アスカ・ブライト 〜茜空の軌跡〜 FC

第四章『スーパーソレノイド機関』
第四十話 エリカ博士の約束


<レイストン要塞 飛行船発着場>

 

発着場に着陸したライプニッツ号から船員と兵士達の手によってコンテナが運び出される。
運搬用リフトを使っているとは言えコンテナの数はかなり多く、作業をしている人間は汗だくになって動いた。
そして日が暮れた頃になって、やっと全てのコンテナの運び出しを終えた。

 

「ふう、やっと終わったな」
「急な発注にも関わらず、応じてくれて非常に助かった」
「国の平和のためだって聞いちゃ、俺も協力しないわけにはいきませんよ」

 

コンテナ詰め込み作業に参加していたレイストン要塞の守備隊長、シード少佐が礼を述べると、頭に巻いたバンダナが印象的なライプニッツ号の責任者、グスタフ整備長は笑ってそう答えた。
兵士から完全に作業を終えたとの報告を受けたシード少佐は、話していたグスタフ整備長を除く船員達をライプニッツ号の中に下がらせ、作業をしていた兵士達を呼び寄せた。

 

「やっぱり、生体探知器で調べるのか?」
「ああ、一応規則なのでね」

 

シード少佐はグスタフ整備長にそう答えると、胸元から取り出した生体探知器を片手で持ちながら、コンテナ群の近くを歩いた。
兵士達はじっとその様子を見つめる。
そのコンテナ群の1つにエステル達と一緒に隠れていたティータは生体探知器妨害器を作動させる。
シード少佐の足音が近づいて来て、エステル達は呼吸が止まりそうなほど身を堅くした。
そしてシード少佐の足音が通り過ぎ遠ざかると、エステル達は緊張を解いて大きく息を吐き出した。

 

「異常は無いようだな」
「当たり前ですよ、こっちもライプニッツ号に危険物を持ち込まれないように細心の注意を払っているんですから」
「そうは言いながらもこの前、猫がコンテナの中に入り込んでいただろう?」
「ははは、アントワーヌに言い聞かせておきますよ」

 

シード少佐に言われて、グスタフ整備長は笑いながら軽く謝った。
その後いくつかの細かい整備の仕事をして、ライプニッツ号は飛び立って帰って行った。

 

「コンテナの搬入は明日の朝から行う、今日はご苦労だった」

 

シード少佐が解散を命じると、兵士達は話しながら発着場を出て行った。
辺りが静まり返ると、コンテナの中に居たティータは生体探知器妨害器のスイッチを切り、持っていた生体探知器を作動させる。

 

「うん、発着場にはもう私達以外に誰も居ないよ」
「よし、扉を開けるぞ!」

 

アガットはコンテナの横に付けられた隠し扉を開いて外に出た。
続いてティータ、エステル、ヨシュアの順でコンテナを出る。

 

「うーん、きつかった!」

 

外にエステルは思い切り伸びをした。
しかしシンジがすぐに出て来ないので、先に出たエステル達は首をかしげた。
どうやらアスカに寄りかかったままグッタリしてしまっているようなので、ヨシュアが腕を引っ張って助け起こした。
そんなシンジの姿を見てティータが心配そうに声を掛ける。

 

「あの、体調が悪くなっちゃいましたか?」
「息が苦しかったから……」

 

顔を真っ赤にしたシンジはコンテナから出た今も苦しそうに答えた。

 

「わ、悪かったわね」

 

アスカがコンテナの中から顔を出してそう謝った。
コンテナの中でアスカは、生体探知器を持ったシード少佐が近づいて来た時に心細さを和らげるため、ぬいぐるみのようにシンジの頭を強く抱き締めてしまったのだった。

 

「あれ、あそこに泊まっているのはジョゼット達の船じゃない?」

 

発着場を見回して、リベール王国軍の警備艇に混じっている山猫号をエステルが発見した。

 

「そういえば、彼女達はレイストン要塞に収監されているらしいね」

 

山猫号を見たヨシュアもそうつぶやいた。

 

「お前ら、他の事に構っている時間は無えぞ」

 

