アスカ・ブライト 〜茜空の軌跡〜 FC

第五章『茜空の軌跡』
第四十四話 深夜の密会

<グランセルの街 遊撃士協会>

グランセル城を出たエステル達は、わき目も振らず急いで遊撃士協会へと戻り、待っていたエルナンにアリシア女王とリシャール大佐と話した事を報告した。

「なるほど、それでは人質を救出するのが最優先の課題となりそうですね」

話をじっと聞いていたエルナンは、そうつぶやいた。
ヨシュアもエルナンの意見にうなずく。

「はい、アリシア様の声明が無いと表立って協力を頼めませんからね」
「どうして、みんなリシャール大佐の言葉を鵜呑(うの)みにしてリシャール大佐達に味方しちゃうのよ」

アスカは王都の人々に対する怒りをぶちまけた。

「親衛隊の人達も、長い間アリシア様の側で仕えて信頼されていたんでしょう」
「それが、手の平を返したような態度をとってしまうなんて」

エステルとシンジは悲しそうな顔でつぶやいた。

「圧倒的な意見に流されて、異議を述べにくい集団心理が働いたのでしょう」
「きっとみんなも心の底では、リシャール大佐の事に疑問を持っているはずだよ」
「ですから女王陛下が動けば、大きな動きが起こるはずです」

エルナンとヨシュアはそう言って、落ち込んだエステルとシンジを励ました。
そしてエステル達はエルナンを交えて人質救出作戦について考え始めた。

「人質達は、どこに閉じ込められているのかしら?」
「おそらく郊外にあるエルベ離宮でしょう。リシャール大佐達の戦略自衛隊はあそこをテロリスト対策の本部として使用すると明言して、民間人を遠ざけてますから」

アスカの質問に、エルナンは自分の推測を述べた。
しかしエルナンの考えを聞いたヨシュアは、難しい顔で意見を出す。

「でも、エルベ離宮に人質が集められていると言う確証がなければ、遊撃士協会が立ち入る事はできませんね」
「実はナイアルさんが、エルベ離宮に取材に行くと言ったまま、姿を消してしまったらしいのです」
「あんですって!?」

エルナンの言葉を聞いて、エステルは驚きの声を上げた。

「なるほど、ナイアルさんの安否を確かめるのを口実に、調査が出来るってわけね」

アスカは感心したようにうなずいた。

「だけど、僕達だけで大丈夫かな」
「ですが都市を結ぶ関所がテロ対策のために封鎖されてしまった以上、他の支部から援軍を呼ぶのは難しいでしょうね」

不安そうな顔のシンジの発言を聞いて、エルナンは心苦しそうな表情でそう言った。

「それじゃあ、アタシ達だけで頑張るしかないわね」

覚悟を決めた様な表情で、アスカはそうつぶやいた。

「私は実行可能な作戦を練りますので、エステルさん達はしっかりと休んで鋭気を養って下さい」
「はい、分かりました」

エルナンの言葉にヨシュアが答え、エステル達はホテルへと向かった。

 

<ホテル『ローエンバウム』 エステルとアスカの部屋>

エステル達がホテルに到着すると、テロ対策のための王都封鎖により観光客がほとんどおらず、閑散としていた。
そしてエルナンによって2人部屋が2つ予約されていた。
4人部屋が空いていると言うのにこのような事をするとは、エルナンにからかわれているのだとエステル達は思った。
エルナンの手には乗るものかと、エステルとアスカ、ヨシュアとシンジの組み合わせで泊まる事した。

「なんだか大変な事になっちゃったね」
「ええ、
正遊撃士を目指すための旅だったのに、こんな事になってしまうなんて」

エステルのつぶやきに、アスカも同意した。

「でもリシャールさん達はどうして、親衛隊の人達と力を合わせようと思わないのかな、これじゃあ守るべきアリシア様達や国のみんなを苦しめてるのに」
「きっと、エヴァンゲリオンを手に入れてしまったからだわ……ごめん、アタシ達がこの世界に来ちゃったせいで」

アスカが暗い顔をして謝ると、エステルは震えるアスカの手を握り、首を横に振ってアスカに穏やかな笑顔を向けながら優しい口調でアスカの言葉を否定する。

「ううん、アスカは悪くないわ。そうだ、アリシア様も言っていたじゃない、きっとリシャールさんは父さんに軍に戻って来て欲しくて、こんな騒ぎを起こしたのよ」
「そうかしら……?」
「アスカがシンジに構って欲しくて、ワザと辛く当たるのと同じだよ」
「言ってくれるわね、もうアタシはそんなツンツンしてないわよ」

