- 日本男子フィギュアスケート・FanBook Cutting Edge2012 (SJセレクトムック No. 5 SJ sports)

04.19-04.22の日程で東京で開催された
『世界フィギュアスケート国別対抗戦 2012(World Team Trophy in Figure Skating)』。珍しくテレビで観戦できました(昨年度までなら考えられないことです)。
スポーツはNHKの中継が一番好きですが、民放でも仕方がない、フジテレビじゃなくてよかった(そもそもフジだとうちの地区では放送されないですもんね!)ということで、大満足というわけではないものの無難な放送内容に、一応納得しながら見ました。
余計な解説や演出過剰がありましたが、日本選手団の予想以上の出来に大いに盛り上がった大会だったのではないでしょうか。個人的には、あのkiss and cryでの各国の選手たちの応援風景がツボでしたね〜(そこかい!)。
日本は男女で1位を獲得することができて、シーズンの最後に高橋くんも明子さんも笑顔が見られるよい試合になりました。よかったですね!しかも、日本はチームとして
金メダルを獲得!おめでとうございます!!
3年ぶりということで、去年までどうしていたんだろう?と思ったら昨年も日本で開催される予定が震災のために中止になったようなんですね。私も正直言って7月までは日常生活も仕事もいつもどおりに戻っていなくてスポーツどころではなかったので失念していました。
今回は世界選手権の後のお祭り的な印象のある団体戦だったのですが、これはこれで面白いものだな〜と感じました。以前行われたときの記憶がないので、今回もあまり期待はしていなかっただけに意外な面白さが感じられ、楽しめました。ところで、こういう団体戦が、実は次のオリンピック/ソチ大会から正式種目になるんですね。知りませんでした。忙しかったとはいえ、我ながらなんてこと!しかし、これ、世界選手権の後だからこんな風に楽しくお祭り風にやってますけど、オリンピックで国の威信がかかる試合となれば、別な緊張感とストレスが選手たちに相当かかりますよね。そこのところ、ちゃんと考えているのかな〜とちょっと心配になりました。しかも、オリンピックでは団体戦→個人戦という流れになるとか。
個人戦→団体戦のほうがいいと思うけど、なにゆえに団体戦が先なんでしょうか。謎です。体力とかモチベーションとか保てるのか、選手を入れ替えてもいいということなので団体戦に出る選手と個人戦に出る選手を全く別の人にするのか、どう対応するのかわかりませんが、不安要素ですね。それに、よく考えてみると、日本にはアイスダンスでオリンピックに出られるのはリード姉弟のみ。そしてペアは今のところ出場できる選手なし、です。仮に高橋&トラン組が出場できるとして、アイスダンスとペアは個人戦にも団体戦にも出場することが必須条件になります。今大会もクリスは足の怪我を抱えていたのに、他に代わりになる選手がいないという理由で無理矢理出場しましたし、シングルと違って選手層の薄いダンスとペアの選手には負担が大きいでしょうね。
そもそも、マーヴィンがカナダ国籍なんだから、出られないじゃん?!と私は思っていたのですが、試合の後で国籍問題について話し合う予定というお知らせが今大会中にあり、そして競技終了後の22日になんと!「日本国籍を取りたい」という発表がなされました。今まで国籍問題については慎重な態度を見せていたのに(だって、そのことを質問されたのは今年の3月の世界選手権のときですよ)、急にどうしたんだろう?誰かに脅迫されたんじゃなければいいけどなあ、と思いました。日本国籍を取るのはとても難しいらしいし、基本的に現状ではソチ五輪までに日本国籍取得は不可能ですが、彼が本気で国籍を取得したいならスケート連盟や国そのものに積極的に動いてもらうしかないでしょうね。
アスリートとしてオリンピックに出てみたい!っていう気持ちは誰でもあると思うし、その夢が叶いそうなところにいたら、なんとかして出場できる条件を真剣に考えますよ、そりゃあ。違法行為でなければなんでもね。それに、たとえば成美ちゃんのほうがカナダ国籍を取ってカナダの代表を狙うという方法も検討したとして、選手層の厚いカナダで、果たして国の代表になれるかどうかは微妙なところだと思います。日本の代表には間違いなくなれますけれども(ライバルがいないですから)。そう考えると、国籍の問題はあるけれども、日本の代表のほうがなりやすいとは言えます。しかし、大前提として日本国籍取得というのがあるわけで・・・どうなることでしょうね。彼が真剣に考えて決めたことならぜひ応援したいです。まあ、ソチに間に合わなくてもその次の大会を狙うという手もあるかもしれませんが・・・。
楽しみにしていた男子のシングルは、どうにもパトリック・チャンの調子が悪すぎて高橋くんには追い風になりました。いつも国際大会で見て思うことですが、パトリック・チャンが下手だとは言いませんが評価が高すぎるような気がします。審査に疑問があると訴えている方もいるようですが、そこは何とも言えませんし、証明もできませんが、なんとなく不審感を抱いているファンは多いことでしょう。この前の世界選手権とか、特に。キム・ヨナ選手の得点がいつもやけに高いのもそうですが。フィギュアスケートの世界では採点方法に問題があるというのが昔から多々言われてきました。以前に比べると客観的に審査されるようにはなってきていますが、どうしても主観が入る種目ではあります。そのために審判と観客の間で評価が分かれるのもある程度仕方がないと私は思っているし、自分もプロではないので、審判が評価した以上はどうしようもないなとも思うのですが、一度少し浄化された感のあった審査内容について最近また不浄化している印象があるのは否めません。
ま、何はともあれ、選手の皆さんは頑張りましたし、見ている私も楽しめたので、この大会そのものはよかったです。特にイタリアやフランスの応援は面白くてノリがよくて、さすがラテン民族。応援にも点数をつけたいくらいだわ、と思っていたら、実際に後で「応援大賞」が発表されていましたね。おめでとう、フランス!
