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見知らぬ駅
作者:頼道三歩
 どうやら、またやってしまったらしい。私は電車の座席で浅く溜息をついた
 私、片瀬裕美は私立に通う女子高生だ。そして、少々ドジな所がある。人のノートを持ってきてしまったり、テストの解答欄が一問ずつズレてしまっていたりと言った具合だ。
 今日は電車を乗り間違えたらしい。毎日使っているから注意力が散漫してしまったのだろうか……。とりあえずこの電車が駅に着いたら降りて折り返しの電車が来るまで待とう。
 ガタンゴトンガタンゴトン……と一定のリズムを刻みながら律動する鉄の揺りかごの中で、私は少し眠くなりながらも少し周りを見渡すと、少し違和感を覚えた。乗客の数が少ない。私が乗ったのは確かに夕方五時半の電車である。帰宅する学生や社会人がそれこそ林のように混雑している時間帯であるのに、周りには立っている人など一人もいないどころか、座席すらガラガラだ。そして座っている人達は皆、眠っているのだ。
 私は携帯の時計を見てみる。時計は五時四十分を表示していた。乗ってから十分経っている事になるが、未だに駅に着く気配はない。窓の外は真っ暗で何も見えず、民家の明かりがちらほらわかる程度であった。
 ガタンゴトンガタンゴトン……。乗ってから十五分経った。未だに駅にたどり着く気配はなく、相変わらず外は真っ暗である。さすがに十五分は長い。もしかして駅を通り越していて、目的地まで一方通行の電車に乗ってしまったのだろうか。車掌に聞けば何かわかるかも知れない。そう思い私は先頭まで歩き出した。
 ガタンゴトンガタンゴトン……。運転席を見てみると、暗幕が下がっていて中が見えなくなっていた。
「あのー、すいません」
 窓をコンコンとノックしつつ訊ね掛けてみても、静寂が揺りかごを包むばかりで期待したものは何も帰ってこなかった。元々座っていた所に帰るのも面倒だし、席は相変わらずガラガラなので、そこいらに適当に座って、電車が止まるのを待った。

 *****

 ガタンゴトン、ガタンゴトン……。あれから電車に乗ってからどれくらい経っただろうと携帯を見てみると一時間経っており、携帯の電波は圏外になっていた。
「えっ」
 私は驚いた。一時間も経っていた事にも驚いたが、圏外にも驚いた。最近の携帯は、どれほど山奥に入っても電波は二以下になることはない。しかしそれが圏外である。外は相変わらず真っ暗だが、トンネルに入った風でもなかった。私は不安に煽られながらただただ祈りながら座っていることしかできなかった。

 それから十分くらい後の事である。祈りが通じたのか電車が急に減速し始めたのだ。やった、降りれると喜びホームに降り立つ。駅名を確認すると『きさらぎ駅』とあった。

 『きさらぎ駅』と言う看板を見て首を傾げる。聞いたことがない駅名だ。だけど携帯は相変わらず圏外なのでメールはおろかネットで検索する事もかなわない。とりあえずここがどこなのか、駅に入れば分かるだろう。そうしている内に電車は再び動き出して、闇の中へと吸い込まれるように消えていった。


 駅構内に入ると妙だった。確かに小さい駅ではあるが、駅員が一人もいない。あるのは人がいないのに電気が点いている駅員室と数席の椅子だった。さらに進むと駅員室のせいで見えなかった券売機と路線図が見えた。路線図は色が褪せ過ぎて何が書いてあるのか見えなかった。そしてこれまた妙な事に、券売機には光が灯っていなかった。つまり、券売機は動いていないことになる。使わないとはいえ、この光景はさすがに不気味だった。駅の外はやっぱり真っ暗で、車の気配もなければ家の明かりも見えない。ただ闇が眼前に広がっているのみである。仕方なく私はホームで大人しくしている事にした。どうせ待てばいずれ来るだろう。そう思ってホームのベンチに座った。

 *****

 それからどれくらいの時間が経ったのだろうか。ふと暇つぶしにもならない国語の教科書を読むのをやめ時計を見ると、時刻は既に十二時を回っていた。私は、驚きのあまりに声が出せなかった。闇の中にいて、時間の感覚が狂うと言う話は聞いたことがあるが、このほんの数時間でそこまで体内の時間が狂うのはあまりにもおかしい。一体どうして……。私は一度携帯を閉じて十秒数えた。そうしてもう一度開くと携帯の時間は2時になっていた。間違いない、携帯の時計が狂っている。どうして?

