第十八使徒・涼宮ハルヒの憂鬱、惣流アスカの溜息
一年生
第九話 涼宮ハルヒの退屈、ゲンドウの意地


<部活棟 文芸部(SSS団)部室>

その部室には平和な空気が流れていた。
アスカとハルヒは将棋に興じ、レイとユキは読書に打ち込み、シンジとキョンは暇つぶしにカードゲームで遊んでいる。
カヲルはポーズをとっているのか窓辺に座って鼻歌を歌いながら外を眺めていて、ミサトは英語のテストの採点をしている。
ミサトが最近職員室で仕事をしないのは、またあの某セクハラ教師が復活してうるさくなったかららしい。
しつこくミサトを誘う彼だったが、この部室に近寄るとアスカやハルヒに「ハゲ」と呼ばれるので嫌だったようだ。
ミクルはハルヒが部室に持ち込んだポットや急須を使ってお茶をそれぞれの湯呑に入れている。

「どうぞ、碇君」

シンジはミクルから差し出されるお茶を受け取ってゆっくりと口を着けた。

「あの、熱くはなかったですか?」

ミクルが少し心細い様子でそう聞くと、シンジは笑顔で答える。

「ありがとう。ちょうど良かったよ」

シンジの答えを聞くと、ミクルは嬉しそうな顔になる。
それを目撃してしまったアスカはものすごく不機嫌な顔でシンジをにらみつけた。
アスカににらまれたシンジは思いっきり体を震わせる。

「ご、ごめん、僕が先にもらっちゃって。そうだよね、アスカが副団長なんだからアスカより平団員の僕が飲んじゃいけないよね」
「すいませんでした、惣流さん。以後気をつけますー」

シンジとミクルはそうやってアスカに謝った。

「アタシが怒っているのはそこじゃない!」

アスカは怒鳴ったところで、ハルヒが自分をニヤついた目で見ているのが分かり、慌てて怒気を抑える。

「ま、まあ気を付けてくれれば、それでいいわよ……」

その後ミクルがお茶を配って回っていると、突然窓の側に居たカヲルはミクルを抱き寄せた!

「ふえええ!?」

ミクルの悲鳴の直後、小さな影がミクルの背後を通過し、テーブルの上にあったアスカとハルヒが対戦をしていた将棋盤を直撃した!
将棋盤の上に並べられていた駒の一部が激しく吹っ飛ぶ。
どうやら飛び込んで来たのは野球部の打ったボールのようだ。

「危なかったね、朝比奈さん」
「あ、ありがとうございます……。でも、早く離してくださいっ!」

ミクルが真っ赤な顔でそう訴えると、カヲルはやっとミクルを解放した。
駒が飛び散った将棋盤を見つめて、アスカは怒って体を震わせている。

「ハルヒっ!自分が不利になったからって、神の能力を使うんじゃないわよっ!せっかくアタシが勝ちそうだったのにっ!」

冷静さを失ったアスカはシンジとミサトが思わず心臓を抑えてしまうようなことを言い出した。
しかし、幸いにもアスカの言葉はハルヒには耳に入っていないらしく、飛び込んできた野球のボールを見て笑顔を浮かべている。
そんなハルヒを見て、キョンはシンジに耳打ちする。

「なあ、お前は惣流の笑顔を見たら嬉しいか?」
「ん、まあ……。何か太陽が輝いているみたいで、嬉しいかな」

シンジが少し顔を赤くしながらそう答えるとキョンは困ったような表情を浮かべて溜息をつく。

「俺はハルヒの満面の笑みを見て、そうは思わん。どうせ、俺達が疲れるようなことを企んでいる事だろうしな」
「……そうだ、野球をしましょう!」

ハルヒがそう叫ぶと、キョンは疲れた顔でつっこむ。

「おいおい、お前ルールとか知っているのか?」
「野球部に仮入部したことがあるから、知っているわよ。SSS団も部員が増えてきたし、大丈夫でしょう?」

そう答えたハルヒに対してキョンはさらに問いかける。

「対戦相手とかに心当たりはあるのか?うちは葛城先生を入れて9人しかいないぞ」
「そんなの野球部から適当に借りて……」

ハルヒがそう答えると、それまで黙っていたユキがボソリと話に割り込んでくる。

「野球部は夏の甲子園に向けて猛練習中。予選まで残り1ヶ月を切った。提案は却下されるものと思われる」
「何よ、それー!」
「それじゃあ、邪魔するわけにはいかないな。甲子園大会が終わって、余裕が出るまで待ってもらえ」