日本もこんどは猫耳とかで応援してほしいな、と個人的に希望(無視してください)。
デイビス&ホワイトが見られたのもよかったし、ジュベールさんが調子よさげだったのもよかったです。そしてロシアのソトニコワは注目株ですね。ソチに向けて成長していくでしょう。競技と関係ないですが、ベラ・バザロワ&ユーリ・ラリオノフ。ベラさんがとても美しいのと、ユーリさんが、なんとなくニコライ2世に似ているので、俳優みたいな二人だな〜と思いながら眺めていました(まったくの余談です)。
今後、日本チームの課題は多々ありますが、しばらくはゆっくり休養をとって心身ともにリラックスして英気を回復させてくださいね。選手のみなさん、ありがとうございました!
2012-04-25 11:19:30|
スポーツ
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- Tarzan (ターザン) 2012年 4/26号 [雑誌]

21日の土曜日に、久しぶり、という言葉を使っていいのか?というほど久しぶりに(実際、数年ぶり)にジムに行きました。仕事が忙しいのと夜間の緊急呼び出しが当たり前の職場だったのでまったくジムに行く機会がなかったのですが、この4月から夜はかなり自由時間が増えたので、また行ってみようかという気分が嵩じて、ようやく土曜日に行ってきたというわけです。
ちょうどlunch timeだったせいか、比較的空いていて、プログラムを作り直していただくのには好都合でした。以前と比べて変わったことは、
1:節電している
2:器具の配置が変わった
3:インストラクターにブラジル人がいる
4:高齢の利用者が激増している
という点です。特に、高齢者がすごく多いのには驚きました。中年ではなく、明らかに70-80代の方です。元気なお年寄りが多いのはいいことですね。感心。自分も頑張らなくちゃ、と思います。
実際、一部の人を除いて、若い世代よりも高齢者のほうがいろんな面でお元気だし、活動的に見えます。今の若年層は覇気がなくて内向きという印象が強いですよね。まあ、全員がそうというわけでもないし、活動的な人も知っていますけど。
数年ぶりの割には結構しっかりマシンを使って体幹運動をしたほかに、バイクとクロストレーナーとトレッドミルもひととおり行いました。で、その日、エクササイズが終わった直後から上半身を中心とした筋肉痛に見舞われました・・・(^-^;)。上半身、日常生活でほとんど使ってないですからね〜。walkingとかはたまにしていたので足はそれほど疲れなかったのですが。特に胸と背中〜腰の筋肉が張って痛かったのですが、月曜日にもう一度ジムに行ったら、少し軽減したような気がします。
頑張って継続しようと思います!
2012-04-24 00:00:00|
ダイエット
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- おしえて! もんじゅ君―これだけは知っておこう 原発と放射能

『おしえて!もんじゅ君-これだけは知っておこう 原発と放射能』は、twitterの世界で去年から話題のゆるキャラ
「もんじゅ君」が140文字以上でつぶやくQ and A方式の原子力とエネルギーについての本。イラストがいっぱいで、しかもカワイイ上に皮肉屋だから、イラストにつけられているコメントや、文章の中に出てくる用語の説明もちょっぴり辛口で面白かったです。そして何より、原子力について非常にわかりやすいです!知識のまったくない方が読んでも理解できるでしょうし、少し知識のある方でも、知識の整理に使えたり、また単にもんじゅ君の語り口を楽しむために(つまりリラクゼーション効果を期待して)読むこともできます♡
もんじゅ君とは、誰でも聞いたことがあるでしょう、福井県にある高速増殖炉もんじゅをキャラクター化したものです。のんびりとマイペースに見えますが、一般人が疑問に思っているいろんなことに簡潔にわかりやすく答えていってくれます。決して居丈高に反原発を叫んでいるような内容ではありません。むしろ客観的にいろんな意見や考え方を紹介していて、みんなで知識を共有したうえで問題を解決していこうね、というスタンスです。原子力そのものよりも、原子力一辺倒のエネルギー政策になってしまったことには、こんな原因があり、いかにしてそれを解決して未来に向けて日本をよくしていくかということを提案しています。
かしこまってないし、お茶でも飲みながらゆっくりと、でもきちんと原子力について知ろうね、知ることが消費者として、市民として力になり、生活の質を変えていくことにつながるんだよ、ということをほのぼのとした語り口でつぶやくもんじゅ君。twitterではよく見かけていましたが、本になるとまた別な味があって面白かったです。こんなに多弁だったんですね~。面白かったので、2冊目の本も買いたくなってきました。
