第十八使徒・涼宮ハルヒの憂鬱、惣流アスカの溜息
二年生
第三十六話 元カノでしょでしょ?


<第二新東京市立北高校 SSS団部室>

ハルヒとキョンが部室へと戻ると、すでに戻っていたレイとカヲル、そしてSSS団の入団希望者となるエツコとヨシアキが椅子に座り、ミクルのお茶を飲み、お菓子をつまみながらアスカ達と親しげに話していた。
予定より1時間も遅れて来たというのにハルヒの態度は堂々とした様子だった。

「SSS団の入部を希望する新入生はこの子達2人だけ?」
「他にも何人か来てくれたんですけど、帰っちゃいました」
「別にミクルちゃんが悪いわけじゃないわ、これは作戦だったのよ」

自分の力不足だと泣きそうになっているミクルに、ハルヒは優しく声を掛けた。
そして椅子に座っていたエツコとヨシアキの方を向いて誇らしげに言い放つ。

「これはあんた達の忍耐力を試すテストだったのよ。時間通りに始まらないと苛立って帰ってしまうようでは不戦敗って事よ!」
「どこの巌流島の決闘だ、おい」
「そうだったんですか? 私、お茶を出して皆さんをお引き留めするぐらいしかできなくて心配しちゃいました」
「敵を欺くにはまず味方からですか、さすが涼宮さんですね」
「古泉、お前も納得するな」

キョンのツッコミは全て無視されて、ハルヒは団長席の椅子に立った。

「あんた達よく来てくれたわね、SSS団の入団説明会に!」

ハルヒは嬉しそうな笑顔を浮かべながらも、圧倒的な高さから見下ろすような視点でそう宣言した。

「でも、SSS団に入るためには何よりも不思議を追及する好奇心と世界を大いに盛り上げる心意気が必要なのよ!」

ハルヒに人差し指を突き付けられたエツコとヨシアキは顔色一つ変えずに笑顔を浮かべてハルヒを見つめ返すだけだった。

「で、あんた達はこうしてじっと待っていたと言う事で第1関門は突破ね、おめでとう!」
「よかった!」

ハルヒに祝福の言葉を掛けられたエツコは素直に喜びを表した。
そんなエツコの笑顔を見て、ハルヒは何かに気がついたように視線をミサトの顔とエツコの顔の間で往復させる。

「あんたが笑うとミサトにそっくりね」
「あ、分かっちゃった? この子達は私のいとこなのよ」

ミサトがエツコとヨシアキの紹介を簡単に行った。
2人がアフリカのアワジランドから日本に帰国したばかりだと話すとハルヒは嬉しそうに目を輝かせる。

「へえ、それじゃあ帰国子女ってこと? さしずめ異国人ってところね。探している異世界人よりランクは落ちるけど、面白そうじゃない!」

エツコは笑顔でハルヒと握手を交わす。

「涼宮先輩、よろしくお願いします!」
「痛い! あんたものすごい馬鹿力ね!」

ハルヒは顔をしかめてエツコに力いっぱい握られた手をひらひらと振った。

「じゃあこれからSSS団の活動内容と歴史を説明するわね」

ハルヒの宣言の後、ハルヒによる独演会が開始された。
まず1年最初の行事は花見だと話し出し、桜を見るためなら登山も辞さないと最低限の体力が必要だと説明する。
次は5月病で元気が無くなった学校の生徒達を盛り上げるためにバニーガール姿でビラを配ったりした事を話す。
シンジの父親率いる野球チームとの対戦のエピソードではSSS団は負けず嫌いだと主張。
夏は七夕、肝試し、キャンプと伝統行事などはきっちりやるのだと宣言。

「と言うわけでSSS団は一丸となって団員のピンチにも全力で立ち向うのよ」

秋の文化祭には映画の続編をとる事も告知して、シンジが生徒会に罪を着せられた時はアスカが全力で助け出したと言う話をしたところで一旦区切った。
ヨシアキはハルヒの話を興味深そうに熱心に聞いていたが、エツコは段々と上のまぶたと下のまぶたが仲良しになり、ついに居眠りを始めてしまった。

「こら、起きなさい! まったく団長のあたしが話しているのに寝ているなんていい度胸ね」
「長い話を聞くと眠くなっちゃって……ごめんなさい」

ハルヒは堂々と居眠りをされたにも関わらず、エツコのその度胸を気に入った様子だった。

「ミサトのいとこなら是非SSS団に入ってもらいたいところだけど、あたし達と一緒に楽しく遊べるかどうか入団テストを行う事にしたわ。コンビやトリオを組んでの漫才よ」
「えーっ、何で?」
「漫才はボケやツッコミと言った役割が無ければ成立しないの。役を演じるだけで出来てしまうコントとは違う所ね」
「なるほど、僕達に役割を果たす協調性があるかどうか見るわけですね」

