交通事故で脳に大けがをした札幌市の佐藤隆樹さん(38)は、記憶力が低下し、人とのやりとりがうまくいかず、どのアルバイトも長続きしなかった。2002年に大学を卒業したが、仕事が見つからなかった。
そのころ、脳外傷友の会「コロポックル」が札幌で発足した。ほどなく、頭のけがをした人の「社会的自立へ向けたリハビリ」をする作業所もできた。
会の告知記事を新聞で見つけた母が電話し、「(息子が事故のあと)感情が抑えられず、怒りっぽくなった。子どもに戻ったみたい。このままでは自立できない」と訴えた。
何度か作業所を訪問し、やがて作業所に通うことになった。スタッフのすすめで精神障害者保健福祉手帳を取り、交通費の援助を受けた。
作業所で活動する中で、仕事をする上での問題点がはっきり見えてきた。
「ちょっと待ってね」とスタッフに言われても待てず、何度も自分の我を通そうとする。気に入らない相手には感情のままにつらく当たる。都合が悪くなると「脳が壊れているから」と逃げる――。
副代表の篠原節(しのはら・せつ)さん(73)や原田圭(はらだ・けい)さん(46)らスタッフは、佐藤さんの言動から、事故の後遺症が脳に残っていることを確信した。
就職先を佐藤さんが見つけられるよう、篠原さんらは北海道障害者職業センター(札幌市)に連絡を取った。
5月にセンターのカウンセラーと相談。半年たった後、規則正しくコロポックルに通えるようになったのを確認したうえで2週間、職業センターの作業室で模擬体験をした。障害の特徴や体力など、リハビリ計画を立てるためのテストをし、どんな仕事が向いているのかを見極めるためだ。
ボールペンや蛇口の分解・組み立て、部品の分類、伝票通り商品をそろえる作業などを中心に様々な職業をイメージしたプログラムを用意した。
「時折ミスはでるが手順の覚えは早い」とセンターのカウンセラーは感じ、作業を続けながら求職活動をした。そして2003年3月、自宅から約30分のところにある、写真関連の資材を扱う問屋に就職が決まった。
※ 「患者を生きる」は、2006年春から朝日新聞生活面で連載している好評企画です。病気の患者さんやご家族の思いを描き、多くの共感を集めてきました。
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