笑みを浮かべた。

 

<第二新東京市 葛城家>

ハルヒとのダンス対戦が決定した日から、アスカとシンジは葛城家のリビングでダンスの再特訓を始めた。

「はい、ユニゾンダンスの特訓を始めるにあたって、私からシンジ君への誕生日プレゼントよ」

ミサトからシンジとアスカに渡されたのは、3年前、使徒イスラフェルとの戦いのためにユニゾン特訓をした時に着た物と同じデザインのおそろいのレオタードだった。

「ミサト、これって……!」
「とっても懐かしいでしょう」

アスカはミサトから受け取ったレオタードを驚いた顔で見つめた後、目を閉じていとおしそうにレオタードを抱きしめる。

「またこのレオタードに巡り合えるなんて……」
「アスカ……」

ミサトはそんなアスカの姿を見て悲しそうに目を細めた。

「シンジの部屋からレオタードをこっそり盗みだしてね、アタシの部屋のクローゼットの片隅にしまっておいたんだけど、アタシの中でシンジへの憎しみが膨らんでしまった時期があったのよね」
「それは……私のせいだわ」
「いえ、ミサトさんにほめられて調子に乗った僕も悪かったんです」
「プライドばかり高かったアタシは部屋の中にあった物全てに当たり散らして、そしてこのシンジを思い起こさせるおそろいのレオタードは特にズタズタになるまで引き裂いてしまったのよ……」
「僕も知っていたよ、アスカの部屋に入った事があるから。そして僕はアスカに嫌われてしまったんだってやっと気がついた、だからアスカが家出をしても迎えに行く勇気が湧かなかったんだ」
「ほらほら、落ち込むのはそのぐらいにしろ、もう終わった事だろう」

暗い顔で落ち込んでしまったアスカとシンジ、ミサトを暗い思考から引き戻すために、リョウジは声を掛けた。

「うん、アタシも落ち込むつもりは無かったの。このレオタードがまた戻って来た事でシンジとの絆が取り戻せたって実感できて、それが嬉しいのよ。ありがとう、ミサト」

アスカはミサトに満面の笑みを浮かべてお礼を言った。

「3年のブランクがあるだろうけど、アスカとシンジ君のユニゾンダンスがハルヒちゃん達に勝つ事を期待しているわ」
「もちろんよ、勝利をシンジの誕生日プレゼントにするつもりだから!」

親指を突き立てて、片目をウィンクさせながらアスカはミサトに勝利宣言をした。

「葛城の体重がもう少し軽ければな、俺も競技ダンスに出場してもよかったんだが」

リビングの空気がすっかり和んだ後、リョウジは油断してしまったのかそんな言葉をもらした。

「加持、それってケンカ売ってるの?」

たちまちミサトの目つきがきついものになった。

「いや、お前は出るところ出ているし、それを考えれば立派なもんだ」
「全然フォローになっていないよ、父さん」

ヨシアキがため息交じりにツッコミを入れた。

「私達、ソーラン節ならユニゾンできるんだけどなあ、私達の居た世界じゃアスカ達のユニゾン特訓に使ってたし」
「ウソぉ!?」

エツコの言葉を聞いて、アスカは悲鳴に近い驚きの声を上げた。

「碇のおじさんが覆面を被ってね、コーチしてくれたんだよ!」
「何か最近の明るくなった父さんを見ると……」
「違和感無いわよね……」

シンジとアスカは疲れた顔でため息をついた。

「家族が一緒に居られるって、こんなにも心がポカポカするものなのね」
「綾波……」
「でも、血が繋がっているのに離れ離れになっている家族も居るわ」

レイはそう言って、悲しそうな顔で下を向いた。

「父さんもリツコさんもネルフの仕事で忙しいから、仕方が無いのかも」
「でも、ハルヒちゃんが最後の使徒だって見解が正しければ、ハルヒちゃんが成長して行くうちにきっとリツコや司令の仕事も減って行くはずよ」
「そうね、アタシ達も頑張りましょう!」
「だけど、もっとお母さんと碇司令には仲良くして欲しい……」
「良い手を思いついたわ、こんなのはどう、レイ?」

アスカはレイにそっと耳打ちをした。

「分かったわ、今度お母さんと司令に話してみる」

レイはアスカに向かって強くうなずいた。

 