ヨシアキはハルヒの狙いが分かったようで、しっかりとうなずいた。

「入団試験は来週の日曜日にするから。合格したらSSS団のお花見でもやってもらうからネタを2つ用意しておくのよ!」

それで説明は全て終了したとばかりにハルヒはエツコとヨシアキを部室から追い出し、部外者立ち入り禁止の看板を下げた。
ドアの外の廊下はエツコとヨシアキの声がしばらく聞こえていたが、やがて居なくなったのか物音一つしなくなった。
そしてSSS団の部室の空気はいつも通りに戻った。

「涼宮さん、勝手に軽音楽部に行ってしまってごめんなさい」

レイがそう言って深々と頭を下げると、カヲルも隣に立って頭を下げた。
しばらくの間、部室に張り詰めた空気が流れる。

「2人とも顔を上げて、あたしは怒ったりなんかしないから」

気まずそうにしていたレイとカヲルが、優しげなハルヒの声を聞いてゆっくりと顔を上げた。
するとそこにはハルヒの穏やかな微笑みがある。

「バンドを組むなんて、今までにない体験をしたから、時間を忘れちゃうぐらい楽しかったのよね?」
「ええ……」

ハルヒに言われて、レイは顔を赤くしてうなずいた。

「だから、今度の花見大会でバンドもやりましょうよ! 簡単な曲ならアタシ達でも出来るわ!」

アスカが張り切って口を挟むと、ハルヒは首を横に振る。

「それもいいけど、2人は軽音楽部の岡島さんと財前さんと一緒にバンドを続けたいと思ったんでしょう?」
「でも、私達は……」
「このチャンスを逃しちゃいけないわ、今夜にでも岡島さん達に電話して、明日にでも軽音楽部に入部届けを出しなさい! あたしは2人をSSS団に束縛するつもりは無いわ」

レイがためらっていると、ハルヒが励ますように声を掛けた。
その言葉を聞いたレイの目から、涙がこぼれ落ちる。

「涼宮さん、私達のわがままを許してくれてありがとう」
「僕達もSSS団を辞めるのは辛いけど、涼宮さんの心遣いに甘えさせてもらうよ」
「2人とも、思いっきり軽音楽部の活動を楽しみなさい!」

寂しがっている気持ちを出さずに明るい笑顔で送り出そうとするハルヒにレイは抱きつく。

「カヲル君と一緒にSSS団で楽しい時を過ごせたのも、涼宮さんのおかげ。本当に感謝している……」
「あ……えっと……」

ハルヒはレイの体を突き離すと、部室を駆け出して廊下の彼方へ姿を消してしまった。

「ハルヒったら、耳の先まで真っ赤になっていたわよ」
「綾波にお礼を言われて、照れ臭くなってしまったんだろうね」
「アスカ、碇君、私は……」
「レイ、そんな悲しそうな顔しないの。ハルヒも許してくれたんだし、大手を振って堂々と軽音楽部に行きなさい!」

アスカがそう言ってレイの両肩に手を置くと、涙の跡がほおに着いたままのレイはニッコリと微笑む。

「そうね」

そしてレイは部室の片隅でいつものように本を読んでいる姿を装っているユキに近づいた。
ユキは部室でのハルヒとレイ達の会話に耳を傾けていたはずだ。
その証拠に、ユキの本をめくる手が止まっていた。

「あなたには寂しい思いをさせる事になってごめんなさい」

レイが話しかけるとユキはそのまま視線を本に落としたまま話し始める。

「私に寂しいという感情が全く芽生えないと言うわけではない。しかし、あなたが夢中になれるものを見つけられたのを知った私にはそれを上回る嬉しいと言う感情に包まれている」
「レイも渚も、たまにSSS団に顔を出してくれればいいのよ。そうすれば、ユキもきっと喜ぶわ」
「ええ、そうさせてもらうわ」

アスカの言葉に、レイは力強くうなずいた。

 

<第二新東京市立北高校 部室棟廊下>

部室を出て行ってしまったハルヒが行きそうな場所はキョンには見当がついていた。
その場所に行こうとしていたキョンをイツキが呼び止めた。
そして、イツキはいつものアルカイックスマイルに少しだけ嬉しさが上乗せされたような笑顔でキョンに話しかける。

