第十八使徒・涼宮ハルヒの憂鬱、惣流アスカの溜息
二年生
第三十七話 SSS団花見パーティ 〜manzai,conte,and so
on!〜
<第二新東京市 葛城家>
そして迎えた4月の第3日曜日。
SSS団入団試験である漫才をやる日がやって来た。
しかし、試験を受けるのはアスカ達と同居しているエツコとヨシアキの2人だけ。
休日に学校に登校するのも面倒だとアスカが提案し、葛城家のリビングでやる事になった。
元々6人ぐらいがゆったり過ごせる葛城家のリビングが同じ間取りで対称となっているレイの家のリビングとドッキングした事でさらに広くなった。
「鍋パーティをやった時もそうだったけど、ここの家のリビングって本当に広いわね」
「こんなに広いんだから、今度涼宮先輩も一緒にご飯を食べようよ!」
「そうね、夕食会をやるのもいいかもしれないわね」
笑顔のエツコに話しかけられて、ハルヒはそう答えた。
「涼宮さんの料理は和洋中どれをとっても素晴らしい物ですからね、期待させて頂きますよ」
「そうなんだ、聞いただけでよだれが出てくるね!」
穏やかな笑顔を浮かべたイツキがそう言うと、エツコは嬉しそうに口元を押さえた。
「あたしはアスカがシンジと一緒に作る愛情料理を食べてみたいけどね」
「ハ、ハルヒったら何を言ってるのよ!」
「だって、お揃いのエプロンまで台所に掛かっているじゃない」
アスカは顔を真っ赤にしてハルヒに言い返すぐらいしかできなかった。
「でも、エツコちゃんとヨシアキ君の2人がSSS団の正式なメンバーとして夕食会に参加できるかどうかはこれからの試験の結果次第よ、頑張りなさい!」
「はいっ、任せて下さい涼宮先輩!」
ハルヒの激励に対して、エツコは元気いっぱいに返事をした。
「やっぱりお笑いは老若男女に受け入れられるものじゃなきゃね、極端な下ネタとかだったら、本番のステージにあげるわけにはいかないから」
「厳しくしたら誰も出場できなくなるんじゃないか?」
「質の悪い大会になるよりマシよ」
キョンに対してハルヒは強い口調で言い切った。
エツコとヨシアキの漫才は、関西風の漫才だった。
ボケをかましたエツコに対してヨシアキがツッコミをして正す一定のリズムで続いて行く。
ハルヒは真剣な目で2人の演技を見つめていて、笑っていたのはアスカ達の方だった。
「あんた達、漫才をどうやって勉強したの?」
「ミサト姉さんが持っていたディスクを見て勉強しました」
ヨシアキの返事を聞いて、ハルヒは疲れた顔でため息をつく。
「やっぱりね、あの時代は大声を出して勢いだけで笑わせようとする傾向が強いの。それじゃあ年配の人はついて行けないわ」
「では、どんなものを見て勉強すればいいんですか?」
「そうね、やっぱり昭和漫才なんて、反復パターンで笑わせる芸風で参考になるんじゃないかしら」
「いくらなんでも古すぎるだろ」
キョンはハルヒにツッコミをせずにはいられなかった。
「試験の結果だけど……あんた達もSSS団に入るために努力したみたいだし、アスカ達とも打ち解けたようだし、合格にするわ!」
ハルヒが満面の笑みで宣言すると、エツコとヨシアキ、そしてアスカ達SSS団のメンバー達に笑顔が広がった。
「エツコちゃん、ヨシアキ君! ようこそ、SSS団へ!」
「ありがとうございます、涼宮先輩!」
「うわっ、エツコちゃんったらミクルちゃんに負けないぐらい胸が大きいのね、まるで猛牛よ」
突然エツコに抱きつかれたハルヒはそんな感想を述べた。
「さて、次に決めなくちゃいけないのはお花見をする場所ね」
「でも涼宮さん、5月になったらこの辺の桜の花はとっくに散ってしまっているんじゃないですか?」
「甘いわミクルちゃん、あたし達は去年あなたがSSS団に入る前にね、奥穂高岳の山奥で伝説の桜の木を見つけたのよ!」
嬉しそうに言うハルヒを見て、アスカとシンジは青ざめた顔になった。
