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社説

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離島有事訓練 武器携行は必要なのか(8月4日)

 陸上自衛隊北部方面隊(札幌)が有事を想定した住民参加型訓練を、道内五つの離島で計画していると発表した。

 外国の武力攻撃に備えた国民保護法に基づく訓練で、隊員は小銃を携行して各島に入り、ヘリコプターで住民を避難させる内容だ。

 28日に奥尻島、30日に天売、焼尻両島、9月1日に利尻、礼文両島での実施を予定している。

 9月1日は「防災の日」であり、自治体には受け入れやすい日程だ。東日本大震災での自衛隊の活動を考えれば、自治体側に防災能力強化への期待感もあろう。

 しかし、危機が差し迫る状況にない北海道の離島に、「防災」を絡めつつ、武器を持ち込んで有事想定の訓練を行う必要があるのだろうか。

 「住民や周辺国を不安にさせるだけ」という指摘もある。平和憲法を持つ日本の自衛隊として、危機感をあおるような手法は好ましくない。

 住民参加の訓練に軍事的要素を持ち込むのは問題がある。少なくとも、小銃持ち込みは再考を求めたい。

 2004年成立の国民保護法に基づく道内での実動訓練はこれまで、06年8月に苫小牧東部地域、11年11月に石狩など3市で行われている。11年の訓練には住民も参加した。

 ただ、この二つの訓練が国や道が主体だったのに対し、今回は北部方面隊が単独で現地の自治体に呼びかけて実施するのが特徴だ。

 10年に閣議決定された防衛計画の大綱(防衛大綱)と中期防衛力整備計画(中期防、11〜15年度)は、中国を初めて「懸念事項」と明記し、南西諸島を念頭に島しょ防衛力強化を打ち出した。

 従来の「基盤的防衛力」に代わり、多様な脅威に機動的に対処する「動的防衛力」の概念も示している。

 今回の訓練について、北部方面隊はこの動的防衛力や南西諸島防衛とは関係がないと説明している。

 道の国民保護計画が、離島について「必要に応じ、国(防衛省、海上保安庁)に避難住民の運送を要請するなど、連携して対処する」と記述しているのも確かだ。

 それでも、小銃携行では防衛大綱などが示す防衛政策の流れが背景にあると見られてもやむを得まい。

 脅威対抗型の動的防衛力を打ち出した防衛大綱は、「力対力」の軍拡競争を招きかねないとの懸念がある。そこに住民を巻き込んでも、国民を守ることにはならない。

 尖閣諸島などを例に、多くの離島で外国侵攻に厳重に備えるべきだとする一部の論調に、武力を持つ自衛隊が安易に乗る必要はない。

 武器のない、防災に絞った訓練こそが、自衛隊への信頼を高める。

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