「ブラッドベリ年代記-作家の横顔と作品の魅力を語る」~第50回日本SF大会「ドンブラコンL」~東静岡2011年9月3日(土)17:00~18:30
SF大会には、無料で見たり参加したりできる一般公開プログラムと有料の分科会プログラムがあります。一般公開フロアだけで楽しむこともできるのです。有料とは、分科会プログラム企画への参加ができることで、参加費を支払うとすべてのプログラムに参加できます。たくさん企画がありますし、ひとつの分科会プログラムは1時間半くらいあるので、興味のあるプログラムがかちあわないようによくスケジュールを練る必要があります。(登録のみもあって、配布物がもらえて星雲賞に投票できます 参加・登録などについては大会HPのFAQにくわしいです)
【修正:9月9日】大会説明を修正しました
私は今回15時から16時半までの萩尾望都さんの「小さなお茶会」(ネット公開不可)に参加させていただいた後、17時からおなじく萩尾望都さんと他おふたりの方、3人の方のトークイベントに参加しましたので、間が30分しかありません。
当然、出演されるご本人やスタッフの方もすごく大変だったでしょう。
今年、レイ・ブラッドベリの初めての伝記ともいわれる『ブラッドベリ年代記』が中村融さんの翻訳で刊行されたことで、ブラッドベリのあらたな素顔が明らかになってきました。「SF界きっての叙情派詩人」はオヤジだったのか??などなど、翻訳家の中村融さん、ブラッドベリ大好きな萩尾望都さん、ジュブナイルSF研究家、ファンタジー、ライトノベル書評家の三村美衣さんの3人が語ってくださいます。〔大会パンフレットより抜粋&アレンジ〕
大急ぎで会場に行くと、大きめの部屋にはすでに出演する3人の方が前方の机に座っていらっしゃいます。
すーっと、最前列へ進み出ると…
(あれっ、最前列に誰もいない。関係者席かな?)
と、おもうが、な~んにも表示がないので、えいっと最前列の萩尾望都さんの真正面に座る。
すぐに、講演が始まります。
三村美衣さんが司会役で、はじめに規定関係の説明。
「お写真はOKです。萩尾望都さんのサインはNGでおねがいします。中村融さんとわたくしのはOKです(笑)よろしくおねがいします。」
三村さん「萩尾さんは2010年7月に(カリフォルニア州)サンディエゴで開催されたコミ・コン(コミック・コンベンション)で、インクポット賞を受賞された時に、実際にブラッドベリに会ったんですよね。」
萩尾さん「はい、会いました。サインもいただきました。」
と、サインの色紙を大きくかかげる萩尾さん。長い間高く高くかかげてくださいました^^
(ありがとうございますー。)
三村さん「萩尾さんのブラッドベリとの出会いは…。」
萩尾さん「20のころ出会いました。本屋さんの棚に2冊あったんです。『10月はたそがれの国』と『ウは宇宙船のウ』【追記参照】。(まだブラッドベリを知らず)2冊出しているから、きっとおもしろいんだろうとおもって…ww どっちを買おう、とかんがえ、表紙がかわいくてこっちの『10月はたそがれの国』を買ったんです。」
と、持って来てくださった実際の本をかかげてくださいました。
萩尾さん「でも、一晩で読んでしまって…。翌日、『ウは宇宙船のウ』【追記参照】を買ってすぐに読みました。」
「(読んだ印象は)心に突き刺さるような、あとあとまでひきずるような(感じでした。)」
「エドガー・アラン・ポーのような系列じゃないかとおもったんです。いままで、フレデリック・ブラウンや(ヘンリー・)カットナーを読んでいて好きだったんですが、ブラッドベリは不思議な味わいで…」
と、出会いがショッキングだったことをお話しされました。
【追記:2012年5月31日】
今までこちらを『スは宇宙(スペース)のス』と書かせていただいておりましたが、『ウは宇宙船のウ』の聴きまちがいと思われますので修正いたしました。といいますのも5月に刊行された萩尾望都対談集1980年代編『コトバのあなた マンガのわたし』に収録のエッセイ「ブラッドベリ体験」(1989年)に最初に読んだ本として『10月はたそがれの国』『ウは宇宙船のウ』(創元SF文庫 初版1968年)を挙げていらっしゃるからです。「ブラッドベリの本との出会いは20才のとき」とあるので、『スは宇宙(スペース)のス』(創元SF文庫 初版1971年)はまだ出ていません。
三村さん「私はブラッドベリを読んで、素敵な男性をイメージしていたら、(写真を見て)見た目がフツーのおじさんだったw」と、別のショックを隠せないご様子。
中村さん「子どものころはブラッドベリが好きではなかったんです。詩人ぶってて…。ナヨナヨした感じで…」
萩尾さん「そういえば、ブラッドベリの先祖に魔女裁判にかけられた人がいるというのを読んで、ブラッドベリらしいなぁーとおもったんです。」
三村さん「(『ブラッドベリ年代記』の表紙を見て…)あぁ、見た目が…w」
中村さん「彼はオヤジですよー。」
萩尾さん「オヤジ、だったんですか?」(!)
