カリン語に翻訳した聖書などの資料を示す鳥羽さん=安曇野市 |
北安曇郡池田町中鵜の言語学者鳥羽季義(とばすえよし)さん(74)は、ネパール東部のエベレスト山麓の一部で使われている言語「カリン語」で、「旧約聖書」の翻訳を完成させた。カリン語には文字がないため、表記にネパール語の文字を使用。完成まで11年を費やした労作だ。鳥羽さんは1970(昭和45)年から7年間現地の村に住み、住民に識字教育もしてきた。足掛け40年の活動を振り返る展示を8月23日まで、安曇野市の書店で開いている。
鳥羽さんは慶応大卒業後、英語教員を経て米国に留学。江戸時代に聖書が日本に伝わった時の翻訳のされ方などに関心を持ち、聖書の翻訳・普及を目指すキリスト教団体にも入った。
ネパールで医療支援をしていた日本人医師から、多民族多言語の同国では、文字のない言葉を話す人がいると聞き、調査。約2万人がカリン語を話す5村を探しだし、ネパール国立トリブバン大の客員教授として70年、研究目的で家族と一緒に住み込んだ。
言葉を知ろうとする鳥羽さんを、住民は最初「スパイでは」と疑ったという。しかし、住民と同じ物を食べて病気にもかかり、住民の救急手当てをし、トイレを建設して衛生面を指導するうちに打ち解けた。カリン語を教えてもらい、文法も覚えた。7年間の滞在後も住民との交流は続いた。
2000年ごろから住民3人の協力を得て、旧約聖書のカリン語訳に着手した。06年4月の共産党毛沢東主義派による政変の際は、入村が許されなかったが、首都カトマンズまでは入れたため、作業を続けられたという。昨年2400ページにも及ぶ訳書が完成。11月に現地で「献書式」を開き、住民に安価で販売した。
安曇野市豊科光の「豊かな命聖書書店」で開いている展示では、完成した聖書の他、識字教育で使った教本を並べた。現地の景色や住民の写真や、献書式の録画映像も見られる。鳥羽さんは「住民が自分たちの言葉を誇りに思ってくれたことがうれしい」と話している。
展示は午前10時〜午後6時。日曜休み。月、土曜日は鳥羽さんが説明する。問い合わせは同書店(電話0263・73・5744)へ。