日本では、異なる意見の人どうしが議論することが少なく、そういう場では感情的な喧嘩になってしまうか、対立を避けて根回ししたりサクラを使ったりして「圧倒的多数意見」を作り上げてしまって、結局ちゃんと討論するようなことを回避する傾向があります。国民にとって大切な何かを決めるときでさえ、対立や意見衝突を避けて、なんだかわからないうちに何かが決まっていた、ということになりがちです。今年の冬にアメリカの医療機関が協力する団体の主催したセミナーに参加したときに、いろんな面白いことや学ぶべき点があった中でも最も印象に残り、最も刺激的だったのは、グループで話し合って治療方針を決めるときに、日本人どうしで波風立たないように妥協し合って早めに結論を出そうとした私たちに、チューターからconflictをわざと起こすような発言があり、議論が振り出しに戻って、そこからさらに深い討論になり、遅くまでかかってみんなが納得するまで話しあって方針を決定するところまでに至りました。意見は違って当たり前だし、激しく衝突するような意見の相違があっても構わない、というかむしろ対立意見が歓迎されるということ、しかし、そういう困難な場面や意見が違う人間どうしがとことん話し合って、その難所を乗り越えることで生まれる信頼や一体感やチームワークというものが、より重要である、ということを実感した有意義な体験でした。日本ではそういうことを避けるように教わるのですが、アメリカではわざと議論を白熱させるために対立意見を出し、それをどう解決していくかというプロセスや解決能力にこそ、人間の真価が問われるのだということをわかってほしかった、とは主催者の意図でした。日本人の和を重んじる風潮が、かえって日本のよき発展を邪魔していることがあるんだろうな、と考えさせられました。
原子力エネルギーについて、またそれをどう使うかについて、意見は様々あると思いますが、現在の日本の原子力エネルギーは、原子力以外に選択肢がないから、あるいは電気が極限まで足りなくなっているから使われているというものではなく、それを稼動することで儲ける人がいて、潤う自治体があるから原子力があるという、本末転倒な状態だということは事実。その人たちをより富ませるために電気料金が上がっていくおかしな仕組み・・・そういうことがわかりやすくこの本に書かれてあります。子どもでも理解できるようにシンプルに。
多くの方に読んでいただきたい本です。
2012-04-22 22:00:00|
読書
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- 犯罪

フェルディナント・フォン・シーラッハ(Ferdinand von Schirach)の『犯罪(Verbrechen)』は短編集。引越しの忙しさで飛び飛びになりましたが、一篇一篇が秀作で、淡々とした語り口にも関わらず、不思議な吸引力を持った本で一篇ずつ丁寧に読みました。
ふつうに暮らしていた市民がある日犯罪の加害者になったり被害者になったりする、それは日常生活の続きのように発生し、波が静まるように消えていき、世の中は動いていきます。作者は犯罪を冷静に客観的に伝える語り部となっていますが、犯罪者でもそうでなくても同じように接することで、犯罪者がいかにして現在にいたったかということを掴んでいきます。その視線には、人間に対する愛があり、作品を読むことで、犯罪とは何か、生きるとは何か、愛情とは何か、について考えさせられました。短い作品群で、どれも冷淡なほどの口調なのに、不思議な温かさがあるのです。これは奇妙な感覚でした。
深い作品です。
新婚のときから徐々に狂った結婚生活の末に妻を殺害した老医師、チェロで結ばれた姉と弟の愛、美術館に勤めて「棘を抜く少年」と出会うことで強く影響される男の人生、何もかも巧くいかなかった過去と決別してエチオピアの風と大地の中で愛と信頼を初めて得る男の数奇な運命、など、どの話もそれぞれに登場人物の葛藤や悲しみや喜びや愛が詰まっています。
ところどころに日本や日本人のことが出てきますが、こういう話題を知っているのがドイツの知識人の一般的なレベルなのか、著者が特別なのかはわかりません。ただ、外国人の日本についての知識と認識を知るうえで興味深い手がかりとなると思います。
たまたま読み終わる直前に本屋大賞の発表がインターネットで中継されていることを知り、Ustreamで見てみると、この作品が翻訳部門で大賞を受賞したところでした。残念ながら著者は刑事裁判のため来日できずに翻訳者の酒寄さんがメッセージを代読したそうですが、私がネットで映像を見始めたときには翻訳部門の表彰式は終わっていて、三浦しをんさんの『舟を編む』が大賞に選ばれたと発表されたところでした。実はその後の雪崩のような記念撮影会のほうが印象に強く残っているのですが(^-^;)、全国の本屋さんが選ぶというこの賞のシステムを一番楽しみにしているのは、全国の本屋の店員さんと、本屋好きの人間なんだろうなあ、と感じました。
さて、今日、たまたま本屋さんで「本屋大賞2012」の本が売られていて買ってみました。そこにはシーラッハ氏のメッセージが載っていましたが、日本での受賞を意識してか日本人女性とのエピソードと北斎の辞世の句を織り交ぜた心温まるもので、まるで小説のような内容でした。思わず、涙が出てしまうような・・・。
このメッセージを読んで、ますますシーラッハ氏のことが好きになってしまいました。次の作品も読もうと思って、本屋大賞の翌日に購入しているのですが、今日本屋さんで見た限りはすでに完売でした。
本の帯のキャッチコピーも巧かったですね。
「紛れもない犯罪者。-ただの人、だったのに。」
「今年のリンゴはできがいいです。」
2012-04-15 18:33:58|
読書
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- 心の旅 yoshitaka masumi