エステルとアスカは顔を見合わせて大笑いした。
すっかり元気を取り戻したアスカは嬉しそうな顔をしながら、ゆっくりと話し始める。

「アタシね、前に居た所では、自分独りで生きてきたし、これからも自分の力だけで生きて行くなんて勝手な事を考えていたわ」
「アスカの周りには優しくしてくれる人達が居なかったの?」
「ううん、多分みんな余裕が無かったんだと思う。敵にやられたら人類滅亡なんて、極限の状況だったから」
「あたしにはエヴァゲリオンだとか使徒だとか良く分からないけど、大変だったのね」

エステルはアスカに同情するようにため息をついた。

「アタシ達は得体の知れない存在だったのに、エステル達は優しく家族として迎え入れてくれて、アタシの胸の中が暖かくなる感じがしたの。そう、まるで日陰から出て太陽に照らされたみたいにね」
「そんな、あたしはただ自分がしたい事をしただけだし。太陽だなんて、大げさよ」

アスカに褒められて、エステルは照れ臭そうに答えた。

「だから、今度はアタシがエステルやリベール王国のみんなを守る力になりたいのよ」
「うん、頑張りましょう!」

アスカがエステルの手を握り、エステルの目を見つめてそう言うと、エステルもアスカの手を強く握り返してそう答えた。

「ところで、アタシを散々からかっておいて、エステルの方はヨシュアとどこまで進んでいるのよ」

突然ニヤケ顔になったアスカに聞かれたエステルは、顔を赤くしながら難しそうな表情で答える。

「エルモ温泉で、アスカのように着物を着て、ヨシュアに色仕掛けしたりしたんだけど、ヨシュアには無理をしないで今の関係で居ようって言われちゃった」
「情けないわね、もっとグイグイとアタックしちゃいなさいよ」
「そう言うアスカだって、偉そうに人の事を言えるほどシンジと進んでいるの?」

エステルに聞かれたアスカはごまかし笑いを浮かべて目を反らした。

「でもヨシュアの言う通り、そんなに急がなくても良いと思うわ。リシャールさん達の野望を止めて、生誕祭が無事に開かれれば、エルナンさんの言う通り、ダ、ダブルデートだって出来るんだから……」
「そ、そうね」

エステルとアスカは少し照れくさそうな顔を見合わせて笑った。
これから危険で困難な作戦に挑む事になるのに、不思議と悲愴感は漂って来ない。
エステルの太陽のような明るさに、アスカは心から感謝するのだった。

 

<ホテル『ローエンバウム』 ヨシュアとシンジの部屋>

自分達の部屋へと入ったヨシュアとシンジは、窓の隙間に手紙が差し込まれている事に気が付く。

「もしかして、前に泊まった人の忘れ物かな?」

不思議そうな顔をしてシンジがつぶやくと、ヨシュアは固い表情で否定する。

「違うと思うよ、それならこの部屋を掃除しに来たホテルの人が気が付いているはずだ」
「じゃあこの手紙は僕達が来る直前に入れられたって事?」
「おそらく、そうだろうね」
「そんな、どうやって?」

シンジはヨシュアに驚いた顔で尋ねた。

「伝書鳩のような鳥を使えば可能だよ」
「あっ、なるほど」

ヨシュアに指摘されたシンジは、感心したようにつぶやいた。
紛れもない自分達宛ての手紙だと確信したヨシュアは、慎重に手紙を手にとって中身を確認した。

『今夜、大聖堂まで来られたし』

手紙にはそれしか書かれていないが、ヨシュアは顔色を変えた。

「どうしたの?」

ただならぬヨシュアの様子を感じ取ったシンジは、心配して声を掛けた。

「大聖堂へは、僕が行って来る。君はこの部屋に居て、もしエステル達が訪ねてきたら、上手くごまかして欲しい」
「もしかして、前にカシウスさんと話していた組織に関係があるの?」

シンジが尋ねると、ヨシュアは肯定も否定もしない。

「これは僕の個人的な問題だ、君まで巻き込みたくない」
「水臭い事言うなよ、僕とヨシュアは兄弟じゃないか。それに、ヨシュアを行かせた事を知られたら、僕はエステルとアスカに殺されちゃうよ」

