竹花豊インタビュー:何が正しくて何が大切か。大人たちは子どもに伝える責務がある
竹花豊(たけはなゆたか)
警察庁生活安全局長 1949年兵庫県生まれ。1973年東京大学法学部卒業後、警察庁に入庁。大分県警察本部長、警視庁生活安全部長、広島県警察本部長を歴任。広島県警時代には暴走族問題に取り組み、大きな成果を上げる。2003年石原都知事の招聘により東京都副知事に就任。現在は警察庁生活安全局長。子どもと地域に向かい合う会「おやじ日本」の会長も務める。著書『子どもたちを救おう』(幻冬舎)ケータイやインターネットの普及によって、子どもを取り巻く環境はここ数年急激に変化しつつある。その変化は、子どもが親や教師の知らないところで簡単に犯罪に近づけるようになった、という変化でもある。こうした状況から子どもたちを救うために、大人はなにをしたらいいのか。東京都の治安対策と青少年問題に精力的に取り組んでいる竹花豊さんに話を聞いた。 子どもが置かれている状況を、大人たちは知らなすぎる----最近の少年非行をご覧になって、どのような変化、傾向が感じられますか? 最近の傾向として、今の子どもはすぐにキレる。普段はおとなしいのに、急に暴力的になる。それに、ケータイやインターネットを通じていろいろな情報を知っています。わいせつ・暴力的な情報が簡単に手に入る。出会い系サイトが問題になるのもこうした傾向のせいです。先生方は、こうした子どもたちの行動について、得体の知れない不安を感じているのが実情だと思います。 これまでの非行少年というのは、反抗しながらも、学校や先生に助けて欲しい、寄り添って欲しいという願望が根底にはありました。しかし、最近の非行少年は先生をまったく頼りにしていないし無視しています。ですから先生方もどう対処していいのかわからない。学校における非行対策はとても難しくなっています。子どもたちが大人の手の届かないところへいってしまっている。 ----そうなると、先生たちはどうしたらいいんでしょうか? これは、親にも言えることですが、先生方にはもっと子どもたちの疑問や悩みに付き合って欲しいし、子どもたちが今どのような状況に置かれているかを知って欲しいと思います。たとえばケータイでは「闇の職業安定所」のようなサイトがあって非合法の求人広告が出ていますが、先生や保護者の方には知らない人が多い。でも子どもたちに聞いてみると「闇の職業安定所」を見たら、「一緒に強盗やろう」というメッセージが出ていた、というわけです。大人の知らないところで、子どもたちは常に危険な情報にさらされているのです。 ----確かに、昔は万引きなど、子どもの非行は目に見えるものでしたが、最近はケータイが非行や犯罪の入り口になるケースも多いようです。子どもたちがケータイで何をしているのか外からはわからない、ということが大人たちの不安をかきたてています。 しかし、子どもたちはケータイを自由に使いながらも一方で「本当に自分たちは持っていいのだろうか、ここまでやっていいのだろうか」と疑問に思っています。ですからこの問題についても、大人たちはきちんとした考えを持たなければなりません。たとえば東京都では昨年条例を改正して、子どもたちにはフィルタリング機能の付いたケータイだけを持たせるように、という規定を作りました。これは子どもたちに、「大人はケータイを危険なまま君たちに持たせはしないよ」というメッセージでもあります。 子どもの身の周りにある危険は、昔に比べて悪質になり、量的にも多くなっています。こうした状況を知って、大人たちは「そういうことは許さない」と断固とした姿勢を示さなくてはなりません。 子どもたちは"性を急かされている"
今の子どもたちは、大人たちの営利主義のために"性を急かされている"のです。私も十代の女の子向けの雑誌を見て驚いたのですが、そこには性に関する情報がたくさん盛り込まれています。たとえば「読者500人アンケート 初Hはいつ?」のような記事があって、ほとんどの子が中学や高校でHをすませているように書いてある。それを読んだ子どもたちは自分だけ取り残されるような気になってしまいます。焦った子どもの中には、出会い系サイトで初Hをすませてしまう子もいるのです。 子どもたちの性行動についてどうあるべきか、大人たちは伝える責務がある女性は、自分自身を守るとともに、子どもを産み育てる母性の存在を守る責任があると思います。が、最近は女の子自身がそのことをしっかり認識していません。「誰にも迷惑をかけていないからいい」「自分の勝手」ではなく、母性とは神聖で尊いものであり、大切にしなければならないのだ、ということをわかってもらいたいと思います。 