アスカ・ブライト 〜茜空の軌跡〜 FC
第二章『消えたエヴァンゲリオン』
第十八話 絶体絶命! 捕まったエステルとアスカ達!
<ボース地方 ハーケン門>
「まさかアタシ達、処刑されちゃうの?」
青い顔でつぶやいたアスカが震えながらギュッとシンジの手を握った。
リベール王国で自分達の居場所を見つけられたと思ったのに、命を落としてしまうのか。
シンジが悔しい気持ちで取り囲む兵士達をにらみつけていると、外が騒がしくなり人影が部屋へと飛び込んで来る。
「その子達に手を出してみなさい、私があなたを許しておかないわ!」
「お主は……銀閃のシェラザード!」
やって来た人影がシェラザードだと分かると、エステル達は歓声を上げて喜んだ。
「高名なモルガン将軍にご存じいただけるとは光栄ね」
「どうやってここまで入って来た!」
「私も市長の委任状を貰って検問を通らせてもらったわ。嫌な予感がしたからね」
「簡単に遊撃士に検問を通させてしまうとは……許せん!」
「それはこっちのセリフよ!」
しばらくシェラザードをにらみつけていたモルガン将軍の方がついに折れる。
「ふん、ここで暴れられても面倒だ、調査資料なら後で遊撃士協会宛てに送ってやる、用が済んだならとっとと帰れ」
「用はそれだけじゃないわ、帝国への通行許可を出してほしいのよ」
「何をバカな事を言っている、強盗事件発生中だから国境を閉鎖しているのが分からんのか!」
「緊急事態だから仕方無いのよ、カシウス・ブライトに関する事なんだから」
「何だと!?」
シェラザードの言葉を聞いたモルガン将軍は驚きの声を上げた。
そしてエステル達はシェラザードを交えてモルガン将軍に事情を話した。
カシウスが帝国で消息を絶ってしまったので自分達の手で探したいと頼むとモルガン将軍は腕を組んで考え込んだ。
そしてしばらくした後、モルガン将軍はゆっくりと発言する。
「分かった、ワシもカシウスの事は気にかかる。だが、帝国に行く事を許可するのはシェラザード1人だけだ」
「えーっ、何で!?」
アスカが驚きと不満が入り混じった声を上げた。
「未熟な準遊撃士のお主らを帝国に行かせるわけにはいかぬ」
「モルガン将軍はカシウス先生と親交があったから、エステルの事が心配なのよ」
「ワシがカシウスのやつめと親しかったのは軍人だった頃までだ、遊撃士になった後は知らん!」
シェラザードの言葉に、モルガン将軍は不機嫌そうに顔を背けた。
「カシウス先生の事は私に任せて、あなた達は自分のできる事をやりなさい」
「でも……」
「アスカは私の腕を信用できないの?」
「そんなことないわよ」
アスカが納得した所で、それぞれの方針が決まった。
シェラザードは帝国に行きカシウスの消息を追う。
エステル達はボース地方の強盗事件解決に協力する。
「じゃあね、あなた達も私が居ないからって気を抜かずにしっかりと遊撃士の仕事をこなすのよ」
「シェラ姉も気を付けてね!」
シェラザードはエステル達に見送られてハーケン門を通過して帝国へと去って行った。
「僕達はボースの遊撃士協会へ戻ろうか」
「そうね、強盗事件に関する情報も貰える事になったし」
ヨシュアの提案にアスカがうなずいた。
「あたし、何か忘れているような気がするんだけど」
「きっと気のせいだよ」
エステルのつぶやきに、シンジはそう答えた。
「まったく薄情だね、親しく言葉を交わした仲だと言うのに」
ハーケン門を去って行くエステル達の姿を休憩所の中からオリビエは寂しそうに見送った。
<ボースの街 遊撃士協会>
エステル達がボースの街へ戻って来た時にはすっかり日が暮れていた。
