札幌市の佐藤隆樹さん(38)は頭のけがで、感情の抑制や対人関係がうまくできなくなった。それでも2003年、脳外傷友の会「コロポックル」が運営する作業所と北海道障害者職業センターの支援で、写真関連資材の問屋に就職できた。
「早く一人前になりたい。休み返上で働き、先輩に追いつきたい」という意欲に、あふれていた。
伝票がファクスで流れてくる音が聞こえると、言われなくても飛んでいき、内容を確認。注文を受けたフィルムや電池、感光紙などを出荷用パレットに置いてエレベーターに載せた。上司も「ミスはあるけど、戦力になっている」と評価していた。
だが、1年ほど経つと、課題が浮かび上がってきた。
作業面の大まかな流れはつかめているが、細かい指示を忘れたり、次の作業にすぐに移れなかったり。ミスを指摘されても素直に謝らず、「ほう〜っ」などと、ひとごとにもとれる偉そうな態度をとってしまった。
嫌なことが続けば、「こんな時給の悪い仕事やってられない」と言葉に出してしまう。逆に、やる気をほめられると「僕はほめられたんですよ」と先輩よりできるかのように振る舞い、周囲をいらつかせた。
母親の病気などで早退や欠勤をするときも報告がないなど、周囲への配慮を欠く言動なども目立っていた。
北海道障害者職業センターのジョブコーチの坂口和子(さかぐち・かずこ)さん(52)と尾関真由美(おぜき・まゆみ)さん(55)も定期的に現場に立ち会い、なぜ周囲が怒っているのかを伝え、望ましい「謝り方」を助言してくれた。練習もした。
しかし、怒られているうちに、仕事がいやになった。「飽きたし、事故の裁判も終わったから、アルバイトでも生活できるんじゃないかな」と思った。働きたいのに、すぐ辞めたくなる。自分がトラブルを招く原因になっていることが多いことを認識して、改善しようという意識は薄かった。
「新しい就職先を見つけました。お世話にならずに生きていきます」
働き始めて1年半後の2004年6月に突然、同僚や先輩に退職を宣言してしまった。
※ 「患者を生きる」は、2006年春から朝日新聞生活面で連載している好評企画です。病気の患者さんやご家族の思いを描き、多くの共感を集めてきました。
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