 その時、遠くから鈴の音が聞こえた気がして思考が中断される。さっき電車が消えていった方から鈴の転がるような音が聞こえてくる。いや、鈴だけじゃない。空気を震わすような太鼓囃子や尺八のような音まで聞こえてくる。私は怖くなっていつの間にか音の方向から逃げるように線路の上を走っていた。何でホームに逃げ込まなかったのだろう。でも、いま振り向いたら何か恐ろしいモノがいる気がして私は振り返ることが出来ずローファーで石の悪路をひたすらに走り続けた。
 必死に逃げていると目の前にトンネルが見えた。来るときにトンネルなんてあっただろうか。いや、無かったはずだ。しかし、未だに後ろから鈴や太鼓や尺八の音が近づいてくる。迷ってる暇などなく、私はトンネルの中に飛び込んだ。ローファーを履いている足が痛い。酸素を取り込む肺が痛い。だけど走る。とにかく走らないと、走らないとわからないけど何か危ない気がする。逃げなくちゃ。逃げて、逃げて、逃げて、逃げて、走って走って走って走って、体は限界を訴えているけど本能と気合いだけで走る。しかしいつまで経ってもトンネルを抜けない。耳をすますと鈴や太鼓や尺八の音は止んでいた。逃げきれたのだろうか、そう思い足を緩めたのがいけなかった。私は前のめりに倒れた。

 転んだのに起き上がれない。それはそうだ。なにせ体の軋みを無視して何百メートルも全力疾走したのだから、起き上がれるハズがない。それにしても本当に電車こないなあここ。私は今線路の上に寝そべっているような形ではある。今電車が来たら私死ぬのかあ……。
 それから暫くしても電車は訪れなかった。体も少し楽になり体を起こそうとした。しかし起きることは叶わなかった。いつの間にか誰かに掴まれている。なんで、掴まれているのか。この手は、一体誰の手だろうか。私を掴む無数の手はそのまま私を固定するのみでそれ以外は何もしてはこなかった。するとシャンシャンと鈴の音だけが聞こえてきた。トンネルのさなかなのでどこから来ているのかわからない。逃げなきゃ。しかし、無数の手がそれを許さない。このままだと、危ない。何か得体も知れないモノがこちらに近づいて来る頭で警鐘が鳴り続ける。逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ。しかし、無数の手の手錠をはずすことは私の力じゃ無理だ。
 逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ。頭が必死に訴える。無数の手は離さない。シャンシャンシャンシャン。鈴の音が近づいてくる。
 シャンシャンシャンシャンシャンシャンシャンシャン……。逃げろ、逃げれない。逃げろ、逃げれない。そんな問答を繰り返している間もゆっくりと鈴の音は近付いて来て、やがて私の上でシャン……。とだけなって止まった。
 そこで私の意識が途切れた。

 *****

 目を覚ますとそこは駅のホームだった。私はベンチで寝コケていたらしい。なんだ、夢だったのか……。そう安堵して立ち上がると体が痛い。寝違えたのかな? そうして制服に目をやると服はズタボロで腿には無数の手形の痣がついていた。ハッと気づいて駅の名前を確認する。『きさらぎ駅』だった。つまりアレは夢ではなく……。
 その時後ろでシャンッという音が鳴った。びっくりして振り向くとそこにいたのは……。



 ここはきさらぎ駅。どこにあるのかどうやって行くのかは誰も知らない怪魔の駅。降りたが最後、あなたはそこで……。もしあなたが電車に乗っているとき、おかしいなと感じたら、降りない方が良いでしょう。その揺りかごの中はまだ安全であるのだから……。
 後書き

 おはこんばんちわ。どうも、深夜家の中で物音がするだけで布団を被り震えている頼道三歩です。今回は2ちゃんねる(知らない人は知らない方が良いサイトです)のまとめサイトでも有名な『きさらぎ駅』を題材に書いてみましたがいかがだったでしょうか?
 この『きさらぎ駅』なのですが別の話に『月ノ宮駅』(うろ覚え)という話があるらしいです。知りたい人は検索を掛けてはいかがでしょう。多分引っかかります。とりあえずまとめサイトの方はトンネルを抜けおじさんに助けて貰ったら山の中に……で書き込みが無くなるんですよね。一番あそこが怖いです。
 そうそう、同スレ内で『きさらぎ』は『鬼』と書いて『きさらぎ』と読めると言っていたので調べてみたのですが、『きさらぎ駅』の話と2月の『如月』しか引っかかりませんでした。ので辞書を引いてみたのですがやはり出てきません。ですが面白い事がわかりました2月は『如月』と書くのが有名ですが、昔は衣替えの意味を込めて『衣更着』と書いた事もあるそうです。そこで仮定なんですが、『きさらぎ駅』は『衣更着駅』と書くのではと予測がたったワケです。
 古来、三渡の川と言う話には脱衣婆と言う存在があります。死人の装束を剥ぎ衣領樹〈えりようじゅ〉の上にある懸衣翁〈けんえおう〉を渡す婆達ですね。『衣更着』と言うのは衣替えを指すのですからこれの事を指したのではないでしょうか。つまり、『きさらぎ駅』と言うのは三渡の川 の駅バージョンなんじゃないかと推測したわけです。
 イヤですよね、乗った電車が三渡行き。筆者は絶対に乗りたくありません。でも色んな所に出るようです。なら今度のエモノはあなたかも知れませんよ…………。

 最後に、ここまで読んで下さって本当にありがとうございました。
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