第十八使徒・涼宮ハルヒの憂鬱、惣流アスカの溜息
一年生
第十五話 ミステリック・ばあちゃん


<部活棟 文芸部(SSS団)部室>

放課後、部室のドアを開いたキョンは、ハルヒが団長の席に置かれたパソコンに向かっている姿を見かけて少し驚いた。

「何しているんだ? もうネットサーフィンは嫌だと言ってなかったか?」

ハルヒはネットに書かれた嘘ネタと本当の情報との区別がつかず、釣り動画などを見てウィルス感染など痛い目にあっていた。

「掲示板に張られたリンクを気軽にクリックするからだぞ」

パソコンがウィルスの被害に会うたびに呼ばれるコンピ研の部員に同情していた。

「同じ轍は二度と踏まないわよ。それで、あたしは別にネットを見るわけじゃなくて、SSS団のサイトを作ろうと思っているのよ!」
「SSS団のサイトを作るだって?」
「そう、やっぱり何かしらの活動するグループにはサイトがあって当たり前じゃない」
「止めとけ、スルーってことを知らないお前がサイトを作ったらすぐに炎上するぞ」
「だから、団員の総力を挙げてサイトを作るんじゃない」

またハルヒの気まぐれが始まったか、とキョンは溜息をついた。

「団員が集まったらさっそくサイト制作のミーティングを始めるわよ!」

そしてしばらくして、期末テストの採点があると言うミサトを除いて団員全体が集まって席についた。

「サイトを作る? そんな面倒な事、ユキにさせればすぐにできるんじゃないの?」
「私は”パーソナル・コンピュータ”と呼称される装置の操作情報を持ち合わせていない」
「ええっ、ユキってそう言うのに詳しそうに見えたけど?」

アスカはユキの答えに驚いた。
ユキの正体を知っているシンジやキョンも同じだった。
しかし、ハルヒの目の前で疑問を口にするわけにもいかず、口をつぐんだ。

「誰か、こう言う事に詳しいのは居ないの?」

ハルヒの問いかけに、積極的に答える者は居なかった。

「僕はHTMLタグとか良く分からないよ。学校のテストだって苦手だし……」
「俺も同意見だな」

シンジの呟きにキョンも同意した。

「何よ、テストなんか簡単じゃない。あんなの時間が余って仕方がないわ」
「そうね、HTMLタグだってすぐに覚えられるわよ」

ハルヒとアスカは口をそろえて反論した。

「じゃあ、アスカがやればいいじゃないか」
「そうだ、そうだ」

シンジが腹を立てた様子で言い返すと、キョンも続いてはやし立てる。

「こう言う雑用は、平団員の仕事よ」
「そうよ、団長のあたしは他にやることが山積みなのよ」
「アスカはいつも暇だって、テレビを見ながらスナック菓子を食べているじゃないか」

そうシンジに指摘されたアスカは言葉に詰まった様子だったが、今度は開き直った。

「サイトを毎日管理するなんて面倒じゃないの。そういう地味な仕事はシンジに向いていると思うし」
「……僕だって好きで地味なことしているわけじゃないよ」
「そう言う作業はキョンにも向いていると言えるわね」
「……やれやれ」

サイト作りのミーティングに参加しているのは四人だけで、レイとユキはいつの間にか本を読んでいたし、カヲルは一人で鼻歌を歌って楽しんでいた。

「みなさん、大変ですねー。お茶、どうですか? かりがねって言うのを試してみたんですけど、上手く入れられたかなぁ?」

ミクルはマイペースというか、ほのぼのとした感じを漂わせてお茶を入れていた。
ハルヒは盛り上がらないサイト作りのミーティングに盛大な溜息をついた。
そして気まずい沈黙が四人の間で流れる。
ミクルがお茶を湯呑にいれる音と、カヲルの鼻歌が部室に妙な雰囲気を醸し出していた。

