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弁護士コラム 「隔週一言」

「弁護士と政治家の役割について」

2009/08/15

 弁護士という職業は、社会の中で起こる様々な紛争を法律的に解決すること(対立する利益・利害の調整)が、その仕事の中心です。

 しかし、と言うか、実は、弁護士の仕事はそれだけではありません。弁護士法という法律があり、その第1条1項には、こう書かれています。

 「弁護士は、基本的人権を擁護し、社会正義を実現することを使命とする。」

 現代社会においては、「基本的人権の擁護」も「社会正義の実現」も、法律だけでは解決できない問題が山積みしています。例えば、生活保護におけるいわゆる母子加算の廃止が生存権保障(憲法25条)に違反するという訴訟があります。他方で、この母子加算の廃止(撤廃)は、国会でも、与野党の議論の対象になっています。水俣病訴訟、原爆訴訟においても、「政治的解決」云々が盛んに議論されていることは、皆さんもよくご存知のことと思います。

 このように、弁護士が関わる仕事の中には、法律問題でもあり、政治問題でもあるものが極めて多いのです。


 では、弁護士はどのようにこれらの問題に関わるのでしょうか。

 訴訟を起こすことで、ある問題を社会的にアピールして人権救済を実現するという方法もあります。その場合、単に法廷(裁判)での活動だけではなく、広く、社会的な運動をする場合も少なくありません。そして、その延長上に、政治活動をする、あるいは、端的に、政治家になるという方法もあります。人権活動家であった弁護士が大統領になるという例は、米国のオバマ大統領の例を挙げるまでもなく、世界各国で数多く見られます。

 もっとも、政治家として活動することは、法律を作ったり行政を動かしたりすることなどであってダイナミックではありますが、それだけで、「基本的人権を擁護し、社会正義を実現する」ことが十分かというとそう単純ではありません。ある法律ができても、実際に、その法律で個人の人権や権利(利益)が守られ、「社会正義が実現」しなければ、法律は「絵に描いた餅」に過ぎないからです。やはり、人権や権利(利益)が正当に擁護されるためには、個別の訴訟での人権や権利(利益)の救済が不可欠です。

 そうすると、言わば「現場で」、依頼者の人権や権利(利益)の救済のために活動する弁護士が数多く存在して、活発に活動しなればなりません。政治家だけ、あるいは、政治の力だけでは、「基本的人権の擁護」も「社会正義の実現」も実現するわけではないのです。


 ところで、日本の社会では、弁護士(法律家)は、政治家(議員や首長)と比較して、身近な存在かというと残念ながら必ずしもそうではないようです。その理由は、弁護士の人数が少ないことにも関係があるかもしれませんし、紛争を法律的に解決することに時間がかかり過ぎることにも原因があるかもしれません。あるいは、法律的解決(対立する利益・利害の調整)というシステムが、日本の社会に十分に定着していない(馴染みにくい)のかもしれません。

 しかし、社会が複雑化して、人々の権利や利益が複雑に衝突する社会では、その時代と社会に適った法律を作りそして変えること、そして、その法律に基づいて、現場で紛争(利害の対立)を迅速に解決することは、どちらも不可欠な要請です。その際、前者は政治家が、後者は弁護士(法律家)がこれを担うことになります。そして、現場での法律的解決に限界がある場合には、また、法律そのものを変えることも必要です。

 健全で成熟した社会(基本的人権が擁護され、社会正義が実現する社会)の実現のためには、弁護士(法律家)も政治家も、それぞれがその役割を十分に発揮することが必要です。

 市民の皆さんも、私たち弁護士(法律家)に対し、政治家(議員や首長)と同様に関心を持っていただき、率直なご意見をいただけると幸いです。

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 このコーナーは、札幌弁護士会の会員をご紹介しつつ、その方が弁護士として仕事をする中で、普段考えておられること等をコラムにまとめて記載していただいているものです。
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