アガットに注意されて、エステル達は気を引き締めた。
そしてレイストン要塞の地図(※目次ページに画像へのリンクがあります)を取り出したエステル達は、改めて位置を確認する。
現在エステル達が居るのは要塞の南東にある飛行船発着場。
ここからエステル達は正面ゲートと司令部などに通じる中庭を横切って、エリカ博士が閉じ込められていると思われる要塞の中央にある研究棟へ向かう。
奥の西側にある兵舎や北側にある武器庫はとりあえず無視だ。
エリカ博士を助け出したらこの発着場へ引き返し、今度は研究棟と反対側にある北東の船着き場へ行き船を奪って要塞の外へ逃走すると言った手順だ。
生体探知センサーは生体探知器妨害器で無力化できるが、見張りの兵士に見つからないように気をつけなければならない。
作戦を確認したエステル達は気配を殺しながら飛行船発着場を出た。

 

 

<レイストン要塞 中庭>

 

「えっ、あれって……?」

 

発着場の出口から出たエステルは驚きの声を上げた。
要塞の広い中庭には、見覚えのある狼型魔獣がうろついていたのだ。
それはボース地方のクローネ峠の関所で初めて遭遇してから、何度もアガットとティータに襲いかかって来たやつらだった。

 

「予想通り、あの黒装束の連中と繋がっていやがったか」

 

アガットはムカムカした表情でそうつぶやいた。
中庭には兵士の姿が見当たらないが、嗅覚(きゅうかく)や聴覚の鋭い狼型魔獣が居るとなるとさらに厄介だ。

 

「中庭は広いとは言え、見つからずに進むのは難しいかもしれないね」
「生体探知器妨害器じゃごまかせないし、どうしたら……」

 

シンジの言葉を聞いて、アスカは考え込む仕草をした。
その時、焦げ臭いが漂って来た。
すると中庭を動き回っていた狼型魔獣が吠えながら要塞の奥の方へと走って行った。
そして司令部の建物の中から驚いた顔でシード少佐と兵士達が出て来る。

 

「どうした、火事か!?」
「兵舎の方です」
「武器庫の火薬に引火したらやっかいだ、消火活動急げ!」
「はっ!」
「それと、騒ぎ出した狼共は兵舎の方に入れて置け、邪魔でかなわん」

 

シード少佐と兵士達は口々にそんな事を言いながらあわてて中庭の奥へと走って行った。
顔を見合わせてエステル達はうなずく。
これはめったにないチャンス、利用しないわけにはいかない。
エステル達はあっさりと中庭を進み、研究棟を取り囲む壁の門の手前までやって来た。
物影に隠れながら研究棟の出入り口をのぞくと、見張りとして黒い服に黒いカブトを身に付けた傭兵が立っている。
明らかに軍の兵士では無かった。

 

「もしかして、あそこに居るのって……空賊に捕まった時にあたし達を助けてくれた人じゃない?」
「そうみたいだね」

 

エステルの言葉にヨシュアはうなずいた。

 

「どうして、ここに居るんだろう」

 

シンジが疑問を口にした時、研究棟の入口のドアが開いてリシャール大佐とカノーネ士官が姿を現した。

 

「あれは完成の見通しがつきましたし、後は親衛隊ですわね」
「そうだな」

 

カノーネ士官に話しかけられたリシャール大佐はうなずいた。
黒服の傭兵が後ろで黙って従っている。
リシャール達は中庭に出た後、飛行船発着場へと向かって歩いていた。
壁際の暗闇に隠れていたエステル達は3人を見送った後、ほっと息を吐き出す。

 

「やっぱり、リシャールさん達が事件に関わっていたんだね……」

 

エステルは悲しそうな顔をしてポツリとつぶやいた。

 

「しかも黒幕ってレベルよね」
「ちっ、やっかいな事になったな」

 

アスカが真剣な顔でエステルの意見に同意すると、アガットは悔しそうな顔で舌打ちした。

 

「でも見張りが居なくなった、これは絶好のチャンスですよ」
「よし、今のうちに侵入するぞ」
「はいっ!」

 

アガットが号令を掛けると、エステル達は扉を開いて研究棟の中へと入った。

 

 

<レイストン要塞 研究棟>

 

研究棟の玄関に足を踏み入れたエステル達は、とりあえず近くに人の気配が無い事に安心した。

 

「中に入れたのは良いけど、エリカさんはどこに居るんだろう」
「そうね、かなり構造は複雑みたいだし」

 

シンジとアスカは辺りを見回しながらつぶやいた。

 

「こうなったら、危険だけど手分けして探した方が良さそうだね」
「でも、あたしだけだと迷子になっちゃいそう……」

 

