旅犬・まさお君と芸人・松本秀樹さんの“ワンマン”コンビの旅が始まったのが、2000年のこと。以来、2代目の旅犬だいすけ君、そして3代目のまさはる君にバトンは受け継がれ、番組は13年目へと突入しました。干支がひとまわりした今、番組はどんな展開をしていくのか? そんな素朴な疑問を「ポチたまペットの旅」の林祐輔プロデューサーに投げかけてみました。
まさはる君と松本君が気持ちを通じ合わせていく過程を追い掛けたい
テレコ!:まさはる君が旅を始めて2カ月が経とうとしていますが、率直にどう感じていらっしゃいますか?
林:まだ、まさはる君自身が1歳にも満たないということで、当面は関東エリアを訪ねる方向で旅を進めています。先代のだいすけ君の時も、初代のまさお君もそうでしたが、成犬になってから旅に出ているんですね。“相方”の松本(秀樹)くんも言っていましたが、生後5~6カ月の時点で旅に出るのは初めてのことだそうで。松本くん本人は気づいているかわかりませんが、子どもを持つお父さんのような雰囲気があるんです。画面を通じて伝わっているかはわかりませんが、僕は現場で見ていてそのように感じます。まさお君とだいすけ君を不幸なかたちでなくしていることもあって、より慎重に旅を進めていきたいという思いがあるのではないかと。まさはる君については、だいすけ君の49日に生まれたという縁から始まって、初めて会いに行った時から松本くんにピタッと寄り添ったことなども含めて、とても深い愛情を抱いているように見えますね。
テレコ!:実際のところ、まさはる君はどんな性格のワンちゃんなんですか?
林:ラブラドール・レトリーバーという犬種そのものに共通しているところがあると思いますが、そんなに吠えません。身内の話で恐縮ですが、3歳になるウチの子どもは犬が好きなんですが、柴犬とかトイプードルとか体が小さくても吠える犬のことは怖がってしまうんです。でも、まさはる君はカラダが大きいのに吠えないので、安心して近寄っていきます。まさはる君も相手が子どもだとわかっていますし、元来やさしい性格なんでしょうね。先代のだいすけ君もおっとりした犬だったので、長所が似てくれたことに関しては嬉しい限りです。
テレコ!:だいすけ君の話が出たところで、先々代のまさお君とだいすけ君の思い出をお聞かせ願えるでしょうか?
林:僕が「ポチたま~」の担当になったのは、まさお君が元気だった時の最後の年でした。読売テレビから転職してきて初めてディレクターとして付いたのですが、こういう癒やされる番組だったので、スムーズに入っていくことができた記憶があります。それからしばらくして、まさお君は旅立ってしまって…公開中の映画「LOVE まさお君が行く!」でも描かれていますが、テレビ東京社屋の前に設置された献花台に長い行列ができたことは、鮮明に覚えています。旅犬は引退したけれど、これからはスタジオで活躍してもらおうという話になっていた矢先のことだったので、なおさら印象深いのかも知れません。一方、だいすけ君とは一緒にアメリカ横断5000キロの旅をしているので、やはりその時のことが思い出深いですね。ロサンゼルスにベニス・ビーチという有名な海岸があるんですが、そこに寝転がった松本くんがだいすけ君の顔をなで回して遊んでいたんです。実はそういう場面は日本だとなかなか見られなかったんです。というのは、やはり人気者だけにワッと人が寄ってきてしまうので、なかなか2人きりになれなくて…。アメリカ横断という壮大なプロジェクトで、だいすけ君の体調のことも気になっていたのですが、その様子を見た瞬間、「やっぱり企画してよかったな」と思えました。なので、まさはる君についても、いつか松本くんとの絆がより深まっていくような旅をさせてあげたいと思っています。ゆくゆくは、そうやって2人が気持ちを通じ合わせていく過程をドキュメントのように追い掛けて、番組で紹介していきたいですね。
テレコ!:言い換えれば、それがまさお君とだいすけ君から教わったことでもある…?
