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2012年7月29日(日)付

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野村CEO辞任―不正のシステムを断て

上場企業の公募増資をめぐるインサイダー事件で、証券最大手、野村ホールディングスの渡部賢一・最高経営責任者(CEO)が辞任する。当局の追及に加え、日本航空の再上場で主幹事[記事全文]

大阪都構想―「住民本位」の魂入れよ

橋下徹大阪市長が掲げる「大阪都」構想の実現に向けた法案を、民主、国民新、自民、公明、みんなの党などが共同で週明けの国会に提出する。いまの国会で成立する見通しだ。法案は、[記事全文]

野村CEO辞任―不正のシステムを断て

 上場企業の公募増資をめぐるインサイダー事件で、証券最大手、野村ホールディングスの渡部賢一・最高経営責任者(CEO)が辞任する。

 当局の追及に加え、日本航空の再上場で主幹事のまとめ役から降ろされるなど、「野村排除」の動きに追い込まれた。

 担当部署内で秘密にすべき増資の情報が営業部門に漏れ、収益偏重の企業文化も放置されてきた。経営陣がずさんな管理の責任をとるのは当然だが、それにもまして重いのは、最大手が不正に走ることで業界に腐敗を広めた罪である。

 一連のインサイダー事件で特徴的なのは、証券会社の客筋に当たる運用のプロたちによる悪質で組織的な不正だ。

 代表例が大和証券からの情報でインサイダー取引をしたとして摘発された米ヘッジファンド傘下の投資助言会社である。野村はその最大の取引先だった。

 助言会社の手口はまさに「不正のシステム化」だ。「我々はインサイダー規制の対象外」と言って証券会社に内部情報を求め、情報の価値や持ち込む頻度に応じて証券売買の発注を割り当て、競わせた。

 そして、シンガポールにある運用会社と一体となって東京市場でインサイダー取引を繰り返していたという。

 証券取引等監視委員会は課徴金支払いを命じるよう金融庁に勧告し、金融庁は助言会社の実態を資産運用業とみなして登録を取り消した。

 助言会社のシステムを前提とすれば、野村との取引には問題がなかったとは考えられない。むしろ最大手の迎合が不正システムを拡大させた疑いが強い。野村は社内調査でここを詰め切れず、当局にげたを預けた。証券界の出直しのためにも、全貌(ぜんぼう)解明が欠かせない。

 助言会社を日本に、運用会社を海外に置く例はほかにもある。助言会社を不正取引の隠れみのにさせてはならない。

 運用のプロが不正な情報を要求する動きを早期につかむ通報制度の整備や罰則の検討を急ぐべきだ。海外の監督当局との連携も重要になる。

 そもそも、金融商品取引法には不正を幅広く禁じる規定があるが、当局は市場の萎縮を恐れて適用に慎重だった。

 しかし、おりしも英国ではロンドン銀行間取引金利(LIBOR)の不正な操作が明らかになり、世界的に金融証券市場に対する不信が高まっている。

 当局は発想を転換して、機動的な摘発による信頼回復を優先すべき段階に来ている。

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大阪都構想―「住民本位」の魂入れよ

 橋下徹大阪市長が掲げる「大阪都」構想の実現に向けた法案を、民主、国民新、自民、公明、みんなの党などが共同で週明けの国会に提出する。いまの国会で成立する見通しだ。

 法案は、政令指定市とその周辺をあわせた人口が200万人以上の区域を対象に、市町村を廃止して特別区を置くことを認めるものだ。

 大阪だけに適用されるものではないため、大阪府を「都」とする条項はなく、府の名称は変わらない。

 成立すれば、地方の発案による新しい自治体の形づくりに道を開くことになる。分権改革のひとつとして評価できる。

 ただし、これは、特別区設置に向けた手続きを定めた法案だ。特別区がどんな行政サービスを担うのかといった中身については触れていない。

 橋下氏が率いる大阪維新の会の構想は、大阪市を解体して特別区に再編し、府との間で権限や税財政の配分を効率的に整理しようというものだ。

 大阪府と市の権限争いを終わらせるのにとどまるのでなく、いかに住民本位の制度をつくれるか。橋下氏らの力量が問われるのは、これからだ。

 与野党の法案が一本化されたのは、構想への協力姿勢を示すことで、次の衆院選で維新の会を敵に回したくない思いがあったのは明らかだ。

 各党の当初の案の中には、制度づくりで政府の関与を認めず、関係自治体での住民投票すら不要という「維新の会の言うがまま」の案もあった。

 いくら地方の発案を尊重するにしても、府と特別区の役割分担などを見直すには、新たに地方自治法や地方税法などの改正が必要になるのは確実だ。

 東京都と違って大阪府・市は、地方交付税がなければ財政が立ちゆかず、政府との調整は不可欠だ。住民投票がないというのも乱暴にすぎる。

 その点、今回の法案では、法改正が必要な項目については総務相との協議を義務づけ、関係する議会の議決と住民投票による過半数の賛成が必要とした。各党の協議により、妥当な内容に落ち着いたといえる。

 今後、維新の会が区割りや財政調整などの計画をつくり、議会や住民が認めれば議論の舞台は再び国会に戻ってくる。新しい大阪府の中身にかかわるこの議論は、自治制度のひとつの大きな改革の仕上げとなる。

 橋下氏をめぐる政局的思惑から離れ、どれだけ住民目線の姿勢を貫けるか。国会もまた試されることになる。

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