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翼竜街ですが何か!
第四拾六話 防具屋巡りをしますが何か! 其の弐
 「ここがニーズヘッグ鍛冶場直営の武具・防具販売店舗だ、今日は防具が目的と言っていたけれど武具も色々置いてあるからゆっくり見て行ってあげてくれ」

デルゥに案内されて俺と紫慧、フウはアルムさんの営む防具屋から一本通りを隔てた裏通りにある、ニーズヘッグ鍛冶場の直営店へとやって来た。
 店は防具だけでなく武具も扱っている為か、アルムさんの店よりも広く大きい規模の店だった。

 以前、スミス爺さんにニーズヘッグではウォーハンマーやバトルアックスなどが多く作られていると聞いていたが、この直営店でも剣に次いで多く陳列されていたのは、ハンマーやメイス・片手用のバトルアックスだけでなく両手で扱う大斧が多く置かれていた。
 そして、その武具の奥に防具が置かれていた、俺達は手前にある武具を見つつ防具が置かれている場所へと進んで行った。

 「どうだい? 私の店と違って重厚な防具が多いだろ。
 おお! これは歩人甲ほじんこうじゃないか!
これは、ニーズヘッグでも新しく工夫されたばかりの新製品でね、ニーズヘッグの甲竜人族に今一番人気の高い鎧なんだよ」

と話してくれた、ニーズヘッグで一番人気と言う事もあるのか、店の防具売り場の一番目立つ場所に陳列されていた。
 (歩人甲=甲葉(鉄の板)を皮紐や鉄鋲で綴った、ラメールアーマーに分類される鎧、太腿からほぼ全身を覆い宋の時代では1825枚の甲葉を綴った物が標準とされ、全身の重さは29㎏に達していたが、非常に堅固で至近での弩による攻撃を跳ね返したと言われる。
 因みに、既に物語の中に登場している明光鎧めいこうがいは大体15㎏程度、裲襠甲は7㎏に過ぎない事からも歩人甲に使用される甲葉(鉄板)の量の多い事が分かる。
ついでに、日本の鎌倉時代の大鎧は約25㎏、戦国時代の当世具足は約15㎏、西洋甲冑のプレートアーマーは約30㎏、中世ヨーロッパ騎士の着ける全身を覆う全装甲型金属甲冑=フィールドアーマーは35~45㎏だったらしい)

 他に、明光鎧も多く陳列されていたがどれも重厚堅固な作りの物ばかりだった、それを見ながら俺は

 「これは、何とも重厚な鎧ばかりだなぁ、この作りだと翼竜人族にはあまり受けがよく無いんじゃないか?」

とデルゥに聞くと、デルゥは慌てて、口元に指をやり

 「シィ! そんな事いうと店員に睨まれるよ、そう言う事は小声で頼むよ。
確かに、今のところ翼竜人族の多いリンドブルムでは、こう言った重厚堅固な防具はあまり好まれないな。
防具としては良いものだと思うんだけど?」

と不思議だ、と言う様な顔をしてるデルゥに苦笑しつつ俺は

 「そりゃ、戦い方が違うからだろ。
戦い方が違えば身に付ける防具も携える武具も変わってくるからな、それを分からずに武具や防具を並べても売れないのは当たり前だな」

と言う言葉に、デルゥは目を輝かせて

 「申し訳ない、それは一体どう言う事だろう、そう言った事はニーズヘッグではあまり聞いて来なかったんだ、良かったら教えてくれないか?」

とお願いされてしまった、俺は店の中を見回して(さっきからの俺の不用意な発言に店員の視線が厳しい)

 「そうか、じゃここでは何だから、次の店に行きながら話さないか?」

その言葉に、デルゥも店の中の雰囲気を察して

 「そっそだね、じゃ出ようか」

と言いつつ、デルゥを先頭に俺達は足早に店を後にした。

 「は~、タケヒロさんが余分な事を言うから、店員の機嫌を損ねましたよ。
 で、さっきの話ですど、一体どういう事ですか?
私はニーズヘッグで兎に角、質の良い物さえ作れば良いと聞いて来たんですが?」

というデルゥに俺は歩きながら

 「確かに、モノを作る時はそれが武具や防具でなくても、質に注意しなければならないのは当たり前の事だ。
だけど、ただ質が良いから売れる、使ってもらえると言う訳じゃ無い。

