アスカ・ブライト 〜茜空の軌跡〜 FC

第三章『白き肌のエンジェル』
第二十七話 僕にもできること、君にしかできないこと


<ルーアンの街 遊撃士協会>

ルーアンの遊撃士協会に来て初めての朝を迎えたエステル達は、突然部屋に現れた受付のジャンに起こされた。
いつもより早い時間に起こされたエステル達は眠い目をこすっている。

「んもー、一体何があったのよ?」
「昨日の夜、マーシア孤児院が火事にあったらしい」
「ええっ!?」

ジャンから話を聞かされたエステル達はすっかり目を覚ましたようだ。
アスカは血相を変えてジャンに詰め寄る。

「孤児院のみんなは無事なの?」
「ああ、昨日の夜中、マノリア村に来たみたいだ。今はマノリア村の宿屋の大部屋に居るようだよ」
「よかった」

ジャンの言葉を聞いて、エステル達はホッと胸をなで下ろした。

「それで、君達には火災現場の調査をお願いしたいんだ。何しろ放火の疑いがあるからね」
「放火だって!?」

放火と聞いたシンジ達は顔色を変えた。

「何でそんなひどい事が出来るのよ!」
「犯人を許せないわ!」

エステルとアスカはカウンターを激しく叩いて怒りをあらわにした。

「犯行の証拠は時間と共に失われてしまう、だから出来るだけ早く現場を調べて欲しいんだ」
「解りました」

ジャンの言葉に、ヨシュアはしっかりとうなずいた。
そしてジャンは困った顔になってエステル達にさらに話を続ける。

「連絡をくれた宿屋の主人も不思議がっていたんだけど、テレサ院長達がおかしな事を言っているらしいんだ」
「おかしな事って?」
「”天使”を見たって……」
「天使!?」

アスカの質問にジャンが答えると、エステル達は驚きの声を上げた。
そしてエステル達は難しい顔をして話し合う。

「天使なんて居るのかな?」
「僕達も七耀教会の伝承で聞いたぐらいだよ」

シンジが疑問をつぶやくと、ヨシュアはため息をつきながらそう答えた。

「じゃあショックでそんな幻想を見てしまったのかしら」

アスカはあごに手を当てて考え込む顔をしながらそうつぶやいた。

「だから、現場の捜査が終わったらその足でマノリア村に居るテレサ院長に話を聞いてくれないか」
「慎重に話を聞かないといけないね」

ジャンの依頼を聞いて、シンジは顔を引き締めてそうつぶやくのだった。
仕事着に着替えたエステル達は朝食も取らずに急いで遊撃士協会を出て行った。
ルーアン市の西門を出て、メーヴェ海道に差し掛かったエステル達の目に飛び込んで来たのは、息を切らせて走って来るクローゼの姿だった。

「クローゼ!」
「あっ、エステルさん!?」

エステル達の姿を見たクローゼは少しだけ安心した顔を見せた。

「クローゼもマーシア孤児院の火事の話を聞いて来たの?」

エステルが尋ねると、クローゼは表情を固くしてうなずく。

「はい、朝の講義が始まる前に学園長先生から聞かされました。それで、先生や子供達は無事なんですか?」
「ジャンさんがマノリア村の宿屋の大部屋にみんなが居るって言っていたわ」
「よかった……」

アスカが答えると、クローゼは安心して大きく息を吐き出した。

「それで、僕達はこれから孤児院の調査に行く所なんだけど、クローゼさんも来るかい?」
「はい、是非ご一緒させて下さい」

ヨシュアの誘いに、クローゼは力強くうなずいた。



<ルーアン地方 マーシア孤児院>

エステル達がマーシア孤児院に着くと、そのひどい様子に驚いた。
孤児院の畑の植物は焼き払われ、食料を入れているタルも黒く焼き焦げていた。
さらにミルクを入れた金属缶はなぎ倒されて中身がほとんど出てしまっている。
飼われていたニワトリの姿は1匹も見られない。
……この荒らされようはただ事ではない。
犯人は徹底的に破壊しているように見えた。
焼き焦げた孤児院の建物を見て、クローゼは感情が込み上げてしまったのか涙を流し始める。

