第十八使徒・涼宮ハルヒの憂鬱、惣流アスカの溜息
二年生
第三十四話 パラレルFamily


<第二新東京市立北高校 2年4組>

アスカ達は無事進級し2年生になった。
2年4組はミサトが担任を務める事になり、アスカとシンジ、カヲルとレイは同じクラスとなった。
しかし、ハルヒとキョンの姿は同じ教室の中には見えない。
このクラスは科目選択で、理系に進む選択をしてさらに世界史を選択した生徒達が主に集められていたが、それ以外の科目を選んだ生徒も3分の1ぐらい居る。

「涼宮さんが願えば、SSS団全員が同じクラスに集まる事も出来ると思うんだけどな」
「ハルヒはキョンと同じクラスだし、何か偶然じゃ無いものは感じるけどね」

シンジとアスカは不思議そうにそう話していた。

「もしかして、涼宮さんは私達の事を嫌いになってしまったの?」

レイが悲しそうな顔で下を向きながらそう呟いた。
そんなレイの姿を見てアスカとシンジは慌ててフォローを入れる。

「バ、バカね、そんなわけないじゃないの!」
「きっと涼宮さんの力は働かなくて偶然このクラス分けになったんだよ!」

落ち込みそうになったレイを励まそうとしてアスカとシンジはいろいろ話しかけようとしたが、始業のチャイムが鳴ってそれどころでは無くなった。
ミサトが教室に入って来て生徒達は例外無く全員席についた。
陽気なミサトは生徒達の心をつかんでいたようだ。

「みんな、席は自由に決めて良いからね。その代わり、誰かを仲間外れにしたり、いじめたりしちゃダメよん♪」

はーい、とクラスの生徒達から元気な返事が聞こえた。
教壇についたミサトは固まって座っているアスカ達に気がつくとニヤついた笑顔を浮かべて手を振る。
アスカとシンジは恥ずかしそうに手を振り返した。
放課後、アスカ達はハルヒと別クラスになった原因を聞くためにミサトの下に駆けつけた。

「ミサト、学校にネルフの手が回っているなら、アタシ達もハルヒ達と同じクラスになれるんじゃないの?」
「それが、私達にもわからないのよね。SSS団全員が同じクラスになるように事前に手を打っていたはずなんだけど……なぜか当たり前のように別々のクラスになっていた」

アスカの質問にミサトは困った顔をして答えた。

「そんな事が出来るのは、彼女だけだと思うわ」
「長門さん?」

シンジが尋ねるとレイは小さく首を縦に振ってうなずいた。

「でも、ユキちゃん自身は別のクラスになりたいと思っていないだろうから……きっとハルヒちゃんが望んだ事をユキちゃんが実現させたんでしょうね」
「アタシもハルヒが一緒のクラスになりたいって考えてはいないかもしれないって思ってはいたけど、どうして?」
「長門さんか朝比奈さんに聞かないと分からないだろうね」

最後のシンジのつぶやきを聞いたレイは、走ってユキの所に駆けつけた。
シンジ達も慌ててレイを追いかける。

「あなたは私達と涼宮さん達が別々のクラスになった理由を知っているの?」
「知っている」

レイが問い掛けるとユキは小さな声でそう答えた。
ユキはレイの後ろから駆けつけたアスカを指差す。

「涼宮ハルヒは彼女と対決する事を望んでいる」
「アタシと?」
「例えば体育祭、文化祭など」

ユキの言葉を聞いて、レイは安心して自分の体の力が抜けてしまった。
カヲルが崩れ落ちそうになるレイの体を支えた。

「よかった……涼宮さんが私達を嫌いになったわけではないのね」
「……あなた達は涼宮さんの事を信じられなかったの?」

ユキが質問をしてくるとは珍しい事だった、しかも尋ねるユキの瞳には力がこもっているようだった。

「ごめんなさい」

レイ達は恥ずかしくなって、下を向いた。

 