<第三新東京市 富士ビル>

いよいよやって来たダンス大会当日。
アスカ達は他の人達の衣装を見て、女性はドレス、男性はモダンシャツとパンツ姿だったので安堵のため息をもらした。

「さすがにスカート姿ででんぐり返しはさせられないと思うから、あのヘンテコなダンスはさせられないわよね。安心したわ」
「トウジ達も見に来てくれているはずだよ」

ダンス大会とは言っても、ビルの一室のダンスホールで行われる小規模なものだった。
お花見パーティと同じぐらいの人数が来たので、ワンフロアではとても入りきらず、ビル全体を貸し切りにして他の階は臨時のバイキング場にする事にしていた。
大人数での応援はテーブル席でテレビモニターを通して行っていた。
それでも大会に参加する人数はいつもより多めだったので控室は少し狭苦しい感じがしていた。
男性参加者の控室では、ゲンドウとゴメスもモダンシャツ姿になっていた。
意外にもがっしりした筋肉質の体に似合っている。

「父さん、今日は大丈夫なの?」
「ふん、任せておけ。ダンス大会の後のバイキングも国連の経費で落ちるからな」
「いいのかな、公費で飲食って問題になっているんじゃないの?」
「細かい事は気にするな、問題無い」

少し気を遣って恐縮してしまった感じのシンジをゲンドウは豪快に笑い飛ばした。

「父さんもダンス大会にでるの?」
「うむ、赤木君をパートナーにして出場する事をレイに勧められた」

ゲンドウの言葉を聞いてレイの作戦が成功したのだとシンジは笑顔になった。

「父さん、リツコさんと婚約しているけど、結婚はいつになるの?」
「それは……とりあえず、使徒の件が解決してからだな」

シンジに尋ねられたゲンドウは辛そうにそう言った。

「そっか、仕方が無いよね」
「シンジ、結婚の報告と言うのはブログでやるのが流行っているのか?」
「はぁ!?」

シンジはゲンドウの問い掛けにあきれてしまった。
一方、女性参加者の控室ではアスカがリツコと会っていた。

「リツコも大会に出るの?」
「ゲンドウさんに誘われてね」
「うわ、いつから司令を名前で呼ぶようになったの?」
「違うわよ、外ではゲンドウさんと呼んだ方が自然だからよ。あなたもハルヒちゃんの前では気をつけなさい」
「お父様……はいくらなんでもまずいわね……おじ様、でいいか」

リツコに注意されたアスカは考え込むようにしてそう言った。
アスカがハルヒの居る方を見ると、ハルヒは他の参加者達から注目を浴びていた。
ハルヒは笑顔でゴメスのパートナーとしてやってきたハルヒの母親と話していた。
ハルヒの母親はモデル兼ファッションデザイナーで、今夜のダンスもオリジナルデザインのドレスを着るので注目を集めていた。

「ハルヒちゃんのお母様って、クールビューティって感じの美人でダンスも上手そうね」
「ゴメスさんと踊ったら、まさに美女と野獣ね」
「ゴメスさんって覆面マスクで顔を隠して、あごひげを伸ばしているわよね。素顔はどうなのかしら」
「うーん、サングラスを外したおじ様と同じぐらい想像が付かないわ」
「ゲンドウさんはサングラスを外すと、シンジ君とそっくりよ」
「アタシはシンジには髭を伸ばして欲しくないし、サングラスもつけて欲しくないな」

アスカはリツコと仲良く会話をしていたが、ハルヒ母娘の方を見るとため息をもらす。

「なんかママと嬉しそうに話しているハルヒを見ると妬けちゃうな、ドレスも結局買わないでママの手作りにしたみたいだし」
「アスカもドイツにお母様が居るじゃない」
「テレビ電話でしか話せないから、距離を感じちゃうのよね」
「でも、私がゲンドウさんと結婚したらアスカの義理の母親になってしまうのよね」
「そんな先の事は分からないわ、シンジと結婚するって決まったわけじゃないし、リツコを今からママなんて呼べるわけないじゃない」

リツコがからかうように言うと、アスカは少し顔を赤らめて顔を背けた。

「でも、血が繋がっていなくてもシンジ君やミサトはアスカの帰りを迎えてくれる大切な家族じゃない。アスカは恵まれているのよ」
「うん、パパとママに普段から顔をあまり合わせていないハルヒにも可哀相なところはあるわよね……」

リツコがアスカの方に手を置いて励ますと、アスカは顔を上げて力強くうなずいた。
そしていよいよホールでダンス大会が始まった。
参加者全員が一斉に踊るのには狭かったので、2グループに分かれて交代制で踊る事になった。
これは、競技ダンスでは無く楽しんで踊るためのパーティダンスだったので、ハルヒ達にとっては準備体操のようなものだった。

