- 50/50 フィフティ・フィフティ [Blu-ray]

火曜日に松竹アムゼに見に行った『TIME』は、一日一日を生きることの大切さを感じさせられる作品でしたが、こんどはシネマ・ディクトに癌治療について考えさせられる作品を見に行きました。なんだか今週は人間の生き方について考える週なんだなあ、と一人合点。
『50/50 フィフティ・フィフティ(50/50)』は、進行癌にかかってしまった青年と、彼を取り巻く人たちの姿を描いた作品で、全体的には温かい雰囲気で終わり方も後味のよいものでしたが、癌にかかる青年の話ということで、ところどころで涙が出てしまいました。コメディ調に持っていきたかったみたいで、時々笑える場面もあるのですが、やはり暗い気持ちになる主人公を見ているとなかなか笑えませんでした。
物語は、ある日、腰痛があって気軽に病院で検査を受けたら、なんと診断は悪性腫瘍(脊髄神経鞘腫だったかな・・・)で骨に浸潤しているというもの。まずは術前化学療法をしてみましょう、ということで抗がん剤を使った治療のために通院することになり、そこで他の癌患者に出会ったり、さらに心理的セラピーを薦められて知り合った博士号取得を目指しているというセラピストの女性と出会ったり、疎遠だった母親との関係を修復したり、いろんなことが描かれていますが、基本的には病気にかかってから人の本質が見えてきて葛藤する青年と、彼を支える周りの人間との人間関係を描いた作品でした。主人公が病気になって変化していくのはもちろん、彼と関わることで周りの人も変化していくのがいいなと思いました。いろんな人が登場しますが、それぞれに別な悩みを持っていて、癌にかかった主人公だけが不安で孤独に戦っているわけではないのだということも表現されていました。彼の父親はアルツハイマーで息子が癌にかかったことも理解できないでいますが、そんな夫を支えていてストレスがたまっている母親、友人を元気付けようとして明るく下世話な話題ばかりを振りまく友だち、癌センターに通う癌患者たち、主人公の病魔と闘う姿に怖くなって浮気してしまう女性画家、片付けが超苦手な若いセラピスト、早口で専門用語をまくしたてる専門医・・・。
癌治療に関して、治療する側と治療を受ける側、また治療を受ける人を支える人たちというのをここまで取り上げた映画は珍しいと思いますね。しかも、この映画、実話に基づいた作品なのですよ!癌治療に関わる人みなさんにお勧めの映画です。私も治療者として考えさせられました。本当に患者さんの支えになっているのは、この映画でも描かれているように専門医でもセラピストでもなく私的な人間のつながりなのでしょうね。
舞台はシアトルで、地元のラジオ局に勤める青年が悪性腫瘍にかかって、抗がん剤治療を受け、それが効果なくて最終的に手術を受けることになる話なのですが、ロケ地はバンクーバーと表示されていました。すごく印象に残っている場面は、主人公が八重桜の並木道を、桜の花びらが舞い落ちる中で歩くところです。桜の花が舞い散るというのは、日本人的には、生と死を感じさせられるのですが、ほかの国の人は、ただキレイな風景としか感じないかもしれませんね~。日本では「桜散る」っていうのはなんか不吉な言葉だし、西行の「願はくは花の下にて春死なむ そのきさらぎの望月のころ」という詩をも連想させるし、桜の花が一晩にして散ってしまうように潔く死ぬというのが武士にとってよい死に方であるという考え方・・・まあ、戦争中には間違って武士ではない一般人にこの考え方が強要された歴史があるわけですけれども・・・があることを知っているので、桜吹雪の中を進行癌の患者が歩いているというだけで死を連想してしまうのですが、まあ、そこまで狙ってないでしょうね、きっと(^-^;)。それより、バンクーバーにこういう場所があるんですね。そのことにも驚きました。
いろいろと考えさせられますが、決して暗いだけの映画ではないので多くの人に見ていただきたいですね。
ところで、これ、James McAvoyが主役に決まっていたけど、奥さんの出産のために育児休暇を取りたいということで降板した映画だと思います。主役を演じていたジョセフ・ゴードン=レヴィットはうまく演じていたけれど、たぶんJames McAvoyが演じていたらもうちょっとコメディ色が強かったかもな、とか想像しながら見ていました。で、エンド・クレジットで
「special thanks to...」というコーナーの並んだ名前の中にJames McAvoyの名前が!これを見たときに、この映画の監督のセンスと温かさを感じました。その監督はジョナサン・レヴィン。トロント映画祭やサンダンス映画祭で手堅く受賞歴があり、今後が楽しみです。
タイトルの50/50は、5年生存率が50%ということ。ギャンブルならかなりいい確率だぜ、と友人から激励されるのですが・・・という場面がありました。ちなみに進行癌で5年生存率が50%というのはかなりいい成績です。膵臓癌や胆管癌だと2年生存率ですらそんなに高くないですから(手術できなければ1年生存率が10%未満)。
しかしまあ、考えてみれば明日自分が生きている確率も50/50かもしれないなあ、などと車を運転しながら思いました。人間の死亡する確率だって考えてみたら100%。生まれてきたらみんな死にます。ただ、生きている間にどう生きるかということで充実感はかなり違うと思います。毎日、「自分は明日死ぬかもしれない」「今日が人生最後の一日かもしれない」と思っていたら自ずと言動も変わりますよ。私も去年の震災を経験したとき、人生における一期一会を強く感じました。家族や友だちとも、「もしこれがこの人と会う最後になったら・・・?」ということを意識するようになりました。最後にひどく相手を傷つけるような言葉を発してしまったら嫌だし、もっと友だちにも優しくしよう、って反省させられたものです。自分の中の考え方に人の死は大きく影響します。だからこの主人公も変わったし、彼を取り巻く人たちも変わろうとしました。
人間と人間のつながりの大切さと温かさを感じる良質の映画です。癌に関わる全ての方へお勧めします。