アスカ・ブライト 〜茜空の軌跡〜 FC
<レイストン要塞 飛行船発着場> 司令部の奥にあるシード少佐の執務室から出たエステル達は、辺りを警戒しながら発着場へ向かった。 「よし、打ち合わせ通りに動け!」 ドルンが号令を下すとエステル達は脱走するための準備を始めた。 「ふう、これでライプニッツ号によって運び込まれたって事がバレずに済むわね」 アスカとティータは安心して息をついた。 「俺達の方も終わったぜ、これで警備艇はすぐには離陸できないはずだ」 キールも笑顔で戻って来てエステル達に声を掛けた。 「前に乗った時はほとんど気を失っていたから、どんな船かわからなかったけど意外に広いのね」 キールが気まずそうに謝ると、アスカはあわてて答えた。 「コンテナの中で苦しい思いをさせられたのはシンジの方じゃないの? アスカの胸に顔をギュッと抱きしめられちゃったしさ」 エステルの言葉を聞いたジョゼットは、顔を真っ赤にしてアスカに人差し指を突き付けて尋ねた。 「緊張しちゃったから、ちょっと腕に力が入っちゃっただけよ!」 そんなエステル達の姿を見て、キールが少しあきれた顔でぼやいた。 「これから作戦に挑むってのに、のんきなやつらだな」 ヨシュアは穏やかな笑顔を浮かべてキールに答えた。 「えっと、導力エンジンに異常はありません。メンテナンスがしっかりされていたようです」 エステル達より先に船倉に降りて、導力エンジンの調子を見に行ったティータが階段を登ってドルンに声を掛けた。 「さすがリベール軍、飛行艇の整備はお手の物か」 キールが感心したようにつぶやいた。 「よおし、山猫号、発進(リフトオフ)!」 ドルンの掛け声と共に船内に歓声が上がり、山猫号のエンジンが動き出した。 <レイストン要塞 兵舎> エステル達が飛行船発着場に居る頃、シード少佐は兵舎の方に兵士達を引き止める工作をしていた。 「この中に心当たりがある者が居るのなら、素直に名乗り出ろ」 シード少佐がそう言っても、兵士達はお互い探るような視線を送り合うだけで誰も名乗り出ようとしなかった。 「分かった、それではお前達の中には心当たりのある者は居ないのだな?」 シード少佐が改めて尋ねると、その場に居た兵士達は少し怒った顔でうなずいた。 「あれは空賊の飛行艇……!?」 月光を受けて輝いた山猫号が、シード少佐達の真上を通過して行った。 「少佐、直ちに追撃を!」 兵士に声を掛けられて、シード少佐は兵士達と共に中庭を全力疾走し、飛行船発着場へと駆け付けた。 「用意周到に、導力エネルギーが抜き取られてしまっているようだな」 シード少佐は手で兵士を制して、要塞内への調査を開始した。 「どうやら、扉の隙間から部屋の中に高濃度の睡眠ガスをまかれたようだな」 シード少佐がそう言うと、兵士達はまた探るような視線をお互いに向けた。 「おい、貴様! なぜあの空賊共が解放されて、我々はこのような小汚い牢獄に入れられたままなのだ!」 別の牢屋の中から声を掛けて来たダルモア元市長とその秘書ギルバードの姿を見て、シード少佐はため息をついた。 「彼らはお前達より長く牢屋に入っていた。先に刑期を終えるのは当然の事だろう」 まともに取り合うのも面倒になったシード少佐は適当に説明をして、牢屋から出せと騒ぎ続けるダルモアとギルバードの前から立ち去った。 「何という失態だ」 シード少佐が悔しそうな顔をしてつぶやくと、調査に同行していた兵士達も同じように怒りの表情となった。 <レイストン要塞 司令部> 兵士達に調査の終了を告げたシード少佐は、自分の執務室に帰ると大きくため息を吐き出した。 「演技は苦手なのだが、とりあえず周囲をだませたようだな」 部下である兵士達が、上官である自分が怪しいと疑うかもしれない、とシード少佐は緊張していた。 「まさか、私が動くかどうか試していた……?」 シード少佐の心の中に大きな不安が生まれた。 <ツァイス地方上空 山猫号船内> レイストン要塞を発った山猫号は、猛スピードで星空の中を飛び回っていた。 