6年間働いた職場を離れて04月01日付けで異動になりました。前のような大所帯ではなく小ぢんまりとした職場なので、まったく勝手が違うかと思いますが、まあ、どうにかなるかな(なるといいな・・・)。慣れるまでは大変でしょうけれど。
同じ市内なので自宅はそのままでオフィスだけの引越し。今までは一応公的機関で働いていたのですが、こんどは民間で働くことになるので、そういう意味でも大きく違います。職場の人数が少ない分、人間関係が悪くなった場合はサイアクになるかもしれないというのもちょっと不安。でも、今までよりも自由時間が増えるような予感がするのはよいことかも。
ということで、土曜日にお引越ししましたが、日曜日は気分転換に新しいピアスを買いに出かけました。このまえ夜道を歩いているときにバッグに引っかかって片方のピアス・キャッチがはじけ飛んで落ちてしまい、真っ暗だったので探すのを諦めたのです。それでキャッチだけではなくピアスのほうも新しいのを買うことにしました。新年度だし、職場も変わることだし。
四葉の形をしたブラック・ダイヤモンドのものと、スクエア型のグリーン・トルマリンのもの。どちらも小さくてシンプルなピアスです。
その後、中三まで行ってお買い物し、成本で文房具と本を買い、さくら野で春のお菓子を買いました。今年になってからほとんど休みがなかったので珍しくゆっくりしました(嬉)。今日も雪が降っていて春はまだまだという青森。家に帰ってきたときには体が冷え切っていたので抹茶と共にお菓子を食べて休憩。
買ってきた和菓子は表面に桜の花が載っていて、ほんのりと桜と日本酒の香りがしました。
2012-04-02 00:32:34|
お仕事
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- すべては雪に消える (ハヤカワ文庫 NV ミ 3-1)

『すべては雪に消える(SNOWDROPS)』は、モスクワを舞台にしたミステリー。何気なく物語が始まり、気づいたら闇に包まれているという雰囲気の、真綿で首を絞められるような怖さを感じる内容でした。ただし、回顧形式で書かれているので、最後に悪いことが起こったんだな、ということが最初からわかってしまうので、ドキドキ感は半減しているような気がします。私はミステリー部分よりもむしろ、ロシア特有の風習や人々の考え方、現在のロシアの社会状況が多く描かれている点が興味深いと思いました。
この物語は、ロシアで起こったことが描かれていますが、主人公は英国人で、英国人の視点で語られるために、ロシアが他の先進国とどう違うか、という点がかなり強調されています。社会情勢の変化や、それに伴う経済状況の変化、人々の価値観の変化などロシアならではの問題に翻弄される主人公ですが、その怖さを知っているにも関わらず、罠にかかっていきます。
冬に雪の上で命を落とすと、そのまま雪が積もって見えなくなり、春に雪解けと共に死体が発見されることがあります。そのことを‘snowdrops’と言い、本書の原題はそれから取られています。雪は汚いものを覆い隠してくれるので、まるで何も悪いことなどなかったかのように表面上美しく見えますが、春になって雪が溶けると急に悪しきものが真の姿を現わすので、唐突感を覚えることでしょう。雪によって汚いものが隠されて美しく見えるというのは、青森の冬も同じなので容易に想像がつきました。
罠にかかった英国人の弁護士が、自分のとった行動について後から弁解しているの図、という物語なのです。
個人的に、理想の死に方を考えたときに、冬に雪の上に寝転がって星を眺めながら死ぬのがいいように子どものころから思っていて、自然に雪の上で死に、死体は春になって発見されるというのもいいな、と思っていました。冬の間に死んだ人間や壊れた物が雪ですっぽりと包まれ、春になってはじめてその姿を晒すことになるのは、雪国ではよくあること。雪国に生まれ育つと、雪に対して必要以上の肯定的気持ちを抱くことがありませんが、汚いものや都合の悪いものを見えなくしてくれる(消してくれるわけではない)ことは確かですよね。だから雪が降ると、街も浄化されたように美しく見えますが、実際に美しいかどうかは別問題です。
ロシアと英国との違い、ロシア特有の別荘での夏の過ごし方、アパートの部屋の売買に関する習慣、ベンチャー企業を立ち上げたり売春に積極的に関わる若者たち、金を積めばどんな書類をも作ることができる闇ビジネスの世界、そんな現代ロシアのパワーとエネルギーとリスクを織り交ぜながら描かれたお話。今のロシアの雰囲気を味わうにはなかなかよい本だと思います。
2012-04-01 23:05:50|
読書
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- 日本人の知らない日本語3 祝!卒業編

シリーズ第3弾の
『日本人の知らない日本語3 祝!卒業編』。そっか、この生徒さんたち、卒業か~と、まったく見ず知らずの人たちなのに、なんだかちょっと嬉しくも寂しい気持ちになってしまいました(^-^;)。
相変わらず、不思議な疑問や鋭い質問を投げかけてくる学生さんたちと、それらをうまくかわしたり、見事に解決したりする日本語教師とのやりとりが可笑しいマンガには変わりないのですが、ここらでいったん一区切り、ということなのか・・・(卒業ということですし)・・・なんと最後に
「ふくろとじ」がついていました。
変なものが出てきたらどうしようか、とドキドキしながら開けてみると・・・それは、第4弾の予告マンガでした(笑)。
