私はあまり雑誌は読まないが、広告が少なく内容の濃い「クーリエジャポン」は出張の移動中によく読む。
そして12月の記事で面白いのを見つけた。
"iPod 普及で「音楽がうるさい」"といった記事で、METALICAのニューアルバムの音圧をめぐって、ファンがミックスをやり直せ!と署名運動もしているとやら・・・。音がうるさすぎてニュアンスが伝わらないとのことだ。いわゆる「音圧戦争」といったことがここ数年勃発していることに起因する記事だ。こんな記事が音楽専門誌では無く一般紙に掲載されていることが興味深い。
私はiPodの初代から、シャッフル、iPhoneまで持っているが、今は音楽をこれらでは一切聴かない。
それは、シャッフルされることで制作の年代によって、音楽の音量バランスが大きく変わり、聴いていてイライラする。
そして異常なまでに音圧を上げられた音楽はのっぺりとしてつまらないし、何せ長時間聴くと疲れる。
ここ数年CDの売上は最盛期に比べると半分になっているらしい。アナリストたちは、人々の消費は携帯等にまわってしまい、CDに消費されなくなったという。でも私は音楽の音圧が異常に上がったことも一因するのではないかと考える。
聴いていて疲れるくらい音圧を上げた音楽は売れるわけがない。iPodで目立っても、ある程度の音響システムではとんでもないことになる。
私もよくマスタリングするが、クライアントは出来るだけ大きい音を所望する。大きい方が目立って売れるからだという。しかし本当に音圧が無いと売れないのだろうか?はなはだ疑問である。iPodの中で目立つことと売れることは違うと思うのだが・・・。
音圧を上げるプラグインも最近は驚くくらい音圧を上げていける。
RMSでピークが-6dBといった、恐ろしいことが簡単に出来てしまう。そしてそんな作品が蔓延している。
人々の耳の健康のためにも、ボブ・カッツ氏の提唱するK-SYSTEMがこの業界で標準になればいいのに!と思うが、競争社会、やはり難しいのだろう。
私の場合、マスタリングするときにRMSを-10dB近辺にピークをもってくるようにする。
そうすればiPodでも、ちゃんとしたシステムでもある程度は聴ける。若干音圧は低く感じるかも知れないが音楽的要素はちゃんと残るし。ボリュームを上げると気持ちよいラウド感が得られるのだ。
これらをちゃんと説明すればクライアントも最近は納得してくれる。
健全な音楽産業が発展するためにも、私たち作り手側がちゃんとした意識を持たなければならないのかもしれない。
しかし、いろんな意味でiPodの功罪は大きい。
注)最近、マスタリングとは「音圧を上げること」と思われがちだが、本来はマスターを作成するために行なわれる作業の一環のことを指し、若干意味合いが変わってきている。
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