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第一章
序章2
 俺、絶賛迷子中。あの後俺は人が住んでいる様な場所を探して歩き出した。とは言っても、どこに向かっていいかも分からん為、とりあえず俺は山の見える方角に進んだ。何故ならその麓の方に薄っすら湖らしき物が見えたからな。

 この世界があのゲームか、それに似通った異世界なら、きっと電気や水道等のインフラは整備されていないと思う。となれば人が生きるのに一番大事な水場の側に人が集まると思うんだ。それは安易過ぎる想像でしか無いにしても、今の俺になんの情報も無いのだから仕方ない。

 ざくざくと草原の草を踏み潰して歩く。機械技術師の装いの編み上げブーツは酷く歩きやすい。これなら少々の悪路でも問題ないだろう。

 とにかく方針は決まったのだし、俺も特に何も考えず歩いた。連れも居ないからただ黙々と。俺の好きなアナログ表示の時計は17:00を示している。だけど辺りは相変わらず明るくて、夕方と言う感じでもない。もしかしたらここは地球で言う北欧の様な感じで、白夜なのかもしれない。だとしたら時折時計を確認しないといけないな。明るくても動けば身体は疲れる。イベントリに体力回復のポーションはあるけど、使えばいつか無くなる。

 俺は装備を製作出来てもポーションは作れない。錬金術師と言う職業では無いからな。できるだけ消耗品アイテムは節約しなければ。

 疲れたら休む。疲れを体感してなくても、自分で自己管理をする。そうしないと突然倒れたりしてもここには病院も無さそうだからな。食事は……どうしようか。まあいい。ぐちぐち悩んでても仕方ないからな。

 俺はそう結論付けるとまた歩き出す。野宿をするにも何も無い草原じゃどうにもな。雨でも降られたらどうしようもなくなる。

 さて急ぐかと思ったところで俺はある事に気が付く。俺は山崎翔太と言う人間であるのは間違いない。けどあのゲームのキャラであるショウの能力を引き継いだ機械技術師でもある。その上どういう理屈か分からないが、職業に纏わる知識も備わっている。検証好きの誰かが纏めた攻略サイト上にあるような類の知識じゃない。もっと具体的なやつだ。

 簡単に言えば、装備製作と言うスキルはLV1からLV10までのランクがある。そのレベル差は作れる装備の難易度が上がっていくという意味だ。あくまでも扱えるレシピの難易度が上がると言う意味でしかないのだけれど。当然、複雑な材料を扱う上位装備は成功率が下がり、結構簡単に失敗する。成功率を上げるにはステータスの器用さ(DEX)と幸運(LUK)を上げる事と、装備品で製作の成功率を上げるアイテムを併用する事で可能になる。それでも絶対に100%にはならないけどね。俺の場合だと、一番上位の装備に関しては40%と少しってとこか。高いとは言えないが、低くも無い。多分、これがサーバーで限界の確立だと自負している。

 閑話休題それはさておき……

 そういったスキルは材料を全て持った状態で事前に登録したショートカットキーを押せば、次の瞬間成功か失敗かのエフェクトが出て結果が出る。そういうゲーム的な知識じゃないんだよ。素材を溶鉱炉でどんな設定で融解させ、そしてそれを成形すると何が出来ると言う、現実の職人の様なプロセスを俺は知っていて、そしてそれを行使できると言う"経験に基づいた知識"が備わっているんだ。

 これは本当に不可解であるが、何故かそれに微塵も疑いも浮かばない程に当たり前の事だと俺は理解してしまっている。ま、考えても理由は分からないのだから、"そういうものなんだ"と思うしか無いのだろうな。損になる訳じゃ無いのだし。

 そしてそこに思い至った俺は、全てのスキルが行使できると理解した訳だ。すなわち、機械技術師の本領である、魔導機械を使えるって事だ!