どうやら次は日本を飛び出してヨーロッパに行くらしいです。で、現地で日本語を学ぶ学生さんたちを中心に取材するようですね。どこかのテレビ番組でもやっていたような企画ですが、マンガになるとまた視点が違うかもしれません。
「日本に来て初めて見たもの」シリーズも面白かったです。各国のクリスマスとサンタクロースという話も興味深いものがありました。日本語テストは、日本人にとっても考えさせられるものが多かったですし。お弁当に使われる「バラン」って、全然知らなかったです。「ミリグラム」を意味する漢字「瓱」も・・・見たこともありませんでした(-_-!)。
個人的に受けたのは、手紙を書いてみましょう!のエピソードで、
「全略」と書いてしまうところ。全部略して書いたら・・・楽でしょうね~(^-^;)。そうしたら日付と名前しか書いてない手紙になってしまいますけど。
表紙の帯にもありますが、「アラフォー」は何の略か、という疑問に対して
「あらかたフォーティー」の略という答えが出てきます。「あらかた」という古風な言葉を知っている外国人というのもスゴイなあと感心。
役割語というのも面白いですね。どうして博士は「~じゃ」「~しておる」などという話し方をするのか、というテーマで、これもよく考えると不思議な言葉遣いですよね。日本では男性と女性で言葉遣いが大きく異なるのも、外国人にとっては謎なんだろうなあ、と思いました。しかし、こういう言葉や現象を学問として研究するのも楽しいでしょうね。
ということで、第4弾に続くみたいなので、楽しみに待っていましょう。
2012-03-31 00:00:00|
アニメ・マンガ
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- 50/50 フィフティ・フィフティ [Blu-ray]

火曜日に松竹アムゼに見に行った『TIME』は、一日一日を生きることの大切さを感じさせられる作品でしたが、こんどはシネマ・ディクトに癌治療について考えさせられる作品を見に行きました。なんだか今週は人間の生き方について考える週なんだなあ、と一人合点。
『50/50 フィフティ・フィフティ(50/50)』は、進行癌にかかってしまった青年と、彼を取り巻く人たちの姿を描いた作品で、全体的には温かい雰囲気で終わり方も後味のよいものでしたが、癌にかかる青年の話ということで、ところどころで涙が出てしまいました。コメディ調に持っていきたかったみたいで、時々笑える場面もあるのですが、やはり暗い気持ちになる主人公を見ているとなかなか笑えませんでした。
物語は、ある日、腰痛があって気軽に病院で検査を受けたら、なんと診断は悪性腫瘍(脊髄神経鞘腫だったかな・・・)で骨に浸潤しているというもの。まずは術前化学療法をしてみましょう、ということで抗がん剤を使った治療のために通院することになり、そこで他の癌患者に出会ったり、さらに心理的セラピーを薦められて知り合った博士号取得を目指しているというセラピストの女性と出会ったり、疎遠だった母親との関係を修復したり、いろんなことが描かれていますが、基本的には病気にかかってから人の本質が見えてきて葛藤する青年と、彼を支える周りの人間との人間関係を描いた作品でした。主人公が病気になって変化していくのはもちろん、彼と関わることで周りの人も変化していくのがいいなと思いました。いろんな人が登場しますが、それぞれに別な悩みを持っていて、癌にかかった主人公だけが不安で孤独に戦っているわけではないのだということも表現されていました。彼の父親はアルツハイマーで息子が癌にかかったことも理解できないでいますが、そんな夫を支えていてストレスがたまっている母親、友人を元気付けようとして明るく下世話な話題ばかりを振りまく友だち、癌センターに通う癌患者たち、主人公の病魔と闘う姿に怖くなって浮気してしまう女性画家、片付けが超苦手な若いセラピスト、早口で専門用語をまくしたてる専門医・・・。
癌治療に関して、治療する側と治療を受ける側、また治療を受ける人を支える人たちというのをここまで取り上げた映画は珍しいと思いますね。しかも、この映画、実話に基づいた作品なのですよ!癌治療に関わる人みなさんにお勧めの映画です。私も治療者として考えさせられました。本当に患者さんの支えになっているのは、この映画でも描かれているように専門医でもセラピストでもなく私的な人間のつながりなのでしょうね。
舞台はシアトルで、地元のラジオ局に勤める青年が悪性腫瘍にかかって、抗がん剤治療を受け、それが効果なくて最終的に手術を受けることになる話なのですが、ロケ地はバンクーバーと表示されていました。すごく印象に残っている場面は、主人公が八重桜の並木道を、桜の花びらが舞い落ちる中で歩くところです。桜の花が舞い散るというのは、日本人的には、生と死を感じさせられるのですが、ほかの国の人は、ただキレイな風景としか感じないかもしれませんね~。日本では「桜散る」っていうのはなんか不吉な言葉だし、西行の「願はくは花の下にて春死なむ そのきさらぎの望月のころ」という詩をも連想させるし、桜の花が一晩にして散ってしまうように潔く死ぬというのが武士にとってよい死に方であるという考え方・・・まあ、戦争中には間違って武士ではない一般人にこの考え方が強要された歴史があるわけですけれども・・・があることを知っているので、桜吹雪の中を進行癌の患者が歩いているというだけで死を連想してしまうのですが、まあ、そこまで狙ってないでしょうね、きっと(^-^;)。それより、バンクーバーにこういう場所があるんですね。そのことにも驚きました。