「あなたのおかげで特大の閉鎖空間の発生を未然に防げて助かりましたよ」

イツキの言葉を聞いて、キョンはウンザリしたと言った顔になって言い返す。

「古泉、お前そんな形でしかハルヒの心配をする事が出来ないのかよ」
「すいません、これが僕の正直な気持ちなもので」
「俺はな、ハルヒが神の力を持っていない、性格がひねくれただけの変わった女だとしてもな、もうあいつの事が好きになっちまったんだよ」

キョンが強い眼差しでイツキをにらみつけると、イツキの方も笑顔を消して険しい表情でキョンをにらみ返す。

「僕は2年半前から、SSS団が結成されるまでの1年前までの1年と半年の間、ネルフを、涼宮さんを、そしてあなたの事を殺したいほど憎んでいましたよ」
「どういうことだ?」

イツキから発せられる殺気に、キョンは驚きながら尋ねた。

「あなたと涼宮さんが運命の出会いを果たしたあの七夕の日から、涼宮さんのストレスが溜ると閉鎖空間と神人が出現するようになったのです。そして僕も超能力に目覚めてしまった……」
「閉鎖空間に入って神人と戦う能力の事か」

キョンはつぶやいてつばを飲み込んだ。

「僕は神人と戦うために選ばれた子供なのです。ジョン・スミスという人物が姿を消して、彼を求める涼宮さんは連日イライラしっぱなしで、僕は毎日のように呼び出されましたよ」
「今は、綾波さんや渚とか他にも神人と戦っている仲間もいるんだろう?」
「当時、神人の存在はネルフでも碇司令と冬月副司令、赤木博士しか知らないトップシークレットでしたよ。葛城さんにも知らされなかったそうです」
「臭いものにはふたをして、認めたくない事実からは目を背けるって事か」

キョンの言葉にイツキは大きく首を振ってうなずく。

「例を挙げれば綾波さんの使徒戦でのエヴァンゲリオンでの自爆は対外的には水蒸気爆発と公表されました。第三新東京市に巨大な湖を作ったのは3,000年振りの大規模な物だと。組織とはえてしてそう言うものです」

イツキは悲しそうな顔で大きなため息をついた。

「ネルフは父の会社を人質に取っていました。秘密をもらせば、取引を中止して他の取引先にも圧力を掛けるぞと。そうなったら会社は倒産し、僕の家族を含めて多くの人間が路頭に迷う事になります。ですから僕は誰にも本当の事を話せなかったのです」
「碇の親父さんはそんな事をしていたのか」
「学校に通う事も出来なくなり、友人達も全て失いましたよ。母が学校の教師をやっていた関係から、どうにか卒業だけはする事は出来ましたが」
「すまん、俺達はお前の苦労を知らないで過ごしていたんだな」
「いえ、謝るのは僕の方です。僕があなたを恨んだりするのは筋違いですから」

イツキはそこまで話すと、またいつものような穏やかな笑顔を浮かべた。

「ですが、SSS団が出来てからこの1年、閉鎖空間の発生は抑えられています。毎日のように笑顔でいる涼宮さんなど、想像できませんでしたよ」
「そうなのか」
「そして、僕もこの通り高校生らしい学園生活を満喫出来ています。こうして、愚痴を聞いてくれる友人も出来ましたし、恋焦がれる上級生の女性も出来ました」
「古泉、お前……」
「ですから、あなたが僕に誕生日プレゼントのようなものをくださるのなら、安心を僕に下さい。涼宮さんがこの世界に絶望してしまわないように支えてあげる事を約束して下さい」

イツキに言われて、キョンは腕を組んで悩んだ。
そして、しばらく考え込んだ後、ゆっくりと話し出す。

「俺はまだ、ハルヒを一生支え続けるとかそんな大きな約束はできない。でも、お前の誕生日の一日ぐらいは閉鎖空間が発生しないように努力させてもらうさ」
「それで充分ですよ。ですが、あなたの昔の女友達には気を付けて下さい」
「どういう意味だ?」
「彼女があなたに接触してくる可能性が出て来たのですよ」

何か予感を感じているのか、イツキは真面目な顔でそう言った。

 

<第二新東京市立北高校 通学路>

SSS団の活動が終わり、帰り道にアスカ達と別れて2人きりになったハルヒとキョンは初々しく手を繋ぎながら歩いていた。
すると、キョンの家の前にショートカットの女子高生が立っているのに気がついた。

