PJ: 田中 大也
明らかになった「児童買春」の「売り手」側処罰の「新方針」で何が変わるのか(下)
2011年05月13日 05:51 JST
【PJニュース 2011年5月13日】前回の記事で、「児童買春」の「売り手」処罰化は、元々法律で定義されてきた児童買春禁止法の理念をないがしろにしかねない点とともに、「児童」に対してさらなる法的リスクの増大を意味することや、こうした過激な変化に際して、議会の議論やチェックを経ていないという問題点を挙げた。
さて、種々のデメリットを覚悟で「売り手」を処罰すれば、「児童」による「援助交際」、ひいては、人権を侵害するような事象が減少するのかという点についてだが、必ずしも上手くいくかどうかは不透明で、「個人営業」の「援助交際」は減ったものの、十敗歳未満の未成年者の商業的性搾取が、現状よりもずっと深刻なものになってしまうという危険性すらあり得る。何故、そんな望ましくない結果が予測されるのだろうかという部分について、未成年問題で近年発生した事柄から分析していこう。
■過酷な「出会い系サイト規制法」が生んだ、行為者の出会い系サイト外への「脱出」
いわゆる出会い系サイトが、「児童買春」の主な温床となっていた平成十五年、いわゆる「出会い系サイト規制法」(正式名称 インターネット異性紹介事業を利用して児童を誘引する行為の規制等に関する法律)が制定された。
これは、出会い系サイトに関する種々の規制を定めたものだが、その目玉は行為に及ばずとも、出会い系サイト内で、「誘引」、つまりは誘う書き込みをしただけで、法的処罰の対象になるという規定だった。この「誘引」規定は、(十八歳以上の)成人が「児童」を誘った場合のみならず、「児童」が成人を誘った場合にも適用されるもので、売春者側の「児童」を逮捕できるという、児童買春禁止法とは全く違う「特別な法律」だった。
しかも、法的処罰範囲は、売春の誘いだけにとどまらず、金銭の伴わない性的な関係の誘いや、金銭を提示して、性交関係のない異性交際の相手方になること等にまで及んでいた。
つまり、売春でなくても、性的な関係を持ちかけた「児童」や、「お小遣い欲しいから遊んで」などと書き込んだ「児童」までもが犯罪者になってしまい得るというものだ。
「児童買春の被害者」の規定を持ち出すまでもなく、「淫行」の相手方となった「児童」は法的処罰を免除されるように条例上の規定で保証されていたりもする。
ましてや、お小遣い欲しさに遊んだりすることに至っては、売買春とも淫行とも規定するのは難しく、その時点で犯罪性が生じているかは極めて怪しい。つまり、本来罰せられることがない側が、「違法ではない」ような事例を持ちかけただけでも逮捕してしまい得るというわけで、過酷という表現こそがふさわしい規制だと言えるだろう。
この規制が本格運用されるにつれて、年間数百件単位の「誘引規定」違反が出てくるようになった。
成人よりも「児童」の側が多く検挙されてしまうような年も何度もあり、その傾向は近年、出会い系サイト内での事件の減少にも関わらず、極めて顕著なものとなっており、平成二十二年の「禁止誘引行為」による検挙件数は404件、うち児童による誘引が284件と、「児童」側による誘引での検挙件数が、約七割を占めるまでになっている(警察庁統計資料「平成22年中の出会い系サイト等に起因する事犯の検挙状況について」より)。
何故、「児童」側による誘引が多数を占めるのかと言うと、(元々、出会い系サイトで売春を持ちかけるのは「児童」側が多かったとも考えられてもいるが)出会い系サイトは「18禁」であるため、必然的に「児童」よりも成人がずっと多くなるので、同じように誘っても、「児童」から成人といった関係性が発生しやすく、故に誘ったと見なされた「児童」の方が処罰の対象になりやすい構造があったと考えられる。
だが、原因がいずれにあるにせよ、本来処罰対象外の人間を強引に逮捕するという「無法」を強引に法の枠にねじ込んだようにも思えるこの法律も、児童買春を根本的に壊滅させることはできなかった。確かに「出会い系サイト」内での案件は減少したが、他の「場」で行われる「児童買春」等の事案が問題として語られるようになった。
出会い系サイトではない一般のサイト、いわゆる「非出会い系サイト」に利用者が脱出し、そこを起点に誘引と行為がなされるようになってしまったのだ。
出会い系サイト規制法は、出会い系サイトにのみ適用される「特別法」で、出会い系以外のサイトや、テレクラなどの別の施設、あるいは街頭などに適用されるものではなかった。同じ行為をするなら、逮捕されるよりもされない方が良いというのは、心理的に考えれば当然の話で、本格運用されてから数年間で、出会い系サイトから、非出会い系サイトや別の空間への「脱出」が急速に行われた。
あまりに過酷な出会い系サイト規制法は、売買春やネットナンパなどの危険なやり取りを、本来平和だった一般のサイト等にまで「輸出」させる結果をもたらしたとも言える。
■「売り手」処罰で、第三者の介入や管理に危険な「価値」が発生する!?
