僕の名前は碇シンジ。
どこにでも居る普通の中学生だったけど、今はエヴァンゲリオンのパイロットになった。
小さい頃母さんを死なせて、僕を伯父さんの家へ捨てた父さんが突然迎えに来た時は驚いた。
さらに父さんとミサトさんは人類の敵である使徒を倒す兵器、エヴァンゲリオンを動かすために僕が必要なんだと言う。
まるで漫画の世界の出来事で実感がわかなかった。
でも、僕は父さんの求めに応じて大人しくネルフへ行く事にした。
この伯父さんの家での憂鬱な生活を抜け出せるならどんなきっかけでもよかったんだ。
別に父さんの役に立ちたいってわけじゃない、ミサトさんと僕の代わりに戦わせられる子のために行くんだ。
僕はネルフで綾波レイと言う女の子に出会った。
最初は僕の貧乏性が刺激されてきつい事を言ってしまったけど、綾波は気にしていないようだった。
綾波はミサトさんの命令に従って僕の側に着いて来る。
だけど、綾波は人形のようでほとんど感情を感じさせない。
僕に向ける笑顔も伯父さん達が浮かべるのと同じ空っぽの笑顔で気に入らなかった。
初めての使徒との戦い。
僕も怖いって気持ちはあった。
でも、リツコさんの言う通りにただ座っているだけで使徒に勝ってしまった。
途中僕は気を失ってしまったらしいけど、僕は覚えていなかった。
初めての戦いに勝利した僕は、父さんの方を見た。
でも父さんは僕の方を見ようともせずにリツコさんやミサトさんと話している。
「ありがとうシンジ君。私達を守ってくれて」
僕に優しい言葉を掛けてくれたのはミサトさんだった。
ミサトさんにそう言ってもらって嬉しい、だけど本当に僕が褒めてもらいたい相手は違うんだ。
「それじゃあお父さんに素直な気持ちを伝えればいいのよ」
そうミサトさんには言われたけれど、僕にだって意地のようなものがある。
父さんが僕を捨てた事を後悔させて、土下座して謝らせてやるまで許してやるもんか。
僕はそう考えて気合を入れた。
パイロットの控室に戻ると綾波が僕を鋭い目でにらみつけて来た。
エヴァに乗れなくなった事には同情するけど、僕に怒りを向けられてもどうしようもない。
今日から綾波は僕のライバルだ。
だから僕は綾波に声を掛ける事もしなくなったんだ。
そして学校でも僕は嬉しい事があったんだ。
僕がエヴァで襲ってきた使徒を倒したと知れると、クラスの人気者になってしまった。
伯父さんの家に居た頃は父さんのウワサもあっていじめの対象にされていたのに。
今度の中学校ではクラスのみんなが僕にあいさつをしてくれる、僕と普通に話してくれる。
さらにトウジ、ケンスケと言う友達もできた。
そしてやってきた2番目の使徒も僕は少し苦戦したけど倒すことが出来た。
だけど父さんは「パイロットとして当然だ」としか言ってくれない。
いいさ、それならもっと使徒を倒して認めさせてやる。
この調子なら使徒を全部倒せてしまうんじゃないかと僕は天狗になりかけていた。
でもその鼻は3番目にやって来た使徒との戦いでへし折られた。
やって来た使徒の撃ったレーザービームは死んでしまうと思うぐらいに痛かった。
僕はエヴァに乗るのが怖くなってしまったんだ。
逃げ出そうとする僕を引き留めてくれたのはミサトさんだった。
ミサトさんは僕がまたエヴァに乗ってくれることを信じて『ヤシマ作戦』を父さんに提案したんだ。
僕は勇気を奮い起こしてエヴァに乗り、綾波と協力して使徒を倒した。
この時から僕にとって綾波はライバルではなくかけがえのない仲間になったんだ。
綾波も同じことを感じてくれたのか、僕に心を開いてくれた。
自分にはエヴァしかないと話す綾波に、僕は読書を勧めた。