 魔導機械は、言わばパワードスーツの様な物だ。ファンタジーの世界の王道な金属――――ミスリル銀と金剛金を合金にした星の陰鉄と呼ばれる最上位の金属。どんな環境に置かれても金属疲労を起こさずに、酸化もしない。つまり劣化しない金属だ。その上加工しやすく、それでいて耐久力もある。何より物凄く軽いんだ。まさに夢の金属。それをふんだんに使って作られたスーツを装備し、下位職業の時はお荷物だった商人系が、一気に戦場の華と昇華させ、機械技術師は攻城戦の中心となる。

 壁になって後衛を守り、立ちふさがる敵に状態異常をばら撒く。逆に魔導機械を纏い半機械化した肉体は、相手の状態異常攻撃をほぼ無効化する。その特性を活かし、一気に相手本丸へと雪崩れ込み、仲間の歩きやすい道を作るんだ。アタッカーは戦士系にお任せするとして、機械技術師が別名"カミカゼ特攻隊"と呼ばれる理由になる"ある禁断のスキル"がある。

 それは自爆。敵を巻き込み、自分もろとも魔導機械を大爆発させるという外道なスキルだ。コストが信じられないほど高い魔導機械だから、使うのは躊躇せざるを得ないが、ジリ貧の自軍を一気に攻勢へと転換できるジョーカー的スキルだ。

 俺は歩くのを止め、その場に立ったまま呼吸を整え、そしてあるキーワードを呟く。

「……Metamorphose」

 俺の言葉に呼応して、胸に下げてあるチョーカーの赤い石が輝き出す。何か高周波を発してるような振動がし、次の瞬間そこから茨の様な無数の針が飛び出し、俺の全身のあちこちに刺さる。身体は衝撃で揺れるが、痛みは一切ない。俺の体の運動をつかさどる神経の要所要所に魔導機械は同調する。その接続が成されているんだ。

「いっ…………てえええええっ!!」

 訂正……やっぱ実際にやるとなると少し、痛い。いや、とても痛い。でも我慢だ。針がひとしきり刺さると、そこをから物理の法則を越えちゃったように機械の鎧が生成されていく。ガキンと金属音を鳴らしながら、僅か数秒で俺は近未来のアンドロイドさながらの姿へと変貌を遂げた。

 頭、胸、腹部、腕、足……その急所になりえる場所全てに白い装甲があり、そのそれぞれが頑丈なパイプで連動している。そして一瞬青白く発光し、その全てに魔力が漲る。

 これで俺の魔導機械の完成だ。この状態をギア化と呼ぶ。こいつは俺の魔力を触媒とした永久機関だ。もっとも、持ち主である俺が死ねばその限りでは無いだろうが。こいつはリアルタイムで周りの情報を分析し、俺の脳に直接それを伝える。鉢金状のヘッドパーツとゴーグルにより肉眼的な視界は悪いが、俺自身には周囲360度の情報が常に表示されている。なんて便利なスキルなんだろう。

 ただ魔導機械には改造と言う概念がある。要は魔導機械用の改造パーツを作成し装備する事で、本来スキルツリーに表示されない新たなスキルを使う事が出来るのだ。そして幾つかあるパーツの中で、俺はある一つを選択する。今の俺に一番必要なパーツを。それは両足の"くるぶし"部分に装着する、500mlのペットボトル程度の大きさの円柱。そして装着を確認し、ある機能をONにする。

「イィヤッホオオオオォォォォォ!!!」

 次の瞬間、俺は風になった。思わず叫んでしまうほどに快感。ホバー状態で時速100kmの高速移動。背面に飛び出したスラスターの推進力。このスキルはacceleration(加速移動)だ。こんないつまでも続きそうな草原を歩き続けるなんてバカみたいだろう?

 ならズルすればいいのだ。いや、ズルじゃないな。これは俺の一部なのだから。そうして俺はドップラー効果を伴いつつ、異世界の草原をかっ飛んだのだ。




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