出会い系サイト規制法によって生じた現象は、「売り手」は捕まらない方に、捕まりにくい方に移動していくという、行為者の必然的な行動心理を示している。このことから、「児童買春」の売春者側への処罰を一般化させることによる危険性もある程度予測することが可能になってくる。
「個人営業」をしていると捕まるということになれば、それ以前は介入させていなかった第三者に関しても、「誰かが上にいてくれれば逮捕されなくなる、されにくくなる」と、管理されることに実体的なメリットが生じてきてしまう。「児童ポルノ」に関しても同様で、被写体となった「児童」が自分を撮影して販売すると、自分自身が逮捕されるという現在の状況では、「撮影して貰う」ことで、法的処罰の免責という利益が見出され得る危険性がある。
誰かに上について貰えば「管理売春の被害者」であり、誰かに写真や映像を撮って貰えば「児童ポルノの被害者」だと、当事者が考え、「管理される」需要が生まれるリスクは否定できない。
仮にそうした状況が生まれた場合、「児童」を管理し、あるいは営利的に撮影に及ぶのは、自覚的に犯罪行為を続け、仮に末端が摘発されても容易には崩壊しないだけの組織力を有した、違法行為の「専門家」たちということになるだろう。
つまり、従来は中高生などが主体となって、アマチュア的に行われていた犯罪の専門化と組織化が進むことになる。プロ化が進めば「業務」の規模は拡大するのが当然で、「児童」たちは、量的にも質的にも、今よりもずっと酷い人権侵害的状況に置かれ、自分では容易に止められなくなるところまで追い詰められてしまうかも知れない。
また、以前の「個人営業」では、売買春によってやり取りされたお金は、直接「児童」の懐に入るが、専門化と組織化が進めば、そこでの金額の何割かがマージンとして裏社会に流れ、全く関係のない犯罪行為や違法ビジネスのために用いられてしまうという危険性もある。
短絡的な観点から見れば、確かに児童買春の「売り手」側を処罰すれば、「援助交際」は減少する可能性は高い。しかし、その施策は、今まで保たれてきた法的な定義を一転させ、本来被害者として定義されてきた「児童」に法的リスクを強いるだけでなく、長期的には「個人営業」からの「脱出」を生じさせることで、違法ビジネスの組織化や専門化を生み、より酷い人権侵害的状況を生みだしてしまう危険性が指摘できる。
児童買春の件数は減少を続け、ピーク時の約半分にまで抑制できていることを考えても、リスキーな選択肢を取る必要性は極めて少ないのではとも思われる。対症療法的な過酷な処置ではなく、元々の児童買春禁止法の姿勢に基づいた、本来の児童保護の精神に法を立ち返らせることこそが、現状では必要なのではないかと筆者は感じるところだ。【了】
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