<第二新東京市立北高校 SSS団部室>

ハルヒとキョンは2年4組になり、担任は岡部と言う男性教師だった。
そして谷口、国木田、阪中さんと言った旧1年5組の生徒達が一緒のクラスになった。
岡部は旧1年4組の教師で、生徒に理解のある教師だと知られていた。
イツキは特別進学クラスと言われる2年6組に編入されていた。
6組の教師は教養より成績の方を重視するタイプで、これからイツキは勉強で忙しくなりそうだ。
ミクルと鶴屋さんは3年でも同じクラスになれたようだった。
2人は受験生となるのだが、普段から成績もそれほど悪くなく、今のところ去年と状況は変わらずミクルも放課後の部室に顔を出していた。
始業式の放課後、SSS団はさっそく部室に集まるのだった。

「みんな、明日からの新学期最初の活動は校内探索に決まったわ!」
「この高校に不思議スポットでもあるのか?」

団長席の椅子の上に立ってそう宣言するハルヒに、キョンが尋ねた。

「違うわよ、あたし達が探すお宝はSSS団に勧誘したくなる優秀な人材よ!」
「まさかお前、朝比奈さんみたいに拉致って来いって言うんじゃないだろうな」
「ひええっ」

その時の事を思い出したのか、ミクルが悲鳴を上げてイツキの腕をつかんでイツキの後ろに隠れた。

「あれはミクルちゃんがはっきりと断らなかったから、任意同行よ」
「肯定もしなかったら、任意とは言えないだろう」
「本当に嫌だったら、もっと抵抗でもすればよかったのよ。ミクルちゃんは心の奥底で自分を変えてくれるSSS団に期待していたんだわ」
「朝比奈さんはSSS団の内容についてさっぱり分からなかったと思うんだけど……」

シンジが冷汗を垂らしながらツッコミを入れたが、ミクルはハルヒ達に向かって笑顔で宣言する。

「でも、私はSSS団に入ってお友達もたくさんできて良かったと思います」
「ほら、ミクルちゃんも満足しているんだから問題無いじゃないの!」

キョン達は反論することもできず、黙るしかなかった。

「で、学校中の生徒を片っ端から調べるのか?」

キョンが疲れた顔で尋ねると、ハルヒは首を横に振った。

「あたし達の目標は、活きの良い新入生よ!」
「はぁ!?」
「ツッコミ担当、タカビー、草食系男子、文学少女、眼鏡属性、ロリ萌え上級生、お坊ちゃま、そして転校生と個性豊かな精鋭がそろった今のSSS団に不足しているのは!」
「俺はツッコミか」
「タカビーって、アンタねぇ……」
「僕は草食系男子なんだ……」
「私はそんなイメージなのね」
「眼鏡属性って何?」
「ロリ萌えって何ですか?」
「確かに僕は御曹司ですが……」
「何か僕だけ地味な属性だね」

ハルヒは大きく息を吸って断言する。

「後輩属性よ!」
「何だそりゃ?」
「あたしの事を”先輩”と呼んで萌えさせてくれる存在を欲しているのよ」
「お前は朝比奈さんの事を名前プラスちゃん付けで呼んでいるじゃないか」
「ミクルちゃんはSSS団のマスコットよ、永遠に可愛い存在じゃなくちゃいけないの」

キョンに対してハルヒは得意げな顔で反論した。

「じゃあ1974年11月1日生まれだからって、現在40歳を超えるキティちゃんを他の呼び方で呼べって言うの? 子供達の夢を壊す事しないでよ」
「今のお前の発言を聞いた子供達の方が夢が壊されるような気がするんだが」
「まあ、マスコットの話はそれぐらいで。それで、新1年生から有望な人材を探すと言う事でしたね」

反れかけていた話の筋をイツキが元に戻した。

「ただ探せってあたしが命令しただけでは、本気で探さない団員も出るでしょうね」
「なぜ俺を見る」
「いつものくせ」

ハルヒはキョンを見つめていたずら猫のような笑みを浮かべた。

「アスカ達にも真剣になってもらうために、チームを分けて勝負と行きましょう!」
「ええっ!?」
「あたしとアスカ、より面白い新入生を見つけて来た方が勝ちだから」

ハルヒは一方的に宣言すると、新入生の顔ぶれを眺めに行くと言ってキョンを引っ張って入学式が行われている体育館へと行ってしまった。

「どうやら反論する時間も与えられなかったようですね」

イツキは他人事のように笑顔を浮かべたままつぶやいた。

「仕方無いわね、アタシ達も新入生の情報を集めに行くわよ」

アスカはそう言ってシンジの手を引いて部室を出て行こうとした。

「おや、惣流さんは涼宮さんに勝つ方法を思いついたのかい?」
「そんなところね」

カヲルに声を掛けられたアスカは余裕の笑みで答えた。

 