シンジはおどけた口調でそう言ったが、その目は真剣だった。
ヨシュアは降参してため息を吐き出す。

「分かった、一緒に行こう。こうなったら、エステル達に気付かれない事を祈るしかないね」

シンジとヨシュアはホテルの従業員に固く口止めしておくように頼み込み、こっそりとホテルを出た。
ホテルの庭から周囲を見渡すと、戒厳令が敷かれた夜の通りには兵士達が巡回している。
見つかってしまっても、ホテルに連れ戻されてしまうだけかもしれないが、エステル達に気が付かれてしまっては面倒だ。
兵士の目を盗みながら、ヨシュアとシンジは少し遠回りをしながら大聖堂へと近づいて行く。
先導するヨシュアの動きを見て、シンジはヨシュアの索敵能力がとても優れていると思った。
もしヨシュアが本気で自分達の前から姿を消したら、探し出すのは不可能なのではないかと不安を感じた。
どうにか大聖堂へとたどり着いたヨシュアは、静かにドアをノックして名前を告げると、教会の中からドアを開けて入って来るようにと老人の声の返事があった。
ヨシュアとシンジは言われた通りにドアを開けて中へ入る。
そして中の聖堂で待っていた人物達の姿を見て、ヨシュアとシンジは驚きの声を上げた。

 

<ルーアンの街 遊撃士協会>

エステル達がアリシア女王と話していた頃、王都に居るアリシア女王と会うためにジェニス王立学園を出発したクローゼは、ルーアンの街の遊撃士協会へと顔を出した。
しかしクローゼは受付のジャンから大変な事態になっている事を聞かされた。
リシャール大佐が戦略自衛隊を結成し、女王生誕祭前に、国内に潜んでいるテロリストを掃討する作戦を展開していると言うのだ。
ジャンはキリカから遠回しな言い方だが警告をされたので、リシャール大佐の企みにも感づいている。

「だから君には事態が収束されるまでルーアンで待っていて欲しいんだ」
「いいえ、お祖母様の危機とあれば、ますます行かないわけには参りません」

クローゼは強い意志が込められた瞳でジャンを見据えて首を横に振った。
キリカにはアガットとティータが到着するまで、クローゼを遊撃士協会に止めておくように頼まれていた。
リシャール大佐が軍のほとんどを掌握している事を教えても、返って逆効果のような気がする。

「そうだ、シンジ達がこの遊撃士協会へ向かっているらしいよ」
「シンジさん達がですか!?」

シンジの名前を聞くと、クローゼは嬉しそうに目を輝かせた。
これでクローゼをしばらくの間ここで足止めできるとジャンはホッと胸をなで下ろした。
そしてルーアンの遊撃士協会の入口のドアが開かれると、座っていたクローゼは腰を浮かせる。
クローゼは穏やかなシンジの笑顔を思い浮かべて胸を熱くした。
しかし遊撃士協会に姿を現したのは、クローゼの知らない人物、アガットとティータだった。
期待を裏切られたクローゼは肩を落として椅子に座りこんでしまった。
アガットはジャンと軽くあいさつを交わした後、落ち込んでうつむいているクローゼに声を掛ける。

「あんたがクローディア姫だな?」
「……貴方は?」

アガットに声を掛けられたクローゼは、警戒して固い表情でアガットに尋ね返した。
簡単に自分とティータの紹介をした後、アガットはクローゼとジャンに詳しい事情を説明する。
リシャール大佐はレイストン要塞で巨大人型兵器の研究をしていて、エリカ博士も協力させられている事。
リベール王国軍はリシャール大佐の支配下に置かれ、親衛隊はクーデターを企んだテロリストの汚名を着せられている事まで聞かされると、クローゼは大きなショックを受けた。
そしてアリシア女王を押さえるために、肉親であるクローディア姫を人質として捕らえるつもりだろうと話した。

「……と言うわけだから、逃走ルートを考えて欲しいんだが」
「そうだなあ、まず船に乗ってヴァレリア湖を横断してしまうのが一番だろうね」

アガットに相談を持ちかけられたジャンはそう答えてから、潜伏先はロレント地方が良いだろうと提案した。
王都から一番離れているのはボース地方だが、ジョゼット達の空賊が陽動を行うならば同じ地方に居ない方が良いと判断したのだ。
さらにロレント地方ならばクローゼの知り合いは居ないので、身を隠すにも好都合だった。