キョンが至極まっとうな意見を述べると、ハルヒは口をふくれさせながら席に着いた。
すると、ミサトの携帯電話が鳴り出す。

「もしもし、リツコ?どうしたの?」
『どうしたのか、こっちが聞きたいわよ。いきなり凄い勢いで閉鎖空間が発生し、増大したの。今そちらで何かあった?』

リツコの言葉を聞いたミサトはハルヒの方を見て困った顔になる。

「うん、後で説明するから、ここはあたしに任せて。」
『ちょっと、ミサト……』

ミサトは電話を切ると、ハルヒに向かってニッコリと微笑みかける。

「あのね、ハルヒちゃん。あたし、ちょっち知り合いがいるから、野球をしてくれるように頼んでみるわ」
「ホント!?ミサト、約束よ!」

ミサトの言葉を聞いたハルヒは弾かれたように笑顔になった。
アスカとシンジはミサトの取った行動に嫌な予感を覚えるのだった……。

 

<ネルフ本部 発令所>

「……なるほどな。急に閉鎖空間が発生して、また収束に向かったのはそう言うわけか」

副司令の冬月コウゾウはミサトの言葉を聞いてそう呟いた。

「はい。今のところ事情を話して鈴原君たちにメンバーに加わってもらいました」
「でも、確か彼は、激しい運動できるほど回復して居なかったんじゃないかしら?」

ミサトの言葉にリツコが口を挟んで来た。

「ええ、ですから、彼の友人を含む4人がとりあえず集まったのですが、残り5人を集めていただけないかと」
「ふむ、それならさっそくネルフの職員名簿から数名をピックアップしよう」

コウゾウがミサトの言葉に頷いて、さっそく人事部に電話をかけようとすると、ゲンドウはそれを押し止めた。

「待て。涼宮ハルヒに関する情報はトップシークレットだ。一般の職員に広めるのはマズイ」

そう言って、ゲンドウはリツコを呼び寄せ、何やらゴソゴソと耳打ちをする。
ゲンドウの言葉を聞いたリツコは顔をしかめながら、自分のパソコンのキーボードを打つ。
すると、正面のディスプレイに文字が映し出された。

〜ネルフ・ライオンズ〜

1番 ファースト 相田ケンスケ
2番 セカンド  谷口君
3番 サード   日向マコト
4番 ピッチャー 碇ゲンドウ
5番 キャッチャー 青葉シゲル
6番 ライト 赤木リツコ
7番 レフト 国木田君
8番 センター 伊吹マヤ
9番 ショート 洞木ヒカリ

補欠 鈴原トウジ

ディスプレイに浮かび上がった文字に発令所から悲鳴が上がる。

「私、野球なんてできません!」

マヤは顔を押さえてたまらず叫び声をあげると、ゲンドウは大声で一喝する。

「使徒に関する任務を放棄することは許されん!」

いつになく必死なゲンドウの様子に、ミサトはもしやと思い、ゲンドウに問いかける。

「司令、もしかして、そんなに野球がやってみたかったんですか?」
「……うむ」

いつもと変わらない顔の前で腕を組んでいるポーズなのに、その声はヤケに弱々しかった。
ゲンドウに自然と注目が集まる。
ゆっくりとゲンドウは再び話し始める。

「私は……子供のころ、常に周りに反発するようなことをしていた。そんな私が野球の仲間に入れるわけも無く、孤独に壁に向かって投げる日々を送っていたのだ……」

ゲンドウの独白に反対していたマヤも心を多少なりとも動かされていた。
感激屋のミサトは半ば涙を流しながら激しく賛成する。

「司令!ぜひ、野球の試合もやりましょう!」
「閉鎖空間の発生状況から見て、なるべく早いうちに野球の試合をすることが良いと考え、試合は今週の日曜日にやることに致しました」
「ちょっと、待ってよ!あと三日しか無いじゃない!」
「葛城三佐、これはしょせん遊びなのよ。適当に試合をすればいいじゃない」
「それはそうよねー」