去年見た桜の木はリツコが仕組んだ立体映像である幻の桜だったのだ。
また同じ手を使うにしても険しい山を登る様な事はしたくない。
アスカがシンジを見直すきっかけになったのは良かったが再び2人で崖から落ちるなんてごめんだった。
「ハルヒちゃん、残念な知らせなんだけどその桜の木は去年の大雪で折れてしまったらしいのよ」
去年の冬、北極振動と呼ばれる自然現象により日本列島が記録的な大雪になった事はニュースにもなっていたので、ハルヒはミサトの話をすぐに信じた様子だった。
「涼宮さん落ち込む事はありません、開花時期が他の一般的な桜より遅い品種の桜が咲いている場所があるのですよ」
「古泉君、それって本当!?」
「僕の家の庭にその桜があるのですが、僕の誕生日祝いと言う事で庭でパーティを行う許可を頂きました」
「じゃあ開催場所はそこで決定ね! みんな、友達も誘って派手にやるわよ!」
ハルヒが上機嫌でそう宣言した後、ミサトはアスカ達にそっと種明かしをする。
「碇司令がね、今度は七夕に続いてお花見をブームにしてさらにもうけると言い出してね、リツコに特別な桜の木の開発を命じていたのよ」
「また父さんが?」
「海外にも『OHANAMI』と言う新語で流行らせて、お花見風居酒屋チェーン店を全世界で展開するとか……」
「どこまで株式会社ネルフを多角経営させるつもりなのよ……」
シンジとアスカは会長席にふんぞり返って座っているCEOゲンドウの姿を思い浮かべてため息をついた。
<第二新東京市 古泉家の庭>
古泉イツキ誕生日パーティが開催される日の早朝。
満開の桜の花びらが舞い散る古泉家の庭で、ハルヒはキョンと共に会場を快く提供してくれたイツキの母、古泉マリコにお礼のあいさつをした。
マリコは第二新東京市南高校の校長で、イツキは転校する前には南高校に通っていた。
ハルヒはイツキの父親にも会ってみたかったが、残念ながら不在だった。
「この度は我々SSS団にイベントの場を提供して頂いてありがとうございます」
「こちらこそ、息子がこんなにたくさんのお友達に誕生日を祝ってもらえるなんて、嬉しい事です」
マリコはそこまで言うと感極まってしまったのか、目がしらをハンカチで押さえて涙をふいた。
「古泉君って前の学校でイジメでもうけていたのかしら?」
「さあな」
神人と戦うチルドレンに選ばれてしまったため、学校生活を犠牲にしなくてはいけなかったイツキの話を聞いていたキョンは、そっけなくハルヒに答えたが、心の底ではイツキに同情した。
きっと両親も孤立させてしまった息子の事を辛く思っていたのだろう。
「でも、マリコさんの言う通り俺達が盛大に祝ってやればいい事じゃないか?」
「そうね」
ハルヒは今日の天気と同じように晴れやかな笑顔になった。
「きっと、SSS団の日ごろの行いが良いからよ!」
キョンはその言葉にツッコミを入れたい欲求に駆られたが、今日の所は抑えた。
「俺もいろんな友達を誘ったが、どのくらい来てくれるかな」
「きっとたくさん来るわよ」
嬉しそうにそう言ったハルヒは何か思いついたのか、あせった様子でキョンに尋ねる。
「あの佐々木って子にも声を掛けたの?」
「いや、中学時代の友達には全く連絡してないぞ」
「そう」
「まだ気にしてるのか?」
「ううん、あの子もあたしに劣らず変な子だったから少し興味があっただけよ!」
ハルヒは強気に振る舞ったが、佐々木が来なくて安心しているようにキョンには思えた。
しばらくしてハルヒ達以外の初めての来客が訪れた。
それは体格の良い男性を先頭にしたグループだった。
「あれは、ゴメスさんと『パワーレスリングダンス協会』の人達か!?」
そしてハルヒがやって来たゴメスと熱い抱擁を交わしている隣で、キョンはパワーレスリングダンス協会のメンバーの中にコンピ研の部長が混ざっている事に気がついた。
「どうしてあなたが?」
