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LINE立ち上げ当初、社内各部門の精鋭が集められた。そのひとりとして長く開発にかかわる堀屋敷。

各チームが同時多発的に開発を進めるメリット

—— LINE自体も、企画からリリースまでの期間が1カ月半くらいだったと聞いています。当初10名程度だった開発チームの初期メンバーである堀屋敷さんに伺いたいのは、「それって開発側の人間が大変過ぎないですか?」ということなんですが(笑)。

堀屋敷 勉(以下:堀屋敷) そうですね、最近は家に帰れていますが、LINEのリリース前はほとんど家に帰れませんでした(苦笑)。

舛田 まぁ、LINE関係者は特に大変だったと思います。わたしがいろいろお願いごとをするから(笑)。

堀屋敷 でも、これはいまに始まったことじゃないんですよ。例えば旧ネイバーの開発陣には、「いまコード書いているからほかの仕事は後で」みたいな空気がない。皆がいくつもの課題を共有していて、各チームがゴールに向けて同時進行で進んでいく。だから、LINEの開発でも、毎朝共有されるデータを見ながら、突然予定外の打ち合わせが始まったりするんです。このDNAは、NHN Japanになってからも変わらず踏襲されています。

LINEのチーム内では、一旦全員でいろんなことを検討して、ある仮説に至ったら、同時多発的にそれぞれのチームがベストパフォーマンスを考えて動くんですね。エンジニアがコーディングするのを待ってからじゃないと、デザイナーが動けないということもない。だから、完成までのスピードが速まりますし、コンセプトを皆がシェアしているから柔軟に動けるんです。

—— その開発のコンセプトは、誰がどうやって決めているのですか?

堀屋敷 全員です。ですよね?

舛田 そうです。もちろん、リーダーが最終的な決断を下しますが、企画・開発・デザイン・マーケティング、あらゆる関係者が日々のデータを見て、やるべきことをとらえ、PDCAを高速回転できるように動いています。リーダーが指示しないと開発が進まないという状況も、あまりないですね。

—— あえてLINE事業の成功要因を挙げるのであれば、その全体感やスピード感にあったということでしょうか?

舛田 そうかもしれません。韓国のNHN本社から来たエンジニアにも、「LINEチームの開発スピードは異常だ」と言われたほどですから(笑)。

スマートフォンアプリの世界は、それこそ世界中に競合がひしめいていて、コミュニケーションサーヴィスに限ればさらに熾烈な過当競争にさらされています。そんななかで、一発屋で終わらず、長く愛されるアプリをつくるには、常にアップデート可能で可変式の開発体制でなければダメだと考えています。

堀屋敷 わたしはSIer出身なのですが、前の職場でやってきたウォーターフォール型の開発スタイルでは、この世界では通用しません。先ほどもありましたが、すべてを流れのなかで判断して、開発し続けるスタンスが大事なんですね。

—— そこで堀屋敷さんに伺いたいのが、エンジニアは何をどう切り替えれば、LINEが行っているような開発に適応できるのでしょうか?

堀屋敷 当たり前のことかもしれませんが、愚直に最新情報を集めて、マーケットの動きや手がけるサーヴィスに対するユーザーの反応を知ることが第一歩になると思います。その前提がないと、どう動けばいいかを考える指標が得られないですから。

舛田 自ら考えて動くという点でわたしが感じているのは、最近は開発に必要なアプローチそのものがシフトしつつあるんじゃないかということ。例えば、いままでのサーヴィス開発では、自分が必要だと思うものをつくるのが「正解」だったと思うんですね。

でも最近は、ネットサーヴィスの数も、それをつくる人も、さらに言うならネットサーヴィスを使う人も、世界規模で膨大に膨れ上がっている。そんな状況下では、時には周りの人たちに「そんなの必要ないじゃん」と言われるようなものをつくることも必要だと思うんです。

—— 興味深い示唆ですね。もう少し具体的に言うと?

舛田 ちょうどLINEの開発をスタートしようとしていたときに、ある同業の方からこう言われたんです。「Skypeがあるんだから、そういうサーヴィスはもういらないのでは」と。でも、わたしはそのときにチャンスだと思いました。もし、そう考えている人が業界内で多勢を占めるのであれば、彼らは一般の人たちがSkypeを使っていない理由まで考え抜いていないと直感したからです。

Skypeはとても素晴らしいサーヴィスですが、ある程度、PCやインターネットの知識がないと、使いこなせない部分もある。だから、実際に若年層や女性層、ご年配の層などには、ほとんど浸透していないわけじゃないですか。じゃあ、本当に老若男女が誰でもすぐに始められて、その後も当たり前に使いこなせる無料通話アプリって……と考えていくのが、とても重要になるんです。「自分以外の環境」があることを想像する力というか。

当り前のことでもあるんですが、こういうプロセスで物事を考えられないエンジニアは、スマートフォンアプリやコミュニケーションツール開発の世界で、生きていくのが厳しくなっていくのではないでしょうか。

—— そういった思考プロセスで導き出されるのが、開発のコンセプトだと?

舛田 そうなります。そして、このコンセプトありきの開発をチーム全体でできるようになれば、先ほどお話したような「流れのなかで」「同時多発的に」プロジェクトを進めていくことも可能になる。そこから先は、いろんな開発が進んでいるなかで、この瞬間に最も優先度が高いものがどれかを見極めて、そこにフォーカスしていけばいいのだと思います。

そういう意味で言うと、LINE cameraなんかも「LINEの3,000万人(※開発当時)のユーザーベースを生かしたサーヴィスとは?」というLINEのプラットフォーム展開を図るという流れのなかでフォーカスしたもので、うまくヒットしてくれた。

—— 堀屋敷さんが、言わばこの「同時多発テスト」のなかで正式リリースした機能はあるのですか。

堀屋敷 わたしはAndroid対応をメインにやっているので、Android版リリースのときは「(先行してリリースしていた)iPhoneアプリじゃできないけれど、Androidだからできることって何だろう」みたいにずっと考えていました。そのなかでいろんなことを試した結果、スリープ時に受信したメッセージをポップアップで表示するのはiOSではできない特性だから、「そこで何かできるはずだ」と開発したんですね。それが、「いいね」ということになって採用されました。

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