2012年7月27日(金)

原発再稼働に揺れるカリフォルニア州

大きな議論を呼んだ関西電力大飯原発の再稼働。
その是非をめぐり、今も波紋が広がり続けています。
そして、アメリカでも、原発の是非を問う市民の動きが。
事故で原子炉が停止した原発の再稼働をめぐって、町を二分する議論が巻き起こっているのです。
 

市民
「原発にはなくなってほしいわ。もうたくさん。」
 

「テストして安全性を確保すれば、原発は有効なエネルギーです。」
 


東京電力福島第一原発の事故は、世界で最も多くの原子炉があるアメリカにどのような影響を与えているのか現地からの報告です。

傍田
「世界で最も多い104基の原子炉を抱え、電力のおよそ20%を原子力発電でまかなっているアメリカ。
福島第一原発の事故を受けて安全対策を強化しながらも、原発推進の立場を打ち出してきました。」
 

鎌倉
「ところが、この夏、カリフォルニア州では、事故による原子炉の停止で、電力の供給がひっぱくし、アメリカ第2の都市、ロサンゼルスなどで、計画停電が行われる可能性も出てきています。
事故を起こした原発を再稼働すべきかどうか。
その是非に揺れる地元の町をロサンゼルス支局望月記者が取材しました。」

カリフォルニア 再稼働に揺れる町

アメリカ・カリフォルニア州南部にある、人口およそ6万4千人の町、サンクレメンティ。
夏の行楽シーズンを迎え、海岸は大勢の観光客で賑わっています。



 

この海水浴場のすぐ近くにあるのが、サンオノフレ原子力発電所です。
1960年代に稼動をはじめ、州の南部170万世帯に電力を供給してきました。


 

望月記者
「こちらの原発の再稼動をめぐって、今、地元が大きく揺れています。」

サンオノフレ原発では、ことし1月、放射性物質を含む水漏れが起こり原子炉が緊急停止しました。
調査の結果、一部の配管で破損や異常な摩耗が見つかり、現在は、2つの原子炉ともに稼動を停止しています。
この事故をきっかけに、高まっているのが、『脱原発』を訴える声です。
原発を再稼働すべきかどうか、町を2分する議論が巻き起こっているのです。
原発から11キロ離れた町に住む、パティー・デービスさんは、再稼働に反対している1人です。
福島第一原発の事故をきっかけに、原発の安全性に強い疑問を抱くようになったと言います。

パティー・デービスさん
「(福島の事故の前は)サンオノフレ原発について問題視したことはありませんでした。
サンオノフレ原発の防波堤は、手をのばせば、とどいてしまう高さなんです。
東日本大震災のような津波だったら、軽々と乗り越えてしまいます。」
 

夫と娘たちと暮らすパティーさん。
家族を危険にさらしかねない原発の再稼働は受け入れられないと考えています。

パティー・デービスさん
「私たちはこの地域で家庭を営み仕事をし、学校に通っているんです。
ここで確立されていない技術が試されるのは間違っています。
このような形でエネルギーをつくるべきではありません。」

こうした原発への不安を払しょくしようと、先月、住民への説明会が行われました。
開催したのは、原子力施設の安全性を監督する、政府の独立機関NRC・原子力規制委員会です。
つめかけた住民たちに対し、再稼働する前に、十分な安全性を確保すると訴えました。

アメリカでは、今回のような事故が起こった場合、原子力規制委員会が、事故がどのように起こったか調査を行います。
その結果に基づいて、電力会社に対応策を指示。
十分な対策が行われ原子力規制委員会が許可すれば、再稼働の運びとなります。
再稼働に向けた議論が活発化する一方で、原発の停止が長期化することによる影響も懸念されています。

カリフォルニア州全体の電力需給を管理している組織です。
サンオノフレ原発が稼動を停止したまま猛暑を迎えれば、最大で1000メガワットの電力が不足するとしています。
そのような状態になれば、計画停電に踏み切らざるを得ないとしています。

 

カリフォルニア ISO広報担当
「ことしの夏、猛暑になれば深刻な電力不足に陥ります。
緊急の節電が必要になるでしょう。」

 

計画停電になれば、サンオノフレ原発から電力の供給を受けていた地域はもとより、ロサンゼルスの近郊にも、影響が出ます。
日常生活はもちろん、産業や観光など、幅広い分野に深刻な打撃を与えるのではないか。
1日も早い原発の再稼働を求める声も少なくありません。

住人
「私は再稼働を支持します。
テストして安全性を確保すれば、原発は有効なエネルギーだと思います。」

「計画停電は避けてほしい。」
 

原発の再稼働に反対しているパティ・デービスさんです。
この日開かれた、市議会の傍聴に訪れました。

原発の再稼動の是非について話し合った結果、全会一致で、再稼動に反対する書面を原子力規制委員会に提出することが決まりました。
しかし、市議会が反対しても原子力規制委員会が許可すれば再稼働を止めることはできません。

 

パティー・デービスさん
「まだ戦いは続いています。
この問題について多くの人に関心を持ってほしいと思っています。」

自分たちの暮らし、そして子どもたちの将来を守るために原発をどうすべきなのか。
小さな町が揺れています。

再稼働に揺れる町 住民の選択は

鎌倉
「取材したロサンゼルス支局の望月記者に聞きます。
リポートでは原発再稼動への支持派と反対派、双方の立場が描かれていましたが、実際に現場で取材してみて住民の受け止めについての実感はどうだったでしょうか。」

 

望月
「原発に不安を抱いている住民が大半でしたが、実際に再稼動すべきかということになると、世論が二分されているという印象を受けました。
といいますのも本格的な夏を迎えるにあたって電力不足という問題がより現実味を帯びてきているからです。
企業の中には、積極的に節電に協力する動きもありますが、産業や観光が盛んなアメリカ第2の都市の膨大な電力需要を原発抜きでカバーできるのか、疑問を呈する人も少なくありません。
こうした人たちは、原発はエネルギー源として欠かせないと考えていまして、住民の間では大きな温度差があると感じました。」

再稼働の見通しは

傍田
「サンオノフレ原発が再稼動することになるのかどうか。現時点での見通しはどうなのでしょうか。」


 

望月
「再稼働の見通しはまったくたっていません。
今月中旬、原子力規制委員会は最新の調査結果を公表しました。
それによりますと、停止している2つの原子炉で、あわせて3400本の配管に摩耗が見つかりました。
こうした摩耗は放っておけばいずれ破損し、放射性物質を含む水漏れという事故につながりかねません。
原子力規制委員会は、摩耗の原因について、設計上の問題があった可能性を指摘していまして、事態はより深刻に受け止められています。」

“反原発”全米への広がりは

傍田
「地元では原発に反対するデモもあったようですけれども、こうした動き、全国的な広がりというのも出てきているのでしょうか。」


 

望月
「福島第一原発事故を受けて原発に反対する動きは勢いづいているんです。
アメリカの反原発運動は、全国的な組織はなく、地域ごとの運動が中心でしたけれども、福島第一原発の事故の後、地域同士で連携しようという動きが出てきています。
カリフォルニア州では、今月、各地の反原発団体が連携して、東日本大震災の被災者支援を行っている福島県出身の女性の講演会を12日間にわたって州内各地で行いました。
さらに9月中旬には、首都ワシントンで、全国の反原発団体が初めて一堂に会して、デモを計画するなど連携は全国に広がりつつあります。
原発をめぐる議論は全国で活発化するとみられていまして、アメリカの原発政策に影響を与えるものになるか、その行方が注目されます。」

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