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第一章
序章1
 俺の名前は翔太、山崎翔太。そこら辺に普通に転がってるモラトリアムと言う名の堕落まっさかりの大学生だ。その大学も地方の3流大学ってやつで、特に誇れる場所も無いが。せいぜい浪人する事無く入学出来たくらいなもんでね。

 学部も経済学部と言う、至極どうでもいい事を扱う、言うなればなんの特徴も無いって事だね。身長は175cmと大きくも小さくも無い中途半端な感じ。どうせなら180まで行けよって話しだ。けど体型はちょっとだけ自信があったりする。水泳をガキの頃からやってるからね。逆三角形ってやつさ。スタミナも肺活量も抜群だぜ。

 顔はまぁ、普通だな。最低限整っているが、普通過ぎてあまり人の印象に残らないって感じ。思春期からいくつかの恋をし、長続きせずに終わるを繰り返してる。別れる間際の彼女のセリフは決まって「翔太ってなんかつまんないんだよね」だった。すまんな普通で。なんだか言ってて悲しくなってくるぜ。

 どうして俺がこんな唐突にモノローグをしているか? と言う事なんだが……。なんというか青天の霹靂? 気がつくと見知らぬ場所に立っていて、酷く混乱したからなんだ。

 何言ってるか分からないって? 俺もわかんないから混乱してるんだ。朝、俺が住んでるマンションから、郊外にあるキャンパスまで向かった。俺の相棒のマウンテンバイク。前後にサスペンションが付いてる快適仕様。

 6月の朝の風は凄く気持ちいい。頬にあたる風に気分を良くしていた俺は、突然のクラクションの音に気が付いた。いや、気が付いた途端に目の前は暗転してたから、実は何があったか詳しくは覚えていない。ただ、目が覚めると俺は見知らぬ草原に転がっていて、俺の寝ていた横にグシャグシャになった相棒の姿があったって事。

 多分俺は何らかの事故に遭い、そしてどういうわけかここに居る。辺りは草原と言ったけど、結構向こうには山がいくつか見えるし、後ろの方には森もある。ただ雰囲気って言うのかな? 日本って感じがしないんだ。空の色も随分と青い。理由は分からないけれど、何となくここは俺がいた日本とは違うんじゃないかと感じる。

 一番の問題は道らしきものが無い事。つまり俺は近場に人間が住んでいない様な秘境、若しくはそれに近い場所にいると言う事なんだ。

 だから混乱してる。だってどうしていいか分かんないんだもの。こんなに慌てたのは、センター試験の真っ最中に腹が下ったとき以来だよ。あの時は「静まれ!静まれ俺の括約筋ッッ」と祈りながら油汗と戦ったもんだが、今は逆に何をして良いかすら分からない。

 ま、このままここに居ても仕方ないから、取り敢えずは現状の確認をしてみるか。と、一通り自分の様子を確認してみたが、何故か俺の髪の毛の色が黒から真っ赤な赤毛に変わっていた……。そして服装が黒いツナギの作業服に膝まである長い編み上げのブーツ。ツナギは前を腰まで開け、ズボンのように履き、余った上半身は腰で縛ってある。そして上半身は何だかよく分からん軽い金属で出来た肩当てと胸当てだけの軽鎧。

 うん、俺はこの姿に見覚えがある。大学入って仲良くなった悪友に誘われ、なんとなく始めたオンラインゲーム。MMORPGと言われる沢山のユーザーが一度に接続してコミュニティを作る、神話世界を題材にしたゲームだ。そのゲームは戦士だの魔法使いだの暗殺者だの、ファンタジーな職業にそれぞれ就き、思い思いに冒険を楽しむと言う物だった。

 俺はその中でも取り分け、成長に苦行を強いられると言う職業の"商人"を選び、レベルアップの度に好きに振る事が出来るステータスを、ほぼ戦闘とは関係の無いステータスに割り振った、所謂"製造ステ"と言うヤツにしたのだった。

 戦いではまるで役に立たないが、沢山の武器を製造できると言うメリットがある。そしてそれで露店を開き商売をするのだ。ただし、ただでさえ戦闘には役に立たないキャラだ。だからレベルを上げるために狩りをしなければならないが、よっぽど仲のいい相手じゃなけりゃ、パーティ狩りに誘ってもらえたりはしない。簡単に言えばお荷物ってやつだな。

