第十八使徒・涼宮ハルヒの憂鬱、惣流アスカの溜息
一年生
第二話 SSS団誕生!


<第二新東京市立北高校 1年5組 教室>

「涼宮さんって、一見美人に見えるんだけどな……」

教室でシンジはハルヒの方を見てポツリと呟いた。
そして、二つ後ろの席に座っているアスカが自分を鬼のような目でにらんでいることに気がつくと、シンジは慌てて視線を前に戻す。
その様子を目ざとく察知したケンスケが溜息をついてシンジに話しかける。

「……お前、惣流から涼宮のやつに心が移ったのか? でも中学3年の時涼宮と同じクラスだったんだけどさ、アイツは奇人だぜ?」
「せやせや」

ケンスケの言葉にトウジが頷いた。
トウジの足は義足なので、ネルフの技術の最先端を駆使したものであってもまだ歩くのが精いっぱい。
リハビリの真っ最中でトウジは運動部には所属できなかった。
もちろん、それがシンジにとっての胸の棘の一つになっている……。

「あの自己紹介とか?」
「それ以外にも、グラウンドに白線を引く道具があるだろ? あれで校庭に落書きをしたんだ」

ケンスケがそう説明するとトウジも呆れた顔で付け加える。

「しかも、夜中の学校でや! ホンマ、呆れるで」
「犯人が涼宮さんだって言うの?」
「本人が認めたんだから、間違いないさ」

予鈴のチャイムが鳴り響き、ケンスケとトウジは自分のクラスに戻るために教室へと戻っていた。
一方、キョンは前の席に座る涼宮ハルヒに話しかける。

「なあ、昨日の自己紹介の時の話、新手のギャグだろう?」
「あたしはギャグなんて言った覚えは無いわ」

ハルヒは振り返ってキョンをにらみつけた。

「地球外生命体などの情報募集中って、本気だったのか?」
「あんた、エイリアンに知り合いが居るの?」
「いや、居ないけどさ」
「じゃあ、あたしに声を掛けないで!」

しどろもどろになって否定するキョンに、ハルヒは不機嫌そうにがなり立てた。
真後ろで頬杖を付きながら話しを聞いていたアスカだったが、その顔には青筋が立っている。

「……あんな女の相手、どうすればいいっていうのよ!」

アスカはハルヒの背中をにらみつけてそう呟いた。
また休み時間になると、アスカの席には交際を申し込みに来る男子が頻繁にやってくる。
アスカはその一つ一つをうざったいと思いながらも丁寧に断りつつ、モテる自分を少し心地よく感じていた。

「……アスカは相変わらずモテるんだね」
「まあ、見た目だけは悪くないしな」
「そのうち本性を現したら、相手にされなくなるがな」

シンジ、ケンスケ、トウジの呟きも、負け犬の遠吠えだとばかりに聞き流していたアスカだったのだが……。

「そういや、涼宮のやつ、中学の時は惣流より凄くモテたんだぜ?」

ケンスケの言葉が耳に届くと、アスカは眉をピクリとつりあげて神経をケンスケの方に集中させた。

「スポーツ万能、成績優秀。ちょっと黙っていたらあの通り美少女だしさ」
「なんか、中学の頃にあったの?」

シンジがそう質問すると、ケンスケは話しを続ける。

「ああ、涼宮は色々な男に声を掛けてデートに誘っておいて、5分で振るって事もあったらしいぜ」
「……それは無いと思うよ」

シンジはアスカがデートの途中に相手をすっぽかして帰って来た時のことを思い出した。

「それに、交際を申し込まれたら、どんな相手でも断らないんだよ。だから勘違いするやつが多いんだ」
「ぼ、僕は涼宮さんに告白なんてしないよ」

ケンスケの話を聞き終わったアスカは、湯気でも湧いているかのように顔を赤らめ、ハルヒの背中をにらみつけた。
体育の授業は1年5組と1年6組の合同授業。
というわけで体育の授業中もシンジはケンスケとトウジと一緒に群れている。

「俺はアイツが良い線行ってると思うぜ」

ケンスケはそう言って一人の黒い長髪の女子に視線を送った。

「朝倉リョウコ。性格も穏やかで惣流や涼宮とは大違いだぜ」
「そら、奇跡みたいな存在やな」

トウジは感心したように呟いた。
女子は出席番号順に5〜6人のグループで徒競走を行っているようで、アスカとハルヒは同グループとなってしまった。
スタート位置についたアスカはハルヒを思いっきりにらみつけるが、ハルヒの方はてんでアスカに興味が無いようだ。
合図と同時に5人は同時に走り出す。
アスカはぶっちぎりでハルヒに勝ち、その澄ました態度を崩してやろうと考えていた。
しかし、入院生活が長かったせいなのか、ハルヒがスポーツ万能すぎたのか……アスカは惜しくも僅差の2位でハルヒに敗れてしまった。
勝ったハルヒは嬉しそうにもせず、何の反応も見せない。
その様子にアスカはとてつもない失望感を感じ、自分のプライドが打ち砕かれた感じがした。