リツコとミサトがそんな会話をしていると、ゲンドウは強く机を叩いて怒りだした。

「そんなことは許さん!野球はドラマだ!真剣勝負の場だ!それに、手抜きの試合では涼宮ハルヒも満足しないだろう」
「た、確かに……」
「葛城三佐。君には真剣勝負をして、かつ、我々のチームとの試合に涼宮ハルヒのチームを勝利させると言う任務を与える」

突然、降って湧いた難題にミサトは顔が真っ青になった。

「では、明日から特訓を開始します」

ミサトはそう言って敬礼すると、慌てて発令所を飛び出した。
彼女の選手兼監督としての忙しい日々がいま幕を開けた。

「先生、後を頼みます」

ゲンドウはコウゾウに向かってそう言うと、発令所のメンバーをひきつれて第三新東京市の市民野球場に向かっていってしまった。

「……おい、俺一人で残って仕事をやれと言うのか!戻って来い、碇!……まったく、面倒を全部俺に押し付けおって」

コウゾウはそう言って誰も居なくなった発令所を見回したが、ふっと柔らかい笑みをこぼす。

「まあ、碇のやつも相当疲れているのかもしれん。いいリフレッシュになるだろう」

コウゾウは京都の祇園祭の日には絶対この事をネタに休暇をもらおうとほくそ笑んだ。
次の日、学校でミサトから試合のことを伝えられたハルヒやアスカ、シンジたち。
さっそくその日から特訓が始まり、その帰り道に偶然、ハルヒはトウジとヒカリの二人連れに出会った。

「なんや、涼宮。ごっつう楽しそうやんか。野球の試合できるのがそんな楽しいんか」
「ん、確かあんたも試合に出るんでしょう?」

ハルヒがそう問いかけると、トウジとヒカリは悲しそうな顔になる。

「ワイ、ちょっとした事故で足を切ってもうてな」
「鈴原の足はiPS細胞を元にして作られたんだけど、慣れるまでまだ何年もかかるんだって」
「だから、歩くだけでいっぱいいっぱいでの」

トウジとヒカリの話を聞いたハルヒは少し硬い表情になって呟く。

「ふーん、それは残念ね。あんたと一緒に野球の試合してみたかったわ」

その後ハルヒと少し会話をした後、トウジとヒカリは別れて自分の家に帰った。
そして次の日の朝、ヒカリがいつものようにトウジを家に迎えに来たのだが、いつもと様子が違った。
ヒカリがインターホンを押すと、元気に階段を駆け降りる音が聞こえてきた。
その音を聞いてヒカリは、てっきりトウジの妹のナツミが降りて来たのかと思ったが、突然玄関から飛び出してきたトウジに抱きつかれて驚いた。

「委員長〜!」
「えっ、す、鈴原!?」

ヒカリは戸惑いながらもしばらくそのままトウジに抱きしめられていた。

「今朝起きたらな、足が自由に動くようになってんねん!これも委員長が毎日ワイのリハビリを一生懸命してくれたおかげや〜!」
「そ、そんな、私は何も……」
「いーや、委員長以外にワイの足を直してくれた人はおらへん。マッサージとかしてくれた委員長しか考えられへんのや」

トウジの言葉に、ヒカリも顔を赤くしてトウジの腰に手をまわした……。

「兄ちゃんそれ以上抱き合おうていたら遅刻するで……」

妹のナツミの言葉も2人には全然届いていないようだった……。

 

<第二新東京市 市民グラウンド>

そして試合当日。
普段は随分前から予約しないと取れないのだが、キャンセル待ちで予約したところ、運良くキャンセルがされ、無事にSSS団とネルフ・ライオンズの試合が行われることになった。

