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2012年8月4日(土)付

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社会保障と税―五輪開会式から考える

ロンドン五輪の開会式では、英国の歴史・文化を彩る出来事や人物が次々と登場した。ひときわ異彩を放った場面がある。青い光のなか、320の病院ベッドが並び、患者役の子どもと看[記事全文]

求刑超え判決―障害への偏見が過ぎる

姉を殺した42歳の男性被告の裁判員裁判で、大阪地裁は被告を発達障害の一つアスペルガー症候群と認定し、懲役20年の判決を言い渡した。アスペルガー症候群は脳の機能障害が原因[記事全文]

社会保障と税―五輪開会式から考える

 ロンドン五輪の開会式では、英国の歴史・文化を彩る出来事や人物が次々と登場した。ひときわ異彩を放った場面がある。

 青い光のなか、320の病院ベッドが並び、患者役の子どもと看護師600人が踊る。浮かび上がったのは「NHS」という文字だった。

 「国民保健サービス」の略称だ。英国に住む人なら原則、だれでも無料で医療を受けられる制度のことである。1948年に創設され、「ゆりかごから墓場まで」の言葉を生んだ。

 式の総合演出は、映画「スラムドッグ$ミリオネア」でアカデミー賞を受賞したダニー・ボイル監督。「誰でも平等に医療が受けられることは、英国社会の核となる価値」と語る。

 税金で賄われるNHSは、長らく予算不足の危機にさらされてきた。病院のベッドや人員が不足し、手術を受けるのに何カ月も待つ事態が発生した。

 変化が起きたのは90年代後半だ。労働党のブレア政権が医療の具体的な目標を設定し、予算を毎年7%以上増やした。

 その流れは、増税と歳出削減に取り組む保守党のキャメロン政権下でも変わらず、NHSは予算が増える数少ない分野となっている。

 日本の医療も「国民皆保険」が達成されて50年が過ぎた。

 もし東京で五輪があったとして、医療保険を祝う開会式など考えつくだろうか。

 社会保障と税の一体改革をめぐる関連法案が現在、参議院で審議されている。しかし、与野党から「増税先行」との批判が絶えない。

 5%幅の消費増税のうち、社会保障の充実にあてられるのは1%分だけで、4%分は財政赤字の縮小に使われる。そのことへの不満がつよい。

 だが、年間35兆円の医療給付費は社会保険料だけでは賄えず、国庫から約10兆円が入っている。このうち4割は借金である。自分たちが受けている医療の対価を払い切れず、将来世代にツケ回ししている計算だ。

 私たちは「保険証1枚で、どこの病院でも診てもらえる」という今の制度に慣れてしまい、空気のようにその存在の大切さを忘れてはいないだろうか。

 医療サービスの維持には、大変なお金がかかる。英国の制度は日本と違いはあるが、今の世代が負担を受け入れていることは覚えておくべきだ。

 私たちだけでなく、未来を生きる世代のためにも、財源不足で「空気」を薄くするようなことはしまい。その決意がいま、問われている。

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求刑超え判決―障害への偏見が過ぎる

 姉を殺した42歳の男性被告の裁判員裁判で、大阪地裁は被告を発達障害の一つアスペルガー症候群と認定し、懲役20年の判決を言い渡した。

 アスペルガー症候群は脳の機能障害が原因と考えられ、相手の気持ちをくみ取るのが苦手で、対人関係に支障をかかえやすい。

 懲役16年とした検察側の求刑を上回り、有期刑の上限である量刑を選択した。

 その理由について河原俊也裁判長は次のように述べた。

 社会に被告の障害に対応できる受け皿が何ら用意されておらず、再犯のおそれが強い。許される限り長期間刑務所に収容して反省を深めさせ、それが社会秩序の維持にもつながる――。

 母親らが同居を断っており、家族の支援が得られない。ならば刑務所に閉じ込めておこうといわんばかりの判断である。

 この障害だからといって反社会的な行動に必ずしも結びつくわけではなく、すぐにも再犯に走るような発想は差別を助長するものだ。偏見が過ぎる判決としかいいようがない。

 判決によると、被告は小学5年ごろから不登校になり、自宅に引きこもっていた。自立を促した姉に恨みをつのらせ、昨年7月に包丁で刺殺した。

 本人も家族も発達障害には気づかず、検察側の精神鑑定でわかった。公判で弁護側は責任能力を争わず、障害の影響を考慮して執行猶予を求めた。

 「受け皿がない」という判決の指摘も大いに疑問だ。

 発達障害をめぐっては2005年に支援法が施行され、各都道府県に支援センターが開設された。本人や家族を支える拠点として、情報提供や相談にあたる態勢が整ってきた。

 矯正施設から出所した障害者や高齢者の社会復帰を助け、再犯を防ぐための地域生活定着支援センターもできている。

 そうした実情も見据えて、裁判員の市民や裁判官が「受け皿がない」としたのだろうか。弁護側も社会での更生が可能との立証を尽くしたとは言い難い。

 裁判員の判断は重いが、前提を誤った判決は控訴審で是正してもらいたい。

 アスペルガー症候群のほか、学習障害、注意欠陥多動性障害など発達障害の多くは知的な遅れがなく、障害があることがわかりにくい。一人ひとりで症状も異なり、療育プログラムづくりも簡単ではない。

 その現状を踏まえ、罪を犯した障害者の更生をどう進めるのか。じっくりと考えるきっかけにしたい。

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