 パーティ狩りは、メンバーの中に聖職者がいるのが普通で、回復にお金がかからない。だけど俺は必然的にソロ狩りを強いられるため、回復用のポーションにお金を裂く必要がある。これは大きな出費であり、戦闘スキルもほとんどないために適正レベルのずいぶん下の狩場に篭ると言う苦行なのだ。それ故、なり手は物好きか変態と言われるゆえんであり、俺はその物好きの方だった。

 来る日も来る日も寝る間を惜しんで苦行を続け、時には同じギルドに所属する子に手伝ってもらい、そしてレベル上限である99に達し、俺は全身からオーラを吹いた。これはレベルカンストのご褒美みたいなもので、特に効果は無いが、ある種の自己満足だろう。それでも睡眠時間を削って至った結果としては満足出来るものだった。

 だが登った山の頂上からみた景色の中に、さらに高い山が存在していたのだ。そのゲームではレベルカンストすると更に高みを目指せるのだ。転生システムと言い、レベルはリセットされるが、もっと充実したスキルを持った上位の職業へと転職できるのだ。そしてそれをカンストさせれば、さらに上位の職業が待っている。そこに至れば至れり尽くせりのスキルが沢山あるのだ。

 俺は迷う事無く転生し、今度は戦闘系のステ振りをする。何故なら最上位職に転職する時にポイントはそのままの状態でリセットされるからだ。ならばレベル上げは楽な方がいい。そうして俺は上位職もカンストさせ、最上位もカンストしたのだ。時間はかかったけど、どうにかその高みへと辿りつけたんだ。

 今の俺の姿――――それはゲームの中の俺のアバター。機械技術師と言う名前の職業の姿だった。赤毛なのもそのせいだろう。自由に決められる容姿設定で、俺が選んだのはなるべく自分に似ている容姿と、本来の自分から考えると若干の冒険である赤髪。それが耳が隠れる程度の長さがあり、髪型はオールバックになっている。瞳の色はブルーだ。今の俺は鏡など持ってないけど、服装と髪から想像するに、きっと青い目なんだろうと思う。だってそう設定したからな。

 俺はそのゲームでやれる事は全てやりつくした。レアリティの高い装備を全て上限まで精錬し、モンスターからドロップするカードで出来る装備品へのエンチャントも完璧。ユニークボスからドロップするレアカードすら、商売で集めた財力で手に入れた。レベルもカンスト、ステータスポイントも使い切っている。

 だけどやり尽くした結果、あっという間に飽きてしまい、2年を費やした時間を無駄な時間だったと後悔するに至り、俺はそのゲームを2度とやることは無かった。だが、今こうして俺はそのキャラクターになっている。そして見知らぬ景色。

 ここから想像できる事はひとつだけ。俺はそのゲームの世界か、それに似た世界にいるのだろうと言うことだ。

 どっちにしろ、俺の頭がイかれてないのであれば、多分ここは異世界と言う事になる。

 そして俺はある事に気がついた。俺がゲームのキャラをなんらかの形で引き継いでいるなら、装備品やアイテム、ステータスやスキルはどうなのだろう? そう思いついた俺は、ある言葉を呟いた。

「……ステータス」

 その言葉と同時に、俺の頭の中に見慣れたウインドウが拡がった。やはりそうか。俺はあのキャラの能力ごと受け継いでいるのか。なら都合は良いな。ここがどんな世界で、なんの意味で俺がここに送り込まれたとしても、少なくとも現代より危険な世界だろうから。そして俺はウインドウの情報を理解する事に専念した。相変わらず天気は良い。

 NAME:ショウ
 SEX :MALE
 AGE :21
 BASE.LV:150
 JOB.LV :70
 MONEY:9999999999 R$
 STR :120
 AGI :100
 VIT :110
 INT :40
 DEX :70
 LUK :70