「それじゃ、僕が船の用意をするから、アガット達は日暮れまで2階で休んでおきなよ」
「ああ、頼んだ」

ジャンが声を掛けると、アガットはそう答えた。
街を出歩かない方が良いと判断したアガット達は、暗くなるまで待つ事にしたのだ。

「あの、シンジさん達は来ないんですか?」

遊撃士協会を出て行こうとしたジャンの背中にクローゼが声を掛けると、振り向いたジャンは決まりが悪そうに答える。

「あれはアガットが来るまで君を遊撃士協会に足止めするための方便だよ」
「うそをついたんですね」

乙女心を傷つけられたクローゼは、怒った表情でジャンをにらみつけた。
クローゼの怒りが予想以上に大きいと気がついたジャンは、逃げる様にクローゼの前から走り去って行った。

「もう、私がシンジさんに会いたい気持ちを利用するなんて、ひどいです」

ジャンの消えた方向を見つめて、クローゼは少し怒った顔でつぶやいた。
そんなクローゼの背中に、ティータは遠慮がちに声を掛ける。

「あの、クローディア姫様?」
「クローゼと呼んで下さって結構ですよ」

クローゼが穏やかな笑顔を浮かべて答えると、ティータも嬉しそうな顔になる。

「クローゼお姉さんは、シンジお兄ちゃん達と親しいんですか?」
「そうですね、シンジさん達がルーアン支部に居た時には、学園で一緒に演劇をしたりしたんですよ」
「演劇ですか、面白そうですね。私もアスカお姉ちゃん達と、オーブメントの研究をしたりしました」

共通の友達が見つかったクローゼとティータは、嬉しそうに目を輝かせ会話が弾んだ。

「やあ、楽しそうだね。船を手配しに行ったついでに、街で紅茶の葉とお菓子を買って来たよ。2階の部屋で食べてみたらどうかな」
「ありがとうございます」

笑顔で答えるクローゼを見て、ジャンはすっかりクローゼの機嫌が直ったのだと安心した。
そしてクローゼとティータは楽しそうに話しながら2階へと上がって行った。
2人の姿が消えた後、アガットはジャンの肩に手を置いて声を掛ける。

「良かったじゃねえか」
「うん、これで気に病まないで仕事に集中できるよ」
「お前は女心が解っちゃいねえからな」
「アガット、君にだけは言われたくないよ」

ジャンはそう言って大きなため息をついた。

 

<ルーアンの街 元ダルモア市長邸・船着場>

その日の夕方、ロレント支部に連絡を取ろうとしたジャンは、遊撃士協会の導力通信が遮断されてしまった事に気が付いた。

「これはリシャール大佐達が、王都の遊撃士協会に応援を呼ばせないために仕組んだ事だと思う」
「すると、いよいよ何か大きな事を始めようとしているのか」

ジャンの言葉を聞いたアガットは考え込んだ顔をして、そうつぶやいた。

「敵の動きは予想以上に大きそうだ、アガット達も早くルーアンを発った方が良い」
「そうみたいだな」

ジャンの提案を聞いたアガットはうなずき、予定より早く出発する決断を下した。
アガット達が乗る船は、小型の導力エンジンが付いた釣り用の小船だった。

「あまり乗り心地は良くないですが、数時間で湖を横断できます」
「ええ、私は構いません。ティータさんは平気ですか?」

ジャンに船を見せられたクローゼは了解し、ティータに尋ねた。

「えへへ、私もお母さんに鍛えられているから大丈夫です」

クローゼに聞かれたティータは笑顔でそう答えた。

「それじゃアガット、クローゼ君とティータ君を頼んだよ」
「お前の方も、後の事は任せたぞ」
「ああ、軍の連中に調べられても足が付かないように手を打っておくよ」

ジャンに見送られて、アガット達を乗せた船は夜の湖へと繰り出した。
ルーアンの街の灯りが小さくなった頃、ティータはクローゼが辛そうな表情になっている事に気が付き、心配そうな顔で声を掛ける。

