質問
地下室で人間飼育
- 投稿日時:2012/08/04 08:47
わしは地下で人を飼っておる
重い扉を開けると 地下へ続く階段
その先にあるいくつかの部屋
各部屋には檻がひとつずつある
檻の上部は強化ガラス
通してある鉄棒の直径は2.5センチ
大型の猛獣が暴れてもびくともしない
頑丈なものだ
檻の隅には 大小便をする溝と
そこへ水を流すパイプ
そのほかにはなにもない
その檻に全裸の人間を飼っている
ひとつの檻に一人ずつ
今三人飼っている
彼等に与えるものは
日に三度の食事 そして水
それだけだ
新聞 雑誌 テレビ
そのテの刺激はいっさい与えない
そうしておいてから
時間を消す
檻に昼も夜もなく
一定の照明を当てている
むろん時計など与えない
彼等には時間の刻みが
いっさいわからない
最初 食事の回数を数える者もいるが
それも長くは続かない
いずれ不可能になる
一日がいつ始まり
いつ終わったのか
閉じ込められてから
過ぎた時間が一週間か 一か月か
わからなくなる
不毛で無為な
無限の時間
そういう時間が続く
無限にただ続く
体の不調を訴える者がいても同じこと
病気でも出さない
檻で死ねという
わしは死ぬまで飼うという宣言を繰り返す
絶対にカギを開けることはない
人間はね………
人間は周囲との関係で
正気を保っている
その関係をすべて断ってしまったら
狂わないではいられない
まず時間が消えた瞬間に
現実感が消える
この出来事が夢の中のことか 現実のことか
疑わしくなる
常に薄い膜を張ったような意識
食事をした10分あとで
今 食事をしたかどうか
疑わしくなる
しかしそれはまだ初期の段階
本格的な崩壊はそのあと
早い者で一週間 頑張る者でも三か月で
彼等の脳はゆっくり閉じていく
意識の混濁は日常化し
ものを考えるというその行為がしにくい
思考の焦点が常に定まらない
妄想 幻覚 ………
脳の退行
半年前に捕えた男………
彼は元大学教授だが
捕まえて一か月目にポルノビデオを見せ
それから日に一度見せるようにすると
猛烈に心を奪われた
ムリもない 彼の心の穴を埋める
唯一の現実なのだから
あの日以来 彼の生きがいは自慰することだけだ
ただそれだけの生き物
今は画像が出ていない時も
ブラウン管を見つめている
もう満足に自分の名前もいえまい
人間崩壊のパターンはいろいろあって
じつに興味深い
わしはその様を現場あるいはTVで眺めながら
酒をたしなむのを人生最高の愉悦と感じておる
人間が崩壊していく様は
楽しい………