ヨシュアの提案を聞いたエステルは顔をこわばらせてそう言った。

 

「やっぱり、来てしまったのね」

 

厳しい表情をしたエリカ博士が奥から姿を現した。
驚いて固まるエステル達の脇をすり抜けて、ティータがエリカ博士に飛び付く。

 

「お母さん、お母さん、お母さぁぁん!」

 

ティータはエリカ博士の胸で泣きじゃくった。
エリカ博士も愛おしそうにティータを抱き締める。

 

「ああ……ティータ、こんな辛い思いをさせて悪かったわ」
「感動の再会を邪魔するようで済まねえんだが、時間が無え」
「アタシ達、エリカさんを助けに来たんです!」
「お母さん、早く行こう!」

 

ティータがエリカ博士の腕を引っ張るが、エリカ博士は顔を伏せたまま動こうとしなかった。
そんなエリカ博士の様子を不思議に思ってティータがのぞき込むように上目づかいで尋ねる。

 

「お母さん……?」

 

するとエリカ博士はティータの手を離して、決意を秘めたキリッとした表情になる。

 

「私はあなた達とは一緒に行く事はできないわ」
「ええーっ!?」

 

エリカ博士の宣言を聞いてエステル達は驚きの声を上げた。
ティータはエリカ博士の言葉が信じられないと言った様子で真っ青な顔になる。

 

「どうして……」

 

弱々しい声でつぶやいたティータは涙を流しながら、膝を折って崩れ落ちた。
アスカがあわててティータを助け起こす。

 

「エリカさん、やつらはあの黒いオーブメントを使って何かとんでもない研究をしているのよ!」
「ええ、分かっているわ。だからこそ、私は彼らに協力する振りをしてその内容を探りたいのよ」
「でもティータはエリカさんを助けたい一心で、危険を承知でここまで来たのに!」

 

ティータを抱いたアスカも涙を流してエリカ博士に訴えかけると、エリカ博士の表情が揺らいだ。

 

「じゃあ、私もここに残る! お母さんの側に居たい!」

 

エリカ博士の言葉を聞いたティータは素直な思いを打ち明けた。
しかし、エリカ博士は表情を再び引き締めるとティータに向かって怒鳴る。

 

「聞き分けの無い事を言わないで!」

 

鬼のような形相でエリカ博士ににらまれたティータとアスカは怯えてしまった。
するとエステルが突然エリカ博士を突き飛ばし、エリカ博士はしりもちをついてしまう。

 

「うっ……」
「おいっ!?」
「エステル……!?」

 

アガットとヨシュアが驚きの声を上げた。
そしてエステルは、少し怒った顔でエリカ博士に説く。

 

「お母さんが自分の子に向かってそんな怖い顔をしちゃダメ! それにお母さんと一緒に居たいと言う気持ちは決してワガママじゃない、お母さんと会いたくても、もう会う事の出来ない子だっているんだから……」

 

そう言って悲しそうに目を細めたエステルを見て、エリカ博士もエステルの心中を察したようだった。

 

「もしかして、あなたのお母さんはもう……?」
「はい、あたしが小さい頃に」
「……そう、ごめんなさいね」
「謝る相手が違うと思うけど?」

 

エステルに言われて、エリカ博士はティータとアスカに顔を向ける。

 

「ティータ、アスカ、怖い思いをさせてしまって悪かったわね。だけど、やっぱり私は一緒に行くわけにはいかないの」
「うん……」

 

エリカ博士が優しくティータとアスカの頭を撫でながら言い聞かせると、ティータとアスカは納得したようにうなずいた。

 

「だが、リシャール達がやっている研究の内容をつかんでも、それをどうやって外に知らせる気だ?」
「それに、やっぱりエリカ博士の身の安全が心配です」

 

アガットとシンジが疑問を投げかけると、研究棟の入口のドアが開いて男性の声が聞こえて来た。

 

「それは私に協力させて欲しい」

 

姿を現したシード少佐にエステル達は騒然となった。
いきなり協力を申し出たシード少佐にアガットは疑いの眼差しを向ける。

 

「お前はリシャールの部下じゃないのか?」
「リシャール大佐の情報部は、軍の中で新設された特殊部隊に過ぎなかった。だがその情報収集能力を活用し、軍の幹部達の弱みを握って逆らえないようにしていったのだ……」

