ジーコの主張

イラクのピッチだけに留まらぬ諸問題

[2012.07.28]

私は以前からプロとしてあえて困難に立ち向う、挑戦し続けることをモチベーションとして生きて来た。当時日本のカシマからオファーを頂いた際も同じ気持ちでお受けした。再度ピッチに復帰しカシマを通じ日本サッカーの進化に少しでも貢献すると強く誓った。後に日本代表監督の任を仰せつかった際も同様の気持ちで日本のW杯出場に是非とも尽力する事だけに集中した。

後のウズベキスタンではアジアを制覇するといった大きな目標があった。勿論イラク代表を率いると決まった時もまた新たなる挑戦だった。この国が長年抱える諸問題、戦火により抑圧された国民の方々の苦悩等、全て承知した上で了解した。
しかし実際最終予選にまでこぎ着けた今、予想だにしなかった新たな重大な問題が持ち上がり自分が監督として最後まで任務を全うする事を躊躇させる様な深刻な事態に発展している。実際イラク代表の任を受諾した際、協会側からは2018年W杯本大会出場に主眼を置くという説明があり、私は快諾し早速仕事に取りかかった。選手諸君、ファン、サポーターの皆さんも我々を心から歓迎して下さりまた支持を頂いた。Facebook, Twitter,e-mail等を通じてもたくさんの暖かいメッセージを頂いていた。
この様な現地の反応だけを見ても我々の遂行して来た事はただ単なるサッカーの試合という枠を越えたある種特別な感情を国民の皆さんに与えることが出来ているという確信があった。私自身イラクのサッカーの底力、耐えがたい国の困難にも負けずにプレーを続ける選手諸君のクオリティーの高さを信じていたので、あえて自らイラクに対するFIFAのイメージや扱いが少しでも好転する為に何でも試みた。旧友であるプラティニ氏が会長職を務めるUefaにまで助力を願い出た。
日常に戦火の影響が未だに強く残る現地の実情は本当に悲惨である。本来ならば選手達をサポートすべき立場にあるイラク・サッカー協会は運営機能を果たさず代表の活動にも多大な影響が出る。
例えば9月11日の試合にもリストアップされている7名もの代表選手が所属出来るクラブがなく、練習さえままならない状況であるにもかかわらず、この様な信じ難い状況に対しても協会は無策なのだ。監督として耐え難い状況を目の当たりにせざるを得ない中、さらに自分の手足となり働いてくれていたスタッフまでも失うことになる。
Moraciと Eduへの給料が約10ヶ月間未払金となっており、自分も5ヶ月無給状態であった。アラブ杯決勝終了まではなんとか続けたが、いよいよ限界となり協会と話し合いの場を持った。この状態が続けば実質的に職務の続行は不可能である事を明確にし検討を促しリオに戻った。
現時点の状況から察するに残念ながらイラク協会が打開策を打ち出す事はかなり難しいと感じている。私自身イラクでの今までの仕事について、あの最悪の状況から2014年W杯の最終予選まで進出するまでにこぎ着けた我々が成し遂げた結果に満足している。
さらにこの先チームが本大会への切符を手にする力はあると思っている。唯一不足しているのは協会側の自分達を含め懸命にプロとして任務を遂行している者達への配慮とリスペクトである。特にエドゥの様に以前からイラク・サッカーの国際化に多大な尽力をして来た人物に対しての非礼は見るに耐え難い。協会側との再度の交渉の場が持たれるであろうが私としては職務遂行への安定した保証が成されない限りは職務の続行はほぼ不可能である。暫くは事の成り行きをここブラジルで静観することになりそうである。

ではまた

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