「ひどいです、ここは私達の思い出の場所なのに……」

クローゼは膝を折って顔を伏せながら泣き続ける。
シンジとエステルが前に倒れそうなクローゼの体を両側から支えた。
ガレキの片付けに来ていたマノリア村の男性達もどう慰めて良いのか遠巻きにして眺めていた。
ヨシュアとアスカはクローゼをシンジとエステルに任せて孤児院の調査を始める。

「辺り一面に漂う油の匂い、これは放火に間違いないわね」

アスカは焼き焦げた畑に鼻を近づけるとそう結論付けた。
同じく畑の地面を見ていたヨシュアもつぶやく。

「足跡から見ても、複数犯の仕業だ」
「そうね、短時間でこれだけ荒らしたんだから間違いなさそうね」

ヨシュアの言葉にアスカもうなずいた。
孤児院の庭の調査を終えたヨシュアとアスカは孤児院の建物の調査を開始したが、玄関の状態を見てとても驚いた。
何かが爆発した跡が残されていた。
玄関の屋根や扉は焼け落ちたのではなく衝撃によって吹き飛んだのだと解ると、ヨシュアとアスカは青い顔になる。
衝動的な犯行に爆弾を使う事はあまりない、つまり計画的なものだと言う事になってしまう。
しかも、爆弾は個人で簡単で作れる物でも無い、組織的な犯人となってしまう。
ヨシュアとアスカは頭に浮かぶ嫌な予感を振り払いながら、入念に孤児院の建物を調べて行く。
すると、火元が爆発地点と別の場所にもある事が解った。
ヨシュアはその火元となる場所を指差してアスカに話し掛ける。

「ここの壁が特に激しく焼き焦げている。油を建物の周りにまいて、ここにまきを積んで火を付けたんだろうね」
「じゃあ、爆弾は念を入れるために使ったのかしら?」

ヨシュアとアスカは顔を合わせて考え込んだ。
そして、ヨシュアは再び爆発があった地点を調べた後、アスカを手招きする。

「多分、爆発は消火するために起こしたんだと思う」
「えっ、じゃあテレサさんや子供達を助けるために起こしたって事?」
「うん、爆発のタイミングやベクトルから判断してもその可能性が高いよ」

アスカの質問にヨシュアは強くうなずいた。

「それじゃあ、爆弾を持ってきたのは”天使”って事になるわね」
「”天使”は伝承の存在かもしれないけど、救援に駆けつけた人物が居る事は確かだよ」

顔を突き合わせて考えたアスカとヨシュアは調査に一定の結論を出した。
アスカがクローゼの方を見ると、シンジがクローゼの側を離れて孤児院の建物のガレキの中を探している姿が見えた。
現場保存が捜査の基本だと知っているアスカは、シンジの行動を注意する。

「シンジ、勝手に現場をいじらないでよ、犯行の跡が解らなくなっちゃうじゃない!」
「あっ、ごめん。テレサさんやクラム君達に思い出の品物を持って行きたいと思って」

シンジはそう言って、ガレキを動かしたり焼き焦げた物を調べる作業を止めようとしない。
自分の注意を聞いていないと思ったアスカは再びシンジに向かって怒鳴る。

「現場を荒らすなって言うのが解らないの!?」
「アスカこそ、思い出の品物だけでも取り戻したいって言うクローゼさんやテレサさん達の気持ちが解らないのかよ!」

シンジがアスカに怒鳴り返すと、クローゼは驚いて顔を上げてシンジとアスカに訴えかける。

「別にいいんです、私のワガママなお願いなんですから!」

しかし、シンジは首を横に振り固い表情をしてゆっくりと話し始める。

「……僕は母さんの顔を知らないんだ。父さんが写真とか形見の品を全部捨ててしまったからね」
「そんな!」

クローゼが驚きの声を上げてシンジを見つめた。
アスカもエステルもヨシュアもこの事は知らなかったので、驚いて息を飲んだ。

「クラム君達はまだ小さかったから、前の院長先生だったジョセフさんの顔を覚えてはいないと思うんだ。それに、クローゼさんやテレサさんのためにも写真や形見の品が残って居たら探してあげたいんだ」
「あ、ありがとうございます……!」

