1994年4月、劇画「空手バカ一代」の主人公、「神の手」と異名を取った極真会館館長の大山倍達氏が死去した。世界中に1200万人以上の門弟を抱えた「ケンカ空手の王国」は、ほどなく四分五裂を始める。同じ「最強の極真」を目指したはずの幹部門弟たちが2代目館長の座を巡り、戻り道のない本筋争いにはまり込んでいったのだ。本書は分裂事件に絡みついた嫉妬や欲望を暴き、苦悩や困惑を語り、失態や覚悟を描く。著者が早くから松井章圭氏を支持したため反対派の取材は途中で拒否され、一方的な証言に依拠した記述もみられるが、絶対的カリスマが倒れた後の強烈に人間臭い、そしてたぶん不可避の、離反のドラマにズンと胸を突かれる。
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新潮社・2310円