強盗事件に関する調査資料は一足先に遊撃士協会に届いていた。
資料を読んだエステル達は、明日の朝に対策会議を開く事にして遊撃士協会の2階で眠りに就いた。
「大変じゃあ!」
朝日が昇る前にルグラン老人に起こされたエステル達は、街が騒がしい事に気がついた。
なんと昨日の深夜に新たな強盗事件が発生したらしい。
ルグラン老人によると、営業の終わった北区画にあったボースマーケットとレストラン、南区画にあった武器屋とオーバル工房の鍵を壊して強盗達が商品や金庫を強奪したらしい。
両方の店は無人だったために人的被害は無かったのが不幸中の幸いだった。
目撃者によると強盗達は夜明け前に西の方へ一斉に引き揚げて行ったので、この支部に立ち寄ったアガットと言う遊撃士が追いかけて行ったそうだ。
「僕達も強盗達を追跡しよう」
ヨシュアの提案にエステル達も賛成した。
エステル達は強盗達を追いかけてボースの街の西の門を出るのだった。
しかし、しばらく西の街道を進んで行くと、ヨシュアが突然足を止めた。
「どうしたの?」
「……ここで強盗達の足跡が途絶えている」
シンジにヨシュアはそう答えた。
ヨシュアの言葉通り、エステル達にもそこで足跡の数が急に少なくなっているのが分かった。
「まさか、ここから先は空を飛んで行っちゃったとか?」
エステルが笑いながらそう言うと、シンジ達は揃ってうなずく。
「相手は空賊だから多分そうだろうね」
「ええっ、本当に空を飛んだの?」
「ロレントで逃げられたばかりじゃない、忘れたの?」
アスカはあきれ顔でため息をついた。
「でも、ボースの街で目撃証言が無いって事は、ここよりさらに西の方へ飛んで行ったんでしょうね」
「そうだね」
アスカの言葉にヨシュアが同意してうなずいた。
「この先はラヴェンヌ山道かクローネ峠に別れているみたいだ、どっちに行けばいいんだろう」
「手分けした方が良いのかな」
シンジとエステルもそうつぶやいて、エステル達がこれからどうしたものかと思案していると、ラヴェンヌ山道の方から背の高い、大きな剣を背中に背負った赤毛の青年が降りて来た。
その赤毛の青年はエステル達の胸に付けられた準遊撃士の紋章を見て声を掛ける。
「お前ら、ルグランじいさんが話していたシェラザードの連れの新米準遊撃士共だな?」
「何よアンタ、偉そうに」
突然上から目線で話しかけられたアスカは少し怒った顔で青年をにらみ返した。
「ダメだよアスカ、先輩の遊撃士にそんな態度を取っちゃ」
シンジは慌ててアスカをなだめるように赤毛の青年の胸に付けられている正遊撃士の紋章を指差した。
「失礼しました、あなたがアガットさんですね?」
「フン、そうだ」
ヨシュアが謝りながら尋ねると、アガットは鼻を鳴らしながら答えた。
「それで、シェラザードのやつもロレントから来たって話だが、お前らと一緒じゃないのか?」
アガットに尋ねられたエステル達は事情をアガットに話した。
カシウスが行方不明になったと聞いてアガットは驚いた様子だったが、それ以外は落ち着いて話を聞いていた。
「ふーん、あのしぶといおっさんが行方不明だって言うのはいまだに信じられないが、シェラザードなら何かをつかんでくれるだろう」
「そうですよね」
アガットの言葉を聞いてシンジは安心したようにため息をついた。
「でもお前達は無駄足だったな。俺は飛行船の目撃情報を聞いてラヴェンヌ村まで行って来たが、どうやら見間違えのようだったぜ」
「そうなんですか?」
シンジの言葉にアガットはうなずく。
「ああ、黒い影が村の北西の廃坑の方へ飛んで行ったらしいが、飛行船は見つからなかったぜ」
