7月25日、石油などを扱う商品取引大手や穀物メジャーの一部にとって、過去1年はシリアなどハイリスクな国々とも積極的に取引するというビジネスの「原点」に回帰した年だったと言える。写真はシリア北部アザズで撮影(2012年 ロイター)
[ジュネーブ/ロンドン 25日 ロイター] 石油などを扱う商品取引大手や穀物メジャーの一部にとって、過去1年はハイリスク・ハイリターンな国々とも積極的に取引するというビジネスの「原点」に回帰した年だったと言える。
中東の民主化運動「アラブの春」で政変が起きたエジプトや内戦状態にあるシリアなどに加え、核開発疑惑をめぐり経済制裁を受けるイラン、そして債務危機に陥っているギリシャといった多くのチャンスを逃さなかった。
ジュネーブに拠点を置くコモディティ・ファイナンス・トレーディング・アドバイザリー・サービスのトン・シューリンク氏は、大きな利益が見込めるなら、商社は高いリスクを覚悟の上で、紛争や負債などのトラブルを抱える国々ともあえて取引すると指摘した。
スイスのグレンコア、オランダのビトルやトラフィギュラといった商品取引大手や、米カーギル、仏ルイ・ドレイファス、米ブンゲなどの穀物メジャーのこうした動きは、十分大きなリターンが望めるなら、治安や信用面でのリスクを冒す価値があることを示している。
例えば、イランに穀物を売った場合、最大級の貨物船1隻当たり200万ドル(約1億5700万円)の利益が得られるという推計もある。リスクの低いバイヤーと取引した場合の利益は20万ドルと、10倍の差があるという。
クアドラ・コモディティーズのロバート・ペトリッチ最高財務責任者(CFO)は「他社と差別化を図るためには、リスクを取らなければならない」と指摘する。
<リスクに伴うプレミアム>
国債の信用格付けが今や多くのアフリカ諸国よりも下のギリシャ。多くの企業が、同国政府が株式を保有する石油精製会社ヘレニック・ペトロリアムとの取引を尻込みするのも驚きではない。
そんな中、グレンコアとビトルは、ギリシャのデフォルト(債務不履行)を恐れなかった。2社は少なくとも3億ユーロ(約290億円)の原油取引において、銀行からの保証を必要としない無担保信用取引を行ったとみられている。両社からのコメントは得られていない。
同様にエジプトの場合、軍部による暫定政権は、燃料不足で国民の怒りを再び買うのを避けるため、今夏に向け大量の燃料を必要としていたが、支払い条件の難しさなどから取引を渋る企業もあった。
結局、エジプトは大統領選を控え再び不安定化が懸念される中、ビトルやグレンコアを含む複数の商社から、市場価格以上の値段を払って12億ドル相当の燃料を購入。同国と取引する商社のある社員は「上乗せ率は相当額に及ぶ。脅威が現実的なら、恐らく25%くらい」と明かす。3万トンのディーゼル燃料は現在の相場で換算すると約2500万ドルとなるが、上乗せ率5%でも125万ドルのコストが追加されることになる。
<やけどしかねないシリアとの取引>
混迷が深まる一方のシリアでは、現地で操業する企業は当初こそ撤退を躊躇(ちゅうちょ)していたが、内戦による死者数増加や経済制裁による事業環境の悪化を受け、今では多くが取引を中断している。
昨年9月ごろには、ビトルとトラフィギュラが数百万ドル規模のシリア市場を断念。その一方で、スイスのAOTトレーディングやモナコのギャラクシー・グループ、ギリシャに拠点を置くナフトマールはその間隙(かんげき)を突き、取引を行った。
こうした企業は冬の間、シリアにディーゼル燃料と調理用ガスを供給。ディーゼル燃料は主に政府軍の戦車などに使用されていることから物議を醸した。
1カ月当たり約5500万ドル相当の調理用ガスを供給していたナフトマールは、シリアの人道危機の悪化を防いだと主張。しかし、アサド政権の延命を助長したとの批判は免れなかった。同社のディレクターは「単に政府系企業との契約を履行しただけ。制裁が科されてからは取引していない」と述べた。
AOTとギャラクシーからのコメントは得られていない。
<イランは「金になる」相手>
核開発疑惑で欧米から制裁を受けるイランは、カーギルやブンゲ、ルイ・ドレイファスなどの穀物メジャーやグレンコアにとって、利益の出る取引相手だ。経済制裁で原油輸出が禁止されたイランでは、食料品の輸入価格が高騰している。
穀物や砂糖の取引は禁輸対象外だが、ドル建ての貿易決済は金融規制の対象となり、かつてイランと取引していた企業は撤退するか、取引量の削減を余儀なくされている。
しかし、複数の業界筋によると、数十億ドルのクレジットラインと弁護団を有する大手商社は、合法的に規制をすり抜ける方法を見いだすことが可能。穀物取引1トン当たりの利益は15―30ドルにもなり、通常1回当たりの輸送で最大200万ドルの粗利益が見込めるという。
スイスに拠点を置くカーギルとブンゲの貿易部門は、ドル建てではない決済によってイランへの食糧取引を継続することができる。
グレンコアは詳細を語らなかったものの、制裁には違反せずに、トウモロコシと大豆かすの対イラン取引を続行することができると確認した。
<スイス・ヘイブン>
大手商社の大半はスイスに拠点を置いている。ジュネーブは、イランとの食糧取引のような貿易を行うには格好の拠点となっているという。スイス当局からの特別な許可が必要ないからだ。
制裁を管轄するスイス当局の広報担当者は、イランとの食糧取引はスイス政府に申告する必要があり、こうした取引が続いていることを確認した。
ただ、米国系企業の場合はいくぶん厄介だ。米財務省の海外資産管理室から特別ライセンスを受ける必要があるからだ。EU加盟国の企業も、各国当局からの認可が必要だ。
また、こうした完全に合法的な取引でも危険は伴う。ジュネーブの法律事務所ホルマン・フェンウィック・ウィランの弁護士、マシュー・パリッシュ氏は、イランとの取引は「書類引換現金払い(CAD)でなくてはならない」ため、規制以外にもリスクが潜んでいると指摘している。
(原文執筆:Emma Farge記者、Jessica Donati記者、翻訳:伊藤典子、編集:宮井伸明)