<第二新東京市立北高校 職員室>

ハルヒに勝負を申し込まれたアスカはシンジを連れてミサトの居る職員室へと向かった。

「どうしてミサトさんの所へ行けば勝てると思うの?」
「ふふ、SSS団に入る事が許されているのはネルフが情報を把握している生徒達だけ、当然ミサトもその生徒の情報を知っているってわけ」
「凄いやアスカ」
「校舎中を駆け回るよりスマートなやり方でしょ」

シンジにほめられて気分を良くしたアスカは、誇らしげな顔をしていた。

「アスカの目の付けどころは素晴らしいわね、確かに調査対象になっている新入生の情報はネルフに届いているわ」
「これでハルヒとの勝負は勝ったも同然ね」
「いったい、どんな人達なんですか?」

シンジが尋ねるとミサトは困った顔になって言葉に詰まった。

「アタシ達にも言えない機密事項なの?」
「機密じゃないんだけどね、私にも信じられない話でどう説明したらいいのか難しいのよ」
「何よそれ?」
「うーん、これぐらいならいいか!」

ミサトは乱暴に頭をかきむしると、生徒のデータを記したファイルをアスカとシンジに渡した。

「葛城エツコですって?」
「こっちは葛城ヨシアキって書いてある。ミサトさんの親戚ですか?」
「うん、まあそう言えなくもないんだけど……」

歯切れの悪い答えを返すミサトをアスカはイラだった様子でにらみつける。

「アタシはドイツに居た頃からミサトを知っているけど、同じ年ぐらいの歳の子の親戚が居るなんて話を誰からも聞いた事無いわ、どういう事よ?」
「話せば長くなる深い事情があるのよ。今2人は入学式に出ているんだけど、学校が終わったらネルフの方で説明するから、アスカとシンジ君はレイを連れて来てくれるかしら」
「レイと一緒にネルフに?」
「そこで家族水入らずで話をしましょう、私達パラレル・ファミリーのね」

そこでミサトに話を打ち切られたアスカとシンジは、おとなしく職員室を立ち去るしかなかった。

 

<第三新東京市 ネルフ本部 会議室>

放課後の図書室でユキと本を読んでいたレイに声を掛けて合流したアスカ達は、ネルフ本部へと向かった。
1人で図書館に残される事になるユキを気遣ってレイが謝ると、ユキは首を軽く左右に振って否定する。

「私は葛城ミサトがこれからあなた達に話す情報の内容は知っている。必要な情報操作も彼女に頼まれて実行した。同行しなくても何の問題も無い」
「ミサトもアタシ達3人だけに話があるって言うし、ユキもこう言ってくれているんだから行きましょう」
「分かったわ」

第三新東京市へ向かうリニアトレインの中でアスカ達はミサトの親戚だと思われる2人の関係や人格について話し合ったが、結論は出なかった。
ネルフ本部についたアスカ達は先に待っていたミサトと一緒に会議室の中へと入った。
会議室の中でアスカ達を待ち受けていたのは、リョウジと北高の1年生の制服を着た少女と少年だった。

「加持さんも一緒なの?」
「まあ、俺も関係者だからな」

驚いたアスカの質問にリョウジは重い口調で答えた。
いつも皮肉めいた軽い表情を浮かべているリョウジが、真剣な表情で座っていた。
それとは対照的に、制服姿の少女と少年はアスカ達を見てとても嬉しそうな笑顔を浮かべている。
特に少女の方は能天気にアスカ達に向かって手を振っている。

「やっほー、アスカ、シンジ、レイ!」

少女に突然馴れ馴れしく名前を呼ばれたアスカ達は驚いて息を飲んだ。
制服姿で晴れやかな笑顔をした少女の事を知っているかとアスカ達はお互いに目で会話するが誰もが否定の表情だった。
だが、その笑顔には見覚えがあるらしく、アスカ達の視線はミサトに集まった。
見つめられて照れ臭くなったのか、ミサトは愛想笑いを返す。
そのミサトの笑顔は、その少女の笑顔と姉妹のようにそっくりだった。