「リツコ、ネルフの権力を使って一般市民に圧力をかけたんじゃないでしょうね」
「まさか、そんなことはしないわ。……この天候だからじゃないかしら」

台風1号接近、日本列島を直撃。
いくら地球温暖化が進んでいるとはいえ、これだけ大型な台風が、しかも今年の第1号が日本に接近してくるとは不自然すぎる。
この天気に恐れをなして、みんな試合をキャンセルしたのである。
実際、試合開始前なのに風はかなり強くなっていた。

「鈴原君の足が突然治ったのもやっぱり彼女の力?」
「……きっとそうね。本人達は全く気がついてないようだけど」
「知らない方が幸せなのよ、あの2人の恋のためにはさ」
「サンタクロースも居ると信じている方が幸せだものね」

ミサトの言葉にリツコは皮肉めいた言葉を吐きながらも同意して溜息をもらした。
リツコはトウジが試合に参加できると言うことでレギュラーメンバーから外れられたことを喜んでいた。
やっぱりバットを振り回すのはあまり好きではなかったし、自分でも似合っていないと思っていたからである。
そして、SSS団チームが集められた。
特訓とは言っても、結局ハルヒが打った球を取るぐらいのことしかできなかった。

「ところでハルヒちゃん、まだ打順とか守備位置とか決めてないんだけど……」

ミサトが恐る恐るハルヒにそう尋ねると、ハルヒは胸を張って『あみだくじ』を2枚懐から取り出す。

「こっちが打順、こっちが守備位置ね。あたしは団長だから1番でピッチャーよ!」
「おいおい、こんないい加減な方法で決めるなよ」

アスカが怒りだして反論する前にキョンが素早く突っ込んだ。
最近のキョンのツッコミの速さは鋭さを増している。
まるでハルヒと呼吸が合っているかのようだった。

「お前が勝手に一番でピッチャーと決めて、何が運勢だよ!」

何もしないうちに話が進んでいくアスカとシンジは、自然と肩を寄せ合う形になって、あきれた顔で目の前の騒動を眺めていた。

〜SSS団〜

1番 ピッチャー 涼宮ハルヒ
2番 セカンド  碇シンジ
3番 サード   惣流アスカ
4番 ファースト キョン
5番 キャッチャー 渚カヲル
6番 ライト 長門ユキ
7番 レフト 朝比奈ミクル
8番 センター 葛城ミサト
9番 ショート 綾波レイ

「プレイボール!」

審判役になったリツコの声と共に試合が始まった。
打席に立ったのはハルヒ。
投げるのはゲンドウ。
ゲンドウは小手調べとばかりにストレートの直球を投げる。
ハルヒがタイミングよくバットを振る。
球は見事にジャストミートし、心地よい音と共に白い球はスコアボードに直撃した。

「やったー!ホームランっ!」

ハルヒは飛び上がって喜んだが、ネルフのメンバーは卒倒しそうなほど顔色が悪くなった。
総司令の投げた球をホームランにするなんて、恐れ多くてできない事だった。
そして、次に打席に立ったのはシンジ。
ゲンドウは先ほどとは違い、スピードの乗ったストレートを投げた。
キャッチャーミットに入った球の音が辺りに響き渡る。

「ストライク!」
「ちょ、ちょっと、父さん!そんな本気を出さないでよ!」

あまりの勢いにシンジは思わず抗議をせずにはいられなかった。
ゲンドウはそんな息子の言葉には全く答えず、力いっぱい第2球を叩きこむ。

「ふーん、あの髭のおじさん、シンジのお父さんだったの。優しいお父さんじゃない、休日に一緒に遊んでくれるなんて」
「感心の仕方が激しく間違っている気がするぞ」

ハルヒとキョンがベンチで会話をしている間にまたミットに球が叩きこめまれる音が鳴り響いた。

「ストライク!バッターアウト!」

そう告げる審判のリツコの声にハルヒは打席から立ち去るシンジに向かって怒った声を浴びせる。

「たいしたことの無い球なんだから、バットを振れば簡単に当てられるじゃないの!」
「バカっ、これ以上司令を怒らせるんじゃないわよ……」

これから打席に立とうとしたアスカはそう呟いてハルヒをにらみつけた。
アスカも野球は初めてだが、運動神経には自信がある。
ハルヒに負けてはいられないとアスカは気合を入れてバットを構えた。
しかし、アスカはゲンドウのフォークボールであっさりと三振に終わってしまった。