クローゼは涙を流してシンジにお礼を述べた。
そして、エステルもシンジに加勢してガレキを退け始める。

「よーし、あたしも協力するわ!」
「こらっ、証拠がダメになっちゃうって言ってるでしょう!?」

エステルに向かって怒鳴るアスカの肩にヨシュアが手を置いてなだめる。

「もう調査は終わったんだから、良いんじゃないかな」
「わ、解ったわよ」

ヨシュアに言われて、アスカは黙り込んだ。
そんなアスカの姿を見たシンジは面白くない顔をしてつぶやく。

「僕の言う事は聞かないで、ヨシュアの言う事なら聞くんだね……」

しばらく捜索を続けても、孤児院にあった物はほとんど焼き焦げていて持ち帰れるようなものは見つからなかった。
ガレキを退ける作業に疲れたアスカがついに音を上げる。

「あーっ、もう! ガレキを退けても出て来るのは焼き焦げたガラクタばかりじゃない、いい加減諦めましょうよ!」

しかしシンジはアスカの言葉に首を横に振って探し続ける。
そして何かを閃いたように明るい顔をして大きな声で言う。

「そうだ、きっと重いガレキに圧し潰されて地面に埋まって居れば、焼けずに無事な物があるかもしれない」
「アンタって本当に頑固ね。あのロボット騒ぎの時だってさ、脱出カプセルを探そうとしていたし」

アスカがあきれ顔でため息をついたが、シンジは無視してガレキを片付けている男性達に声を掛けた。
シンジに声を掛けられた男性達は、シンジが大きめのガレキを指差すのを見て、困った顔になった。
しかしエステルも協力を申し出ると、その場に居た全員で力を合わせて大きなガレキを退ける事になった。
そしてガレキを退けた後の地面を掘り起こすと、土の中に埋まっていた写真立てを見つける事が出来た。
写真立てはガラス部分にひびが入っているだけで、中の写真はほとんど無傷だった。
それはテレサ院長の夫で、数年前に事故で亡くなった前院長のジョセフの写真だった。

「ああ、良かった……」

クローゼは目を閉じてその写真立てを胸に抱きしめた。

「大切な物が見つけられて良かったね」
「はい、ありがとうございますシンジさん!」
「そんな、みんなが協力してくれたおかげだよ」

クローゼにお礼を言われたシンジは照れ臭そうにそう返した。
アスカはますます不機嫌な顔になる。

「ほら、現場の調査が終わったんだからテレサさんに話を聞きに行くわよ!」
「アスカ、一体何をそんなに怒っているのさ?」
「ふんっ!」

アスカはシンジを思いっきりにらみつけるとさっさと歩き出してしまった。
シンジは首をかしげながらアスカの後を追いかける。

「ねえヨシュア、アスカはどうして怒っているの?」
「さあ、女心は複雑だとしか言いようが無いね。僕達が口を挟む事じゃないよ」

エステルの質問にヨシュアはそう答えて、クローゼと3人でアスカとシンジから少し後れて歩くのだった。



<ルーアン地方 マノリア村>

エステル達がマノリア村の宿屋に到着すると、1階のロビーでは火事のウワサ話で持ちきりだった。
居ても立ってもいられなくなったエステル達はすぐに2階への階段を駆け上がり、大部屋の扉を開けた。
クローゼは部屋の中に居る元気な孤児院の子供達の姿を見ると目を潤ませる。

「みんな、無事だったのね……」
「クローゼ姉ちゃん……」

クラム達も嬉しそうにクローゼに駆け寄って抱きついた。
エステル達は落ち着いている孤児院の子供達の様子を見て不思議に思った。
火事にあったのだからもっと怯えているのかと思ったのだ。

「クローゼお姉ちゃん、あたし達、天使様に助けてもらったの」
「凄い綺麗なお姉ちゃんだったのー」

孤児院の子供達は嬉しそうにクローゼに話した。
テレサ院長が穏やかな口調でエステル達に説明を始める。

「私達が火事に巻き込まれそうになった時に、助けてくれた方が居るのです。信じられない事にあなた達と同じ年頃の女の子でしたわ」
「本当に天使を見たんですか?」
「ええ、本物の天使様かどうかは判りませんが、私達にとても優しい微笑みを見せて下さいました」

