え~と、ついつい見切り発車してしまいました
今後はゆるゆると完結目指して頑張ろうと思うので、ぜひぜひよろしくお願いいたします。
稚拙な文章表現やストーリーなど見苦しい点があればビシバシ指摘してやってください。
(追記 プロローグはダラダラやっていますので、読むのが面倒だという方は一話目からお読み頂いても、ストーリーを追う上では問題ありません)
プロローグ
みんな死んでいた。
赤ん坊だろうが大人だろうが関係なく、あらゆる年齢の人々が死んでいた。
我が子を抱えたまま、鉛の弾丸によって挽肉に変えられてしまった母親の亡骸。若い女性に覆いかぶさり、下半身を喪失したスーツ姿の男性。
集団避難していたのだろうか。幼稚園児と思しき子供達の遺体が放射状に転がっていて、その中心には手榴弾の炸裂痕が刻み込まれている。
僕はそれらを見下ろしながら、真っ二つになったライフルを足元に置いて静かに合掌する。
それが、彼らを死に追いやった僕にできる唯一の事だった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
真っ白だった。
窓もドアもない、完全に密閉された真っ白な部屋。壁際の本棚と机には本が山積みにされていて、その背表紙も白。部屋の真ん中にポツンとおかれている安物のベッドのカバーも、もちろん白い。
人の夢には色があり、その夢の内容によって色が変わる、とは誰の言葉だったか。僕の場合、赤なら炎、青なら水といったように夢の内容とイメージが確立されているのだけれど、その中でも白は悪夢の部類に当たる。
僕は本棚から適当に一冊本を抜き取り、ベッドに腰掛ける。本の白い背表紙には9とだけ印刷されていて、一見なんの本か全くわからない。
中身も同じようなものだった。目次に当たる部分に年月と日付がびっしりと並んでいて、それ以降のページは全くの白紙。僕はその本を本棚に戻し、1と表記された一冊を手にした。
目次は、同じく年月日付オンリー。僕はページをめくり、紙に刻まれた文字に目を通す。
中に書き込まれていたのは、一人の人間の、生まれてからの記録だった。それは、しかし日記というわけではなく、あくまで客観的に綴られている。それこそどこぞ観察記録のようで、僕は子供の頃に読んだファーブル昆虫記を思い出した。
「また来たの?」
背後で衣擦れの音がして、ベッドのスプリングが軋んだ。肩越しに伸ばされた白い腕が、開かれたままの本を掴んで持ち去る。僕はそれにつられて振り返り、ベッドの上にちょこんと座った女の子に微笑んで見せた。
部屋同様、真っ白な印象を受ける子だった。
真っ白なワンピースから覗く肌は病的なほどに青白く、ショートの銀髪が余計に拍車を掛けている。病弱なお嬢様、といった雰囲気を漂わせているけど、こちらをじっと見つめる青い眼は活発に動き回り、好奇心の強さを露呈していた。
「ずいぶん薄っぺらい内容ね」
女の子は本を閉じ、適当に放り投げる。僕はベッドの上に転がった本を棚に戻しながら、「これが自分の人生だなんて、嫌になっちゃう」と続いた声に顔をしかめた。
女の子の、短く、薄っぺらい人生を詰め込んだ本。何十年という人生の全てを記録するはずだった本のほとんどは白紙で、彼女の一生を綴った部分にしても、普通の人間の何十分の一にも満たない量でしかない。清潔すぎる地下施設と、アメリカの片田舎で僕と過ごした日々。彼女の人生を語るのに必要なのは、その二つの要素だけ。それ以外に何も持ち合わせていないがゆえの、薄っぺらい人生。
僕は唐突にこみ上げて来た嗚咽と、灼熱する涙腺を押さえつける様に、「ごめん」と一言だけ絞り出す。
ぽふっ、と背中に柔らかい感触が伝わりり、僕の腰に細い腕が回される。背中に当てられた額が僕の背骨周りをグリグリと押し、腰を捉えた腕が少しずつきつくなる。
「私は謝って欲しくなんかない。だって、後悔してないから。一緒にいるのは楽しかったから」
でもね。そう彼女は付け足し、より一層強く額を埋める。
「圭一の謝罪を、あなたへの罰を望む人は、とても多いと思うわ」
そうだね、と僕は返して、ゆっくり体の向きを変える。振り向いてみると、真っ白だった壁もベッドも綺麗さっぱり消え去っていて、 代わりにだだっ広い白が広がっている。
僕は腰に抱きついたままの女の子の頭を撫で、僕に憎悪の視線を向ける群衆を見た。
何億、何十億もの人々が際限のない世界に佇み、僕を睨みつけている。手榴弾で吹き飛ばされた幼児たちや、子供を抱えたまま挽肉になった母親を先頭にありとあらゆる国々の死者が並び、僕の謝罪を待っている。
彼らは皆、僕と、一人の男が作り上げた地獄の犠牲者だった。
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世界を地獄のどん底に突き落としたのは2人の男だ。
その片割れが僕、伊月圭一 。もう一人は今どこにいるのか分からないけど、どうせ僕よりよろしくやっているに違いない。
世界を終わらせるのはひどく簡単だった。
ウイルス兵器を持ち逃げした男を追い回していた僕が、彼を2度ほど見逃しただけで、あとはポンポンと事が進んで行ったからだ。
ウイルス兵器を詰めた容器は世界中の破滅思想宗教団体やテロリストの手に渡り、示し合わせた様に一斉開放された。結果として、人間の理性を破壊し身体能力の向上をもたらすウイルスの発症者は世界中で暴虐の限りを尽くし、現世に地獄が顕現したわけである。
主犯格の男を一度は自分の意思で見逃した僕は、あらゆる国家がウイルスに食い尽くされ、抱え込んだ発症者と攻め込んでくる隣国相手に殺し合いを繰り広げる終わりの見えない戦いに加わり続けた。
だからこそ、僕は彼らから恨まれる義務がある。
彼らに面と向かって真実を告げる勇気のない僕は、死者の群れに投げ込まれて、引き裂かれるだけの理由がしっかりと存在していた。
どれくらいの間、彼らと見つめあっていただろうか。僕らは一言も口を開かず、同様に彼らも押し黙ったまま。
無音に満たされた空間にはしかし、声にならない怨嗟や呪詛の言葉がひっきりなしに響き渡っている。
「償わねばならないとは思う。だけど、僕は謝罪するつもりもなければ後悔もしない。無論、彼らのために死んでやる気もない」
僕はつぶやく。
「そうね。そう言うと思った」
女の子は頷き、僕を抱きしめていた腕を解いた。
「そろそろ時間みたい。あなたは帰らなくちや」
彼女が言う。僕は微笑んで、女の子の頭に手を置く。その間に、視界いっぱいの白がまばゆい光を放ち始め、やがて、僕の意識を丸々刈り取った。
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