「ちょっと体を鍛えようかなと思ってね、ハハ……」
キョンの問いかけに対してコンピ研部長はハルヒの方をチラリと見ながら答えた。
キョンは少しイラだった気分になったが、楽しい花見で不機嫌な顔を見せるわけにはいかず、愛想笑いを浮かべた。
「人がたくさん集まって来たな」
「団長として、大勢の目の前でアスカ達の組だけには負けるわけにはいかないわ!」
気合を入れるハルヒの元に、アスカ達がネルフ関係者一同を伴って到着した。
トウジやケンスケ、ヒカリと言ったシンジとアスカの友達も一緒だった。
「やっほー、シンジの親父さん!」
「今日はシンジや惣流君が涼宮君達と漫才で対決をするという話らしいな、楽しみにしているぞ」
「シンジの親父さんはやっぱりアスカ達のサポーター?」
「ふっ、私は笑いにはうるさいぞ。『クレイジードッグ』から『ギャルギャル』まで全て知っているからな」
「それなら公平なジャッジを下してくれそうね」
ハルヒはゲンドウに対して不敵な笑みを浮かべた。
「何で父さんはそんなにお笑い芸人に詳しいのかな?」
「察してあげてくれシンジ君、碇のやつはユイ君を失った悲しみを笑う事で埋めようとしたのだ。全く不器用なやつだ」
「でも、人類補完計画から解放された父さんは、何か人が変わったように人生を楽しんでいる気がしますけど……」
「ああそうだな、最近の碇は逆に笑いが止まらんようだ」
冬月はシンジに同意して、少しあきれたようにため息をついた。
「これはこれは、随分と大人数が集まったものですね」
「こんなにたくさんの人の前で漫才をするなんて緊張しちゃいます、何人居るんでしょうね?」
「現在、43人」
ぞろぞろと押し寄せる人達に混じって、イツキとミクル、ユキも姿を現した。
そして阪中さん、国木田、谷口達2年5組のハルヒと親しくしていた生徒達もやって来た。
他にもキョンの祖母ちゃん、キョンの妹、キョンの妹と同じ年ぐらいの眼鏡を掛けた少年も今日の花見に招かれていた。
キョンの妹があまりに少年を『ハカセくん』と呼ぶので、自然と他のみんなも少年を『ハカセくん』と呼ぶようになってしまった。
ハカセくんは、ハルヒがたまに家庭教師として勉強を教えているハルヒの家の近所に住む少年だった。
キョンの妹に話相手にさせられてしまって、ちょっと戸惑っている様子だった。
「おはよう涼宮さん、楽しそうなパーティだね。僕達も混ぜてくれないかな」
そう言って姿を現したのは、佐々木。
そしてその後ろに橘キョウコ、周防クヨウ、藤原の3人が立っていた。
「あ、あんたは……!」
ハルヒはショックを受け、体を震わせながら佐々木を指差した。
「佐々木、何でお前がここに?」
「今朝キョンの家に電話したら、おばさんが教えてくれたんだよ」
「お袋が……」
「入口でキョンの友達だって言ったらすんなりと通してくれたよ」
佐々木はハルヒにとらえどころの無い微笑みを浮かべて尋ねる。
「僕も断りも無く友達を連れてきてしまったんだけど、僕達は招かれざる客なのかな?」
ハルヒは驚きと怒りと困惑が入り混じった顔で固まってしまい、答える事が出来ない。
いつもはすぐに笑顔でOKするハルヒの変わった様子を、事情を全く知らない阪中さん達も不思議そうに見守っていた。
特に佐々木達の事を知るネルフのスタッフ達には強い緊張が走っている。
「司令、涼宮ハルヒはこの前初めて彼女と顔を合わせたと報告を受けています」
「うむ、涼宮君が閉鎖空間を発生させるきっかけになったのだな」
リツコとゲンドウは息を飲んでハルヒと佐々木のにらみ合いを見守った。
長い沈黙が続いた後、不安に駆られた阪中さん達はハルヒと佐々木を指差してぼそぼそと話し始めた。
そんな気まずい雰囲気を変えたのは底抜けに明るい少女の声だった。
「もちろん、大歓迎だよ!」
エツコがそう言うと、ハルヒはぼう然として目を丸くした。