 

アガットの問い掛けにシード少佐はそう答え、リベール王国軍の内部事情について話し始めた。
あのモルガン将軍も王都に住んでいる孫娘を人質にとられ、ボース地方にあるハーケン門に閉じ込められたような状態なのだと言う。
さらにリシャール大佐は王都を守っている女王親衛隊に反逆罪の汚名を着せ、王国軍を我が物にしようとしているらしい。

 

「ふざけた事を、反逆しようとしているのはリシャール達の方じゃねえか!」

 

シード少佐の話を聞いたアガットは声を荒げた。
さらにシード少佐は、リシャール大佐達がヴァレリア湖に不時着した人型兵器をレイストン要塞まで持って来たと話した。
アスカとシンジは心臓が飛び上がりそうなくらい驚いた。
リシャール大佐達にその人型兵器を見せられたシード少佐は、怖れを感じ始めたと告白した。
国を守るための兵器にしては強すぎる、もしかして世界を征服しようとしているのではと感じたのだ。
エステル達にリシャール大佐達の野望を止めて欲しい、と真剣に訴えるシード少佐をエステル達は信用する事にした。

 

「だけど、リシャールさん達を止めるって言っても、どうすれば……」
「畏(おそ)れ多い事だけど、国のトップであるアリシア様に動いてもらうしかないわね」

 

エステルが不安をもらすと、エリカ博士はそう提案した。
そしてエリカ博士はエステルにノートの切れ端を渡す。

 

「これは?」
「まだ確証はつかめていないけど、現時点で私が推測したやつらの研究内容を書いたメモよ。アリシア様に渡せば事の重大さが伝わると思うから」

 

しかし心配そうな顔でシンジが不安をもらす。

 

「だけど、その前に僕達がここを無事に脱出しなくちゃ」
「脱出方法については私に考えがある、まずは司令部まで一緒について来て欲しい」

 

シード少佐の提案に、エステル達はうなずいた。

 

「じゃあ行くぞ」
「はい」

 

アガットに促されて、エステル達はエリカ博士に背を向けて研究棟を出ようとする。
だが、ティータを抱いたアスカはすぐに動こうとはしない。

 

「エリカさん約束して、無理はしないって、そしていつかティータの側に戻るって」
「ええ、全てが終わったらね」

 

エリカ博士が返事をすると、ティータは少し気持ちが和らいだようだった。

 

「アスカお姉ちゃん、ありがとう」

 

そしてアスカにお礼を言ったティータは研究棟を出ようとするエステル達について行った。

 

「ごめんなさい、ティータ……」

 

エステル達が立ち去り、研究棟のドアが閉じられると、エリカ博士は顔で手を覆って深いため息をつくのだった。

 

 

<レイストン要塞 司令部 執務室>

 

レイストン要塞に居た兵士達の多くはリシャール大佐達に従って出撃してしまったようで、人の気配はほとんどなかった。
エステル達は中庭を通って無事に司令部の中へと入り、奥にあるシード少佐の執務室までたどり着いた。

 

「行き止まりの部屋みたいだが、どうなってんだ?」

 

アガットが疑うような口調でそう言うと、シード少佐はしばらくの間、脱出の協力者を連れて来るので部屋で待っているように言い残して出て行った。

 

「またコンテナの中に入れられたりして」
「ありえそうで怖いね」

 

待っている間、アスカが冗談めいた口調でそう言うと、シンジは苦笑した。
戻って来たシード少佐に連れられて入って来たのは、牢屋に捕まっているはずのジョゼット達だった。

 

「あっ、あんた達は!」
「ジョゼット!?」

 

顔を合わせたジョゼットとアスカはお互いに目を丸くして驚いた。

 

「ジョゼット、久しぶりね!」
「痛っ!」

 

エステルが笑顔でジョゼットの手を握りしめると、ジョゼットは苦しい顔をした。

 

「あっ、ごめん、ジョゼットに会えたのが嬉しくて、つい力が入っちゃった」
「まったく、あんたってば相変わらず加減を知らないんだから」

 

ジョゼットは少しあきれた顔でそうぼやいた。

 

「お前さん達か、ジョゼットの友達って言うのは。ずいぶん世話になったようだな、俺達からも礼を言うぜ」
「い、いえ、別に大したことは」

 