僕は伯父さん達が捨てると言った本を拾い集めて、退屈や寂しさを紛らわせたものだから。
いきなり他の人と話すのはハードルが高いと思うしね。
綾波とは朝しか話さないけど、読んだ本の感想などを話してくれるようになった。
しばらくして戦えなくなった零号機の補充としてドイツの弐号機が日本へやってくる事になった。
大きな船の甲板でアスカを見た時、僕は今まで見てきたどんなアイドルよりも綺麗な子だと思った。
いきなりアスカにバカにされてしまったけど、容姿に惚れしてしまった弱みかそんなに腹は立たなかった。
それよりもこんな綺麗な子と一緒に居られる方が嬉しかった。
僕は従妹に、伯父さんの娘と言う立場を使って散々嫌がらせをされて来たので、アスカの悪口は右耳から入って左耳に受け流す程度だった。
いきなり僕はアスカに強引に弐号機へ乗せられたけど、役得があった。
アスカが着替えている時、いけないと思いながらも僕はアスカの白い背中のラインを目で追ってしまった。
すぐにアスカに殴られて気絶してしまったけど、僕は脳裏にしっかりと焼きつけた。
弐号機に乗った時はプラグスーツ越しだけどアスカの感触を感じて膨張しちゃうし……。
ミサトさんの作戦のためにアスカが同居すると聞いた時は驚いた。
同じ年頃の女の子と同じ家で暮らすなんて胸の動悸(どうき)が止まらない。
僕は気持ちを静めるために父さんの顔をずっと思い浮かべた。
アスカは野菜中心の食生活や早寝早起きの生活、夜中トイレに行った時に父さんの顔を見て悲鳴を上げたりなんて出来事があったりして、早く同居生活から抜け出したいって言っていた。
だけど2体に分裂する使徒を倒して作戦が終了して、同居の必要が無くなってもアスカは家を出ていかなかった。
ミサトさんには引越しするのが面倒だとか、僕に家事とか押し付けられて楽だとか必死に言い訳していた。
「みんなと顔を合わせて食事をするのって、楽しいよね。その日あった事を話したりしてさ」
「ど、どうしてわかったのよ!?」
「僕も伯父さんの家ではずっと独りだったから」
「そっか、アタシと同じね」
アスカが生まれたばかりの頃に父さんは交通事故で死んでしまった。
そして母さんもエヴァの起動実験の事故で亡くなってしまい、お祖母さんと2人家族になってしまったんだって。
お祖母さんも持病が悪化してしまって、ネルフの病院で入院して治療を受けているのだそうだ。
いつかお祖母さんの病気が治った時は一緒に暮らしたいって話していた。
アスカはお祖母さんのためにエヴァに乗らざるを得ないんだ、僕とは違うんだね。
僕がそう話すと、アスカは声を上げて笑った。
アスカも自分のためにエヴァに乗っている部分があるのだと言った。
だから、僕には負けないと。
僕もアスカの挑戦を受けて立った。
僕は父さんに認められるために、アスカは天国に居る母さんに見てもらうために。
アスカは学校にも馴染んで洞木さんと友達になれたようだった。
僕とアスカが同居していると知っているクラスの友達は付き合っているだなんて冷やかすけど、そんな事は無い、僕とアスカは同僚ってだけだ。
だってアスカはずっと前から優しくしてくれた加持さんの事が好きなんだし。
僕みたいな子供っぽい男なんて相手にするはずもないよ。
だけど僕が綾波と話していると邪魔するように割って入って来るんだ。
どうしてアスカと綾波は仲良くなれないんだろう。
そんな日常生活を送りながら、僕達3人は力を合わせて次々と使徒を倒して行った。
もちろん、ピンチになった事もある。
僕の家で食事会をやってマズイ事になってしまった。
ミサトさんの作ったカレーを食べた僕とアスカ、日向さん、青葉さん、伊吹さんと父さんが食中毒でダウン。