 そうだなぁ例えば、食べ物などでも人は好き嫌いがある、たとえどんなに良い物、美味い物でも嫌いな物は買わないよな。」

 「それはそうだけど、それと武具・防具と同じなのか?」

 「武具・防具の方がある意味もっとハッキリしているだろうな、命にかかわる事だからな。
デルゥは実際に武具や防具を扱った事、戦った事はあるか?鍛錬の一環でも良いんだが」

 「それなら、小さい頃にリンドブルムの鍛錬場で護身術程度ならやっていたけど」

 「そうか、ならデルゥはその時どんな武具使っていた? 今、腰に着けているメイスなのか?」

 「いや、これは携帯用の補助武具だよ、私は体が大きいからこんなモノでも十分なんだけど、当時鍛錬場で教わったのは槍だったかな、父さんも槍を使っていたしね」

 「そうか、槍な。
じゃあ、その時の事で良いんだが、デルゥは槍をどう扱っていた?」

 「えっ! どう扱っていたって・・確か前後に素早く動いて突いたり薙ぎ払ったりしてたけど・・・。」

 「だよな、じゃあ聞くがその時に重たい防具を着けていたらどうだ?
例えばさっき見た歩人甲を着ていたら」

 「そりゃ動き難くて・・・!」

 「分かった様だなぁ、そう。
槍を扱うなら、槍に合った防具でないと不向きなんだ、逆に歩人甲を着ていれば、大盾も装備しておいてバトルアックスやハンマーなどの方が扱い易いかもしれない。
一度楯や鎧で相手の攻撃を受け止めて、それから攻撃するなら一撃で相手を仕留められる武具の方が有効だろうからな。
 要するに、その者の戦い方によって武具も防具も変わってくる。
甲竜人族の戦い方に合っているから翼竜人族も同じ、とは限らない、翼竜人族には翼竜人族の得意な戦い方がある、それを見極めた上で防具を売らないと売れないと言う事さ」

そう、説明するとしばらく考えていたが、

 「なるほどそう言う事か・・・って事は私がニーズヘッグに行って修行した事はあまり意味が無いと言う事に?」

何て事を言い出すデルゥに俺は慌てて

 「いやいや、ニーズヘッグでの修行は良い事さ、ただそれを単に同じ様にしてお客に押し付けるんじゃなくて、デルゥなりにアレンジを加えて、リンドブルムの人達に合わせた防具を作ればいいのさ。
基本は出来てるんだろ、だったら基本は崩さずに後は応用だな。

 それにデルゥにはアルムさんって良い相談相手も居るじゃないか、色々話して一つづつ丁寧にやって行けば良いんじゃないか」
 
そう話している内に、街門前の広場にある市場に着いていた

 「ところで、市場にある防具屋ってのは?」

と話を振るとデルゥは

 「あぁ、市場には色んな防具屋があるけど、スミスさんが言っていた妖猿族の防具屋さんは波奴真安ハヌマーンさんの所だと思うんだ、こっちだ!」

と言いながら市場の奥に俺達を案内して行った。

 そこは、以前紫慧と一緒に訪れたダークエルフの生地屋、ベノアさんのお隣だった。

 「波奴真安さ~ん! こんにちは。」

そうデルゥが声をかけると、所狭しと置かれている防具の陰から、キツネザルの様な顔の妖猿族が姿を現して

 「こりゃ珍しい! アルムさんとこのデルゥちゃんかい。
ニーズヘッグに鍛冶修行に行ったって聞いてたけど、帰って来たんだね。」

と満面の笑顔で、出迎えてくれた。

 「真安さん、今日はこっちの人の防具を探しに来たんだけど」

と俺を、妖猿族の前に押し出すものだから、俺は慌てて

 「どうも、津田驍廣と言います。
今日はご厄介をおかけします。」

と言うと、妖猿族の防具商は

 「あぁ、そんな堅苦しい挨拶は良いさ・・・津田驍廣? 何か我ら国の者と同じ様な名前だねぇ、まあ良いさな。
 ところでどんな防具をお探しだい?」

と俺の事を値踏みする様な目で見ながら問われ、俺はその視線に姿勢を正し

 「欲を言えば『具足』が一領あると面白いんだが、とりあえず籠手と臑当それに軽量の胸当てがあれば」

と言うと、波奴真安はキラリと目を輝かせ

 「なんだい、あんた『具足』なんて言葉良く知ってるね。
だがあいにく『具足』は今は置いてないね、まぁそれでもこんなモノならあるよ、ちょっと待ってな」

と言って防具の山の中から肩から手の甲まで覆い護拳ナックルガードまで着いた一見ガントレットと見間違う様な(ガントレットより軽装だった)籠手と膝当てが着いた脹脛ふくらはぎ全体を覆う筒状の臑当てそれに、太腿を守るエプロンの様な佩楯はいだてを出して来た。

