【英国・カーディフ発】ロンドン五輪サッカー女子準々決勝(3日=日本時間4日)で強豪ブラジルを破ったなでしこジャパンのヒロインは、2人のストライカーだ。先制ゴールで劣勢の流れを断ち切ったFW大儀見は「ダルビッシュ式トレーニング」で覚醒。追加点のFW大野は、崖っ縁から這い上がった。
人妻ストライカーがついに目覚めた。前半27分、FKの場面でMF沢が素早いリスタートから縦パス。これに反応した大儀見はGKとの1対1で冷静にゴール右隅に決めた。ロンドン五輪初得点で、劣勢だった試合の主導権を奪い返した。
普段はクールなストライカーがアシストの沢を指さし、はしゃぎまくり、珍しく喜びをあらわにした。
惜しくもメダルに届かなかった北京五輪後、欧州選手に当たり負けしない体を作るため、もっともプレーが激しいとされるドイツ移籍を決意。食事や練習にもこだわったが、特に意識したのは体のバランスだった。そこで大儀見は「野球トレ」を導入した。
野球ボールやテニスボールを投げる単純なものだが、体全体を使うことで背筋強化に最適だと知った。利き手の右手だけでなく、左手でも行うことで体のバランスにも気を配った。両手投げトレーニングはレンジャーズのダルビッシュ有投手(25)が日本ハム時代から取り組んだものとして有名だ。
「ダルビッシュトレ」の効果は絶大だった。日本代表合宿に参加した際、利き手ではない左手でボールを上空に投げると、5メートル以上も高く上がった。一緒に投げたDF熊谷紗希(21=フランクフルト)が足元にも及ばない距離だったという。
大儀見は「ダルビッシュ選手がそんなことをやっていたのは知らなかった」と笑ったが「私、本当は両方の手で同じように投げられるようにしたいんです。これが今のプレーに生きているのは間違いないので」。このトレーニングのおかげで利き手や利き足に頼らないことでプレーの幅も広がり、苦手の左足でもシュートを決められるようになった。
今大会中も朝食前の6時に起床し、持参したラダーと呼ばれるはしご型のトレーニング用具を使い、一人で朝練を行う。大儀見と同部屋のFW高瀬愛実(21=INAC神戸)は「おかげで目が覚めるけど、私はゴロゴロしてただけ。すごいなと思った」と舌を巻いた。
ベスト4進出の立役者はもう一人いる。大儀見と2トップを組んだ大野だ。後半28分に追加点を決め、存在感を示した。
大野は「あの(大儀見からの)ボールは大事にしようと思った。めちゃくちゃ疲れたけど、みんなの気持ちが入っていた」とほっとした表情。
これまで、FWとして得点がなかった責任を一人で抱え、ネガティブになっていた。“やんちゃ姫”の元気も下降気味のなか、豪快な左足ゴールで復調気配だ。
このコンビは佐々木則夫監督(54)が大会直前になって組ませた。指揮官期待の2人が大舞台でようやく結果を出し、金メダルに向けて視界は良好だ。