「キョン!あんたツーアウトだからってあっさり引き下がるんじゃないわよ!四番でしょ?」
「くじで決まった四番に何を期待しているんだろうか……」

キョンはハルヒの大声を聞いて思わずそう呟いて溜息をついた。

「ストライク!」
「ストライク!」

カウントがツーストライクになった時に、キョンはゲンドウがとても醜悪な笑みを浮かべているのに気がついた。

「とてもシンジの親父さんだとは思えないほど憎たらしいその顔!やり返したくなってきた!」

キョンは気合を入れてバットを握りしめ、ラストチャンスにかけた!

「ストライクアウト!」

しかし、あえなく三振に終わった。
そして、1回の裏SSS団チームが守備、ネルフ・ライオンズが攻撃となる。

「いい?この1点を試合終了まで守り切ればあたしたちの勝ちになるの。失点は許さないから!いいわね!」

ハルヒは気合十分と言った感じでマウンドに立つ。

「相田三尉、行って参ります!」

ケンスケはゲンドウに敬礼してバッターボックスに入る。

「ストライクアウト!」

しかし、ハルヒの3連続ストレートによってあっさりとアウトとなった。
ハルヒの投球を見ていたゲンドウは次の打者である谷口にそっと耳打ちをする。
そして、1球目はファールに終わったが、2球目は高く打ちあがったフライとなり、ライトへと飛んでいく。

「ユキっ!」

ハルヒが大声で叫ぶが、ユキは立っていたその場所から一歩も動こうとはしなかった。
慌ててミサトが球を拾いに行ったものの、谷口はあっさりと二塁へ。
それからネルフ・ライオンズはライトのユキとレフトのミクルを狙う作戦に出た。
セカンドのミサトはどっちをフォローしていいのか迷ってしまい、この回だけで10失点となった。

「ハルヒがストライクゾーンのど真ん中の直球しか投げないってことがばれてしまったみたいだな」

キョンはベンチで感心したように呟いた。
ゲンドウはハルヒの弱点を確実に見抜いていたのだった。

「……このままアタシたちが負けたら閉鎖空間が増大して大変なことになるわね。……シンジ?」

アスカはシンジが返事をしないのを不審に思っていると、シンジはベンチに腰掛けて嬉しそうな表情を浮かべて呟いている。

「よかった、トウジの足が直ったんだ……。本当に良かった……」

シンジは先ほど、トウジが試合に出て出塁するのを見てからずっとこの調子で、守備も上の空だった。

「シンジも使い物にならないし、一体、どうなっちゃうのよ!?」

アスカはそう言って頭を抱えた。
そして、2回表があっさりと三者凡退に終わり、天候がさらに悪化し激しく雨が降り出して来た。

「司令、ここは雨天中止のノーゲームにしましょう」

リツコはこれならハルヒが負けたことにはならず、いい案だと思ってゲンドウに提案したのだが、ハルヒがそれに反論した。

「あたしは、このまましっぽを巻いて引き下がるなんてイヤよ!」

まだ勝つ気でいるハルヒにその場に居たみなはあきれ果てた。
しばらくして、ゲンドウはゆっくりとハルヒに笑いかけた。

「君の気持はわかる。だが、このまま濡れたままで試合を続けたら、風邪をひいてしまう者も出てくるかもしれない。我々はいつでも君の挑戦を受けよう。……わかってくれるな?」

ゲンドウが熱のこもった様子でそう説得すると、ハルヒは納得した表情を浮かべて頷いた。
ハルヒの機嫌も直ったのか、閉鎖空間が完全に消滅したとの報告をネルフ本部の発令所で留守番をしているコウゾウから受けたネルフのメンバーは安心して帰途についた。
しかし、それほど日にちも経たない頃に再戦の申し込みを受けたネルフ本部の発令所はまた混乱に陥ることになる。


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