「では、僕達はクローネ峠の方へ行ってみようと思います」
「そっちの方は目撃証言が無いんだぜ?」
ヨシュアの言葉にアガットは怪訝な顔をして尋ねた。
「でも、念のために調べないと」
「へっ、好きにしな」
アガットはそう言って街の方へと戻って行った。
「自分が正遊撃士だからってでかい態度取っちゃって」
「あたしの事を素人扱いして滅茶苦茶ムカついたわ」
アスカとエステルはアガットが去った後思い切り不満をもらした。
エステル達はクローネ峠を進み、ルーアンとの関所まで行ったが、空賊に関する情報は得られなかった。
このまま手ぶらで街に帰るしかないのかと落胆していたエステル達に、シンジが提案をする。
「街に戻る前に、ラヴェンヌ村の方も調べてみない?」
「どうして、あそこはアガットさんが調べたはずだよ?」
ヨシュアに言われて、シンジは少したじろぐ。
「でも、1人で調べたなら見落としがあるかもしれないし……」
「賛成、賛成! もし何か情報を見つけたらアガットの鼻を明かせるじゃない」
「うんうん」
アスカもエステルもシンジの言葉に猛賛成した。
「僕は別にアガットさんにやり返そうとは思っていないけど……」
「他に手がかりもないし、行ってみるのも良いかもしれないね」
ヨシュアも賛成に回った事で、エステル達はラヴェンヌ村へ向かう事にした。
<ボース地方 ラヴェンヌ村>
エステル達は険しい峠道を引き返して分岐点へと戻り、また険しいラヴェンヌ山道を登り始めた。
遊撃士になるための修業を積んだとはいえ、これだけの山道を歩くのはアスカとシンジにとっては特に辛いものだった。
第三新東京市で暮らしていた頃はこんなに歩いた事は無い。
「アスカ、大丈夫?」
「シンジの方こそ、へばっているんじゃないの?」
アスカはシンジにそう言い返したが、とても歩くのが辛そうだった。
「それじゃ、あたしがアスカをかついであげるよ」
「エステルも疲れているんでしょう?」
「このぐらい平気だって!」
涼しい顔でアスカを担ぎあげるエステルを見て、シンジはこの世界の住人達との基礎体力の差を思い知らされた。
村に着いた時にはシンジとアスカは体力の限界を迎えていたので、情報収集はエステルとヨシュアに任せてシンジとアスカは村の宿屋で休憩する事になった。
「さてと、片っ端から目撃証言を聞いて行く?」
エステルの提案にヨシュアは首を横に振る。
「まずは村長さんに話を聞いてみよう、そうすれば誰が目撃者か分かるよ」
「なるほど、余計に話を聞く手間が省けるか」
エステルとヨシュアが村長に話を聞くと、目撃者は小さな少年だと分かった。
さらに2人は村長にアガットの知り合いかと尋ねられた。
正確には知り合ったばかりなのだが知り合いだと答えると、村長はエステルとヨシュアに何かを言い掛けて口を閉じた。
エステルとヨシュアは村長の態度が気になったが、無理に尋ねるわけにもいかず、村長の家を出て目撃者の少年を探す事にした。
目撃者の少年は桟橋で孤独に暗い顔をしてうつむいて座っていた。
「君がルゥイくん?」
「そ、そうだけど、お姉ちゃん達は誰?」
エステルが少年の名前を呼んで声をかけると、少年は怯えながら返事をした。
「あたし達は遊撃士なの、まだ見習いなんだけどね」
「遊撃士ってアガットにーちゃんと同じ?」
「君はアガットさんを知っているの?」
「うん、アガットにーちゃんは僕達が小さい頃から遊んでくれたんだ、だけど……」
ヨシュアの質問にそこまで話してルゥイ少年は暗い顔になって黙り込んでしまった。
これはマズイと話題を変えるためにヨシュアはルゥイ少年に優しい口調で再び質問する。