「クローゼさん、もしかして体の調子が悪いんですか?」
「酔い止めの薬ならジャンからもらっているぜ」

ティータとアガットの言葉に、クローゼは首を横に振る。

「……アガットさん、船の目的地を王都に変えて頂けませんか」

クローゼの発言を聞いたアガットとティータは、目を丸くして驚いた。

「私も王都へと赴き、お祖母様の力になりたいのです」
「おいおい、何を言ってるんだ。俺達はあんたを逃がすために来たんだぜ」

アガットはあきれた顔で、クローゼに向かってぼやいた。
しかしクローゼは強気な態度を崩さない。

「ロレントへ逃げると言っても、安全だと保証はあるんですか?」
「だけどな、他の地方よりはマシだろうよ」

クローゼの反論に、アガットは少し気が乗らないような言い方で答えた。
アガットを説得できると勢いを感じたクローゼは、アガットの意見の弱点を突いてたたみかける。

「消去法でロレントを選んだと言うのなら、王都もリシャールさん達にとっては灯台下暗し、見つかるリスクは差が無いはずです」
「見つかるリスクは同じかもしれないが、捕まるリスクは戦力の集まっている王都の方が大きいだろうが」

アガットに反撃をくらったクローゼは、ぐっとこらえて別の観点からアガットに意見をぶつける。

「ですが王都に居れば、孤立してしまったシンジさん達にすぐに協力する事が出来るメリットがあります。シンジさん達はきっと戦力を必要としているはずです」
「だがな、俺には守らなければいけないものがある」

アガットはティータの方に視線を向けて、強い口調で言い放った。

「アガットさん、私も王都に行ってアスカお姉ちゃん達を助けたいです!」
「あのなあ2人とも、俺の警護対象なんだぞ」

クローゼは王都での潜伏先として、グランセル港の近くにある大聖堂を提案した。
七耀教会は先祖代々リベール王家と関係が深く、神父はアリシア女王の全面的な信頼を得ており、消息不明の親衛隊もきっと居るはずだと説明した。
さらに教会は宗教関係の迫害から逃れるための隠し部屋があり、そこには軍隊も踏み込めなかったと言う。

「……分かった、王都へ向かおう」
「やったあ! 良かったね、クローゼお姉さん!」
「はい」

クローゼの話を聞いたアガットが提案を受け入れると、ティータとクローゼは手を取り合って喜んだ。
そしてアガット達を乗せた小船は進路を曲げて王都グランセルへと向かったのだった……。

 

<グランセルの街 西区画 グランセル大聖堂>

夜の静まり返ったグランセル港の波止場に、アガット達は小船を泊めた。
港にも巡回する兵士達の姿は居たが、それほど多くは無かったので、アガット達はそれほど時間を掛けずに西区画まで行けた。
朝になれば小船は発見されてしまうだろうが、それは仕方が無い。
大聖堂に到着したクローゼ達の姿を見て、神父の隣に立っていたシスターが驚きの声を上げる。

「クローディア姫!」
「ユリアさん!」

クローゼは嬉しそうな顔をしてシスターに抱きついた。
そしてクローゼの気持ちが落ち着いた後、シスターは女王親衛隊の隊長、ユリア・シュバルツと名乗った。
城に居た頃から、クローゼにとっては姉のような存在だと言う。

「我らの力が足らず、アルセイユもリシャール大佐の部隊に落とされてしまいました……申し訳ありません」
「ユリアさん、そんなに自分を責めないで下さい。私はユリアさんが無事だと分かっただけでも嬉しいです」
「もったいないお言葉です」

クローゼに対して、ユリアはかしこまって礼を述べた。
そしてクローゼは教壇の上に泊まっているシロハヤブサにも嬉しそうに声を掛ける。

「ジークも、帰って来ないから心配したわよ」
「申し訳ありません、散り散りになった親衛隊の同士達と連絡を取るために、ジークには側に居てもらう必要があったので」

ユリアは大聖堂に身を隠しながら、再起を図るための機会をうかがっているとクローゼ達に話した。
少し前にもホテルに泊まっている遊撃士達をこちらへ呼び出すための手紙をジークに届けさせたと言う。
そしてクローゼ達が話していると、入口の扉がノックされた。

「どうやら、手紙を受け取った遊撃士が来てくれたようですね。話は私と神父様がしますので、あなた達は奥の部屋に隠れて居て下さい」

しかし扉越しにヨシュアが名乗ると、クローゼは首を横に振る。

「いいえ、ヨシュアさん達は私達の知り合いです、どうぞこのままお通し下さい」

クローゼの言葉を聞いた神父はヨシュアに中に入るように声を掛けた。
そしてクローゼは、扉を開けて入って来たヨシュアの後ろに、シンジが立っている事に気が付いた。
待ち望んでいたシンジとの再会に、クローゼは胸が熱くなるのを感じた。


web拍手 by FC2
感想送信フォーム
前のページ
次のページ
表紙に戻る
トップへ戻る

inserted by FC2 system