中村さん「いやー、これは萩尾さんには言いにくいですけど、イメージが壊れちゃうかもしれませんが、彼は好色だったという話しもあるんですよ。」と、ブラッドベリが好色だったエピソードの話し。結婚する前の奥さんと恋人同士だったとき、どこでもかしこでもいたしておりw、ある時お父さんにその場を見られてしばらく口をきいてもらえなかったとか…、ベッドではないところでもどこでもいたしていたとかw…。(これは、4月の池袋ジュンク堂トークセッションでも大森望さんが話していたので、みなさんくいつくエピソードなのでしょうw)
萩尾さん「では、オヤジ目線で読んでみます。」(ww んまいっ!)
つづけて、「新鮮なブラッドベリも知りたいです。」
ブラッドベリは絵も描いたということで、スクリーンに何点かのイラストが映し出されます。
中村さん「ブラッドベリはちょっと変わった、おもしろい絵を描きますよね。萩尾さんのマンガの描かれ方はどうですか。」
萩尾望都さん「絵を描いているうちに、話が指先から生まれてくる感じがします。脳の中の言語能力の部分と指を動かす部分は隣り合わせなんだそうです。だから、両方を同時に使うのはとてもよいことのようです。」と、手を動かして、丁寧にご説明されます。
ブラッドベリのイラストが初めて本の表紙に使われた猫のイラストが紹介されると…
中村さん「これは、アメリカでの原書です。翻訳本は(編集さんの意向で)別の表紙になっています。萩尾さんは、どうですかこの絵は?」
萩尾さん「いいですね。いいとおもいます。中村さんは表紙に使いたくないですか?」
中村さん「うーん、使いたくないですねー。」と、かなりはっきりw
ブラッドベリが大好きだった叔母さんの話し。
中村さん「この叔母(伯母?)さんからの影響が彼を小説家にしたのは明確。お気に入りで、叔母さんの家に入り浸っていた。」
本もたくさん読んで、絵も描く、個性的な人だったよう。
次に、萩尾望都さんがマンガ化された『ウは宇宙船のウ』の見開き扉絵がスクリーンに。
萩尾さん「このロケット、ちゃんと飛ぶのかしら…!」
中村さん「一番お好きな作品は?」
萩尾さん「『霧笛』です。」
と、恐竜が出てくるあらすじの説明からも、おもい入れたっぷりなのが伝わります。
中村さん「ブラッドベリの魅力は?」
萩尾さん「はてしのない永遠性…透明性…、うーん、なんというのか人間や生活といった(あたりまえだけれども)いとおしいものが描かれるところ。ウエットだったり、ちょっと、いじわるなところもある。それも好き。」
「『二階の下宿人』という作品では、吸血鬼が出てきて残酷な気持ちの悪いシーンも出てくるんだけど、それが気持ち悪くないんですよね。きれいなんです。描かれ方が…」
「あと、『さなぎ』とか…」
中村さん「ノスタルジーって、子どものノスタルジーはアメリカだろうが日本だろうがわかるじゃないですか。夜の怖さとか。でも、おとなの郷愁って言ってもアメリカ人のノスタルジーってわからないですね。おとなになってから、ブラッドベリの良さが分かるようになったけれど、わからないところはわからないですね。」
小学館文庫『ウは宇宙船のウ』萩尾望都(最初にでたのは集英社文庫1978年初版)⇒リニューアルなさったのでリンクを貼り直しました。
萩尾さん「『ウは宇宙船のウ』は、どうしても意味がわからなかった1行があったんです。後でわかったんですが、マンガ化する時はわからないままで描きました。」
「『そんなに食べてはだめよ (クリス!)目のほうがおなかより大っきいんだから』のところで、のちにわかった意味は“目で見ているものが全部おなかにはいるわけではないんだから”」
(これは、主人公クリスが友だちのレイフに“心を相手に戦いをはじめた”ことを宣言する場面での、今まで200万回母親に言われたというセリフ。次のコマでは「---あんまり見るんじゃないよ クリス からだにくらべて心のほうが大きすぎるんだから」と自らいいかえてみている)