「君が昨日の夜見かけた黒い影の事を教えて欲しいんだ」
「嫌だ!」
ヨシュアに尋ねられたルゥイ少年はすねたように顔を背けてしまった。
この反応にはエステルとヨシュアは驚く。
「どうして?」
「だって、お姉ちゃん達もボクが嘘つきだって怒るから」
「もしかしてアガットさんに怒られたの?」
ヨシュアの質問にルゥイ少年は振り返ってうなずいた。
ルゥイ少年は目に涙をためて今にも泣き出しそうな顔をしていた。
「お姉さん達は怒ったりしないから」
「でも、アガットにーちゃんは探しても見つからなかったって。だからボクは村の他の子からも嘘つきって言われたんだ」
「それは探し方が甘かったのよ、お姉さん達は4人で探してあげるから、きっと見つけてみせるって」
「本当!?」
「だから、もう泣かないでお姉さんに話を聞かせて」
「うん!」
(……これがエステルの持っている明るさ……周りのみんなを照らしてくれる)
エステルとルゥイ少年の話を聞いていたヨシュアは心の中でそうつぶやいた。
ルゥイ少年はエステルとヨシュアに昨日の夜目撃した黒い影の事を改めて説明した。
いつものように夜に家をこっそりと抜け出したルゥイ少年は星を見始めてしばらくしてから、黒い影が村の上空を南東から北西に速いスピードで横切って行くのを目撃した。
それで、事件の事を聞いて村にやって来たアガットに誰よりも早く報告したのだと言う。
「ありがとう、話してくれて」
「お姉ちゃん、頑張ってね!」
別れ際のルゥイ少年は明るい表情で手を振っていた。
「エステル、あんな約束をしちゃって大丈夫?」
「……やっぱり、まずかったかな」
エステルはヨシュアの質問にごまかし笑いを浮かべて答えた。
「根拠は無かったんだ」
予想していたエステルの答えにヨシュアは苦笑しながらため息をついた。
エステルとヨシュアは宿屋で休憩をしていたアスカとシンジと合流すると、2人にエステルがルゥイ少年と交わした約束について話した。
「もうエステルってばそんな安請け合いしちゃって」
「仕方無いよ、それがエステルの良い所なんだからさ」
「アタシだって分かってるわよ」
ヨシュアに説得されて、アスカはそう言い返した。
「でも、もし黒い影が見間違えだったらどうしよう」
「シンジはルゥイの話が信用できないの?」
シンジが不安をもらすと、エステルは悲しそうな顔でシンジを見つめた。
「そんな事は無いけど……」
「それじゃ、早速村の北西にある廃坑へ向かうわよ!」
張り切っているエステルを先頭にエステル達は廃坑へと向かった。
廃坑の途中の道のりには強盗達が居た痕跡は見つけられなかった。
そして、廃坑の入口の鉄格子の扉を見たアスカとヨシュアは顔を見合わせてうなずく。
「入口にはしっかり鍵がかけられているわね」
「どうやら、最近開けられた事もないみたいだ」
2人の言う通り、廃坑の入口の扉には錆び付いた南京錠が鎖で縛り付けられていた。
昔に廃坑になった時のまま放置されているのだろう。
「と言う事は、やっぱり空賊はここに来ていないって事?」
「そんなあ」
シンジが結論を出すと、エステルはガッカリした感じでため息をついた。
「エステル、残念だけどやっぱりアガットさんの調査結果は正しかったみたいだ」
「でもこのままじゃ、ルゥイが嘘をついた事になっちゃうじゃない、もうちょっと調べよう」
「気持ちは分かるけど、もう戻ろうよ」
ヨシュアに食い下がって調査を続行しようとするエステルを、シンジが説得しようとした。
諦めきれない様子で廃坑の入り口に近づいたエステルは、何かに気がついた様子でシンジ達に尋ねる。
「ねえ、中から空気が流れ出している気がしない?」