「それではこれより、涼宮ハルヒ嬢のペアと、惣流アスカ嬢のペアによるダンス対決を行う!」

ゴメスがそう宣言すると、ホール中から大歓声があがり、ハルヒとキョン、アスカとシンジのペアがホールの中央に歩み出た。

「この日のために猛練習して来たから負けないわよ!」
「漫才対決の借りは返させてもらうわ」

ハルヒの宣言に対してアスカは余裕で返した。
ダンス対決で使用される曲目はアスカとシンジがユニゾン特訓で使った曲だった。
アスカ達に勝ってほしいと言う親心を出したゲンドウが上手くゴメスをごまかして認めさせたのだ。
最初は卑怯な手であるとアスカは渋ったのだが、ミサトに実力の差が全く無い勝負なんて存在しないと説得されて、了承した。
曲が始まり、アスカとシンジは自然体で息を合わせて踊り、キョンは力一杯ハルヒの踊りに食らいついて行った。
見守っているSSS団のメンバーやゴメス、レイ達も両方のグループともユニゾンの出来は甲乙つけ難いものだと思った。
そして、曲が終了する時間になってアスカとシンジが踊りを止めようとした時、まだ曲が続いている事に気が付いた。

「もしかして、ループしてるの?」
「やっぱり1回じゃ2分だから短いんだろうね」

アスカとシンジは軽い疑問をつぶやきながらも、ダンスを踊り続けた。
2回目、3回目、4回目……10回目ぐらいのループになっても曲が途切れない事に、アスカは気付く。

「もしかして、ずっと続くの?」
「そう、先に疲れて踊るのを止めた方が敗北とする、エンドレスダンス対決だ、ガハハハハ!」
「何よそれ、体力勝負なわけ!?」
「面白いじゃない、受けて立つわよ!」

ゴメスが大声で笑うと、アスカは絶叫し、ハルヒは気合の入った声で宣言した。
しかし、余計な力を入れずに踊っていたアスカ達に比べ、無理してハルヒに合わせていたキョンの体力はすぐに限界を迎えてしまった。

「もう……限界だ……」

キョンはそう言うと膝から崩れ落ちてダンスホールの床に倒れ込んでしまった。

「立てーーっ! 立ちなさいよ、キョン!」

ハルヒが叫んでも、キョンが置き上がる事は無く、対決はアスカ達の勝利に終わった。

「あたしは完璧にやったけど、キョンが情けないから負けたのよ!」
「ハルヒばかり飛ばし過ぎるからいけないのよ、もっと相手に合わせないとダメよ」

悔しがるハルヒに、勝ち誇ったアスカが説教を始めると、シンジは思わず吹き出した。

「何よシンジ?」
「だってアスカったら自分がミサトさんに怒られた事を涼宮さんに言ってるから、おかしくて」
「もうあれから3年も経つんだからいいじゃないの」
「3年?」

ハルヒに疑いの眼差しで見られて、アスカは思わず口を手で押さえた。

「もしかして、昔取った杵柄ってやつ?」
「ごめん涼宮さん、僕達は前にこの曲でダンスを練習した事があって……」

シンジが事情を話して正直に謝ると、ハルヒは首を横に振る。

「キョンに合わせようとしなかったあたし達がアスカの言う通り、勝てるとは思わなかったからそれはいいわ」

そう言いながらハルヒはキョンの手を取って助け起こした。

「すまなかったなハルヒ、俺が先にバテちまって」
「いつもの練習より動きがガチガチだったわね、そんなに緊張したの?」
「いや、本番でメイクをしたハルヒの顔を間近で見て思っちまったんだ……『ハルヒがこんなに可愛いわけがない』ってさ」

キョンの言葉を聞いたハルヒは耳の先まで顔を真っ赤にした。

「な、何を歯の浮くような事を言うのよこのアホキョン!」

ハルヒはそう叫ぶと顔を伏せながら全速力で控室に戻って行った。
ダンスホールが笑い声で満たされ、キョンも恥ずかしそうにペコペコと頭を下げながら控室に戻った。
思いっきり体を動かしたシンジ達にとってその後のバイキングでの食事はさらに美味しく感じられた。

「俺が作った優勝カップだ、受け取れ!」
「あ、ありがとうございます」
「ゴメスさんって器用なのね」

ゴメスお手製のダンス対決の勝者チームに贈られた優勝カップは男女が社交ダンスを踊るシルエットを形にした銅製の物だった。
その優勝カップは誕生日プレゼントとしてシンジの部屋に置かれる事になった。

「今日はとても楽しい誕生日だったよ、みんなありがとう」

シンジは優勝カップを見つめ幸せそうにつぶやいて、眠りに就いた。


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