いろいろと考えさせられますが、決して暗いだけの映画ではないので多くの人に見ていただきたいですね。
ところで、これ、James McAvoyが主役に決まっていたけど、奥さんの出産のために育児休暇を取りたいということで降板した映画だと思います。主役を演じていたジョセフ・ゴードン=レヴィットはうまく演じていたけれど、たぶんJames McAvoyが演じていたらもうちょっとコメディ色が強かったかもな、とか想像しながら見ていました。で、エンド・クレジットで
「special thanks to...」というコーナーの並んだ名前の中にJames McAvoyの名前が!これを見たときに、この映画の監督のセンスと温かさを感じました。その監督はジョナサン・レヴィン。トロント映画祭やサンダンス映画祭で手堅く受賞歴があり、今後が楽しみです。
タイトルの50/50は、5年生存率が50%ということ。ギャンブルならかなりいい確率だぜ、と友人から激励されるのですが・・・という場面がありました。ちなみに進行癌で5年生存率が50%というのはかなりいい成績です。膵臓癌や胆管癌だと2年生存率ですらそんなに高くないですから(手術できなければ1年生存率が10%未満)。
しかしまあ、考えてみれば明日自分が生きている確率も50/50かもしれないなあ、などと車を運転しながら思いました。人間の死亡する確率だって考えてみたら100%。生まれてきたらみんな死にます。ただ、生きている間にどう生きるかということで充実感はかなり違うと思います。毎日、「自分は明日死ぬかもしれない」「今日が人生最後の一日かもしれない」と思っていたら自ずと言動も変わりますよ。私も去年の震災を経験したとき、人生における一期一会を強く感じました。家族や友だちとも、「もしこれがこの人と会う最後になったら・・・?」ということを意識するようになりました。最後にひどく相手を傷つけるような言葉を発してしまったら嫌だし、もっと友だちにも優しくしよう、って反省させられたものです。自分の中の考え方に人の死は大きく影響します。だからこの主人公も変わったし、彼を取り巻く人たちも変わろうとしました。
人間と人間のつながりの大切さと温かさを感じる良質の映画です。癌に関わる全ての方へお勧めします。
2012-03-25 00:00:00|
映画
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- In Time

『TIME タイム(In Time)』。25歳から歳をとらない世界になったら・・・という設定のSF映画ということで、予告編で見ていたときは「25歳から歳をとらないのか。それって結構いいんじゃない?」と思っていたけど、見終わってみると、そんなに甘いものじゃないってことがわかりました(^-^;)。思ったより過酷で大変な世界にハラハラ、ドキドキ。最後はなんだか『俺たちに明日はない』のボニー&クライドみたいでしたが、全体としては『トゥルー・ロマンス』や『トレインスポッティング』を足して二で割ったようなSF・バイオレンス・ロマンスという内容でした。音楽もよかったし、近未来のちょっとシュールな雰囲気の街並み(やけに閑散としていて荒んでいて色彩がない)もアートな感じで面白かったし、予想以上に楽しめました。見終わった後も痛快でした。
主役のジャスティン・ティンバーレイクってどこかで見たことがあると思っていたら、*NSYNC(インシンク)のボーカルの人でした。ミステリアスな顔のヒロインは、『マンマ・ミーア!』に出演していたアマンダ・セイフライド。ジャスティンは『トレスポ』のユアン、アマンダは昔のミラ・ジョヴォヴィッチみたいな雰囲気でしたが、ジャスティンよりもアマンダの作品中での変化が見所です。
物語は近未来のどこかの街。人類は25歳まで生きた後、突然左腕にデジタル時計の数値が並ぶように光る「ボディ・クロック」が活動を始め、一年間の猶予の後に死ぬ・・・ことになりますが、この世界では給料は「時間」で払われる仕組みになっていて、働いて時間を稼ぐことができます。たとえば一日工場で働くと「5時間」という給料がもらえるとします。しかし、この世界では「時間」が通貨の働きをしているので、物の値段はすべて時間で表示されていて、コーヒーは「1時間」などという具合です。この時計は25歳から一年という時間が自動的に与えられるのですが、それは、
「あなたの寿命が尽きるまであと一年です」という意味の一年なのです。だから人々は生き続けるために働き、「時間」を稼ぎます。ドルやセントが「時間」や「分」という単位に変わった世界。まさに
時は金なり。このことわざのとおりの世界を描いて見せている作品です。
この「時間」を巡っての悲喜こもごもがあり、ある者は時間を盗み、ある者は盗まれて死に、ある者は俄かに「小時間持ち」になって遊びすぎて自滅し、ある者は永遠に死ねないことに絶望して時間を持たざる者に時間を分け与えて自ら死を選び、ある者は時間泥棒を取り締まります。