林:そうですね。また、テレビ界全体を見回すと、動物番組というのは何らかのかたちでずっと作られてきていますけど、人と犬が旅をするというスタイルは「ポチたま~」が先駆けだという自負もあります。かつては、旅先で起こるハプニング的な面白さを前面に出していたりもしましたが、おそらく今の視聴者の方々は、あまりそういう要素を求めていないのかも、と感じることもあります。そういったことも鑑みて、「ポチたま~」でしか表現できない、松本秀樹という芸人と旅犬・まさはる君の関係性を映像に収めていきたいと思っています。番組が始まった12年前からご覧になっている方はお気づきでしょうけれども、松本くんの人間的成長の記録でもあります。先日、映画用の特番で第1回放送でお蔵入りになった映像を見たんですが、もう別人なんですよ(笑)。つまり、1匹の犬には1人の人間の人生と運命を変えてしまう力があるのだと。その軌跡を長きに渡って見続けていただくことで、犬たちの持つすごい力を感じ取っていただけたら…と考えています。
テレコ!:松本さんがインタビューでお話していたんですが、まさお君たちと旅するようになってから、滅多なことでは怒らなくなったそうです。林さんからご覧になって、松本さんの「ここが変わった」というところはありますか?
林:芸人さんなので「テレビに出て笑いをとってナンボ」というところは、現実的な面としてあると思います。でも、理想論なのかもしれないですけど…そういったものを超えたところに見いだせる価値観もあるわけです。つまり、精神的に満たされて生きていく、といったような。たぶん、松本くんはその域に近づいているんですよ。もちろん、芸人として笑いを極めるという夢も持ち続けているとは思いますが、まさお君、だいすけ君、そしてまさはる君と出会ったことで、世の中の見方が少し変わったのは間違いなくて…。だからドッグトレーナーの資格を取ったり、人や動物に対して優しくなったのだと思います。それは、犬たちと一緒にいることで心が満たされるといった価値観が彼の中に生まれたからなんですよね。ですので、きれいごとと承知の上ではありますが、そういった人生を豊かにしてくれる価値観をテレビは伝えていくべきなんじゃないかと考えています。そのことは、僕自身が松本くんとまさお君、だいすけ君、そしてまさはる君から教わったことでもあります。
テレコ!:ありがとうございます。では、今後のまさはる君と松本くんの旅がどのような展開を見せていくのか…展望をお聞かせください。
林:まさお君もだいすけ君も海外に行っているので、いずれはまさはる君にも海の向こうへ行ってもらいたいという気持ちはあります。ただし、無理してまで、とは考えていません。先ほども申し上げたように、基本的にはまさはる君と松本くんがコンビとして成長していく軌跡をドキュメントのように追い掛けていくことが、本質ですので。その過程を、末永くみなさんにも見守っていただけたら、うれしいですね。
Photo=蓮尾美智子
Interview=平田真人
林プロデューサーが、どんな番組を見ているのか、録画しているのか、その気になる頭の中(ハードディスク)を拝見します!
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メジャーリーグが好きなので、BS1で午前中に放送している中継を見たり、夜にやる「MLBハイライト」は必ず見ています。完全に仕事を離れてテレビを楽しんでいると言えるのは、「メジャーリーグ中継」が唯一と言っていいかもしれません。
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総合診療医 ドクターG
NHK総合 毎週木曜 午後10:00~午後10:43
仕事と自分の志向が一緒になったところで見て、面白いと思った番組です。僕は「主治医が見つかる診療所」という番組も手掛けているので、医療番組をチェックしているんですけど、この番組はちょっと毛色が変わっていて良いですね。でも、個人的には前シーズンの方が見応えがあったように感じます。総合診療医の方が哲学的なことを言っていたのが、すごく印象的でした。
旅犬・まさはる君と旅人・松本君が日本各地を巡ります。
二人のほのぼのした触れ合いに癒されること間違いなし!