「残念だが、アスカ達はお前達の事を全く知らないんだ。順を追って説明しないとな」

リョウジに言われて、笑顔がミサトに似た紫色を帯びた長い黒髪をポニーテールにまとめたスタイルの良い少女は自己紹介を始める。

「私は葛城エツコだよ、よろしくね!」
「僕は弟の葛城ヨシアキです」

制服姿の少年は琥珀色の瞳をした線の細い顔立ちで、あまりミサトやエツコに似ていなかった。

「僕は戦災孤児だった所を拾われて養子になったので血の繋がりはありません」
「そっか、だからあんまり似ていないんだ」

ヨシアキの言葉にアスカは納得してうなずいた。

「えっとエツコさんはミサトさんの妹さんですか?」
「それが……」

シンジに聞かれてミサトは黙り込んだ。
会議室内に張り詰めた空気が走る。
その沈黙にイラだったアスカがミサトをせっつくと、ミサトはひたいから汗を垂らしながら話す。

「……どうやらエツコは私の産んだ娘らしいのよね」
「何の冗談?」
「本当なんですか?」
「リツコのDNA鑑定でも私と完全な親子だって認められたのよ」

ミサトは疲れた顔になって盛大にため息をついた。

「えっ、でもミサトの歳で高校生ぐらいの子供っておかしくない?」

そう言って混乱しかけたアスカの肩をレイがつかんで落ち着かせる。

「きっと2人は未来からやって来たのよ」
「なるほど、だから長門さんも知っているんだね」
「それが違うのよ」

納得して落ち着きかけたアスカ達はミサトの言葉で再び驚いた表情になった。

「ミサト、それってどういうこと?」
「平行世界、パラレルワールドと呼ばれるところから来たらしいわ」
「平行世界って何ですか?」

シンジが質問すると、リョウジが腕組みをしながら口を開く。

「リッちゃんの話だと、平行世界はビックバンと呼ばれる宇宙創造の時から、この宇宙以外にも無数に存在すると考えられている可能性の世界だと言う事だ」
「可能性によって枝分かれした他の世界ですね」

普段からSF小説を読んでいるレイは理解が早いようだった。

「僕達は母さんと父さん、エツコと一緒に第三新東京市で暮らしていたんですけど」

ヨシアキが”父さん”と言ったところでリョウジに視線を送ったのをアスカは見逃さなかった。
リョウジの方を見つめてアスカは質問を浴びせる。

「もしかして、彼女のパパは加持さんなの?」
「ああ、だから言っただろう、俺も関係者だって」
「加持さんがパパで、ミサトがママなんて想像がつかないわね」
「俺だって信じられなかったが、事実だ」

リョウジはそう言ってため息を吐き出した。
そしてヨシアキが冷静に続きを話し始める。

「中学2年生の時、母さんがエヴァンゲリオンパイロットのチルドレンだったシンジとアスカとレイを連れて来て一緒に暮らす事になったんです」
「でも中学を卒業した後、私達家族はアワジランドってアフリカの小さな国に行く事になって、アスカ達とは離れ離れになっちゃったのよ」

そこまで話したエツコは、少し残念そうな表情になった。

「日本のアスカ達から高校の新学期が始まったって手紙が来て、私達も一緒に日本の高校に行きたいねって、ヨシアキと話していたんだけど」
「その夜は南アフリカで流星群が観測されると言われていたので、屋根の上に登って2人で冗談半分で流れ星に向かって願い事をしたんです」
「そしたら、夜空全体が真っ白になったように輝いて……」
「気がついたら僕達は2人ともこの北高校の1年生の制服を着て第二新東京市の空き地に立っていたんです」