ハルヒと佐々木の間には火花が散り、一触即発のムードが漂っていた事など全く気が付いていないようだった。
「パーティは人数が多い方が賑やかで楽しいよ? パーティをやっているうちにみんな仲良くなれるって」
「がははは、その子の言う通りだ!」
満面の笑みを浮かべてエツコがハルヒに向かってそう微笑みかけ、ゴメスが盛大な笑い声を上げた。
ハルヒは毒気を抜かれたようにため息を吐いて笑顔になり、佐々木と握手を交わす。
「そうね、あの子の言う通り。あたしはあんた達の事よく知らないのに毛嫌いしちゃいけないわね」
「ありがとう、寛大な涼宮さんに感謝するよ」
「みんな、この子達はキョンの中学時代の友達らしいの。飛び入り参加だけど、よろしくね!」
ハルヒが笑顔で佐々木達を紹介すると、トウジ達や阪中さん達も歓迎の拍手をして佐々木達を迎え入れた。
佐々木達4人は国木田と谷口の近くに案内され、腰を下ろした。
佐々木は知り合いである国木田達と雑談を始め、他の3人は大人しく座っていた。
ハルヒのストレスが鎮まったので、ゲンドウ達はホッと息を吐き出した。
ゲンドウ達は佐々木達を警戒するべきだったのだが、せっかくの和やかな雰囲気を壊すわけにもいかないので、初対面のふりをすることにした。
そしていよいよ、メインイベントの1つであるSSS団漫才対決の開始宣言がハルヒによって行われた。
トップバッターは1年生のエツコとヨシアキ。
正統派漫才でお客さんに向かって一生懸命に喋っているヨシアキの話を、横で退屈そうにあくびをしているエツコが半分聞き流しながらボケる。
そして、エツコのボケに対してヨシアキが改めて突っ込むと言うものだった。
「……と言うわけなんだけど、君は僕の話を聞いている?」
「分かってるって、だんだんと地球が暖かくなって来たって話でしょ。このままだと今年の冬には40度を超えちゃうね」
「地球温暖化だからって冬が夏みたいになったりしないって」
エツコの大ボケにヨシアキがため息をつきながらツッコミを入れた。
「だから、僕達も地球環境のために努力しないといけない事があるんだよ」
「それ知ってる! 子(ね)、丑(うし)、寅(とら)、卯(う)、辰(たつ)、巳(み)……」
「違う、それはエト」
「徳川家康が作った街の事?」
「違う、それはエド!」
テンポの良い漫才は、ゲンドウや冬月、キョンの祖母ちゃんの笑いまでも誘った。
残念なことにしゃべくり漫才だったので、キョンの妹にはあまり受けなかったようだった。
最後には拍手に包まれて、2人の漫才は終わった。
「75dB(デシベル)か、なかなかのものね」
騒音測定器を手に持っていたハルヒは感心してため息を吐いた。
ハルヒになかなかと言われてエツコは誇らしげだ。
2番手はイツキとミクルとユキのトリオ漫才だった。
イツキはミクルとペアを組む事になっていたのだが、ミクルが孤立したユキを気遣ってトリオになったのだった。
「イツキです」
「ユキです」
「あ、あのミクルです……」
ミクルが名乗ると、困った顔でため息をつくイツキ、無表情の目でミクルを見つめるユキ。
「あの、2人ともどうしたんですか?」
「……あなたはミルクと自己紹介するはずだった」
「そうですよ、あなたが台本通りボケてくれないと僕達はツッコミの仕様が無い」
「ご、ごめんなさい、つい本当の自分の名前を言っちゃいました」
オロオロと自分の失敗にうろたえるミクル。
「さすがミクルちゃん、見事なドジっ娘ぶりね!」
ハルヒはそう言ってミクルのボケに対して大きな笑い声を上げていた。
ミクルの天然とも思えるアドリブに近いボケの連発に、観客達の笑いが途絶える事は無かった。
大げさなミクルの動きに、キョンの妹も大笑いをしていた。
「得点は80dB!」
「手強いわね」
「うん」
次が出番である3組目のアスカとシンジは緊張の面持ちでその結果を聞いた。
「それでは、みなさんお待ちかね、アスカとシンジのコンビによる夫婦漫才です!」