東京都では、「青少年は性行動について慎重に振る舞うように大人は子どもに伝えなければいけない」という条例を作りました。性行動によって子どもが傷ついたり、病気になったり、責任がとりきれないようなことになったりすることを防ぐためです。 それに関連して、コンビニエンスストアで売られている雑誌についても、成人向けのものはコーナーを別にして、中を見られないようにしてもらいました。また条例を作るに際して、子どもたちに向けたメッセージも発信しました。(竹花氏のメッセージはこちら) これまで大人たちは子どもたちの性行動についてきちんと考えを伝えていなかったし、性教育についても戸惑っていました。だからこうした一連の活動を通して、青少年が性行動についてどうあるべきか、大人の考えを伝えたかったのです。それは大人たちの責務です。そうしていかないと、子どもたちは営利主義の犠牲になってしまいます。 大人は節度を持って自分を律していくべき----大人たちは、子どもにとって口うるさい存在でなければならないのでしょうね。でも一方で、ケータイにしても、援助交際にしても、大人たちが子どもを食い物にしている、という状況はどうにかならないものでしょうか。 今の社会を見てみると、「子どもを大切にする」という考えがないがしろにされていると感じます。 奈良の幼女誘拐事件は、子どもを性の対象にして起こりました。このような事件は、ロリコンのアニメやビデオなど、子どもを性の対象にする情報があふれかえっていることが原因だと思います。その背景には「子どもを大切にする」という意識が欠如しているのです。 東京都では、年間2000人以上が痴漢で捕まっていますが、被害者の半分近くは子どもです。こんなことを放置しておいて、子どもがまともに育つでしょうか。東京都の副知事をしていたときは、鉄道各社に働きかけて女性専用車両を作っていただきました。もちろん、それだけで痴漢行為がなくなるわけではありません。でも、女性専用車両を作ることで、大人社会がきちんと子どものことを考え、子どもを大切にしているのだということを伝えたかったのです。 大人たちは「大人としての節度」を持ち、「子どもが見ている」という言葉で自分を律していかなくてはなりません。たとえば大人が赤信号でも平気で道路を渡ったら、それを見ていた子どもはどう思うでしょうか。大人はいいかもしれないが、それを見ている子どもがいるのです。社会全体で「子どもを大切にする」という思いを浸透させていくことが必要です。 教師には「教える誇り」をぜひ取り戻してもらいたい----これから私たち大人は、子どものために何をすべきだと思われますか? 大人たちはいろいろな問題から逃げようとしないで、子どもたちに何が正しいのか、大切なのかをはっきりと伝える必要があります。そして、少しでも改善するための知恵を出すことが求められていると思います。子どもの非行に関しては、学校が悪いとか、親が悪いといわれますが、そういう問題ではありません。悪い親や教師に「お前が悪い」といっても問題は解決しません。そうではなくて、みんなが自分のやれることをやっていくことです。 その中でも、私は教師にとても期待しています。先生方は生徒に「きちんと育ってほしい」というメッセージを発する責任があり、そのチャンスが与えられています。だから教師としての「教える誇り」をぜひ取り戻してもらいたい。「もうあなた達しかいないんだ」という思いを強く持っています。 ただ、こうした思いを先生に伝えるのは難しいのが現状です。教師には部外者からの非難が多く、多くの先生方は外からの声に耳をふさいでいます。でも、そうではない。先生たちに寄せられるクレームはごく一部の声だ、大多数の大人たちは先生を支援している、ということをぜひ伝えたい。そのためにも、親たちはもっと頻繁に学校に足を運んで欲しい。学校の現状を見て欲しい。先生方がどれだけ大変かを見て欲しい。そして先生をみんなで応援して欲しい。大人たちが本気になれば子どもに伝わるし、伝われば子どもは必ず変わるはずです。 (聞き手:高篠栄子/取材・構成・文:堀内一秀/PHOTO:岩永憲俊) |
強面のおやじを想像しておそるおそる訪ねた局長室。が、満面の笑みで迎えていただき、一気になごやかムードに。竹花さんは男1人、女2人の3児の父とのこと。娘さんについては「妻に任せてしまった」と笑う竹花さんですが、インタビュー中でも言っておられた「母性を大切にする」ということは父として子どもたちにしっかり伝えてきたそうです。休日も、「おやじ日本」などの活動で休むことなく青少年のために奔走する竹花さん。これからも熱血おやじの輪を広げてくださいね! |