ほおに傷のある髭を生やした大男、ドルンに大きな声で話し掛けられて、シンジは少し焦った。

 

「ジョゼットはな、牢屋から出たらお前達に会いたいって毎日のように話していたぜ」
「う、うるさいなキール兄!」

 

ゴーグルをおでこに掛けた細身の青年、キールが冷やかすと、ジョゼットは顔を赤くして怒鳴り返した。
ドルンが大声で笑うと、シード少佐は声が外に漏れてしまうと注意をする。

 

「ドルン兄の声は普段から大きすぎるんだよ」
「そりゃ済まねえな」

 

ジョゼットにも指摘されたドルンはそう言って謝った。

 

「アタシもまたジョゼットに会って、一緒に紅茶を飲んだりしておしゃべりしたいってずっと思っていたわ」
「アスカ……」

 

アスカにそう言われたジョゼットは嬉しそうな顔になった。

 

「さて、大変申し訳ないのだが、そろそろ私に話をさせてくれるかな?」
「あっ、はい」

 

シード少佐に言われて、エステル達はシード少佐の方へ視線を向けた。

 

「君達には発着場にある飛行艇に乗って、レイストン要塞を脱出してもらう」
「えっ、そんな事できるの?」
「リシャール大佐の作戦に参加するため、ここに居た部隊のほとんどが王都方面に出撃してしまっている、今の手薄な状態なら私の権限で残りの兵士達を配置換えする事も可能だろう」

 

エステルが疑問の声を上げると、シード少佐はそう答えた。
シード少佐の言葉を聞いて、シンジが控え目に尋ねる。

 

「でも、それなら他に目立たない脱出方法とかありそうですけど……」
「その点については申し訳ないと思うのだが、レイストン要塞で脱走騒ぎがあれば、王都に向かっているリベール軍は君達の捜索にも飛行艇や人手を割かなければいけなくなる」
「なるほど、王都に居る女王親衛隊のための陽動ですね」

 

ヨシュアは納得してつぶやいた。

 

「女王陛下の声明があれば、親衛隊は国の内外の協力者と共に行動することができる。その前に親衛隊がリシャール大佐達の手に落ちてはまずいのだ……」

 

そこまでシード少佐の話を聞いたアガットは不満そうな顔で問い掛ける。

 

「陽動をするなら、あんた達がリシャールに対して反乱を起こせば良いじゃねえか」
「誠に恥ずかしい事なのだが、王国軍のほとんどが情報部の支配下に置かれてしまっている。私が反乱を起こした所で、従ってくれる者はほんのわずかだろう」

 

シード少佐は悔しさをにじませた顔で下を向いた。

 

「ダメよ、シード少佐が反乱の首謀者になったら、エリカさんを守ってくれる人が居なくなっちゃう」
「アガットさん……」

 

アスカに指摘され、ティータにも不安な眼差しで見つめられたアガットは渋りながらも受け入れた。
そして今まで話を聞いていたキールがエステル達に提案する。

 

「でも、お前さん達はこの隊長さん以外に顔を見られて居ないんだろう? じゃあ俺達だけが脱走した事に表向きはすれば良い」
「けれど、それじゃ……」
「ガッハッハ、気にする事は無え。どうせ帝国でも俺達は逃亡の身さ」
「俺達はまた空を飛ぶ事が出来るんだ、それだけで満足してるよ」

 

エステルが気づかうように声を掛けると、ドルンとキールはそう言って笑った。

 

「国の危機が救われた時には、君達に恩赦をしてもらえるように私から女王陛下に進言する事を約束しよう」
「えっ、でもそうしたらあんたが脱走を提案したってバレちゃうじゃないか」
「構わない、覚悟はできている」

 

シード少佐の言葉を聞いて、ジョゼットが戸惑ったように尋ねると、シード少佐は堂々とした態度でそう答えた。

 

「もし、アリシア様が恩赦を出してくれて、また会う事になったら……ジョゼットの淹(い)れてくれた紅茶が飲みたいわね」
「珍しいお菓子も見せてよ」
「まったく、食いしん坊なんだから」

 

アスカとエステルが笑顔で言うと、ジョゼットも嬉しそうに答えた。

 

「そうと決まれば、この作戦、何としてでも成功させないとな!」

 

キールが陽気な口調でそう言うとエステル達はうなずき、シード少佐と具体的な行動内容についての話し合いを始めた……。


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