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まさはる君が行く!ポチたまペットの旅
BSジャパン 毎週水曜 午後8:00~午後9:00/テレビ東京 毎週金曜 午後0:30~午後1:25 ほか
タレントであり旅人の松本秀樹と、ラブラドール・レトリーバーの旅犬・まさはる君が日本各地を旅するドキュメンタリー番組。観光地や穴場スポットを巡り、そこで出会った人々との触れ合いや、まさはる君の愛らしいハプニングもつぶさに追う。また、動物にまつわる感動ストーリーなどもお届け。ナレーターには、小倉久寛、犬山イヌコら。
幼少期から番組制作に携わるまで、林プロデューサーがこれまで歩んできた「テレビの歴史」を伺いました。幼い頃好きだったドラマやバラエティ、制作者になってから印象に残る番組を紹介してくれました。
~林プロデューサーの場合~
年代 | 見ていたテレビ番組 | その頃、私は… | 時代背景 |
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1969年12月16日 | 林祐輔、誕生 |
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幼少期~ 小学生時代 |
巨人の星 (1968~1971年) |
自分では覚えていませんが、両親いわく、食い入るように見ていたそうです。 | |
太陽にほえろ! (1972~1986年) |
祖父母が好きだった影響で、僕も夢中になって見ていました。松田優作演じるジーパンが殉職するシーンは、今でも鮮明に覚えています。ですので、僕はリアルタイムで「3年B組金八先生」を見ていないんです。裏番組でしたから…。でも、再放送で「金八」を見たら、すごく面白くて、ハマってしまいました(笑)。 | ||
2年B組仙八先生 (1981~1982年) |
「金八」は見ていないんですが、なぜか「仙八先生」は見ていたんです。薬丸裕英さんには「アド街」でお世話になっていますが、まさか当時ドラマで見ていた人とお仕事をするとは、夢にも思っていませんでした。 | ||
トム・ソーヤーの冒険 (1980年) |
「世界名作劇場」の中でも、「トム・ソーヤー~」は好きでしたね。先日、MXテレビで再放送していて、「お、懐かしいなぁ」って、つい見ちゃいました。不思議なもので、展開やセリフを覚えていましてね…。記憶の扉がふと開いたのかもしれません(笑)。あっ、同じころNHKで放送していた人形劇の「プリンプリン物語」も好きで見ていました。また記憶の扉が開きました(笑)。 | ||
中学~ 高校生時代 |
萩本欽一のバラエティ番組 | 僕が小学生から中学生に上がるころ、欽ちゃんは1週間でゴールデンタイムに多くのレギュラーを持っていたんです。「欽ドン!」(フジテレビ系)に「欽どこ」(テレビ朝日系)に、「欽ちゃんの週刊欽曜日」(TBS系)…。「欽どこ」の1コーナーで、ゲストがどの料理から食べていくかを当てるクイズがあったんですが、あの企画を超えるものはいまだにないね、という話が今でもよく会議で上がります。 |
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スクール・ウォーズ (1984~1985年) |
高校受験を控えていたのに、全話コンプリートしてしまいました(笑)。親戚の人たちも、「あんなにテレビに夢中になっていて、よく高校に受かったものだ」と呆れていたそうです。 | ||
ニュースステーション (1985~2004年) |
ちょうど高校生になった年に始まりましたが、自分の中に「ニュース番組を見たい」という気持ちがあることに初めて気がつかせてくれた番組でした。僕は理系だったので、政治経済を勉強する時間がなくて困っていたんですが、「ニュース番組を見ると良いよ」と誰かが教えてくれて…。それが、たぶん見るきっかけになったのですが、純粋に「ニュースステーション」は面白かったですね。 | ||
北の国から (1981~2002年) |
このころはもうスペシャルドラマとして放送されていましたが、高校の時に見た「’87初恋」と、その2年後に「’89帰郷」は、特に印象深いですね。「北の国から」は音楽の使い方にすごくこだわっていて、「’89帰郷」で長渕剛さんの「乾杯」がかかるシーンがあるんですけど、オリジナルバージョンの2番の歌詞が、一番いいシーンに当たるようになっていて…。その選曲センスには心底唸らされました。 | ||
予備校~ 大学生時代 |
朝まで生テレビ! (1987年~) |
テレビではなく、ラジオで音声のみを聞いていました。当時、FMでテレビの音声も拾えるラジオがあったんですよ。しかもディベート番組なので、音声だけ聞いていても、十分に楽しめました(笑)。 | |
夜のヒットスタジオ (1968~1990年) |