ヨシュアの質問にテレサ院長はウットリとした表情を浮かべてそう答えた。
もう少し詳しい話をテレサ院長から聞こうとした所で、エステルのお腹の虫が盛大な鳴き声を出す。

「ねえ、あたし達、朝ご飯も食べて無かったし、下の食堂で何か食べない?」
「そうですね、ではこの場は私にお金を出させて下さい」

エステルの提案にクローゼはうなずいてそう申し出ると、シンジは自分の分は自分で出すと遠慮をした。
しかし、クローゼはじっとシンジの目を見つめて訴えかける。

「お願いです、シンジさんのおかげで私達は救われたんです、お礼をさせて下さい」
「う、うん」

クローゼの意思の強さに圧されてシンジがうなずくと、クローゼは嬉しそうな顔になった。
宿屋の食堂で食事をしながらテレサ院長や孤児院の子供達から”天使”の詳しい特徴を聞いたエステル達。
”天使”はエステル達と同じ位の少女で水色の短めの髪、白い肌で赤い瞳の色をしていたと言う。
話を聞いたアスカとシンジは頭の中にレイを思い浮かべた。
しかし、この世界に来たのは自分達2人だけのはず。
もしレイであればシンジに声を掛けるはずだとシンジは信じていたので、その考えを否定した。
シンジとアスカはお互いの考えが同じかどうか聞きたかったが、何となく話しにくい雰囲気だった。
そんな時、宿屋の入口に姿を現したのはダルモア市長だった。
ダルモア市長はテレサ院長と孤児院の子供達の姿を見ると、嬉しそうな声を上げる。

「おお、みんな無事だったかね!」
「はい、ご心配をおかけしました」

テレサ院長はダルモア市長に深々と頭を下げた。

「まったく、ジョセフの愛した孤児院がこんな事になってしまうとはな」

ダルモア市長は悲しそうな顔をしてため息をついた。
そしてダルモア市長はテレサ院長達と一緒に居るエステル達に気が付いて声を掛ける。

「確か君達はこの事件の調査をしてくれているそうだね、調査状況を聞かせてくれないか?」
「はい、では2階の部屋で……」

返事をしたヨシュアはエステルとシンジにテレサ院長と孤児院の子供達、クローゼを任せてヨシュアとアスカ、ダルモア市長の3人で2階の大部屋へと向かった。
2階の大部屋でヨシュアとアスカはダルモア市長に孤児院での調査結果を話した。
テレサ院長達が目撃したと言う”天使”に関しては、ダルモア市長に詳しい事を話さなかった。
逆にダルモア市長を混乱させてしまうと思ったし、何となく話す気持ちになれなかったのだ。
2人の報告を聞いたダルモア市長は深いため息をつく。

「何と、そんな事になっていたとは……」
「犯人は複数犯だと思われますが、犯行時間が夜中だけあって目撃者も居ない状況です」
「せめて、テレサさんと孤児院の子供達を助けた人が見つかれば、その人から聞けるかもしれませんけど……」

ヨシュアとアスカの言葉を聞いて、ダルモア市長は持っていた鞄からバンダナのようなものを取り出す。

「実は孤児院の近くでこれを拾ったのだが、手がかりになるかな?」
「このバンダナがどうかしたの?」
「ほら、昨日の昼間に酒場でエステルに突っかかって来たやつらが頭に巻いていたじゃないか」

バンダナを見たアスカが疑問の声を上げると、ヨシュアはそう説明した。

「そうだ、あの酒場にたまっている彼らには手を焼いているのだよ」

ダルモア市長はそう言って深いため息をついた。

「ヨシュア、どう思う?」
「うーん、他に手がかりが無い以上、彼らを当たってみようか」

アスカとヨシュアが話していると、1階から騒がしい音が響いて来た。
何が起きたのかとドアを開けると、階段の方からクラムの大声が聞こえて来る。
アスカ達は急いで階段を降りた。
すると、宿屋の1階の食堂ではシンジがクラムを抱き止めていた。