司会のハルヒがそう宣言すると、主にネルフのスタッフ達から大きな拍手が巻き起こり、アスカとシンジは少し顔を赤らめながらステージの中央に立った。
アスカはハルヒとキョンの組みに勝つために、なりふり構わずエヴァのパイロット時代から続く同居生活を切り売りしてネタにする事にしたのだった。
ミサトから『ごちそうさま』と言うお墨付きをもらった新婚夫婦ネタは、観客達に和やかな笑いをもたらした。
しかし、大爆笑より、ニヤニヤ笑いの方が多かったのはアスカにとって誤算だった。
「こうなったらシンジ、最後の手段よ!」
「えっアスカ、何をするの?」
「体を張って笑いを取るの!」
アスカは戸惑うシンジの頭をつかむと、そのまま両手をグーにして、こめかみグリグリ攻撃を開始した。
「ちょ、ちょっと、痛いよアスカ!」
そう言ってジタバタ暴れるシンジの姿を見て、ゲンドウ達は夫婦喧嘩ネタの延長だと思ってひと際大きな笑い声を上げた。
その笑い声に引き込まれるように他の観客達も笑い出した。
「アスカ達の組の得点は82dB!」
「やったわ!」
「う、うん……」
笑顔で飛び上がるアスカに抱きつかれたシンジは、アスカに何も文句は言えなくなってしまった。
漫才対決最後の4組目は、ハルヒとキョンのコンビ。
サポーターであるゴメス達パワーレスリングダンス協会のメンバー達からも大きい拍手と歓声が上がった。
ハルヒとキョンの漫才は、国王と大臣と言う設定だった。
「ピョン」
「私の名前はキョンです、王様」
「それで、ジョン」
「だから、キョンですってば」
「ギョンだっけ?」
「もういいです……」
「キョン!」
「いえ、私はジョンです……って俺が間違ってどうするんだ」
「さあ、行くわよギョン!」
「がっくり……」
高等なノリツッコミまでこなすハルヒとキョンの漫才は、ドッカンドッカンと何度も大爆笑を誘った。
ハルヒの役割は無茶な命令を下すボケ役のはずだったのだが、たまにキョンがハルヒのボケに乗っかるとハルヒもキョンにツッコミを入れる。
そのツッコミは柔らかなものでは無く、どつき漫才と呼んでもおかしくないほどだった。
「食らいなさい、ドロップキック!」
「ぬおっ!」
ハルヒの跳び蹴りにより、キョンはステージの端っこまで吹っ飛び、転げ落ちてしまった。
観客達からも思わず絶叫が響き渡った。
キョンがよろよろと立ち上がると見守っていた観客達もアスカ達もホッとため息をもらす。
「せっかくの楽しいパーティで怪我人が出たらシャレにならないわよ」
何事も無かったかのようにハルヒとキョンの漫才は続き、大きな拍手に包まれて終了した。
「ユキ、あたし達の得点はどうだった?」
「90dB」
「どうアスカ、あたし達の組の方が音量は大きかったわよ!」
ハルヒに代わって騒音測定器を持っていたユキから結果を聞いたハルヒはアスカに向かってVサインを突き付け、勝利宣言をした。
「ハルヒのは笑い声じゃなくて、悲鳴じゃないの!」
アスカはハルヒに向かって猛烈に抗議した。
そんな2人の調停役に進み出たのは、ゲンドウだった。
「落ち着きたまえ惣流君、負けた分は次の対決で取り返せばいいではないか」
「でも……」
「ダンス対決はどうかね、涼宮君?」
「いいわね、今度はダンス対決にしましょう!」
ゲンドウの提案をハルヒが受け入れたのを聞いたアスカは目を輝かせた。
「ユニゾンもした事もあるアタシ達の方が有利ね」
「そうかもしれないね」
アスカはシンジに耳打ちしてほくそ笑んだ。
「僕は誕生日の時みたいにアスカのドレス姿が見れると思うと嬉しいよ、お姫様みたいだし」
「そんな、持ちあげすぎよ」
シンジにほめられたアスカは顔を赤らめてほおを手で押さえて首を横に振ってデレデレとしていた。
しかし、自信たっぷりに腕を組んで立っているゲンドウを見て疑いの視線を向ける。
「もしかして、ダンスってパワーレスリングダンスじゃないでしょうね?」