人差し指を口に含んで濡らしたシンジも、エステルの言葉に同意する。
「本当だ、風が吹いているみたいだ」
「廃坑のどこかに地上に通じる所があるのかもしれないわね」
「アガットさんは入口を見ただけで奥まで調べる必要は無いと判断したみたいだね」
アスカとヨシュアの反応も見て、エステルは嬉しそうな表情になる。
「じゃあ、廃坑の中も調べてみようよ!」
「だけど鍵が掛かっているよ」
シンジにそう言われたエステルは笑顔で装備していた棒を大きく振り上げる。
「それなら鍵をぶち壊して……」
「ダメだよ、村長さんに鍵を借りに戻ろう」
「むー、早く調べたいのに」
ヨシュアになだめられて、エステルは引き下がってラヴェンヌ村へと戻るのだった。
<ボース地方 ラヴェンヌ廃坑>
村長から廃坑の鍵を借りたエステル達は、いよいよ廃坑の中へ足を踏み入れた。
長い間閉鎖されていた廃坑は静寂に包まれていた。
奥の方へと進んで行くと、前の方から話し声が聞こえて来た。
エステル達は無言で顔を見合わせると声のする方へとゆっくりと歩いて行った。
暗かった廃坑の通路がだんだんと明るくなって行くのにエステル達は気がついた。
やがてエステル達は、山を切り崩した露天掘りがされていた場所へとやって来た。
周りは崖に覆われていて廃坑の入口から見えない地形になっている。
「あれは、ジョゼット達が乗っていた飛行船!」
「どうやら、ビンゴみたいね」
エステルの言葉に、アスカもうなずいた。
目の前で空賊達がのんきに食事をしている。
油断している今のうちにとエステル達は攻撃を仕掛けようと走って接近する。
「こらっ、あんた達! 年貢の納め時よ、覚悟しなさい!」
「よお、早かったじゃないか」
「へっ?」
その場に居た空賊グループのリーダー、ロレントでジョゼットを迎えに来たキールに親しげに声をかけられてエステルは驚きの声を上げた。
「お前ら、知らせに来てくれたんじゃないのか?」
「何の話よ?」
話がかみ合わず、キールとアスカは首をかしげながら見つめ合った。
「もしかして、本当に俺達を捕まえに来たのか?」
「当たり前よ!」
キールの質問にエステルが武器を構えてそう答えた。
「兄貴、やばいですぜ」
「慌てるな、相手はガキ4人だ、ジョゼットがやられた分をやり返してやる!」
「アタシ達を甘く見ると痛い目にあうわよ!」
キール達は逃げずに襲いかかって来た!
戦闘開始から、キール達は一斉に煙幕花火を投げつけてエステル達の視界を塞ぐ。
しかも、煙幕は目に染みるため、ゴーグルを完全装備した空賊達が有利だった。
「これじゃあ、まともに戦えないじゃない……きゃああ!」
煙の中で空賊の1人にムチを引っ張られたアスカが悲鳴を上げて地面に倒れ込んだ。
そして空賊達に体を取り押さえられた。
「アスカっ!」
シンジが青い顔をして叫びながらアスカの下へ駆けつけようとした。
「おっと動くんじゃない。この娘の顔に傷を付けられたくなったら、大人しくするんだな」
空賊の男がアスカのほおにナイフをかざした。
アスカは恐怖に目を見開いて息を飲んだ。
「分かったよ、だからアスカには手を出さないでよ」
シンジはそう言って持っていた導力銃を地面へと落とした。
エステルとヨシュアも武器を手放して降伏の態度を示した。
「へへっ、こうも簡単に行くとはな」
キールは空賊達に指示して、エステル達の手を縛らせた。
「あたし達をどうするつもりよ!」
「安心しな、身代金を取ったら解放してやる」
エステルの質問にキールはそう答えた。
そしてエステル達は飛行船に乗せられ、倉庫に押し込められた。