「おい、いいのか、惣流のやつを慰めに行かないで……」

ケンスケに言われたシンジも、アスカが実は傷つきやすい面があることは知っている。
しかし、マズイことを言って嫌われてしまうかもと思い、シンジはアスカに近づけなかった。
偶然、一瞬だけアスカとシンジの視線がぶつかった。
その時シンジは自分の判断を後悔し、アスカに近づこうと腰を浮かせたが、アスカは他の女子や男子に取り囲まれた後だった。
シンジは溜息をついて、アスカの側に行くことを諦めた。
対してハルヒは別にアスカに勝ったスーパーヒロインとして囲まれるわけでもなく、孤高の存在としてベンチの隅に一人で腰をおろしていた。
ハルヒの奇想天外な行動はこの時期は大人しいものであったが、それでも周囲を驚かせるには充分だった。
ハルヒは毎日曜日ごとに髪型を変えていて、さらに男子の前で平気で制服を脱いで体育着に着替えようとする。
男子は悲鳴を上げる女子からいきなり教室を追い出されるという災難に遭っていた。
そして、ハルヒはこの高校に存在する全ての部活に仮入部し、運動部からは熱心に入部を勧められるほどだった。
アスカはアスカでハルヒにライバル心を燃やしているのか、ハルヒの後ろを金魚のフンのように追いかけ、ストーカーだとうわさされるぐらいだった。
ハルヒもアスカも気まぐれに部活に参加するだけで、結局どこの部活にも入らなかった。
シンジは吹奏楽部に興味があったのだが、ネルフの司令をこなすという気持ちが先に立って帰宅部。
トウジは足のリハビリがあるため放課後は通院し、ヒカリもそれに付き合っている。
ケンスケは迷った末に映画研究部へと入った。
レイは面白い本があると言う理由で文芸部に入った。
そんな日が続いたある日、キョンはたまたま出来心でハルヒに再び話しかけていた。

「おい、毎日の髪型が変わるのは宇宙の電波を受信するアンテナにでも使っているのか?」
「……へえ、良く解ったわね」

目の前で行われたハルヒとキョンの会話に、アスカは頬杖の体勢を崩しておでこを机にぶつけてしまった。

「って事は、月曜が1チャンネルで、日曜日が6チャンネルって事か」

しかも会話が成立しているハルヒとキョンの様子に、アスカは異世界の人間を見るような驚いた表情を浮かべた。
ハルヒはそんなあきれ顔のアスカなど全く眼中に入れず、キョンの顔を見つめ続けている。

「あたし、あんたにそっくりなヤツと前に会った事が気がするんだけど」
「俺は知らんぞ」

キョンがそう答えると、ハルヒは溜息をついて背中を向けてしまった。
次の日、ハルヒは長かった髪をバッサリと切り落として、ショートカットに黄色いカチューシャといった髪型で席に座っていた。
それを見たキョンはたじろいだが、アスカは持っていたカバンを落とすほどショックを受けていた。
アスカはキョンのこともハルヒを陥落させた油断ならない存在として、ネルフに報告を入れた。
その日からハルヒとキョンは休み時間などに親しく話す存在となり、アスカは頬杖をついてその会話を盗聴するのが日課のようになっていた。