 SKILL
 ・装備製造LV10(材料があれば装備を作る事が出来る。要レシピ・金敷・金槌・溶鉱炉)
 ・装備精錬LV10(装備LV毎の触媒があれば、装備品を精錬できる。成功率はステータス依存)
 ・機械知識LV10(魔力を動力にした魔導機械の知識を得られる。運用パーツの上限が増える)
 ・機械運用LV10(魔導機械を実際に使用できる。及び改造LVの上限が上がる)
 ・機械製作LV10(魔導機械の製作が出来る。魔導コアと工具セットが必要。LVにより製作できる種類の上限が上昇)
 ・属性軽減LV10(あらゆる属性攻撃のダメージを軽減。LV1毎に軽減率5%上昇)
 ・武器投擲LV10(装備している武器を敵へ投擲できる。LV1毎に命中率とダメージが上昇)
 ・武器知識LV10(武器への知識が増す。武器の耐久力と命中率、攻撃力がLV1毎に上昇)
 ・商売人の知識LV3(LV1毎に商店での売り買いに10%の得を得れる。最大LVは3)
 ・装飾品製造LV10(装飾品を製作出来る。要レシピ・細工セット)
 ・韋駄天の心LV3(重装備でも早く動ける。最大LVは3)

 所持品
 回復ポーション(大)HPを最大値まで回復
 体力ポーション(大)スタミナを最大値まで回復
 魔力ポーション(大)MPを最大値まで回復
 リザレクション石 死後10分以内なら、HP最大値の50%で蘇生
 万能薬 あらゆる状態異常から回復
 爆弾石(大) 9×9範囲が爆発
 発光石(大) 2×2範囲にいる対象を100%の確立で暗闇状態にする
 星の金敷 隕石で出来た金敷。何度使っても消耗しない。最大LVの製作が出来る
 星の金槌 隕石で出来た金槌。何度使っても消耗しない。最大LVの製作が出来る
 マントルの溶鉱炉 何度も使える携帯用の溶鉱炉。最大LVの製作が出来る
 魔導機械パーツ 魔導機械の製作に必要。消耗品
 伝説のエンジニアの工具 魔導機械の製作に必要。何度使っても消耗しない
 ニンフの細工道具 装飾品の製作に必要。何度使っても消耗しない

 なんか、うん。本当にまんまだな。試しに「アイテムイベントリ」と呟くと、現在頭に浮かんでるウインドウのタブが切り替わり、装備の一覧が出る。

 ……正直絶句した。簡単に言うと、俺が集めた全てが入っている。消耗品は上限まではみっちり詰まってた。さすがにフル装備は危険と判断し、取り敢えず俺が好んで使っていた"鎌"を取り出すだけにした。それでも十分危険な代物だろうけど。それでも防具なんかメイン装備にしたらどこの中二ですか? ってくらい派手だからな……まぁ、武器だけでどうにかなりそうな気がするし。

 +10 Deathscythe(3)
 ATK 250+60
 闇属性
 s1鬼神のカード(与ダメージが50%上昇)
 s2鬼神のカード(与ダメージが50%上昇)
 s3亡霊王のカード(相手の物理防御力を100%無視)

 俺の身の丈ほどはある大鎌。三日月の刃と禍禍しい蛇が巻きついた意匠の柄で出来ている。デスサイズの名前の通り、死神の影と言うユニークボスのドロップだ。これを俺は精錬の上限である+10まであげ、同じくユニークボスのドロップであるカードをエンチャントしたんだ。結果、相手の装備に一切軽減される事無く、与えたダメージの倍のダメージが相手に降りかかると言う、変態染みた武器に仕上がっている。これと自分のスキルを組み合わせると、大抵のユニークボスはソロで狩れる。まぁ物理の通じない敵には無理だけど。

 俺はこれを担ぎ、とりあえず歩き出した。この後どうなるかは分からないけれど、ここにいても仕方がないと思うからな。太陽の位置はてっぺんから少し傾き始めてる。見知らぬ草原で野宿もきついし、単純に怖い。だからどこか村や町でも探す以外に方法は無い。

 俺の無駄に前向きすぎる性格に感謝しつつ、とにかく何処かへと行こうと思う。故郷にゃ肉親がいない俺だ。せいぜい心配してくれるのは悪友の数人だけだろう。なら俺はこの世界を満喫したいと考えたんだ。なんだか得たいの知れない世界ではあるが、今の俺の能力ならばどうにかなるだろうと思うし。

 さあ、俺の異世界冒険譚の始まりだ!!


 ……と、叫んでは見たが、飯はどうしようかなぁ。


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