キール達の飛行船は小型とは言え空賊達とエステル達や強奪した商品を乗せるだけの余裕はあるようだった。
「遅かったな、王国軍の警戒は解けたか?」
「……軍はラヴェンヌ村方面には空賊は居ないと判断したようだ、遊撃士の報告によってな」
「遊撃士だと? 俺達はさっきノコノコとやって来た遊撃士の連中を返り討ちにして捕まえたんだぞ」
「その遊撃士達より前に目撃証言を元に村を調べていた遊撃士が居たらしい」
「くそっ、見られていたのか」
「心配には及ばない、目撃者はほんの子供で誰も取り合わなかったようだからな」
キールと謎の男のやり取りは倉庫に押し込められたエステル達の耳にも聞こえて来た。
「報告にした遊撃士って多分アガットさんの事だよね」
「んもう、なんてタイミングが悪いのかしら」
シンジの言葉にエステルが苛立った様子で答えた。
この状況では救助が来る事は絶望的だ。
(……この声は聞き覚えがある気がする)
ヨシュアは1人で難しい顔をして考え込んでいた。
「みんな、アタシのせいで捕まっちゃって……ごめん……」
緊張の糸が切れたのか、ついにアスカが泣き出してしまった。
「アスカのせいじゃないよ、あたし達だけで空賊を捕まえようとしたから」
「うん、戻ってアガットさんやモルガン将軍に応援を求めるべきだったんだ」
エステルとシンジが励ましても、アスカはしばらく泣き続けていた。
アスカを抱きしめて慰めたかったが、エステル達は縛られているのでそれはできなかった。
そして、エステル達を乗せて飛び立った飛行船はリベール王国軍の目を逃れて空賊のアジトへと戻ったのだった。
<ボース地方 空賊アジト>
エステル達をさらったキールは空賊達のリーダーであるドルンの部屋に顔を出していた。
「遊撃士を誘拐するなんてやるじゃねえか、遊撃士協会からも身代金がとれるな」
キールから報告を受けたドルンは大きな笑い声を出した。
「それじゃあ、早速身代金の受け取りと人質解放の計画を立てないとね!」
側に居たジョゼットが楽しそうに言うと、ドルンは怒鳴り出す。
「人質を解放だと? 何をふざけた事を言っているんだ、遊撃士なんて邪魔なやつは生かしておく必要なんてないじゃねえか」
「ドルン兄、何を言っているのさ!?」
ドルンの言葉を聞いたジョゼットは青い顔で聞き返した。
「目撃者は全て消す。そうすればまだまだボース地方で稼ぐ事が出来るじゃねえか」
「兄貴、そんな血で濡れたミラなんかでカプア家を復興させても……」
「カプア家の復興? 何を言っている、金さえあれば何でもできる、金が無くなればまた強盗や誘拐でもして金を稼げばいいじゃないか。それがこれからのカプア家の在り方よ」
「ドルン兄、一体どうしちゃったのさ!」
「うるせえ、さっさと身代金を要求して来い!」
キールとジョゼットは不機嫌になったドルンに部屋を追い出されてしまった。
廊下に出たジョゼットは泣きそうな顔でキールにすがりつく。
「ねえ、ボク達はどうしたらいいの?」
「どうしようもねえ、兄貴の言う通りにするしかないさ」
「キール兄までそんな事言うなんて……」
ジョゼットはキールの体を突き飛ばして廊下を駆け出して行った。
目から涙を流しながら走るジョゼットの脳裏にはロレントで会ったエステル達の顔が浮かんでいた。
口ではエステル達の事を嫌っていたジョゼットだが、エステル達の事を特別に思っていたのだ。
「エステル、アスカ……ボクが助けてあげないと」
ジョゼットはそうつぶやいて、エステル達が閉じ込められている部屋へと向かうのだった。
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