ヨシアキがそこまで話すと、アスカ達は驚いたように息を飲んだまま黙り込んだ。

「リツコの推測だけど、ハルヒちゃんの”異世界人と遊びたい”と言う願望の力が平行世界まで及んだらしいのよ」
「そう言えば、クラスの自己紹介でそんな事言ってたわね」

ミサトの言葉を聞いてアスカは吐き捨てるようにそうぼやいた。

「エヴァンゲリオンと使徒との戦いもそうだったけど、未来人の朝比奈さんや長門さんに会ったりして、平行世界の話も信じられる気がして来たよ」
「非日常的な話でも抵抗が無くなって来たわよね、アタシ達」

のんきに話すシンジを見て、アスカは力の抜けた顔でため息をついた。

「大変だったよ、ついたのは夜中だったから、お巡りさんに補導されちゃって」
「父さんの名前と、ネルフの事を話したら、死んだはずの父さんがやって来たから僕達も驚いたよ」
「ええっ、加持さんが死んじゃったって!?」
「どうやら2人が居た世界の歴史上では俺は使徒戦で命を落としたらしい。それで2人も俺が生きている事でリッちゃんの平行世界の話を信じてくれたようだ」
「で、これからこの2人はどうするわけ?」

アスカに尋ねられたミサトは気まずそうにリョウジと視線を合わせた。

 

<第二新東京市 デパート>

ネルフを出たアスカ達はミサトの運転する車とリョウジの運転する車に分乗して第三新東京市の市街でエツコとヨシアキの生活用品を買う事になった。

「こんなにたくさんお菓子ばっかり買って、お世話になるんだからダメじゃないか」
「ごめんヨシアキ、久しぶりに日本に戻ってきたら懐かしくなっちゃって」
「経費で落ちるから俺の懐は全く痛まないさ、思いっきり買ってこい!」

リョウジがそう声を掛けると、エツコは喜びの声をあげてお菓子のコーナーへと行ってしまった。
エツコの後をヨシアキが慌てて追いかけた。
そんなエツコの姿を見て、アスカはあきれたようにため息を吐き出す。

「まったく、あの子達と一緒に住む事になるなんて家に居ても疲れそうだわ」
「あの子達はたった2人でこの世界に来てしまって心細い思いをしているのよ、私達もできるだけの事をしてあげないと」
「そうね……アタシ達もあの子達が知っている人間とは別人だし」

ミサトにたしなめられたアスカは、2人に同情するような表情を浮かべた。
ずっと黙っていたレイに、シンジがそっと話しかける。

「綾波も1人で暮らしていたのに突然僕達の家と部屋を繋げる事になって、やっぱり騒がしくて疲れちゃうかな?」
「ええ、私は静かで落ち着ける場所も好きだけど……碇君と一緒に暮らせば、お兄さんと自然に呼べるようになる日も早くなるかもしれないわ」
「そうだね、僕も努力するよ」

レイの言葉にシンジも力強くうなずいた。
アスカはお菓子を持って戻って来たエツコに声を掛ける。

「アンタもハルヒの勝手なわがままに付き合わされて、世界の壁を越えて拉致されるなんてとんだ災難ね」
「あはは、私は別に構わないよ、こうしてアスカやシンジとまた会う事が出来て嬉しいから楽しくて仕方が無いよ」

能天気に笑顔で答えるエツコにアスカ達は少しあきれてしまった。
レイがゆっくりとした口調で尋ねる。

「すぐに元の世界に戻りたいと思わないの?」
「こんな楽しいのにすぐに帰るなんてもったいないよ!」

エツコは笑顔でレイに向かってそう答えた。
ヨシアキはぼう然としかかっているレイにそっと耳打ちをする。

「エツコは不安があっても無理して笑顔を作って強がってしまうところがあるんです」
「ええ、分かったわ」

レイはヨシアキを安心させるようにしっかりと目を見つめてうなずいた。

「アンタのその底抜けに明るく楽しもうって性格ってさ、ハルヒに似ているわね」
「私達をこの世界に呼び寄せたって人でしょ? 体育館の窓から入学式をのぞいていたのをヨシアキが見つけて私も見たけど、普通の女の子にしか見えなかったよ」
「僕も特別なものは感じませんでした」
「あなた達、ハルヒちゃんに話し掛けたりして居ないわよね?」
「うん、母さんの言う通り私達は気がつかない振りをしたけど」
「それでいいわ、あなた達が平行世界から来たなんてハルヒちゃんに知られたらとってもまずいことになるもの」