「もちろんそうだが?」
「あんなダンスじゃムード台無しじゃないの、バカ!」
期待を裏切られて怒り爆発のアスカに思いっきり怒鳴られたゲンドウはすごすごとアスカ達の側から立ち去ってリツコ達の居る場所へと戻った。
しかし、ゲンドウは少し嬉しそうな表情で顔を緩めていた。
「惣流君にバカと罵られた……結構気持ち良いかもしれん。シンジが惣流君に惹かれるのも分かる」
「司令、変な趣味に目覚めないでください」
リツコはゲッソリとした顔でゲンドウに声を掛けた。
こうして、漫才対決はハルヒ達の組の勝利として丸く収まった。
「みんな、漫才の後は花見と料理を楽しんでね! あ、未成年の人はアルコール厳禁よ!」
ハルヒのアナウンスにより、パーティは漫才の余韻を感じながら自由に料理を食べておしゃべりをする花見へと移行した。
アスカとヒカリは料理を手にしながら久しぶりの会話に花を咲かせる。
「涼宮さんと一緒に居ると、休む暇が全然無くて大変そうね」
「まあ、退屈はしないわね」
表情に一点の曇りも無く、嬉しそうに話すアスカにヒカリはまぶしい物でもみているかのように目を細める。
「アスカと涼宮さん、すっかり仲が良くなっちゃって元親友としては本当に羨ましい限りね」
「ヒカリは今でもアタシの親友よ」
「でも今じゃ一緒にお昼のお弁当を食べることも無くなったじゃない、あの頃が懐かしいな」
「ヒカリ、中学時代の事を振りかえるのはまだ早すぎるわよ。たまにはアタシの家や、SSS団の部室に顔を出してくれても良いのよ。いつでも大歓迎なんだから」
「そうね、まだアスカとの絆は切れては居ないのよね」
ヒカリは嬉しそうに微笑んでアスカの手を握った。
「アタシね、今日のパーティもそうだけど、SSS団って人の繋がりを作ってアタシ達の世界を盛り上げて居るような気がするのよ」
「ふふ、アスカってばすっかり涼宮さんの考えに心酔してしまっているみたいね」
「そうよアタシはSSS団の副団長、それ以外の居場所は考えられないわ!」
アスカはヒカリに向かって力強く宣言した。
「キョン、北高に進学して友達をたくさん持っている君が本当に羨ましいよ」
「佐々木、お前は県内でも有数の進学校に進学したんだっけな」
「うん、毎日の授業について行くのにたくさん勉強しなくてはいけないからね。どうも遊び友達より学友と言った感じの付き合いが多くなるよ」
「勉強のために勉強する毎日なんて、あたしは退屈でやってられないわ」
パーティの司会の役目を終えたハルヒは、キョンや国木田達を交えて佐々木と話をしていた。
エツコの言う通りパーティのような開放的な場所で話す事で、理解し合おうと思ったのだ。
「俺は北高の授業にさえついて行けないぜ」
「そんな事無いよ、最近になってキョンの成績は上がっているじゃないか」
「最下位争いをしていた俺との友情はどこへ行っちまったんだか」
キョンの言葉を国木田と谷口が否定した。
「キョンは涼宮さんに勉強を見てもらうようになって、成績が上がったんだよ」
「へえ」
国木田の言葉を聞いて、佐々木は感心したようだった。
「涼宮さんは学校の教師より教えるのが上手いかもしれないって評判だよ」
「もっとも、サルでも解るほど丁寧に教えるのはキョンが相手の時だけだな」
「それはキョンがあまりにも情けないからよ」
「手厳しい言葉だな」
キョンがそう言うと、ハルヒ達はそろって笑い声を上げた。
「涼宮さん、楽しいパーティをありがとう。勉強ばかりで憂鬱だった気分をリフレッシュ出来たよ」
「ストレスを溜めこむのはよくないわ。イライラがたまったらいつでもSSS団にいらっしゃい!」
「ありがとう」
ハルヒが佐々木に向かって満面の笑みでそう言うと、佐々木はハルヒに微笑みを返した。
「これで少しでも閉鎖空間の発生が治まってくれれば古泉に対する最高のプレゼントになるんだけどな……」