時間泥棒というと、ミヒャエル・エンデの『モモ』を連想させますよね。あれも人間の時間が盗まれる話で、時間貯蓄銀行というのが登場しますが、この映画にも似たような巨大銀行が登場します。しかもその銀行のオーナーの娘がこの映画のヒロイン。貧民街で生まれ育った主人公が、裕福な人たちが暮らすゾーン(ニューグリニッジ)でヒロインと出会うことから物語は急展開。倦怠と退廃の支配する裕福な暮らしに飽き飽きし、外の世界での冒険に憧れていた彼女は、初めて会うワイルドな雰囲気の男に激しく魅了されて恋に落ちます。違う世界に生きる者どうしが惹かれ合うのはよくあること。しかし、二人はいつしか世界のシステムを牛耳る者が存在することに気づきます。そこで・・・。
銀行の巨大金庫から「貯蓄された時間」を盗むときに自分たちの分を取った後に、貧しい人々にも銀行を解放しますが、そのときに
「Take your time.」というセリフが。これ、ちょっと笑えました。ふつうには「ゆっくり時間をかけてどうぞ」という意味で使われる英語ですが、この場面では文字通り「時間を取っていってください」という意味で使われているんですよね。面白いです。
しかし、なぜ時間が通貨になっているのか、なぜ25歳で老化が止まるのか、などは説明されないので、いきなり不条理の世界に投げ込まれた感じで、ちょっと『プリズナー No6』の世界をも連想しました。ということで映画のあちこちにちょっとずついろんな作品の影響を感じるのですが、監督はニュージーランド出身のアンドリュー・ニコル。『トゥルーマン・ショー』や『ガタカ』の監督さんということで、変わったシチュエーションの作品に才能を発揮する方なのだなあ、と納得。音楽も素敵で、いいなあと思ったら私の好きなクレイグ・アームストロングでした。エンドクレジットでロケ地がLAと出ていたのですが、確かに最後の場面の乾燥地はカリフォルニアっぽい感じでしたけれど、映画全体の雰囲気はアメリカっぽくないのも、NZ出身監督とスコットランドで活動しているクレイグ・アームストロングなどの影響もあるのかもしれません。
しかし、この近未来の世界でも描かれているのは、現在世界中で見られるのと同じ格差社会。富める者は若い容姿のまま永遠に生き、貧しき者はほとんど25歳で死ぬか、「余命数日間」というカツカツの状況でなんとか生活しています。とにかく寝る間も惜しいので、貧しい者は走るのが速いけれど、富裕層は走ることがありません。だから走っていると、貧民層出身とバレるくらい。
余命が腕に表示されていたら、どうなるのか?と想像すると・・・映画でも描かれているように、「1000年」と表示されていたら長すぎてピンと来なくて考えるだけで馬鹿馬鹿しくなってしまいそうですし、「12時間」だったら、もうどうやっても死ぬんだと諦めるか、もう死ぬんだから好きなことをしようと努めるか、といったところでしょうか。余命がわかっていると、人間はその時間を大切にしようとするんですよね。黒澤明の『生きる』も、そういう内容でした。ずっと生きられると思っていた主人公が進行癌で余命いくばくもないとわかってから人が変わったようにがむしゃらに濃密な人生を送るのです。この映画もそういう人間の姿を皮肉ってもいます。こういう世界だと、本当に一日生きられたことへ感謝しますね。一日を無為に過ごすなんてもったいないことだって感じました。
生きているということの意味を考えさせられる作品でした。
Time is money.ですよ、皆さん。
2012-03-24 00:00:00|
映画
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- ゲーテの恋 ~君に捧ぐ「若きウェルテルの悩み」~ [DVD]

シネマ・ディクトで上映している
『ゲーテの恋~君に捧ぐ「若きウェルテルの悩み」(Goethe!)』を見てきました。ゲーテというと、後世の私たちから見ると、文豪のイメージが強く、他にも光学の研究や旅行記の執筆などでも知られていて、とにかく多才な人、という感じ。でもこの映画で描かれているゲーテは、まだその才能を発揮できていない時代の、初心でナイーブな青年。恋愛と失恋と友の死について大いに喜び、大いに悲しみ、深く傷つき、自信喪失に陥るふつうの人です。そして、想像以上に、美形(!)でした(^-^*)。
この物語はゲーテの人生に実際にあったことをもとにして作られていますが、そうは言ってもフィクションですので、すべてが事実ではないし、おそらく誇張されている部分もあるでしょう。終わり方なんかはちょっとアメリカ映画的で、もうちょっと密やかな喜びに浸る感じのほうが余韻があるのになあ、と思いましたが、物語全体としては結構よくできていたと思います。雰囲気としては『プライドと偏見』の世界に似ていましたね。でも、この青年のほうがより深く深刻に悩む感じで・・・映画の中でうつ病という言葉が出てくるのですが、‘メランコリー’という単語が使われていました。メランコリーといえばアルブレヒト・デューラーの『メランコリア』という傑作を思い出します。メランコリーというとドイツ、というイメージが勝手に私の脳内にできあがっています(笑)。
ゲーテの小説を読んだことがある方ならもっと面白い発見や伏線がある映画かもしれないのですが、私が触れたことのあるゲーテといえば、13歳ごろに読んだ『若きウェルテルの悩み』(日本語)、高校生のころに読んだ手塚治虫の『ネオ・ファウスト』(マンガ。実際の『ファウスト』とは違います)、音楽の教科書で習ったシューベルトの『魔王』(歌詞をゲーテが作詞)、大学時代のドイツ語の中級クラスのテキストが『ゲーテの生涯』(こんな感じのタイトルだった記憶。実際には違うかも・・・)だった、というだけです。しかも大学生のころには、ゲーテの生涯じゃなくてミヒャエル・エンデの『モモ』がテキストだったらよかったのに!と思っていたほど(すみません、ゲーテさん)。なので、教科書の中の記述で覚えていることといったら、ゲーテの父親との関係、女性遍歴、病気や怪我で学業がストップすること、友人たちと羽目をはずすことがたびたびあったこと、くらいのものです。