ミサトは真剣な顔でエツコとヨシアキに言い聞かせた。

「アスカ達も、この2人は外国から急に帰国した私の歳の離れた、いとこで親御さんの都合で私の家に引き取る事になったとハルヒちゃん達には話を合わせなさい」
「ミサトさん、2人の両親はどこに居る事にするんですか?」
「アフリカのアワジランドで仕事をしているってデータをユキちゃんに作ってもらったわ」

ミサトはエツコとヨシアキの目を見つめて念を押すように言う。

「あなた達もハルヒちゃんの居る前や学校では”ミサトお姉さん”って呼ぶのよ」
「大丈夫だよ母さん、分かってるって」
「何か不安ね……」

笑顔で胸に手を当てて返事をするエツコの姿を見てアスカはそうつぶやくのだった。
買い物を終えたアスカ達はまた車に乗って葛城家へと帰った。
そしてエツコとヨシアキの荷物をレイの家だった方の部屋に運び込み、荷物の整理を協力して行った。
その日の夕食は異世界での加持一家の生活、使徒との戦いの話やこちらの世界の神人や未来人の話などいくらでも話題があったので長いものとなった。

「すっかりご馳走になってしまったな、俺はそろそろ帰るよ」
「えーっ、父さんも一緒に暮らそうよ」

夕食を終えて家に帰ろうとしたリョウジをエツコが腕を引っ張って引き止めた。

「俺は自分の家があるし……」
「両親の仲が良い姿を見れるのは、子供にとって嬉しい事なんですよ」
「そ、そうか?」

ヨシアキに言われてリョウジは振り返ってミサトの方を見ると、ミサトもリョウジに微笑みを浮かべていた。
リョウジが戻ってミサトの隣に腰を下ろすと、ミサトもリョウジの肩に甘えるようにもたれかかる。

「エツコちゃんがどうしてもって言うからこうして仲良くしてあげているんだからね」
「ああ、分かってるさ。でもこうしていると学生の頃に戻ったみたいだな」

ミサトとリョウジがソファに座っている姿をアスカとシンジはすこしあきれた感じで見つめている。

「何かこのまま結婚しちゃいそうな感じね」
「まるで本当に夫婦になったみたいだ」

アスカ達は夕食の後も葛城家とレイの部屋の分を繋げて大きくなったリビングでゆったりとした時間を過ごし、入浴して寝る事になった。

「父さん、一緒にお風呂に入ろうよ」

エツコが軽い調子でそう言うと、ヨシアキ以外はみな吹き出した。

「アンタ、その歳でパパと一緒にお風呂に入ってるの!?」
「加持、実の娘だからって一緒に入ったら承知しないからね……」
「わ、分かってるって」
「ちぇーっ、久しぶりに会えた父さんの背中を流してあげようと思ったのに」

エツコはふくれた顔になってバスルームへと姿を消した。

「さて、アタシも部屋に戻るか」
「そうだね、明日の予習もしないといけないし」

アスカとシンジの言葉で解散となり、レイ達も自分の部屋へと戻った。
しかし、しばらくして葛城家の夜の静寂を切り裂くシンジの悲鳴が辺りに響き渡る!

「うわあ!」
「シンジ!?」
「シンジ君!?」

悲鳴が上がったのはミサトの部屋の前の廊下だった。
アスカとミサトが部屋のドアを開けると、そこには両手で顔を覆って視線をさえぎろうとするシンジの姿。
シンジの視線の先には風呂上がりで体から湯気を上げている一糸まとわぬエツコが立っていた。

「今日買ってきたブラとパンツがきつかったから、母さんのを貸してもらおうと思って」
「アンタねえ!」

気にしてないような笑顔で言うエツコにアスカとミサトは顔を赤くして怒鳴った。

「ぼ、僕は何も見ていない……」

そう言いながらチラチラとエツコの方に視線を向けているのを感じ取ったアスカは、シンジの首根っこをつかんで自分の部屋へと連行した。

「何があったシンジ君!」

ミサトは駆けつけたリョウジの顔に重い目覚まし時計を投げつけた。
異世界家族(パラレルファミリー)の生活は、1日目から賑やかなものとなった。


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