「凄い、この速さでもエンジンがオーバーヒートしないなんて……」 ドルンはティータに誇らしげに、そして少し寂しそうに昔を思い返すように遠くを見つめて答えた。 「どうやら、元気を取り戻せたようだな。相変わらずのメカフェチめ」 アガットはそんなティータの様子を見て、安心してため息をついた。 「こんなに早いなら、特急便でもやったら良いんじゃない?」 アスカの意見に、シンジも笑顔で賛成した。 「俺達みたいな借金まみれの逃亡者に、荷物を預ける客なんて居ないさ」 エステルが大きな声で言うと、ジョゼットは少し悲しそうな顔で笑った。 「運送会社としてやって行くにしても、利益が出るような依頼を効率良く受けないとダメだろうしね」 ヨシュアとアスカは難しそうな顔をしてため息をついた。 「まあ俺達は、身分を隠してアルバイトでもやって食いつないで行くさ。もう盗みはしないって約束だからな」 キールは明るい口調でそう言ってエステル達に向かって微笑んだ。 「さあ、お前らはここで降りるんだ」 エステルの質問に対して、キールはそう答えた。 「あんた達は軍の兵士達に直接顔を見られたわけじゃないし、きっとごまかせるよ」 ジョゼットはそう言って、降りて行くエステル達を見送った。 「そうだ、今度、ロレントの街に遊びにおいでよ!」 エステルが笑顔でそう言うと、ジョゼットは驚いた顔をした。 「ロレントの街には、あたしとアスカの友達がたくさん居るから、ジョゼットを紹介してあげようと思ったの」 アスカも笑顔でエステルの意見に同意してうなずいた。 「ロレントの街に居たのは少しの間だったけど、市長さんや街の人達も優しいかったのは覚えてる」 アスカが手を差し出すと、ジョゼットも喜んでアスカの手を握った。 「約束だよ!」 そしてエステルとジョゼットも握手を交わした。 「いいなあ、お姉ちゃん達、とっても仲が良さそうで……」 ティータがエステル達の姿を見て、うらやましそうにそうつぶやいた。 <ツァイス地方 紅蓮の塔 屋上> 山猫号が去った後、辺りは再び静寂に包まれた。 「ドルンさん達、逃げ切れるかな……」 星空を見上げてシンジが不安そうにつぶやくと、アスカは力を込めてそう言った。 「よし、俺達も夜が明けないうちにツァイスの街へ戻るぞ」 アガットがそう言うと、エステル達は階段を降りようとした。 「待って、あそこの柱の陰に誰かが隠れている」 ヨシュアが注意を促すと、エステル達に緊張が走った。 「お金は渡しますから、命は助けて下さい! この通りお願いします!」 凄い勢いで頭をペコペコと下げるローブを着た男性に、エステル達は強烈なデジャブを感じた。 「なんだ、アルバ教授じゃない」 アスカがウンザリした顔でため息を吐き出すと、アルバ教授も青い顔で座り込んだ。 「お前達の知り合いか?」 アガットが疑いの眼差しでにらみつけると、アルバ教授はあわてて事情を説明した。 「あきれたやつだな」 ティータの言葉を聞いたアルバ教授は、嬉しそうに答えた。 「アガットさん、アルバ教授は信頼できると思います」 アスカが頼むと、アルバ教授は了承してうなずいた。 「それじゃ、アルバ教授も一緒にツァイスの街に帰ろう!」 エステルが笑顔でそう言うと、アルバ教授はごまかし笑いを浮かべた。 「そしてまたいつもの様に、お金が無いんですね」 ヨシュアが指摘をすると、アルバ教授は少しおどけた感じで天を仰いだ。 「おい、あんたは王都に行く途中だったんだろう?」 アガットは少し考えた後、エステルに向かってゆっくりと口を開く。 「お前達は、教授と一緒に王都に向かえ」 ヨシュアはアガットの考えに納得したようにうなずいた。 「もし検問で止められたとしても、私の王都までの護衛と言う口実があれば通りやすくなるわけですね」 アガットに尋ねられて、アルバ教授は胸を張って快諾した。 「僕達はキリカさんに報告しに戻らなくていいんですか?」 シンジが不安そうに尋ねると、アガットは安心させるように言い聞かせた。 「でも、あたし達も一緒に居ないで大丈夫?」 