アメリカ・カリフォルニア州南部にある、人口およそ6万4千人の町、サンクレメンティ。
夏の行楽シーズンを迎え、海岸は大勢の観光客で賑わっています。
この海水浴場のすぐ近くにあるのが、サンオノフレ原子力発電所です。
1960年代に稼動をはじめ、州の南部170万世帯に電力を供給してきました。
望月記者
「こちらの原発の再稼動をめぐって、今、地元が大きく揺れています。」
サンオノフレ原発では、ことし1月、放射性物質を含む水漏れが起こり原子炉が緊急停止しました。
調査の結果、一部の配管で破損や異常な摩耗が見つかり、現在は、2つの原子炉ともに稼動を停止しています。
この事故をきっかけに、高まっているのが、『脱原発』を訴える声です。
原発を再稼働すべきかどうか、町を2分する議論が巻き起こっているのです。
原発から11キロ離れた町に住む、パティー・デービスさんは、再稼働に反対している1人です。
福島第一原発の事故をきっかけに、原発の安全性に強い疑問を抱くようになったと言います。
パティー・デービスさん
「(福島の事故の前は)サンオノフレ原発について問題視したことはありませんでした。
サンオノフレ原発の防波堤は、手をのばせば、とどいてしまう高さなんです。
東日本大震災のような津波だったら、軽々と乗り越えてしまいます。」
夫と娘たちと暮らすパティーさん。
家族を危険にさらしかねない原発の再稼働は受け入れられないと考えています。
パティー・デービスさん
「私たちはこの地域で家庭を営み仕事をし、学校に通っているんです。
ここで確立されていない技術が試されるのは間違っています。
このような形でエネルギーをつくるべきではありません。」
こうした原発への不安を払しょくしようと、先月、住民への説明会が行われました。
開催したのは、原子力施設の安全性を監督する、政府の独立機関NRC・原子力規制委員会です。
つめかけた住民たちに対し、再稼働する前に、十分な安全性を確保すると訴えました。
アメリカでは、今回のような事故が起こった場合、原子力規制委員会が、事故がどのように起こったか調査を行います。
その結果に基づいて、電力会社に対応策を指示。
十分な対策が行われ原子力規制委員会が許可すれば、再稼働の運びとなります。
再稼働に向けた議論が活発化する一方で、原発の停止が長期化することによる影響も懸念されています。
カリフォルニア州全体の電力需給を管理している組織です。
サンオノフレ原発が稼動を停止したまま猛暑を迎えれば、最大で1000メガワットの電力が不足するとしています。
そのような状態になれば、計画停電に踏み切らざるを得ないとしています。
カリフォルニア ISO広報担当
「ことしの夏、猛暑になれば深刻な電力不足に陥ります。
緊急の節電が必要になるでしょう。」
計画停電になれば、サンオノフレ原発から電力の供給を受けていた地域はもとより、ロサンゼルスの近郊にも、影響が出ます。
日常生活はもちろん、産業や観光など、幅広い分野に深刻な打撃を与えるのではないか。
1日も早い原発の再稼働を求める声も少なくありません。
住人
「私は再稼働を支持します。
テストして安全性を確保すれば、原発は有効なエネルギーだと思います。」
「計画停電は避けてほしい。」
原発の再稼働に反対しているパティ・デービスさんです。
この日開かれた、市議会の傍聴に訪れました。
原発の再稼動の是非について話し合った結果、全会一致で、再稼動に反対する書面を原子力規制委員会に提出することが決まりました。
しかし、市議会が反対しても原子力規制委員会が許可すれば再稼働を止めることはできません。
パティー・デービスさん
「まだ戦いは続いています。
この問題について多くの人に関心を持ってほしいと思っています。」
自分たちの暮らし、そして子どもたちの将来を守るために原発をどうすべきなのか。
小さな町が揺れています。