そう、若いころのゲーテったら、羽目を外しすぎて、酔っ払ったり落馬したり、夫のある女性とつきあったり、なかなかヤンチャな青年です。しかもそのことでお父さんに叱責されること度々。結構な教育パパのようで、ゲーテは父親にいつも叱られていて、まるでモーツァルト親子のような父と子のイメージもありました。教科書の言葉で面白かったのは、古風な言葉遣いを日本語に訳したときやはり古風になるということ。今でもすごく覚えているのは‘乱痴気騒ぎ’という言葉。この映画の中でも、友だちと飲んだり踊ったり、ドラッグを摂取したり、ハチャメチャな行動をしていますが、まあ、それも失恋の痛手からということで・・・許してあげましょう。
物語は法学を勉強しているヨハン・ゲーテが、あまりの不熱心さに、実地で研修してこい、と田舎町の裁判所で住み込みで働くことになるところから始まります。作家になる夢を捨てきれないゲーテでしたが、出版社に送った原稿はどれもこれもボツになり、自信喪失して、失意のうちに田舎にやってきますが、ある日出かけた舞踏会で若い女性にワインをひっかけられて上着を汚されてしまいます。サイアク!と思ったものの、後日、教会で独唱する彼女を見かけて魅了され、恋に落ちてしまうのでした。
しかし、そんなに物事はうまくいかなくて・・・というのがこの映画のストーリー。都会からやってきた青年、ちょっと貧しい家庭の女性、実家の経済的負担を軽くするために打算で結婚するのがふつうの世の中、キリスト教的な世界観以外は許されない時代、それに三角関係や不倫や親子関係などが加わって事態が複雑になっていきます。決闘というのが登場したり、シェイクスピアがくだらない作家だと揶揄されていたり、自由に恋愛したり職業を決めたりができない時代。制限の多い中での恋愛って、情熱的になるんでしょうね、逆に。恋愛映画での定番でもありますが・・・。美しい俳優、美しい言葉の数々、美しい風景。ゲーテに何の興味がなくても、作品を読んだことがなくても普通に楽しめます。もちろん、ゲーテの『若きウェルテルの悩み』を読んだことがあったり、ゲーテの生涯を知っている方なら、あのエピソードがこんなところに活かされているのか!という細部を発見して楽しむことができます。そして解説によると、実体験を基にして書かれたという青春小説は、当時の若者に絶賛され、自殺することが流行したそうです(流行って(^-^;))。
このころの言葉を表わすのに、よく使われる
‘疾風怒濤’がこの映画にも登場します。また、印象的だった言葉として
‘Freitod'(自由死)というのがありました。キリスト教徒にとっては重大な宗教的罪となる自殺についてのゲーテの意思表示が示されてもいます。今は古典文学になっていますが、当時はかなり斬新な文学だったんでしょうね、きっと。
若いときの彼の世界観に影響を与えたいろんなことがこの映画では起こっていて面白い内容でした。それに、景色が美しく、ゲーテが語る言葉がいちいち秀麗で、こんな風に話しかけられたら女性はみんなうっとりしてしまいますよね。演じているアレクサンダー・フェーリング(Alexander Fehling)がまた、美しい男性!ゲーテの肖像画は晩年のころのものしか見たことがなかったせいか、勝手にもっとおじさんのイメージを作り上げていましたが、よく考えてみると彼にも若かった時代はあるんですよね。しかし、そこまで美男子だという期待はしていなかったので映画を見てビックリ。チラシとかにはシルエットしかなかったので・・顔もよく見えなくて、だから俳優の顔には興味がなかったんですが・・・久しぶりに目の保養になるような麗しい外見の俳優さんでした(^-^*)。この映画に出てくるゲーテは、カッコよすぎて、大丈夫なのか、と心配になるくらいです。いろんな才能がある人なんだから顔はよくなくてもいいじゃないの・・・とも思うのですが。
また、この映画ではちょっと悪い役の先輩ケストナーを演じたモーリッツ・ブライプトロイ(Moritz Bleibtreu)は癖のある役で面白かったです。女性のことを想うあまりにひどい行動に出てしまう、無粋で不器用で真面目なだけがとりえのような男ですが、作品には欠かせない役柄です。史実ではそんなにひどい人ではなかったみたいですが、映画だから大袈裟にしているのかも。監督は『アイガー北壁』のフィリップ・シュテルツェル(Philipp Stölzl )。『アイガー北壁』は見たいと思いつつ、まだ見ることができないでいる映画の一本ですが、思いがけず、その監督の新作を先に見ることができたというわけですね。地面がぬかるんでいたり、建物が汚かったり、ヨハンとシャルロッテの野外で抱き合うシーンでは体に泥がかなりついていて妙にリアルでした。
自由奔放な魂の開放を求めて文学や多方面に新しい風を吹き込ませたゲーテの若いときのほろ苦い恋の経験談といったところです。
2012-03-10 00:00:00|
映画
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