心配そうなエステルの質問にヨシュアが答えると、アガットはうなずいた。 「それじゃ、しばらくの間お別れね……」 アスカはそう答えてティータを抱き締めた。 「エステルお姉ちゃんも、私の気持ちをお母さんに伝えてくれてありがとう……お母さんの優しい笑顔を見れたから、辛くても頑張れる気がします」 嬉しそうに返事をしたティータは、エステルに飛び付いた。 「別れの挨拶は済んだようだな、それじゃ、俺達はもう行くぞ」 シンジがアガットにお礼を言うと、アガットは励ましの言葉を掛けた。 「お元気で、女神(エイドス)の加護を!」
ヨシュアは去って行くアガット達にそう声を掛けた……。
シード少佐は要塞に残った兵士達を、少し前に起きた火事についての捜査と言う口実で、兵舎の方に集めていた。
そのおかげでエステル達は、誰にも見つからずに飛行船発着場へとたどり着く事が出来た。
静まり返った発着場には、エステル達以外の人の気配はしなかった。
ドルン達は部下の空賊達と手慣れた様子で、要塞に残った警備艇の導力オーブメントのエネルギーを抜き取って行った。
エステル達は侵入の証拠を隠滅(いんめつ)するために、自分達が潜んでいたコンテナを山猫号の中に運び込んだ。
「中央工房のみんなに迷惑が掛からなくて良かったです」
そしてエステル達は山猫号に乗り込む。
「あの時は悪かったな」
「別に、嫌味を言ったわけじゃないわ。ただ、コンテナの中に押し込められるのはもう勘弁して欲しいと思ったのよ」
「あ、あんた、何やってるのさ!?」
「そうですね、でも僕達はエステル達の明るさに何度も救われているんですよ」
先程の火事の原因がタバコの火の不始末だと判明するとシード少佐は延々と説教を始めた。
しかしいつまでも説教を続けるわけにも行かない。
兵士はストレスのたまりやすい仕事だったので、休憩時間の喫煙は禁止はされていなかった。
火気厳禁である武器庫はともかく、兵舎でタバコを吸っている兵士達は少なからず存在した。
シード少佐はこの兵士達の中に火事を起こした犯人が居ない事は知っている。
だがシード少佐は心苦しさを感じながらも、目的のために兵士達を厳しく追及した。
すると兵士達の中から、この場に集まっていない兵士達が怪しいと声が上がった。
正面ゲートや通信機のある司令部、監視塔などの重要な場所に居る兵士までは兵舎に呼び寄せるわけにはいかなかったのだった。
まあ当然の反応だろう、とシード少佐は思った。
無実なのに疑われるのは気持ちの良いものではない。
リシャール大佐の野望を止める事が出来た時、遅すぎるかもしれないが、彼らに謝ろうとシード少佐は決意した。
これ以上、火事の件で引き延ばすのは無理かとシード少佐が思った時、飛行船発着場の方から大きな物音が聞こえた。
驚いたシード少佐はドアを開け、兵士達と共に兵舎の建物の外へと飛び出す。
シード少佐は信じられない物を見たような表情で山猫号が飛び去った方角を見つめていた。
「そ、そうだな」
そして兵士達は警備艇に乗り込んだが、導力エンジンが作動しない事に気が付いて悲鳴を上げた。
計器のEPはどれも針がゼロ近くを差している。
「急いでメンテナンスを開始します!」
「もう良い、追いかけてもとても間に合わないだろう」
司令部の中に足を踏み入れたシード少佐と兵士達は、静かすぎる様子に違和感を覚えた。
そして通信室を調べると倒れている兵士達を見つけた。
室内に居た兵士達は全員縛りあげられて気絶していたが、争った形跡が無い。
「侵入者が居たと言う事ですか」
「それか、内通者が我々の中に居るのかもしれん」
通信室で倒れていた兵士達の応急処置を任せたシード少佐は、牢屋の状況を確認するために地下へと降りた。
予想通り空賊の閉じ込められていた檻はこじ開けられた様子もなく、鍵を使って開けられていた。
「そうだ、これは不当な拘束だ、弁護士を呼んでもらおう!」
ルーアン地方でこの2人は、株取引で抱えてしまった借金から自分達の財産を守るために犯罪を重ねてしまったのだ。