「遅れてごめん! チャチャーン!」

その空気を破ったのは、勢い良くドアを開いて部室の中に入ってきたミサトだった。

「どうしたの、ハルヒちゃん? 部室の雰囲気が良くない感じだけど」
「実はさ……」

ハルヒから話を聞いたミサトはなるほどと頷いた。

「任せなさい、あたしの友達にパソコンオタクが居るから!」

ミサトは胸を張ってそう言った。
ミサトの言葉を聞くと、ハルヒは満面の笑みを浮かべた。

「そう? じゃあその人を連れてきてよ! SSS団の名誉団員にしてあげてもいいわ」

アスカとシンジは疲れた顔で視線を合わせる。

「ひょっとして……」
「ひょっとしなくても、ミサトの友達と言ったらリツコしか居ないわよ」

二人はハルヒに聞こえないような小さな声でボソボソとそうささやき合った。

 

<第三新東京市 ネルフ本部 赤木リツコの研究室>

ハルヒに安請け合いをしてしまったミサトは、アスカとシンジとレイと一緒にリツコの研究室に頼みに来ていた。

「まったく、私の了解を得てから約束して欲しいものだわ」
「リツコ、それは悪かったからさ。ちょちょいと片手間にサイトを作ってくれればいいのよ」

ミサトが愛想笑いを浮かべながら手を合わせてもリツコは不機嫌そうな表情を崩さなかった。

「いいミサト、サイトを作るのはそんなに甘いものじゃないのよ? 今は昔と違って多くの人が携帯でもサイトを見れる時代よ」

リツコの研究室に居たマヤもリツコの説明に追従した。

「何も知らないネット初心者がサイトを運営するなんて、生肉を持ってライオンの居るサバンナをうろつくようなものよ」
「素敵な比ゆですね、先輩」

それでもミサトは必死になってリツコに頼みこむ。

「それじゃあさ、たまにサイトの管理をしてよ」
「いやよ、私は自分のサイト管理で忙しいんだから」
「リツコのサイトって?」
「”ニャンニャン動画”ですよ、略して”ニャン動”」

マヤがそう言うと、ミサトの後ろに居たアスカが納得した様子で頷いた。

「ああ、あの変なデザインの猫がマスコットの」
「変な猫ですって?」

アスカの言葉を聞いたリツコのこめかみに青筋のようなものが浮かぶ。

「こらアスカ、なんてこと言うのよ、怒らせるために連れて来たんじゃないのに、逆効果だわ……」

ミサトがそう言って頭を抱えると、レイがポツリと呟いた。

「赤木博士、私はあの猫はとてもかわいいと思います」
「本当!?」

レイの言葉を聞いたリツコは一気に表情が崩れた。

「私も自分の読んだ小説を紹介するページを作りたいです」

そう言って頭を下げるレイにお願いされたリツコは困ってしまった。

「今、私の管理しているサイトでトラブルがあって手が離せないのよ」
「飼い主に無許可で猫の動画をアップするからですよ」
「何それ、プライバシーの侵害じゃん」

マヤが暴露したリツコのサイトが荒れている理由を聞いてアスカはあきれ返って声を上げた。

「だって、かわいい猫をたくさんの人に見てもらいたかったから……」
「先輩、向きになって主張とか反論を書き込むから、さらに騒ぎが拡大しちゃって」
「そういえば、リツコはジェットアローンの完成披露パーティでも相手の何とかって博士と言い争いしてたっけ……」

ミサトはマヤの話を聞いて、溜息をついた。

「じゃあネルフ技術部から何人かスタッフを貸してよ、司令には話を通しておくからさ」
「そうだ、母さんの師匠を紹介するわ。MAGIの設計理論の基礎を母さんに叩きこんだのも実はその人なのよ」

考え込んでいたリツコは一転明るい表情になってミサトにそう告げた。

「ええっ、MAGIって先輩のお母さんの赤木ナオコ博士が作ったんじゃないですか?」
「完成させたのは母さんよ。でも発案したのはその人よ」
「で、その人は今何をしているの?」
「隠居して田舎暮らしをしているみたいだけど……やっぱりコンピュータ工学から離れることができなくて、地下にこっそりとコンピュータルームを造ったらしいわ」

