「救急車は呼びましたか?!警察は?!」
「今、呼んでいるんだけど、まだ来ないんだよ!」電話機を片手におじさんが言った。
しばらくして、サイレンが聞こえてきた。私とおじさんは大通りに出て、救急車とパトカーを誘導した。はしご車と覆面パトカーも来た。周囲にはイエローテープが張り巡らされた。
自分の車を自宅に戻し、現場の状況を説明した。私は気が付かなかったのだが、お昼の用意をしていたら、エンジンの爆音したので、おじさんとおばさんが通りにでてみたら・・・ということだった。説明をしている最中、車中の男は救急隊員に運ばれた。救急車はサイレンを鳴らして行ったので、「助かるといいね」とおじさん達と話した。
刑事は「車中にいた人は近所の人ですか?」と聞いてきた。おじさんは、
「見たことないねえ」と答えた。私も
「知らないです」と答えた。
その間、娘はずっと私の車の中にいた。状況説明が終わったので、イエローテープをくぐって、知人の家に向かった。私は現場の様子から殺人事件と思い、先ほど開けっ放しで掃除をしていたことを思い出し、犯人がどこかに潜んでいるかも知れないと不安になった。仕事に行っている夫に電話をし、帰って来て欲しいと事情を話した。お昼は知人宅近くのお店でおいなりさんか何かを買って娘に与えた。しばらくして夫から家に着いたと電話があり、娘と自宅にもどった。
たいして広い家ではないが、タンスから押入から戸袋まで全部、犯人が隠れていないかチェックした。
「これで、おにいちゃんが帰ってきても大丈夫だね」と話ていたら、午後3時半すぎ、桐生タイムスのT記者から電話がかかってきた。
T記者:さっき、庭山さん、どこかに出かけていったけど、警察に行ってたんでしょ。
庭山:え?何で私が警察に行くんですか?
T記者:警察に呼ばれたでしょ。
庭山:だからなんで私が警察に呼ばれるんですか?
T記者:だって、さっきそこで亡くなっていたのは近藤議員だから。
私はこの言葉で初めて、首から血を流して亡くなっていた中年男が近藤議員だったと知った。実は、私は運転席の窓からのぞき込んだが、首から血を流している人を見たのは初めてだった。動揺してしまい、顔まで見ることが出来なかったのだった。