「佐々木、こんな所で何をやっているんだ?」
「やあキョン、久しぶりだね。キミがボクのプロフィールを忘却して居なくて助かったよ」
「キョン、知り合い?」

ハルヒが奇妙な物でも見たかのような表情で佐々木を見つめていると、佐々木は笑いを浮かべながら答える。

「親友だよ、但し中学時代のね。キミは男女の間に友情は成立すると思うかい?」

佐々木に問いかけられて、ハルヒはギクリと肩を震わせた。

「さあ、そう言う事もあるんじゃない?」

そう答えるハルヒの表情はどこか強がっているかのようにキョンには見えた。

「佐々木さん?」
「あっ、お前は確か」

その時、角から姿を現したのは中学時代からのキョンの友達である国木田と谷口だった。

「キミ達もキョンと一緒の高校だったんだね」

佐々木も国木田と谷口の顔を見て嬉しそうに微笑んだ。

「国木田、どうして俺の家に?」
「宿題のプリント、学校に忘れていたから届けに来たんだ」

谷口は佐々木の顔を眺めてからかうようなと笑いを浮かべる。

「お前が中学時代につき合っていた女ってキレイな子じゃないか、隅に置けないな、キョン!」
「キョンが鈴木さんの告白を断って佐々木さんと付き合い始めた時は驚いたよ」

国木田の発言を聞いたハルヒは顔色を変えた。

「キョンってば、佐々木さんと同じ学校を目指して猛勉強してたよね」
「ボクもキョンと同じ学校になれなかったのは残念だよ」
「まあ滑り止めの北高に入れたんだからいいじゃないか。で、こうして家の前で会っているって事はお前と佐々木はずっと付き合っていたわけか?」

谷口の言葉がさらなる追い打ちになり、キョンは自分の手を握っていたハルヒの手に力がこもっているのを感じ取り、ひたいに冷汗を浮かべる。

「落ちつけハルヒ、佐々木とは中学を卒業してから1度も連絡を取っていないんだ」
「そうだよ、ボクは久しぶりにキョンに会いに来たんだ」
「それなら、2人きりで話したい事はたくさんあるんでしょう? あたし、先に帰っているから!」

ハルヒは怒った顔でそう言うと、キョンの手を振り払って走り去ってしまった。
谷口と国木田はそこで初めてキョンとハルヒが手を繋いでいた事に気がつく。

「もしかして、お前と涼宮って本当に付き合っていたのか!?」
「ああ」
「てっきり俺達に対するドッキリか罰ゲームだとばかり思っていた、すまん」

キョンの返答を聞いた谷口は手を合わせて謝った。

「涼宮さんって、恋愛は病気の一種だって前から言っていたから、僕も涼宮さんとキョンが恋人になるとは思ってなかったよ」
「ふうん、涼宮さんの恋愛観はボクに近いものがあるね」

佐々木は感心したように軽いため息を吐き出した。

「ところで佐々木、わざわざ俺の家の前で待っていた理由は何だ?」
「うん、相談があって来たんだけど……」

キョンが尋ねると、佐々木は言葉を濁らせてハルヒが去っていた方角を見つめた。
国木田と谷口も心配をしているような顔でキョンを見守っていた。

「涼宮さんを早く追いかけた方が良いよ。今は誤解とかさせちゃいけない、大切な時期なんだろう?」
「すまん佐々木、また今度な!」

キョンは佐々木に謝って、急いでハルヒの後を追いかけ始めた。
すると、キョンの携帯が鳴る。
誰かと思って出て見ると、それはイツキだった。

「今、閉鎖空間が大発生したようですが、涼宮さんに何かあったんですか?」
「実はな……」

キョンはつい先ほど佐々木に会って話した事をかいつまんで説明した。

「……なるほど、神人や閉鎖空間の方は僕達の方で何とかします。あなたは涼宮さんといつものように一緒に夕食をとれるように頑張ってください」
「わかった」

キョンは電話を切ると、ハルヒを探すために駆け出した。
そして、ハルヒの背中に追い付いたキョンはハルヒの手を引きながら声を掛ける。

「ハルヒ、待ってくれ!」
「キョン!? あんたさっきの佐々木って子と……」

キョンに呼び止められたハルヒは足を止めて驚いた顔でキョンの方に振り向いた。

「俺は誰かと恋人関係になった事は無いって、前にも言っただろう?」
「あの子ってあんたの元彼女なんでしょう? 別に隠す必要なんて無いのよ」
「違う、佐々木とは本当に何も無かったんだ」
「あたしだって、ジョン・スミスに恋愛感情のようなものを抱いた事があるって認めたんだから、嘘をつき通さなくても……」
「佐々木の方も友達だって言っていたじゃないか」
「うん、そうよね」