リツコの説明からみな偉大な博士と言う人物像を想像しているのか、感心したような溜息をもらした。

「今年で62歳になるけど、まだまだしっかりとした活動的な方よ。今回の事を話せば、喜んで協力して頂けるのではないかしら」

リツコの言葉に驚いたらしく、みな息を飲んで固まった。

 

<部活棟 文芸部(SSS団)部室>

「ばあちゃん、何でここに!?」

ミサトがSSS団にパソコンの指導をするインストラクターとして連れて来た人物の姿を見て、キョンは驚きの声を上げた。

「ミサトさんに頼まれてね。孫の通っている学校がどんなところか、どんな友達と一緒に居るのか見たくなって来たんだよ」

キョンの祖母はそう言うと、嬉しそうな顔で大笑いした。

「キョンくんのおばあさんですね。私は団長の涼宮ハルヒと申します。この度は我がSSS団の技術向上のためにご足労頂きまして……」

敬語を使って挨拶をし出したハルヒの姿を、キョン達は苦笑いを浮かべながら眺めていた。

「おや、お嬢ちゃんはもっと元気な少女だって聞いていたけど……違ったかい?」

キョンの祖母がそう言うと、ハルヒは愛想笑いを崩して、本来の無邪気な笑顔で話し始める。

「初めまして、キョンのお祖母ちゃん! 今日はよろしく!」
「こちらこそ、よろしく頼むよ」

そう言ってハルヒとキョンの祖母はハイタッチを交わす。
あまりに突然の態度の変化に、見守っていたSSS団の団員達はそれぞれ溜息をもらした。

「さてと、まずは団員のメンバー全員にパソコンが行きわたるようにしないとね。やっぱり各自がコンテンツを作るなら、専用のパソコンがあった方がいいさ」
「でも祖母ちゃん、俺達パソコンを買うお金が無いぞ」

キョンがそう言うと、キョンの祖母は笑いながら団長の席に座り、パソコンの電源を入れてインターネットへの接続を始めた。

「最近は家電量販店で買うよりネットで買う方が安く物が買える時代になったからね。私はもう”Nオークション”以外では買わないことにしているよ」

Nオークションは会員制のサイトらしく、キョンの祖母が社員IDとパスワードを入力すると、トップページが表示された。

「シャンプーとか洗剤とかまであるんだ……10円からスタートって凄いですね」
「何を主婦みたいなこと言ってるのよシンジは……え、流行モデルの服が1,000円で買えるの?」
「最新ゲーム機もソフトとセットで5,000円とは驚きだな」

座っているキョンの祖母の背後から画面を覗き込んだシンジ達は驚きの声を上げた。

「うーん、もうちょっと安くてパソコンは無いものかね……」

キョンの祖母は真剣な眼差しでパソコンを探している。

「そうね、高性能なパソコンが欲しいわ……それも、出来るだけ安く!」

そんなハルヒの呟きに答えるがごとく、カモがネギ背負って……もとい、幸運の女神が舞い降りた!

「頼もう!」

そう言って勢いよく部室のドアを開け放って姿を現したのは、コンピュータ研究会の部長氏だった。
後ろには背後霊のように部員達の姿も見える。

「何の用? あたし達は取り込み中なんだから、くだらない用件なら後にしなさい!」

ハルヒに怒鳴られて、たじろいだ部長氏。
しかし、部員に後押しされて体を震わせながらも声を発した。

「我々は、SSS団に勝負を申し込む!」
「あっそ、じゃああたし達は忙しいからまた後でね」

ハルヒは即答すると、部長氏には興味が無くなったかのようにまたパソコンの画面に集中した。

「無視するな、僕達はそのパソコンをかけて勝負しに来たんだ!」
「何よ、さっきからうるさいわね、このパソコンはあたし達がもらったものじゃないの」
「あんな脅迫、認めないぞ! ……とにかく、そのパソコンだけはやっぱり譲れない!」
「まあ、部長氏の気持ちもわからんではないが……」