 「な! 良くこんなモノがあるなぁ、こんなモノこの街じゃ売れないだろうに」

と俺が呆れた様に言うと、波奴真安はニヤリと笑って

 「だが、あんたはこう言うのがご所望だろ、別に嫌なら良いんだけどね」

と片付けようとする波奴真安を

 「悪かった、こんなのが良かったんだ、これで胴があれば言う事は無いが、そんな無理は言えないからな。
ただ、もうちょっと良く見せてもらえないか?」

と言うと

 「あぁ、好きなだけ納得が行くだけ見れば良いさね」

と言いながら、煙管煙草きせるたばこを懐から取り出して、のんびりとふかし始めたが、その目は俺をじっくりと観察していた

 俺はその目を気にしながらも、籠手と臑当・佩楯を手に取って細部を見る格好をしながら第三の目を使ってそれらも防具を観る。

 第三の目が籠手・臑当・佩楯を捉えると、そこには一匹の四つ目の山犬が宿っていて、頻りに店の奥の防具の陰に隠れている木箱を窺っていた。

 「オヤジさん、ちょとこの木箱の中も見せてもらうよ」

俺は防具屋の店主の答えを待たず、木箱に手を伸ばすと有無を言わせず蓋を開く。
中には、作務衣の様な形の厚手の綿布で作られた一枚の服が、綺麗に折り畳まれて入っていた。

 「なんじゃ、見つけちまったのか。参ったなこりゃ、その様子だとあんたコイツが見えてるな」

波奴真安は頭を掻きながら、防具の上に座り俺の方を嬉しそうに見ている山犬の方を指差した

 「って事はこの防具はこれで一揃いなのか? で、命の宿る防具だと!」

俺のその言葉に、デルゥは顔色を変え口をパクパクさせている、オヤジさんは苦笑しつつ

 「ご明答! 武具と違って防具は一式揃わないと、その宿した命を見る事は難しいんだが、あんたには通用しなかったって訳だな。
 いや~参った参った、上手い事言って高い値で売りつけ様と思ったが、こうもあっさり見破られたんじゃお手上げだわ」

と特に悪びれもせず言い放つオヤジに俺は苦笑を返した。

 「波奴真安! 私が連れて来たお客にこんな事をするなんて、何を考えているんだ!!」

話を聞いていたデルゥが顔を真っ赤にしてオヤジに詰め寄り、襟首を絞め上げながら怒鳴りつけた。

 大柄なデルゥに襟首を絞められて小柄なオヤジは目を白黒させて

 「おい・・ちょっと助けてくれ・・絞まる、しっ死ぬぅ・・・」

と俺に助けを求めてきた、俺は仕方無く

 「デルゥ、そんなに絞めたら死んじまうぞ! いい加減放してやったらどうだ」

と声をかけるも、興奮したデルゥはなかなか手を放さない。
仕方無く俺はオヤジを絞め上げている手を内側(掌の方)へ小手返しの要領で曲げて手首を極めると、デルゥはその痛みに耐えられずオヤジを解放した。

 「タケヒロさん! 痛いじゃないですか!」

関節を極められるなんて事が初めての体験だったのだろう、今度は真っ赤な顔で俺に食って掛かって来たが

 「放せと言うのに聞かないからだろう、それにあのまま続けてたらお前さんここのオヤジを殺してたぞ!」

と俺が窘めると、やっとその事に気付いたのか、別の意味で顔を赤くし申し訳なさそうに下を向きつつ

 「確かにやり過ぎたかも知れない、でも波奴真安は騙そうとしたんだぞ・・」

と弁解の言葉を並べていた、その言葉に頷きながらオヤジを眺めながら

 「とデルゥは言っているが、オヤジさんは何か言う事はあるか?」

と言うと、オヤジは『あんた分かってて言ってるだろう』と言う顔付で俺を睨みながら
 
 「悪かった、ちょっと遊びが過ぎた様だ。
だが、あんたは全部分かった上で言ってるだろ、人が悪い。」

とデルゥに謝罪しながら、俺に恨み事をつぶやいた。

 「タケヒロさん、それはどう言う事なんだ?」

不思議そうに俺の顔を覗いてくるデルゥに俺は頭を掻きながら

 「これはオヤジが俺を試してたんだよ、この防具に相応しい者かどうかをな。
ここはそう言う店なんだろ、防具を求めに来た者の力量を試し、その者の力に見合う防具を提供する。
そんなところだろ、獣王の島の波奴真安さん」