市の予算の横領、孤児院への放火、遊撃士への強盗、貴族達への不動産詐欺、逮捕の際の公務執行妨害……。
罪状から極刑も免れない彼らがレイストン要塞での収監程度で済んでいるのは、アリシア女王の温情によるものなのだ。
それを彼らは全然自覚していない。
さらに調査を続けると、監視塔に居た兵士達も眠らされていた。
そして、その監視塔に配属されていた内の1人が姿を消し、船着場にあった船が無くなっている事が明らかになった。
空賊の脱獄や飛行艇の脱走を手助けした内通者は、その兵士なのだろうと言う結論に至った。
しかし部下は自分に全面の信頼を置いている。
それは嬉しい事であるが、心配な事でもあった。
自分も今まで上官であるリシャール少佐は間違った事をするはずが無いと思っていた。
だから王国軍の規律を正すためだと言われて、シード少佐は他の幹部達が犯した不祥事などの情報をためらう事無くリシャール大佐に渡した。
それらの情報が軍を支配するために使われたと知って、シード少佐はショックを受けた。
すべての始まりは、ヴァレリア湖にあの巨大な2体の人型兵器がどこからともなく不時着した事だった。
最初はさっぱり手を出す事が出来なかった王国軍だったが、リシャール達の情報部が設立され、彼らの「協力者」とされる人物達により人型兵器を利用できるようになった。
そしてヴァレリア湖に面したレイストン要塞の地下に秘密の研究施設を造り、そこへ2体の人型兵器を運び込んだのだ。
リシャールはシード少佐に誇らしげに2体の人形兵器を見せた。
これが国の平和を守る新たな兵器『エヴァンゲリオン』、これさえあれば帝国の戦車隊が押し寄せても無敵だと。
しかしシード少佐はエヴァンゲリオンに恐れを感じた。
国を守るのにこのような兵器が必要なのか、返って帝国の敵対心を高めるだけではないのかと。
エヴァンゲリオンを手に入れてからリシャール達も態度が大きくなり、次第に狂気を帯びて来ているように思えた。
そしてリシャール大佐が、自分の指揮下に入ろうとしない女王親衛隊を排除しようとしているのを聞いて、リシャール大佐の野望に歯止めを掛けようとシード少佐は決心した。
そんな時、シード少佐の前に共和国の諜報員を名乗る男性が姿を現した。
その男性は遊撃士協会・ツァイス支部の受付、キリカの知り合いだとも話した。
リシャール大佐からも彼女は共和国の諜報員と繋がりがあると警告を受けていたので、おそらくその男性の話す事は事実なのだろう。
共和国の諜報員が自分に何の用だとシード少佐が疑っていると、その男性はリシャール大佐が行っている研究の進行状況を詳しく知りたいので、しばらくの間、兵士として雇って欲しい言い出した。
そのような要求を飲めるはずが無いとシード少佐は言い返した。
するとその男性は、リシャール大佐の野望を止める協力をすると申し出た。
キリカの話によるとツァイスの街の方で動きがあり、リシャール大佐が帰国したエリカ博士をレイストン要塞に連れて来ようとしている。
そしておそらく、エリカ博士を助けようとするために遊撃士達が要塞へ侵入してくる、その遊撃士達にアリシア女王への伝言を託してみてはどうかと。
シード少佐は迷った末に、その男性諜報員を兵士として採用し、希望するままに監視塔の見張りに就かせた。
兵舎でその男性諜報員がタバコの火の不始末を装って火事を起こしたのは、遊撃士達が要塞内に侵入し、研究棟のエリカ博士を助けに行ったと言うシード少佐への合図だった。
だからシード少佐は半信半疑のだったが、兵士達を遠ざけて1人で研究棟へと向かったのだ。
シード少佐が研究棟でエステル達と話している間、兵士に化けた男性諜報員は監視塔の兵士達のすきをついて気絶させ、同じように通信室の兵士達を眠らせてジョゼット達を牢屋から出した。
ジョゼット達に、通信室に居た兵士達がもし目を覚ましてしまっても外部に連絡されないように縛り上げるように頼んだ後、その男性諜報員は要塞から姿を船着場から脱出したと思われる。
