共励保育園の理事長、長田さんのお話をうかがう機会がありました。3時間ほどお話を聞かせて頂き、色々思うところがありました。今回の記事では、長田さんが論文で主張している「保育園のパラドックス」という問題をご紹介したいと思います。
過剰な保育サービスが社会にもたらす影響
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昨今、保育園は民間企業の参入などによって、サービスが向上しています。
これによって、仕事と育児の両立が促進されるわけです。僕の周囲でも、保育サービスに助けらている方々は大勢います。
サービス向上は歓迎すべきことですが、保育園の過剰なサービスは家庭の機能を低下させ、ひいては社会に大きな問題をもたらす危険がある、と長田さんは主張しています(論文「保育園のパラドックス」参照、上記画像右半分の箇所)。中途半端に切り出すと炎上しそうなので笑、関心がある方はぜひお読みください。
ある程度の「子育ての外注化」は、共働き社会を実現するために必要不可欠なことですが、その度合いには注意が必要、ということなのでしょう。
僕たちは、社会全体で解決すべき「育児」という巨大なテーマを、一機関に過ぎない「保育園」、そして脆弱な「親」に求めすぎているのかもしれません。
解決の鍵は?
「保育の過剰サービス」に対するシンプルな解決策は、小室さんがTEDで語った「残業の削減」でしょう。親が家庭にいる時間が増えれば、保育サービスのニーズも調整されることになります。
特に、4時間正社員、6時間正社員といった「短時間正社員制度」を浸透させることは、重要な解決策になると期待しています。
全ての職種にふさわしいわけではないですが、「在宅勤務の促進」もまた重要な解決策になるでしょう。僕自身ノマドワーカーになったのは、子育てに時間を割くためです。これをお読みの皆さんは、通勤時間を育児に充てるだけでも、毎日2時間は子どもに接する時間が増えるのではないでしょうか(東京の平均通勤時間は1時間37分だとか)。
子育てにまつわる課題は、保育園や親個人の問題というより、仕組みの問題です。親が頑張れ、保育士が頑張れ、といった根性論では解決しません。政治的な問題と捉え、問題解決に繋がる仕組みを作っていきたいものです。
必要なのはデータと冷静な分析
と、ここまで書いて、フローレンスの駒崎さんからメンションを頂けたので(!)転載させて頂きます。
影響力が強いイケダさんなので、専門家の立場から意見させて下さいませ。
保育園が頑張れば親の子育て力が下がる」という類の意見は、根拠のない思い込みに過ぎないと僕は思います。以下にその理由を書きますね。まず、こうした意見は、どこかに「あるべき家族力」というものがあり(もしくはあった)、それが保育園によって弱められる、という論理です
こうした論法は「伝統的子育て」主義を語る保守系政治家や教育団体に多いのですが、例えば人権思想確立以前の家族や子育てが、如何に子どもの人権を無視したものであったか、は語られることはありません。こうしたフィクショナルな「家族力」は概念としても有用ではありません。
しかし「あるべき家族力(あるいは子育て力)」そのものが指標化できませんし、過去にあったかどうかも実証できません。こうしたフィクショナルな参照点を基準にしながら、「現在は家族力(子育て力)が低くなっている」というのは、反証不能なイデオロギーに過ぎません。
アンデルセン等の社会保障の専門家が繰り返し述べるように、良質な就学前教育(保育)は、犯罪率の低下や教育水準の向上など、最も効率的な社会投資になります。現在保育業界に必要なのは、根拠なきイデオロギーのぶつけ合いではなく、事実とデータに基づいた冷静な議論です。
「必要なのは、根拠なきイデオロギーのぶつけ合いではなく、事実とデータに基づいた冷静な議論です」というご意見には強く賛同します。社会問題を扱う際にはよく見られる争いだと思います。
補足させて頂くと、お話を伺った限り、長田さんはここでいう『「伝統的子育て」主義』ではありません。実証不能な懐古主義のもと、家庭に責任を押し付けるのではなく、一つの保育園として、この時代に見合った現実的な答えを提示なさろうとしている、と僕は感じました。
全ては僕の引用(「保育園がサービスを頑張ると、家庭がダメになる」)が釣り記事メディア的でよろしくなかったと反省するのみなのですが…ごめんなさい。
さらに補足すると、「保育園がサービスを頑張ると、家庭がダメになる」という言葉自体も、以前「保育園が頑張ると、家庭がダメになる」という不本意な見出しが取材記事に付けられてしまった、というエピソードがあり、その際に「こんなことは言ってないんだけどな…。強いて言うなら、保育園が”サービスを”頑張ると、ですね」と漏らしていた時の言葉です。
本日共励保育園まで伺った用件は、長田さんご自身の情報発信支援です。テントセンのプロボノとしてご支援させて頂きました。
近日中に長田さんのWordpressブログが立ち上がると思うので、ぜひご購読ください。この議論の続きもきっと楽しめるはずです。一緒に考えていきましょう。
長田さんの問題提起は、マイケル・サンデルの新しい書籍に通じるものがあると感じました。このテーマは重要ですので、こちらもぜひ(読書メモ)。