「離せシンジ兄ちゃん、俺はあいつらをやっつけに行くんだ!」
「ダメだ、君を行かせるわけにはいかないよ」

暴れるクラムをシンジは後ろから必死に抑えつけようとしていた。
その姿を見てアスカがエステル達に尋ねる。

「何があったの?」
「クラム君が2階に登って、あなた達の話を聞いてしまったみたいなんです。それで、孤児院を燃やした犯人をやっつけるって怒り出してしまって……」

アスカの質問に、クローゼが困った顔をして答えた。

「すまない、私が余計な事をしてしまったようだ」
「別に、市長さんは悪くないわ、善意で言ってくれた事なんだし」

頭を深々と下げたダルモア市長にアスカはそう言った。

「テレサ先生を、俺達の母ちゃんを泣かせるやつらは許しちゃおけないんだ!」

拳を握りしめてそう叫ぶクラムに向かって、シンジは優しく話し掛ける。

「君が怪我をしたって知ったら、テレサさんをもっと泣かせてしまう事になるけど、それで良いの?」
「うっ、そ、それは……」

クラムは自分を心配するテレサ院長の顔を見つめて言葉を詰まらせた。

「それに、孤児院に放火した犯人をこらしめる事は僕にも出来るけど、テレサさんの側に居て守ってあげる事は君にしか出来ないんだ」
「分かったよシンジ兄ちゃん」

クラムがシンジの言葉にうなずいて体の力を抜いて大人しくなると、テレサ院長やクローゼ達はホッとした表情を浮かべた。

「シンジさんのおかげでクラムが無茶をせずにすみました」
「いえ、僕はそんな……」

テレサ院長とクローゼ、クラムの3人にお礼を言われたシンジは顔を赤くして照れ臭そうに答えた。

「では、僕達はこれからルーアンの街に戻って彼らから話を聞いてみようと思います」
「よろしくお願いします」

ヨシュアがテレサ院長に向かってそう言うと、テレサ院長は深く頭を下げた。
テレサ院長と孤児院の子供達はマノリア村の門までエステル達を見送ってくれた。

「シンジ兄ちゃん、絶対に孤児院をひどい目にあわせたやつらをやっつけてくれよ!」
「うん、約束するよ」

クラムとシンジは固い握手を交わしたのだった。
ダルモア市長とはルーアンの街まで同行する事になった。
マノリア村からルーアンの街に向かう途中で、アスカは憂鬱な顔をしてポツリとつぶやく。

「アタシは……自分勝手な振る舞いばかりしているけど、シンジに守ってもらう価値はあるの?」

そのアスカの声はシンジの耳には届かなかった。



<ルーアンの街 カジノバー・ラヴァンタル>

ルーアンの街に着いたエステル達は、酒場の前でダルモア市長と別れた。

「それでは、酒場での事情聴取は君達に一任するよ」
「はい、分かりました」

ダルモア市長にシンジはしっかりとうなずいた。

「今の段階では任意で話を聞きだけだからね、注意してよ」
「何であたしとアスカを見ながら言うのよ?」

エステルは少し不機嫌な顔をしてヨシュアに答えた。
そして、酒場の中へと入ったエステル達はバンダナの持ち主である青年グループ《レイヴン》と対面した。
昼過ぎだと言うのに、彼らは酒を飲んでグダグダとしていた。

「だから、アンタ達が昨日の夜どこに居たか話せって言ってるの!」

アスカが大声で尋ねても、レイヴンの青年達は無視して答えなかった。

「お嬢ちゃん、こいつらは昨日の夜もここで酒を飲んでいたんだ」
「全員ずっと居たとは限らないでしょう? アンタが目を離した事もあるかもしれないし」

マスターに言われて、アスカはそう反論した。
そしてエステルもバンダナを握りしめてアスカに加勢する。

「そうよ、じゃあどうして孤児院の近くにこのバンダナが落ちてるのよ!」
「孤児院に放火した犯人は自分達だって認めなさいよ、この卑怯者!」
「なんだと!」

エステルとアスカが2人で叫ぶと、レイヴンの青年のうちの1人が怒った顔で言い返した。
こうならないように店に入る前に注意をしていたのに。
ヨシュアは天を仰いでため息をついた。
すると、店の隅に座っていた女性客から声が上がる。

「何ようるさいわね、ゆっくりと食事もできないじゃないの」
「ふん、これからこのガキ共にお仕置きをしてやるんだ、邪魔するんじゃねえ!」
「アタシ達がガキですって!? アンタ達こそ、仕事しなさいよ!」

女性客の言葉にレイヴンの青年がそう答えると、アスカはさらに怒った顔で叫んだ。

「お仕置きですって? 面白そうね、私も参加させてもらおうかしら」

女性客はムチを鳴らしてからゆっくりとエステル達の方に振り返った……。
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