部長とハルヒの言い争いを見て、キョンは同情して溜息をついた。

「ふーん、写真部と共謀して学校の生徒を隠し撮りした画像が入っているDドライブを取り戻しに来たってわけね」
「何故それを!?」
「あんたはばれないと思っただろうけど、パスワードは破らせてもらったわ。アスカの写真がほとんどだったのは驚いたけどね」

アスカやシンジの怒った視線、そしてコンピュータ研究会部員達の非難の視線が集中した。

「部長……」
「ま、待ってくれ、僕が撮ったのは普通の授業風景とか、さし障りの無い風景だぞ!」
「それでも隠し撮りはダメですよ……」

滝のように汗を垂らした部長にさらにハルヒは追いうちをかける。

「そんな画像、とっくにウィルスに感染して消えちゃったわよ。だからウィルス駆除に来てくれたコンピ研のみんなも気がつかなかったんじゃない?」
「そ、それでも僕は勝負をしたいんだ!」

ヤケになってそう叫ぶ部長の姿に、ハルヒの方が折れた。

「わかったわよ、それでどんな勝負をしたいのよ」
「ここに我々コンピ研が作ったゲームがある。ゲームコンクールにも出品予定の作品だ!」
「何それ、あんた達が作ったゲームなんだから、そっちが有利じゃないの?」

ハルヒがそう言うと、部長氏は余裕を持って言い放った。

「不公平が無いように君達にも練習時間を与えようじゃないか、一週間もあれば十分だろう?」
「ずいぶん自信たっぷりじゃないの」
「ま、万が一負けたら君達にゲームコンクールの賞金をあげてもいいけどね」

賞金と聞いてハルヒの目の色が変わった。

「部長、そんな約束して……!」

一緒にゲームを製作したコンピ研部員達が悲鳴に似た声を上げた。

「大丈夫、我々が負けるはずがない、わかるだろう?」
「その勝負、乗ったー!」

部長が部員達を説得している後ろでハルヒが満面の笑みを浮かべて大声を出した。

「その賞金で新しいパソコンをゲットするわよ!」

 

<第二新東京市 キョンの家 キョンの部屋>

「ばあちゃん、家に泊まってくれるのは嬉しいけど、いい加減に寝てくれよ」
「もうちょっとだけ頼むよ」

コンピ研の部長や部員達が帰った後、ハルヒ達はさっそくゲームの攻略法を見つけるためにプレイを開始した。
そのゲームは、ドラゴンクエストのようなファンタジーのロールプレイングゲームで、1時間と言う決められた制限時間以内にどれだけ洞窟にある宝箱を開けられるかを競争する内容だった。
ゲームのエンディングでは、得点が表示されるようになっている。

「まったく、ばあちゃんが最新の携帯やノートパソコンを持っている事は知ってたけど、こんなゲーマーだとは思わなかったよ」

自分のベッドに座っていたキョンはそう言って欠伸を噛み殺した。
その隣に居るキョンの妹も祖母が来たと喜んでいたがはしゃぎ疲れてしまったのか、キョンのベッドに腰かけた状態で、眠り込んでいる。

「もうちょっとで最初のステージで高得点を取る方法が見つかりそうなんだよ」

部活の時間が終わり、SSS団が解散してもキョンの祖母は自分のノートパソコンにコピーしてゲームをやり続けている。

「ゲームは一日一時間、ってテレビで誰かが言ってなかったか?」
「あたしゃ戦前からゲームをやってるのさ、テレビホッケーとか一日中やったもんだ」
「俺たちの世代じゃ絶対わからない世界だな……」

キョンは妹を部屋に送り届けて、眠ることにしたが、祖母がパソコンのキーボードを叩く音が耳について眠れなかった。

 