そう俺が言うと、波奴真安は憮然とした表情で

 「やはり全て察しておったか、その通り。
我はお主達は『獣王の島』と呼ぶレヴィアタンの沖合にある島『羅漢王獣国』の鍛冶組合の参与として、武具・防具の市場調査を任されておる波奴真安じゃ。
 元々はレヴィアタンで活動しておったのじゃが、このカンヘルと言う国は街毎に特徴が違うと言う事が分かってな、レヴィアタンだけでなく他の街の調査を兼ねてやって来たという訳だ。
 しかし、あんた良くこの防具の欠品を探し当てたなぁ、武具と違い防具は全ての部位が揃わないと防具に宿る者の姿は見えぬのに、いや~おそれいったわ。」

と全てを吐露した。

 「へ~え、防具は全てが揃わないと宿った者が見えないのか、面白いもんだなぁ。
って事はこの衣も防具の一部なんだな、見た感じ鎧の様には見えないが・・・?」

俺は小難しい事は放っておいて、揃った防具を眺め波奴真安のオヤジに尋ねるとオヤジは

 「この街に住む者にとっては結構重要な事を言ったと思うのだが・・まあ良い。
 その衣は我が国『羅漢王獣国』にだけ生息する、『鉄食い蚕』の吐いた糸を紡いで綿と一緒に織り込んだ、鉄糸綿布で出来ていて皮などよりも強度が高い上にしなやかで、火にも強いクロスアーマーの一種の様なモノだよ。

 鉄食い蚕に食べさせる鉱物、鉄・鋼・ダマスカス・アダマンタイト・ミスリルなどそれぞれの鉱物を含んだ糸になるんでね、軽装防具を求める者にとっては最適のモノだろうね。
 もっとも、刃は通さないが衝撃は普通の服と同じ様に通してしまうから、打撃武具による攻撃を耐えると言った用途には不向きだがね。」

と俺の頓着の無さにちょっと呆れながらも、衣について教えてくれた。
その言葉に合わせるかの様に、防具に宿る四つ目の山犬は嬉しそうに頷いていた。

 その様子に、俺は

 「鉄を食べる蚕? そんなのがいるんだ、って事はこの防具は結構貴重品になるのか? しかも、命宿る防具だろ・・・そんな高級品を出されてもなぁ・・・」

と困った顔をすると、波奴真安はニッコリ笑って

 「あんたにやるよ! 四つ目の山犬・牙流武ガルムもあんたを気に行っている様だしな」

と事も無げに言った、俺は慌てて

 「まてまて、こんな貴重品幾ら宿ってる命が、俺の事を気に行ってるからって『やるよ』は無いだろう。」

言うと、波奴真安は

 「いや、今まで随分この防具を持ち歩いて来て、この防具の事が分かった者は一人として居なかったんでね。
それに、あんたもコレを気に入ってるんだろ。
一職人としてモノの分かる者に使ってもらうのが一番だと思ってるんでね。
まあ、貰うのが気兼ねなら安く譲るって事でどうだい?」

と波奴真安は笑顔で答えて来た、俺は躊躇しつつ

 「まあそこまで言うなら・・・しかし、今後もオヤジさんのところで防具を買うか分からないぜ、大体俺は普段は防具を使う側の者じゃないしなぁ。」

と言うと、波奴真安は驚いた様な顔で

 「あんたが防具を使う側じゃない? 何言ってるんだそれだけの闘気を纏っておいて、討伐者や冒険者などじゃないかのか?」

そう言われて、俺は苦笑しながら

 「今回は偶々魔獣討伐に同行するんで防具が必要になったが、本来俺は作る側の者だからなぁ」

 「作る側? あんた何者だい?」

 「俺は鍛冶師、刀鍛冶師さ!」

そう言い切る俺に、波奴真安は目を見開きあんぐりと口を開いた。



こんな防具を選んで見ました。
次回から街の外へ出かける予定ですが、その前にまたゴタゴタが起きるか?
感想お待ちしています。


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