「……それと、告白が手紙や電話なのは一体どういうワケ!? そんな大事なことは面と向かって話しなさいよ!」

その言葉にアスカは思わず立ち上がって同調したい気持ちになったが、そこは割って入らずに二人の話を聞くことに気持ちを押さえた。

「ほんっと、世の中ろくでもない男ばっかりよ!」

プンプン怒りながら話すハルヒの様子を見ているアスカは、彼女の言葉に納得したような表情を浮かべていた。

「なんでそんな普通の人間以外にこだわるんだ?宇宙人とか、未来人とか……」
「決まっているじゃない、そっちの方が面白いからよ!」

腕を組んで堂々とキョンの質問に答えるハルヒにアスカはまた驚いて目を丸くした。
チャイムが鳴ってハルヒがいそいそと教室を出ていくと、アスカはキョンに詰め寄った。

「アンタ、いったいどこの機関の回し者よ?」
「いったい何の話だよ?」

アスカに突然話しかけられたキョンは驚いてそう答えた。

「アンタも目的があってアイツに近づいているんでしょう?だから、そんなに長く話せるんだわ。一体何が目的よ!?」

シンジは暴走を始めたアスカを止めようと急いで側に駆け寄った。

「い、今言ったことは気にしないで、ちょっとアスカは頭が混乱しているんだ、ハハハ……」

アスカはそう言って愛想笑いをキョンに向けているシンジをにらみつけていると、クラスの女子、朝倉リョウコもキョンたちの側へとやってくる。

「良いなあ、私がいくら涼宮さんに話し掛けても無視されてしまうのよ、どうしてなのかしら?」
「そんなの俺に尋ねられても答えようが無い」

キョンが否定した後、リョウコは感心したようにため息をついた後話しを続ける。

「でも安心した。涼宮さん、いつまでもクラスで孤立したままだと困るものね。1人でも友達ができたことはいいことよね」
「友達か……」

そう言って考え込んだキョンにリョウコは笑顔で話しかける。

「じゃあ涼宮さん関係は、これからあなたに任せるわね」
「おい待て、俺はアイツの保護者じゃないんだぜ!」

怒ったキョンの反応を見て、アスカはとりあえずキョンを厳しく問い詰めるのを止め、シンジの足を思いっきり踏んずけて席に座りなおした。

「痛った〜!」

シンジは足を押さえて、空いたハルヒの席に倒れ込んだ。

「くだらない夫婦漫才はやめて、そこ退いてくれる?座れないじゃない」
「ご、ごめん」

帰って来たハルヒにそう言われてシンジは謝って退いた。

「アタシとシンジは単なる知り合いよ!」

アスカはシンジを指差してハルヒに向かってどなり散らすが、ハルヒは嫌な顔をする。

「うるさい、そんなこと聞いてない」

ハルヒはそれだけ言って席に腰を下ろした。

そしてクラスのくじ引きによる席替えが行われた。
缶に入れられた紙を引いて席順を決めると言うもので、キョンは窓際後方2番目という位置を得て喜んでいたのだが、ハルヒが真後ろの席に座るのを見てガッカリしていた。
一方、アスカの席は廊下側の前から1番目、しかも左隣りにシンジという席になってしまった。
アスカは困った顔をしてシンジの横顔を眺めたあと、担任のミサトに詰め寄った。

「ミサト! アンタくじに細工したわね!学校でもアタシたちをからかうなんて、趣味悪ーい」
「ちょ、ちょっち待ってよ! ホント、本当に偶然なんだから、信じてよアスカ!」

ミサトは何度も何度も拝みながらペコペコとアスカに頭を下げて謝罪し、なんとかアスカは渋々追求するのを止めた。
そしてミサトによる英語の授業中、ハルヒは突然、前の席でうつらうつらしていたキョンの首を思いっきり引っ張った。
キョンは後頭部を思いっきりハルヒの机に打ちつけられて目を覚まし、飛び起きてハルヒに向かって文句を垂れる。

「いきなり何だ!」
「大発見よ!」

そう言って、ハルヒは嬉しそうに腕を頭上に付きあげた。

「何がだ?」
「気に入る物が無かったら自分で作れば良いって事よ!」
「だから何を?」

頭をさすりながら問いかけるキョンにハルヒは弾けるような笑顔で叫ぶ。

「自分の部活よ!」
「わかった、わかった、でも今は黙ってろ」

キョンはそう言って興奮するハルヒの肩に手を置いた。

「何よ、あんたも一緒に喜びなさいよ!」

ハルヒはむくれた感じでキョンをにらみつけた。

「ちょっと涼宮さん。この授業が終わったらあたしのところに来なさい」

ミサトは額に四つ角や縦筋でも書いてあるかのような怒った表情でハルヒに笑いかけた。
その後の休み時間。不機嫌なハルヒはミサトと一緒に生徒指導室へと入っていった。
しかし、出てきた時は一転、二人は晴れやかな笑顔を浮かべていた。

「なんだ、ミサトも話が分かるじゃん!」
「ハルヒちゃんもこんな面白いとは思わなかったわ」

急激に仲が良くなったミサトとハルヒの姿を見て、シンジとアスカは背筋が凍るほどの嫌な予感を覚えた。
授業終了のチャイムが鳴り響くと同時にキョンは嬉しそうに爆走するハルヒに引っ張られて屋上の入口の踊り場まで引っ張られた。

「あたしの新部活作りに協力しなさい、あたしは部室と部員を集めてくるから、あんたは学校に提出する書類を書きなさい」
「おい、俺はお前の部活に入るなんて一言も行ってないぞ?」