<部活棟 コンピュータ研究会 部室>

そしてやってきた一週間後の対戦の日。
試合会場のコンピ研の部室にSSS団のメンバーはハルヒを筆頭に乗り込んだ。

「逃げださずによく来たな、涼宮ハルヒ!」

尊大な態度で迎えたコンピ研部長氏をハルヒは鼻で笑って言い返す。

「あたしは負けるのが大嫌いなのよ!」

自信満々なハルヒの態度に、部長はちょっと押されたようだ。

「そ、それじゃあさっそく対戦を始めようじゃないか」

そう言って部長はパソコンが置かれた自分の席に着いた。

「さあ、そっちのパソコンもこのパソコンと同じ型だから不公平は無いと思う」

着席を促す部長に答えるように席に座ったのはキョンの祖母だった。

「え、お祖母さんが?」

部長が驚いて叫ぶと同時に、コンピ研の部員達からもどよめきの声が上がる。

「そうよ、SSS団の名誉団員が相手になるわ!」
「そ、そうか……でも相手がお年寄りだからって手加減しないからな」

パソコンの起動音が静まり返った部室内に響く。

「こらこら」
「!?」

突然キョンの祖母に話しかけられた部長は飛び上がりそうなほど驚いた。

「クロック数が違うんじゃないのかい?」
「そ、それは……」

キョンの祖母にそう言われた部長は、顔を真っ青にして汗を流し始めた。

「どういう事よ?」
「クロック数とはパソコンの中心となるCPUの性能の指標となるもの。大きければそれだけ処理が速い。ゲーム中の移動速度に大きく影響する」

アスカの疑問にユキがそう答えた。

「そんなの、インチキじゃない!」
「坊ちゃん、こう言うチートはいけないんじゃないかい?」

キョンの祖母はそう言うと、パソコンのケースを開いてCPUの交換を始めた。

「だいたいクロック数は同じだからこちらに付け替えさせてもらうよ」

手際の良さにコンピ研の部員達も感心している。

「さあ、始めようかい」

そして始まったゲーム対決は、部長の操作ミスが続き、圧倒的大差でキョンの祖母が勝利した。

「な、なぜそんな高得点が取れるんだ。理論上は20000点が限界なのに……」
「坊ちゃん、このゲームはバグが多すぎるよ。時間が経過しなくなる裏ワザまであるから、それに気がつかれたら99999点まで行っちゃうだろうね」
「そ、そうだったのか……」

部長はかなり落ち込んだ様子で溜息をついた。

「それにこのゲームはステージが広すぎるし、時間が長すぎるからみんな飽きちゃうね。このままじゃあ”ゲームコンクール”に応募してもダメだね」

キョンの祖母にそう指摘されて、部長とゲームを作ったスタッフである部員達も肩を落とす。

「まあそんなに落ち込みなさんな。作り直せば良い話じゃないか。わたしも手伝わせてもらうよ」
「ほ、本当ですか!?」
「ああ、坊ちゃん達のアイディアはとても斬新だし、気に入ったよ」

キョンの祖母が部長に向かって笑顔でそう頷くと、部長をはじめとして部員達は大いに喜んで部室は歓声に包まれた。

「そこまでしてもらって申し訳ない、是非お礼をしたいのですが……」
「じゃあ、あそこでほこりを被っているノートパソコンを貰っていいかい?」

部長の申し出に、キョンの祖母はコンピ研の部室の片隅に置かれている旧式のノートパソコンの山を指差した。

 

<部活棟 文芸部(SSS団)部室>

数日後、団員全員にキョンの祖母によって改造されたノートパソコンが行きわたったのを見て、ハルヒは改めてサイトの製作開始を宣言した。

「いい、サイトを賑やかすコンテンツを作るのよ! サボったら死刑だからね!」
「そう言うハルヒはどういうコンテンツをつくるんだよ」

ハルヒは涼しい顔でキョンに自分の作りかけのページを見せる。

「ミステリースポット特集か……」
「キョンはどうするのよ?」
「特にまだ、思いついていないが」
「じゃあ、SSS団の活動ブログはキョンの担当ね!」
「そう言うのは、団長の仕事だろう?」
「うっさいわね、団長の一言なんてあんたが適当に書けばいいのよ。だいいち毎日更新するなんて面倒だし」
「結局そこか……」