中村さん「マンガ化するためのセリフはどうやってつくるんですか。原文で読まれるんですか?」
萩尾さん「原文も全部読んで、意味を考えます。わからないところは、訳を読みます。セリフにするためには、短くしていくんです。コマに入るように。」
ブラッドベリの原文について
中村さん「けっしてわかりやすい文ではないです。アメリカ人にとっても、読みにくい、くせのある文です。」
訳について
中村さん「訳者の性格や好みはどうしてもでますね。それによって、訳が変わってくるし、イメージも変わってくる。」
原書とイメージが大きくちがう作品や、登場人物がちがっている例のお話し。例えば日本語訳では、おとなしそうなイメージの男の人が、原書だとかなりガツガツした主張の強いがっしりした男だったり、女の子が年上のおねえさん、というよりむしろおばさんだったり…。というようなお話し…
中村さん「すでに日本語訳が出ているものを、正しい訳で出したら、『これは間違った訳だ!』と、すごく言われた!」
『集会』について
三村さん「これは、萩尾さんもマンガ化していて、中村さんも翻訳している作品ですね。」
「ティモシーというちょっと変な、みそっかすの少年が出てきて、クモが友だちなんですよね。」
萩尾さん「ブラッドベリも、子どものころ、クモが友だちだったんですかねー。そういう少年だったのかしら…。」
中村さん「マンガ化する作品はどうやって選ばれたのですか。絵にする苦労は…?」
萩尾さん「す~ぅっと、絵になりやすいものを選んだんです。絵にしてみたいものをマンガにしました。」
萩尾さん「ブラッドベリは子どもの描き方がおもしろいですね。あと、生と死とか…。死を描きますよね…。」
中村さん「多いですね。彼は、幼い時に身近な人がたくさん亡くなっているという経験をしているし。今とちがって戦争もあるし、病気もあるし、大家族で、おば・おじ、いとこやおい・めいといった周りに人が多いから、自然とそういった経験も多くなる。」
ここで、最近刊行された本『ブラッドベリ年代記』(2011.3)を三村さんがかかげて、
「こちらが今年3月に出たブラッドベリの初めての(公認の)評伝です。中村融さんが翻訳されています。」
本人や関係者へのインタビューがたくさん載っているようです。
おもしろいエピソードもたくさん出てきて、萩尾さんはちょうどそのおもしろいエピソードのところまで読み進んでいるとのことでした。道でばったり、すごい人物に会うとか…。
おかしな能力の話しに…。
映画女優マルレーネ・ディートリッヒとのツーショット写真まである!
「どうしてこんなすごい写真があるの。」
中村さん「彼はすごいおたくだったんです。ディートリッヒがわざわざ撮りやすい位置に移動してくれたそうです。」
「これは誰がカメラで撮っているんでしょう?」
「いっしょに、追っかけをしていたおたく友だちでしょう。子どもの時は友だちがいなかったけれど、小説を書くようになって同じ趣味の友だちが増えたんです。」
そういえば、ブラッドベリではないけれど…と中村さんから有名エピソードの紹介。
キューバの海辺で、ヘミングウェイが隣の人に、
「わたしはこの間、南極に行ってきたよ。」と話しかけると
「わたしは、あそこへ行っってきたよ。」と、空に向かって指をさしたのが、ガガーリンだった…
三村さん「作家って、特殊な能力を持っていませんか。変な力とか。」
萩尾さん「作家は、妄想で食べていますからね…。そういえば三島由紀夫も生まれた時の記憶があるとか、ちょっとおかしなことを言っていますね…」
中村さん「ブラッドベリの実際のくらしぶりを読んでいると、作品の内容そのものの時があります。これなんか、彼と奥さんのこと、そのまんまですね。そのまんま小説になっています。」
(どの作品かは、失念です。スミマセン)
中村さん「彼が浮気をして奥さんを家において彼が出ていってしまった時があるんですよ。」
萩尾さん「ブラッドベリは浮気したんですか?」
中村さん「しています。彼は2度浮気してます。」(!)