ハルヒはキョンの言い分を全く無視してまくし立てた。

「それに、どんな部活を作るか教えてくれなきゃ、書類なんて書けないだろう」
「後で考えるからそこはとりあえず空欄で良いの、今日の放課後までにやっといてね!」

ハルヒはそう言いつけると、ぼう然とするキョンを置いて姿を階下へと消した。

 

<部活棟 文芸部部室>

そして、その日の放課後、授業終了のチャイムが鳴り響くと同時にキョンは嬉しそうに爆走するハルヒに引っ張られて文芸部の部室へと連れてこられた。

「今日からこの部屋があたし達の新しい部室よ!」

ハルヒはキョンの前で嬉しそうにはしゃぎながらクルクルと回った。

「ちょっとまて、ここはどこだ?」
「ここは文芸部の部室よ」

キョンの質問にハルヒはさらりと答えた。

「それなら文芸部の部室だろう」
「けど、今年の春に部員が全員卒業して、新たに誰かが入部しないと、めでたく休部決定ってわけ」

ハルヒはそこまで言って、部屋の中で座って本を読んでいた水色のショートカットの少女、レイの肩に軽く手を置いた。

「で、この子が文芸部の新入部員らしいわ」
「それじゃあ、残念だが休部にはなって居ないじゃないか」

キョンは天を仰ぐようにハルヒに問いかけた。

「大丈夫よ。あの子とは話しがついているんだから」
「本当か、そりゃ?」

レイはハルヒとキョンを気にかけずに本を読んでいた。

「昼休みに声を掛けられて、部室が欲しいなら貸してあげるって。変わった子よね」

ハルヒはそう言って少しだけ頭をかしげた。

「えっと、君は……?」
「綾波レイ……」

レイはキョンに顔を向けてそれだけ言うと、また本を読む事に戻ってしまった。

「綾波さんとやら、コイツは文芸部の部室を何やら訳の分からない部活動の部室にしようとしているのだが、それでいいのか?」
「構わない、命令だから」

おずおずと話すキョンの説明に、レイは本を読む手を止めずに淡々と答えた。

「命令って誰の?」
「それは言えない」

レイの答えにキョンが首をひねっていると、元気な様子のミサトと、ぐったりした様子のシンジとアスカが部室に入ってきた。

「ハルヒちゃん、元気ー? 新入部員連れてきたわよ!」

ハルヒはシンジとアスカの顔をまじまじと眺める。

「ふーん。まあこの2人でもいいか」
「いったいどういうことよ?」

不機嫌そうなアスカをよそに、ハルヒは満足したように笑顔で叫ぶ。

「何を考えているか分からない無口キャラ!」

そう言ってハルヒはレイを指差した。

「金髪のごう慢チキお嬢様キャラ!」

ハルヒに指差されたアスカは怒るより唖然としてしまっていた。

「女装が似合いそうなショタ系男子!」

ハルヒに指差されたシンジは少しショックを受けて落ち込んでしまった。

「基本的にね、SFのようにおかしなことが起こる物語にはこのようなキャラが必要なのよ」

そう言って堂々と胸を張るハルヒ。

「で、ここって文芸部でしょう、何をするところなのよ?」

アスカに聞かれたハルヒは指を振る。

「あたし達は文芸部じゃないわ、名前と活動内容はたった今、思い付いたわ!」
「じゃあ言ってみろ」

キョンがそう促すと、ハルヒは部活の名称と活動内容を発表した。
しかし、それを聞いたアスカが怒りだし、すったもんだの話し合いの末……。
団長涼宮ハルヒ、副団長惣流・アスカ・ラングレー、顧問葛城ミサト、部員に碇シンジ、キョン、綾波レイとする新クラブが誕生した。
正式名称は『涼宮ハルヒと惣流・アスカ・ラングレーの世界を大いに盛り上げる団』、略称SSS団だ。
活動内容は宇宙人、未来人、異世界人を探し出して楽しく遊ぶこと、とハルヒは1人で盛り上がっているようだ。

「ハルヒにクラブを作らせることを許可するなんて、どういうつもりよ?」

アスカがミサトをジト目でにらみつけると、ミサトは手を銃の形にしてウインクをする。

「これでハルヒちゃんの側に居るオフィシャルな口実ができたじゃない。シンちゃん、アスカ、ナイスアイディアでしょう」

ミサトは笑顔でシンジとアスカに話しかけたが、シンジとアスカの表情はさえなかった。
それはともかくとして、こうしてSSS団は誕生し、シンジたちの学園生活も本格的に始まったのである。


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