キョンは疲れた表情で溜息をついた。

「私はお裁縫で作った編みぐるみを公開するページにしたいと思います」

とミクル。

「私は今まで読んだ本をデータベース化したページにしようと思う」
「私は読んだ本の感想を書いてみたい」

ユキとレイは共同して読書関係のページにするようだった。

「僕は音楽関係のページを作ろうと思うけど、どうかなシンジ君」
「……そうだね、僕も音楽は嫌いじゃないし」

カヲルとシンジの間でも話がまとまったようだ。

「ふ、ふんだ、アタシは自分の自由にやらせてもらうわよ」

すんなりと組み合わせが決まった他のメンバーから孤立してしまった感じのアスカは、ちょっと不機嫌そうだった。
とりあえず、方向性の定まらないSSS団のサイトはこうして始まった。

「しかし、サイトにこんなことを書いていたら絶対叩かれると思うんだけどな……」

サイトのトップページにはSSS団の活動目的がしっかりと書かれていた。

・宇宙人、未来人、異世界人、超能力者に関する情報大募集!
・不思議な現象でお悩みの方は是非ご相談のメールを!

「これは管理で忙しくなるぞ……」

サイトの管理を任されたキョンは溜息をついた。
キョンの心配はすぐに的中した。

「キョン、さっそくブログにコメントが来ているわよ!」

ハルヒは満面の笑みを浮かべながらマウスをクリックする。
するとそこにはハルヒの笑顔を凍りつかせるようなコメントが。

>こんな痛いブログ作って、お前らバカだろ。

「何よコイツー!」
「落ち着け、ハルヒ!」
「はわわ、涼宮さん、暴れないでください!」

キョンとミクルが怒り狂うハルヒを取り押さえる。

「あたしだけならともかく、あたし達全員がバカにされたのよ、悔しいじゃない!」
「……俺は正直仲間だと思われたくないがな」

キョンはぼそっとそう呟いた。

「涼宮さん、メールフォームにもメッセージが届いているみたいですよ」

シンジにそう指摘されて、ハルヒは爛々と目を輝かせながらメールフォームをチェックする。
届いたメールを読んで行くうちにハルヒの顔は次第にほころんで行った。

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SSS団の皆さん、はじめまして。
僕は古泉イツキと申します。
第二新東京市南高に通う高校生です。
SSS団のサイトを拝見して是非ご相談したいことがあるのでメールを送らせて頂きました。
きっとこれは不思議な現象に含まれる事件だと思います。
どうでしょうか?
お返事お待ちしています。

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「来た! これは引き受けるしかないわね、みんな!」

そう言ってはしゃいでいるハルヒの目を盗んでキョンは素早くweb拍手を操作し、コメントを送信したユーザをブラックリストに追加する。

「ふーっ、とりあえずハルヒの機嫌は治ったようだな」

そう言ってキョンは安堵のため息をついた。

「古泉って人の依頼ってどんな事だろうね?」
「さあ? ……それよりシンジ」
「何、アスカ?」
「アンタのパソコンに入っている、そのasuka.jpgって何のファイルよ?」
「えっ!」

シンジは慌てて操作していたパソコンの画面を閉じようとする。

「こら、見せなさい!」
「な、何でもないよこの画像ファイルは!」

抵抗するシンジにアスカはヘッドロックをかます。

「く、苦しいよアスカ……」
「まったく、アスカとシンジは何をイチャついているのよ」

ハルヒはあきれた様子で溜息をついた。
しばらくした後、コンピ研が作ったゲームはゲームコンクールに銅賞として入賞し、賞金の5万円を手に入れたが、ハルヒは賞金を届けに来たコンピ研部長に向かってこう言った。

「いいわよ、あたし達はお金じゃ無くてパソコンが欲しかっただけだし。あんた達コンピ研で新しいパソコンでも買えば?」
「ありがとう、涼宮さん!」

部長とコンピ研部員達は感激して部室に戻って行った。
ハルヒの頭の中はすでに古泉からの依頼の事で頭がいっぱいだった。

「むふふ、どんな難事件があたし達を待ち受けているのかしら」
「また厄介な事になるんだろうな。まあ、それを楽しんでしまっていることも否定できないが」

キョンは満面の笑顔のハルヒを複雑な思いで見つめていた。


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