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【書評】

原発大国の真実 コリーヌ・ルパージュ 著

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◆隠蔽責任逃れ 構造は同じ

[評者]長谷川 公一 東北大教授、環境社会学。著書に『脱原子力社会へ』など。

 福島第一原発事故の原因や背景、問題構造は、世界の原子力発電や原子力産業に相当程度、共通するのか。あるいは日本社会に、ないしは「原子力ムラ」に代表される、日本の原子力規制体制にかなり固有のものなのか。ドイツ政府と議会は、問題の普遍性に鋭敏に反応したからこそ、自国の全原発閉鎖を短期間に決断した。この両面をどのように理解すべきか。とても刺激的な問いでありながら、事故から一年四カ月以上が経(た)ち、東電自身のものを含め四種類の事故報告書が出たにもかかわらず、この点は十分議論もされず、詰められてもいない。

 本書は女性の元環境大臣で現職欧州議会議員である著者が、福島原発事故から三カ月後の二〇一一年六月に自国で刊行した、原発大国フランスの現状告発の書の翻訳である。頻発する大小の事故・トラブル、安全規制体制の不備、監督する側とされる側との馴(な)れ合い、癒着、安全神話の喧伝(けんでん)、リスクの過小評価、原子力ロビーの暗躍、関係者の傲慢(ごうまん)、直接・間接の資金援助、例外扱い、責任逃れ、秘密主義、隠蔽(いんぺい)、情報操作、詭弁(きべん)、信頼の危機、再生可能エネルギーの締め出し、老朽化した原発のリスク、廃炉後の解体費用の高騰、放射性廃棄物の処分問題の難しさ、原発への公的資金の片寄った投入(再生可能エネルギーへの十倍という)等々、具体的に鋭く指摘された問題の構造は日本と実によく似ている。

 プラントメーカーで国策会社のアレバ社(三菱重工業のパートナー)の経営危機、フランス電力公社の苦悩なども興味深い。アレバ社が輸出に力を入れる欧州加圧水型炉が、第二のコンコルド化(失敗した超音速旅客機)する危険性を著者は具体的に指摘する。

 脱原子力社会に向けての著者の処方箋は何か。ストレステストによる既存の原子炉の振り分け、再生可能エネルギーの振興とエネルギー利用の効率化であり、国民投票による選択である。

 Corinne Lepage 1951年生まれ。フランスの弁護士、政治家。環境問題に関する著書多数。

(大林薫訳、長崎出版 ・ 2310円)

<もう1冊>

 脇阪紀行著『欧州のエネルギーシフト』(岩波新書)。欧州のエネルギー革命はどう進行しているか。各国の現場からのリポート。

 

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