その間に蜘蛛のような形をした使徒が攻めて来て、零号機に乗った綾波が倒した。
加持さんの話だとミサトさんの料理は化学兵器並みなんだそうだ。
それを聞いたアスカは料理ならミサトさんに勝てる! と僕の料理の手伝いを始めたんだ。
いつか手料理を作って加持さんに食べてもらうんだって。
宇宙から巨大な使徒が落ちて来た時も危なかった。
ミサトさんは使徒をエヴァで受け止める大胆な作戦を立てた。
初号機で落ちてくる使徒の体を支える、零号機が使徒のATフィールドを中和し、弐号機がプログナイフで使徒のコアを攻撃する。
協力して使徒を撃破したご褒美にミサトさんは僕達を第三新東京市で一番高いレストランに連れて行ってくれた。
父さんからすごい額のボーナスが出たのだとミサトさんは喜んでいた。
自分のために使うんじゃなくて僕達に食事をおごってくれるなんて、ミサトさんは気前がいいなとこの時は思っていた。
そして、僕達の元にアメリカからエヴァ参号機がやってくると言う話が届いた。
さらなる戦力増強のためと説明を受けたけど、僕達は複雑な思いだった。
僕達3人は上手く連携が取れるようになっている。
人数が増えると余計にやりにくくなるんじゃないかと心配だった。
「まあこれで、交代で休みが取れるようになるかもしれないし、別に良いじゃないの」
ミサトさんはそう言って僕達をなだめたけど、アスカは面白くなさそうだった。
綾波は命令だから従うと相変わらずの反応だった。
参号機の起動実験を松代で行うと言うミサトさんを見送った僕達は学校でいつも通りに過ごしていた。
クラスメイトの男子が1人休んでいたようだけど、僕達は気にもかけていなかった。
トウジ達とお昼ご飯を食べていると僕の携帯電話が鳴った。
電話してきたのはネルフでエヴァのオペレータをしている伊吹さんだった。
松代での参号機起動実験中に爆発事故が起こり、使徒が出現したと知らせを受けて僕達はネルフへと直行した。
ミサトさんは事故に巻き込まれてしまったために連絡が取れず、僕達の戦闘の指揮は父さんが代わりにすることになった。
近づいてくる使徒の姿を見て僕達は驚いた。
使徒はエヴァ参号機そのものだった。
「まさか、エヴァが使徒に乗っ取られるなんて……」
アスカのつぶやいた言葉に僕も同感だった。
もしかして誰かが乗っているのなら大変な事だ。
「父さん、エヴァには誰か乗っているの?」
僕は恐る恐る父さんに質問した。
「いや、パイロットは乗っていない。そうだな、伊吹二尉」
「はい」
父さんが尋ねると伊吹さんがそう答えた。
アスカが安心して息を吐き出す。
「そう、それじゃあ遠慮なく叩きのめしてやりましょう、いくわよシンジ、ファースト!」
「了解」
「うん」
僕は綾波と一緒にアスカに答えて、いつもの様に使徒と戦った。
エヴァ参号機、いや、使徒の動きは素早かったけど、一度捕捉してしまえばこっちのものだ。
腕や脚を折られて、使徒は地面に倒れ込んだ。
間髪入れず僕達は起き上がろうとする使徒を上から殴りつけた。
使徒はしばらく抵抗していたけど、そのうち動かなくなってしまった。
そして使徒の反応が消えたと聞いて、僕達はホッとため息をもらした。
でも、僕は気づいてしまった。
変形した参号機のエントリープラグから人の手がはみ出し、赤い液体が染み出して来ていた。
エントリープラグには僕達と同い年のパイロットが乗っていたんだ!
「きゃああっ!」
僕よりも先にアスカが悲鳴を上げた。
父さんは参号機には誰も乗っていないって……ウソをついたんだ!
僕は目の前が真っ暗になり何かが崩れていく感覚がした。
そして次の日、父さんを信じられなくなった僕はエヴァのパイロットを辞めて第三新東京市を去ることにしたんだ……。