大和証券:手数料が情報漏えいの動機か
不正取引・情報漏えいの構図
大和証券グループ本社が27日、企業の公募増資を巡るインサイダー取引への関与を認める調査報告書を公表、野村、SMBC日興とともに3大証券すべてで不正な情報漏えいが行われ、経営トップが社内処分される異例の事態となった。大和から情報漏えいを受けた米ヘッジファンド系投資助言会社「ジャパン・アドバイザリー」(JA、東京都中央区)は、売買注文の発注を「エサ」に、他の証券会社に対しても公募増資などの未公表情報の提供を要求していたとみられている。金融庁は大手証券12社にJA社との関係を点検し報告するよう求め、「癒着」の実態解明を急ぐ。
大和では、機関投資家向け営業員が日本板硝子の増資(10年)情報を公表前にJA社に漏らしていたことが発覚。調査報告によると営業員は増資発表の4日前、上司の部長が企業名は明示しなかったものの、「(増資を予定する)企業の勉強会がある」と話したことで日本板硝子の増資が近いと察知。同日、JA社に電話し、増資情報を漏らした。
JA社は米有力ヘッジファンド「ホイットニー」グループ傘下で、実質的に二つの外国籍ファンドを運用。証券取引等監視委員会は6月29日、日本板硝子の増資に伴うインサイダー取引で1600万円の不正な利益を上げたとして、JA社を摘発した。
JA社側は、大量の株式売買注文を出すバーゲニングパワーを背景に、大和だけでなく野村やSMBC日興など多くの証券会社に未公開の重要情報の提供を要求。情報提供の頻度や情報の質の高さなどを基準に各証券会社をランク付けし、株売買の発注量や手数料率を決めていた。大和の評価は3~6位といい、より上位にランクされた証券会社が情報漏えいを繰り返していた疑いが浮上している。
証券会社の営業員にとって、多額の運用資金を扱うJA社などのヘッジファンドは、まとまった売買手数料が得られる超有力顧客。それがインサイダー情報の漏えいにつながる大きなインセンティブ(動機)になっていた可能性がある。JA社の事実上のトップは、影響力の大きさから日本の証券会社の営業マンの間では「キング」とのあだ名で呼ばれていた。
増資インサイダー問題の解明を目指す金融庁は今月3日、大手証券12社に対し、情報管理体制を点検し、8月3日までに報告するよう命令。JA社と証券業界の癒着が「増資インサイダーの温床の一つ」(幹部)とみており、JA社と大手証券の取引を徹底チェックする方針だ。【大久保渉、浜中慎哉】
◇野村教訓に早い対応
大和は情報漏えいが発覚した6月29日から6日後に社外弁護士による調査委員会を設置し、約1カ月間で調査報告書と社内処分を発表した。3件もの増資インサイダー案件への関与が発覚しながら、後手の対応に終始し、トップ辞任に追い込まれた野村ホールディングス(HD)に比べると、早い対応と言えるが、顧客の信頼回復など課題は多い。
国際石油開発帝石の公募増資(10年)を巡り、野村の情報漏えいが発覚したのは3月21日。野村は当初、情報漏えいの事実を認めなかった。野村が社外弁護士による調査を実施し、結果を公表する方針を示したのは6月8日で、すでに2カ月以上が経過。金融庁から「自浄能力がない」と批判された。問題の長期化で企業や官公庁で野村との取引を見合わせる「野村外し」が広がっており、業績への打撃が大きくなるのは必至の状況だ。大和に対しても一部取引先企業が社債発行の主幹事証券から外すなどの動きも出ており、大和は今回、調査報告と社内処分を早期に発表した。