そのころ、どことなく「洋楽を聴くのがカッコイイ」という風潮がありましたが、僕は日本の音楽が大好きで(笑)。尾崎豊や浜田省吾さんをよく聴いていました。尾崎は1987年に覚醒剤で逮捕されてしまうんですが、その謹慎明けに初めて出演したのが「夜ヒット」だったんです。ライブの映像以外で、尾崎がテレビに出たのは、後にも先にもその1度きり。あと、「夜ヒット」は、オープニングで、出演歌手がほかの人の歌をメドレーで歌っていくんですが、先日YouTubeで浜田省吾さんがアイドルか誰かの歌を歌っているのを見つけて、結構な衝撃を受けました。(笑)。 | ||
東京ラブストーリー (1991年) |
トレンディードラマの全盛期ですね。月9枠は好きで、このころほとんど見ていた気がします。「同・級・生」も好きでしたね。でも、当時はコンサート会場の設営のバイトをしていて、ドラマ以外の番組のテレビはあまり見ていなかったんです。だから、就職活動の時に、周りから「テレビ局を受けるならもっとテレビを見た方がいいよ」と言われてしまいました。 | ||
読売テレビ時代 | ズームイン!!朝! (1979~2001年) |
読売テレビに入社したのが1993年なんですが、1年目からいろいろな経験をさせてもらえました。「ズームイン~」では、系列局が持ち回りでVTRを制作する「ズームインズーム」という10分くらいのコーナーがあったんですが、まだ入社1年目の時に、担当することになりまして。それで、大阪の夜間中学のドキュメントをつくりました。在日韓国・朝鮮人の方々が60歳を過ぎて通ってくる学校が題材だったんですが、放送後、1人の大学生から手紙が来て、卒論のテーマにしたいので、取材の過程の話を聞かせてほしいと。その時、テレビの力というのはすごいんだなと実感しました。自分の中での達成感だけでなく、誰かの心に響いたという実感を得たことは、僕にとっては非常に大きな経験でした。この時のことがあるから、どんなにツライ時でも乗り越えることができる…とも言えます。 |
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ワーズワースの冒険 (1994~1997年) |
この番組はすごく勉強になりました。映像がCMのように洗練されているのに、内容がエンターテインメントというつくりが、見ていて刺激的で。特に当時はディレクターとして駆け出しでしたから、余計に感じ入るものが大きかったのかもしれません。 | ||
ザ・ワイド (1993~2007年) |
その後、日本テレビの駐在となって、この午後帯の情報番組に携わっていました。その間、もっとも印象的だったのは、小泉純一郎さんが自民党総裁選に勝利した時のことですね。この時、下馬評では小泉さんに勝機はないと言われていたんです。ところが、勝ってしまった。その速報を「ザ・ワイド」で生中継していたのですが、状況がどんどん変わるので予定の構成など全部白紙。そのディレクションをしていたのが僕だったんですよ。その目まぐるしく変わる情勢を2時間にわたって伝えることができた時のカタルシスも、忘れがたいものがあります。 | ||
深夜特急 (1996~1998年) |
ドキュメンタリーとドラマをミックスさせた番組でしたが、これは見ていて衝撃を受けました。どこからがドラマで、どこからがドキュメントなのか、境目がわからないんです。「こんな番組が作れたらいいなぁ!」と今でも思い続けていますね。 | ||
テレビ東京 入局後~ 現在の担当番組 |
出没!アド街ック天国 (1995年~) |
変化の部分で言うとどんどんエリアを狭くしています。鎌倉の小町通りや浅草・観音裏といった具合に。この間は神奈川・秦野をやりましたね。正直、ゴールデンで小さな街の見どころを紹介するというのは、他にないので面白いなと。「この街で1時間できるかな~」と、テレビの限界に挑戦しています。あと、毎週のラ・テも面白い。街のキャッチコピーを作るのが楽しいんですよ! |
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主治医が見つかる診療所 (2012年~) |
一時期休んでいましたが、この春からまたレギュラー放送が始まりまして、以前とは視聴者の方々の興味のあるテーマが変わってきているのを実感しています。具体的に言うと、「血管の若返り法」「免疫力」といった、予防的なテーマの回はすごく反応が良いです。僕自身も42歳になりましたが、何となくその感覚はわかるんですね。そこを踏まえたうえで、今後「病気スイッチ」というようなテーマを取り上げられたらいいなと思っています。知らない間に病気のスイッチがオンになってしまう、その危険について掘り下げていけたらと。ただ、不安感を煽るようなつくりにするつもりはなくて、より健康的な生活に役立つヒントを紹介していくというスタンスで、番組づくりを進めていこうと考えています。 |
林祐輔(はやしゆうすけ)プロフィール
1969年12月16日生まれ。兵庫県出身。テレビ東京の番組プロデューサー/ディレクター。1993年読売テレビ入社。「ズームイン!!朝!」「ウェークアップ」「ザ・ワイド」などを担当。その後、2006年にテレビ東京へ転職。現在、「まさはる君が行く!ポチたまペットの旅」のほか、「出没!アド街ック天国」や「主治医が見つかる診療所」を手掛けている。