萩尾さん「まぁ…」
中村さん「その出ていってしまったブラッドベリに、奥さんが『やっぱり、わたしはあなたを愛しているから、帰って来てほしい』というところがあるんです。」
萩尾さん「いいはなしですね…」
中村さん「いいはなしですよね。これもそのまま作品になっています。」
三村さん「では、最後におすすめ作品を3作あげるとしたらどうでしょう。あ、これは先に振っとくべきでしたねw」
中村さん「いまは手に入らないのですすめられないのですが一番は『恐竜物語』です。短編集で挿絵もすごくいい。」
「手に入るのでは、『火星年代記』、『刺青の男』です。」
『刺青の男』の原書『The Illustrated Man』
すごいイレズミのイラスト
萩尾さんはかなり悩まれて、
「『華氏451』、『何かが道をやってくる』…これは、“避雷針売り”がやってくる話なんですが、“避雷針売り”って、いるの??」
三村さん「私もそう思いましたっ。本当にいるんですかねー。」
「あんな長いの持って…?」
「いるんじゃないですかねー。書いてあるんだから…」(!?)
萩尾さん「一番は…『10月はたそがれの国』…あぁ、でもこれははじめは怖い話だからまん中のあたりから…!」
中村さん「では、萩尾さんの一番のおすすめは『10月はたそがれの国』のまん中のあたりから、といことで!」
萩尾さん「はい…。」(^^)
「『ウは宇宙船のウ』も…しんみりするノスタルジーの世界で、好きですね…」
スクリーン画像では、旧版の赤い大地の文庫表紙の紹介がありました。
中村さん「アメリカで評価が高いのは『たんぽぽのお酒』です。」
三村さん「ブラッドベリの近況は…」
中村さん「いまは、もう車椅子ですし…最新作は2009年です。」「ただ、91歳のお誕生日(2011年8月22日)に『たんぽぽのお酒』の映画化の話しをしていて元気そうな姿をみせたんですよね。」「新作はむつかしそうですね…」
『We'll Always Have Paris: Stories』(2009)
最新作にあたる短編集 新しい作品と古い作品が半分くらい エッセイっぽいものなど収録
三村さんが用意してきたすべての画像を、順々にスクリーンに映し出してくださいました。
萩尾さんのマンガ化作品の表紙イラストも。
映し出されている画像をみて、
萩尾さん「『びっくり箱』は主人公がもとは男の子でしたが、男の子の話ばかりになるので女の子にしました。」
「『ぼくの地下室においで』も、そうですね。」
「『泣きさけぶ女の人』も、女の人にしました。」(そんなにかえていたんですね。へ~)
中村さん「彼の魅力は生と死を絵でイメージできるところだとおもいます。本人は“メタファー”と言っています。」
うんうんと、うなづきつつ、
萩尾さん「(やっぱり)きれいなところ…」
おしまい
※内容につきましては、メモから書きおこしておりますので、もれ・まちがい・ニュアンスのちがいなどあるかもしれません。大きくちがう場合などはやさしくご指摘願います^^
☆萩尾さんのブラッドベリとの出会いや想いはエッセイ集『一瞬と永遠と』42ページ「食卓にはブラッドベリの幸福を」にもくわしいです。
☆Web文芸誌『マトグロッソ』さんのレポート『萩尾望都のSF世界』第2回にも萩尾さんのブラッドベリとの“最初の出会い”と、40年後のサンディエゴでのまだ生きていた!ww の“まさかのご対面エピソード”があります。第3回にはSF大会(ワールド大会・日本大会)についてのお話しもあります。(リンクはさらに右側のバナーをクリック)
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