全てが上手く行った事にシード少佐は安心したが、引っ掛かる物を感じていた。
この要塞の中には研究施設など重要な施設がある上に、リベール王国軍の本拠地だ。
だがリシャール大佐は王都方面の作戦に際し、シード少佐の直属の兵士しか残して行かなかった。
リシャール大佐がそれだけ王都方面の作戦に力を入れていた事も考えられる。
しかし、シード少佐は自分達が逆に陽動させられている可能性をどうしても捨て切れなかった。
エリカ博士と別れた後、ずっと下を向いて黙り込んでいたティータだったが、山猫号のエンジンが動き出すと途端に目を輝かせる。
「ああ、金を注ぎ込んで色々なパーツを集めて、帝国で一番速い船になるように改造したからな。今じゃこの船が俺達に残された唯一の財産だ……」
「うん、きっと商売になると思うよ」
しかしキールは首を横に振って否定する。
「そんな事ない、あたしなら、ジョゼット達に大切な荷物を預けられるわ!」
「ありがとうエステル、その気持ちだけ貰っておくよ」
「お金持ちの貴族とかに需要がありそうなのに、残念ね」
そしてエステル達を乗せた山猫号は速度を落とし、同じツァイス地方にある紅蓮の塔の屋上へと着陸した。
「えっ、ドルンさん達はどうするの?」
「俺達は王都の方からリベール軍の飛行艇が飛んでくる前に逃げるつもりさ」
「えっ!?」
「そうね、アタシもロレントの街が気に入ったから、正遊撃士になったらロレント支部に所属するつもりだし」
「じゃあ、ロレントの街でまた会いましょう!」
「うん、分かったよ」
山猫号のドアが閉じる直前まで、ジョゼットとエステル達は笑顔で手を振り合っていた。
そして飛び上がった山猫号は、まるで流星のように北西の空へと姿を消した。
「アタシ達と約束したんだもの、きっと平気よ!」
自分達が山猫号に乗って屋上にやって来た事が知られたらマズイ事態になる。
武器を構えたエステル達が近づくと、柱の陰から人影が飛び出す!
「ビックリさせないで下さいよ、今度こそ殺されると思っちゃいました」
「け、決して怪しい者ではないんです!」
この紅蓮の塔の調査に熱中しているうちに、気が付いたら日が暮れてしまっていたのだと言う。
アルバ教授の話を聞いたアガットはため息をつく。
「でも、何かに熱中して時間を忘れちゃうって事はありますよ」
「そうですよね! 良かった、分かってくれる人が居て」
シンジもアルバ教授をかばうような発言をする。
「おや、どうかしたのですか?」
「アタシ達をここで見た事を誰にも言わないで欲しいのよ」
「ええ、それは構いませんが」
「うーん、困りましたね。今日は王都に行くつもりだったので、ツァイスのホテルをチェックアウトしてしまったんですよ」
「さすがヨシュア君、御名答! 王都の歴史資料館に行けば、お給金が貰えるんですけどね」
アルバ教授の話を聞いたアガットは目を光らせ、アルバ教授に問い掛ける。
「はい、紅蓮の塔を調査した後、今夜には王都に着いているはずでした」
「えっ、何で!?」
「脱走した空賊達の捜索が長引けば、リベール軍は関所を封鎖するかも知れねえしな」
「なるほど、検問が設置されれば僕達が王都に入りにくくなるわけですね」
「頼めるか?」
「ええ、体力と逃げ足には自信がありますから」
「ああ、俺達が逃げるついでに遊撃士協会に寄ってキリカに報告する。お前達はとりあえず王都の遊撃士協会を目指せ」
「エステル、潜伏する時はなるべく少人数で行動した方が見つかりにくくて良いんだよ」
「そう言う事だ、まあ心配するな」
「アスカお姉ちゃん、お母さんの研究していた器械を完成させるのに力を貸してくれてありがとう」
「アタシもとっても楽しかったわ」
しばらく抱き合った後、アスカから体を離したティータは、エステルにも声を掛ける。
「今度ロレントの街にティータが来た時、あたしのお母さんを紹介するわね」
「はい!」
「色々指導して下さってありがとうございました」
「お前達がグランセル支部の推薦を受けて正遊撃士になるのを楽しみにさせてもらうぜ」