◆ロンドン五輪柔道（３日・エクセル） 柔道日本の“大トリ”として登場した女子７８キロ超級の杉本美香（２７）＝コマツ＝が、決勝でイダリス・オルティス（キューバ）に延長の末に旗判定０―３で敗れ、銀メダルに終わった。日本女子７８キロ超級は、００年シドニー大会以降４大会連続でのメダルとなった。男女柔道の金メダルは女子５７キロ級の松本薫（２４）＝フォーリーフジャパン＝の１つ。銀３、銅３で全日程を終えた。
「白３本」の旗が上がり、跳びはねて歓喜するキューバ選手を、杉本は表情ひとつ変えずにじっと見つめた。決勝ではいい組み手に持ち込みながら投げ技を読まれ、延長を含む８分間で攻め切れなかった。「今、ぱっと思うのは悔しい。金メダルを目指していた。勝ちたい気持ちは最後まであった」。銀色のメダルでは納得がいかなかった。
１６５センチ、１００キロの最重量級ではひときわ小さな体で、選手生命を脅かすけがを何度も負った。それでもチーム一のムードメーカーは「けがとも友達になっているんで」と明るく笑い飛ばし、乗り越えてきた。
小学校卒業直後に左鎖骨を骨折。高３時に脱臼骨折した左足首には、今もチタン製のボルトが入っている。両膝の前十字じん帯も断裂し、この１０年間で６度の手術を受けた。今年６月にも右肩を亜脱臼した。父・啓次さんは「美香はけがのデパートです」と苦笑する。
母・維久子さんは、大学４年時に左膝のじん帯を断裂して気持ちが切れそうになった娘のために、カーラジオでたまたま耳にして「歌詞が美香にぴったり」と感じた馬場俊英さんの「スタートライン～新しい風」という曲を贈った。電話口で聞かされた杉本は「お母さんも一緒に戦ってくれてるんやな。もう少しだけ前に進もう」と気持ちを新たにした。
偉大な先輩のプレッシャーも乗り越えた。１０年４月の全日本女子選手権で０４年アテネ五輪同級王者・塚田真希さん（３０）が９連覇を果たした。決勝で敗れた杉本は「先輩、勝ち逃げはダメですよ」と笑みを交えて冷やかすと、厳しい口調で「これからはあんたが背負っていくんだよ。笑ってる場合じゃないよ」と返された。塚田さんはその８か月後に引退を表明。杉本は翌年の同選手権で初優勝を飾り、後継者として名乗りを上げた。
しかし、今年の同選手権決勝で山部佳苗（２１）＝山梨学大＝に敗北。ゴールデンウイークには、初めて両親を東京に呼び寄せた。別れ際に渡した手紙には、感謝と「お父さん、お母さんの子供で良かった」との言葉を添えた。直後の全日本選抜体重別決勝で山部にリベンジし、五輪切符をゲット。啓次さんは「是が非でも勝ちたいオーラが出ていた。美香は流した涙の分だけ強くなっている」と頼もしそうに語った。
けがとプレッシャーを乗り越えて初めて踏んだ五輪の畳。杉本は「自分の柔道を見てもらいたいというワクワク感があった」と晴れやかな笑顔を見せた。
◆杉本美香アラカルト
▼生まれ １９８４年８月２７日、兵庫・伊丹市生まれ。２７歳。１６５センチ、１００キロ。
▼柔道歴 １１歳から。
▼経歴 大阪府立汎愛高―筑波大―コマツ。
▼趣味 原宿でショッピング。「女の喜びに気付いたのは社会人になってから」
▼阪神ファン 親がいつもテレビを見ていて、阪神の帽子をかぶっていた。「金メダルを取って、始球式をしたい」
▼性格 悩んでいるチームメートがいればテープに「自分が贈られたらうれしい曲」を入れてプレゼントする優しさを持つ。男性に対しては「しゃべれないっすよ。若い男の人とは」と奥手。
▼家族 父・啓次さん（５６）、母・維久子さん（５６）、姉・照美さん（３０）。
[2012/8/4-06:02 スポーツ報知]