キョンの説得にハルヒは納得してくれた様子で、キョンは安心してため息をもらした。

「でも、長い友情関係の中で恋愛感情が芽生えるってこともありえるかもしれないわね」

ハルヒは心の中でそうつぶやいた。

 

<第三新東京市 ネルフ本部ゲート前駅 1番ホーム>

ハルヒ達と別れたアスカ達は突然閉鎖空間が大量に発生したとの知らせを受け、家に戻らずに、イツキ達と共にネルフ本部へと向かっていた。

「今の電話で、我々がバラバラになるようにクラス分けがなされた隠されたもう1つの理由が分かりましたよ」
「……どうして?」

イツキの呟きに、レイはそう疑問を投げかけた。

「彼の女性関係に関する事になると涼宮さんは閉鎖空間を発生させるほどのストレスを感じるようになったんですよ」
「他の女の子にヤキモチを焼いているって事?」
「惣流さんも綾波さんも魅力的な女性です。ですから、もしかして彼を取られてしまうかもしれないと涼宮さんは無意識化で焦ってしまっているのですよ」
「私、別にそんなつもりは無いのに……」

下を向いてそう呟くレイの肩にアスカは手を掛けて励ます。

「まあ、ハルヒに嫌われたわけじゃないからよかったじゃないの」
「それでもあなた達を同じクラスにしたのは、さっさとくっ付いてしまえと言うハルヒさんの心の現れかもしれませんね」

イツキが指摘すると、アスカとシンジは顔を赤くしてうつむいた。

「じゃあ、僕達の神人を倒す仕事が増えるって事だね」

カヲルがそう言うと、イツキは困った顔でうすら笑いを浮かべながらうなずく。

「やれやれ、これから忙しくなりそうです。涼宮ハルヒさんの新たな憂鬱が始まってしまったのですから」
「そういえば、アンタと渚とレイの他にも神人と戦う超能力者(チルドレン)は居るの?」
「ええ、機密に当たる情報なので僕も詳しくは知らされていないのですが、僕達の仲間には日本以外の国の人間も居ますね」
「そんなにたくさん居るんだ」
「神人の大量発生に備えての大増員ですよ。中には外国支部が予算を水増しするために偽装された適格者も居ると言う話ですけどね」
「チルドレンをお金のために使うなんてひどい連中ね」

アスカは憤慨した顔になってため息を吐いた。

「僕の推測ですが、本当のチルドレンは以前に存在した使徒と同じ数だけ存在するのでは無いかと思います。元使徒のお二方もチルドレンだと言う事につじつまが合っていますし」
「……やっぱり涼宮さんより、元凶はサードインパクトを起こした僕の方じゃないのかな」

イツキの持論を聞いたシンジは暗い表情になり下を向いてポツリとつぶやいた。

「シンジ、そんな自分を責める事は止めなさいよ」
「すいません、今の話は僕の想像です、本当の所は碇司令も何もおっしゃっていませんし」
「でも、本当に僕の責任なら……」
「じゃあ、自分で取り返せば」
「えっ?」

レイがそう言うとシンジ達は驚いた顔でレイを見つめた。

「碇君が自分が悪いと思ってしまっているのなら、自分にできる方法で償えばいいのよ」
「そうか、そうだよね……」
「シンジ、まさかアンタ……」

不安そうに自分を見つめるアスカに向かって、シンジは強い決意を秘めた明るい笑顔を返す。

「違うよアスカ、僕は自分を不幸にさせる事で罪が消えるとは思っていない。ただ、楽しみながらも涼宮さんと一緒に居る事で父さんから課せられた任務も果そうと思うんだ」
「シンジ、アンタずいぶん前向きに考えられるようになったじゃないの!」

アスカは泣き笑いのような表情になってシンジに飛びついた。

「じゃあ僕達は先に行って神人と戦っている仲間達を助ける事にしようか」

カヲルの言葉にレイとイツキがうなずき、改札口を出て行った。
ユキ、そしてミクルがチラチラとアスカ達の方を振り返りながらもその後に続いて駅を出て行く。
列車も発車した後、ホームには立ったまま抱き合うシンジとアスカの姿だけがしばらくの間残された。


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