境界線上に……ゑ!?(改正版) (ケフィア)
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ケフィア「とりあえず消されたホライゾンSSの改正版です! 序盤は原作とほぼ同じです!」

夷「まあ、ホライゾンで原作ブレイクなんてしても厄介事しか起きないしなあ。特に周辺各国が」

ケフィア「はい、なので変えたり、原作通りの場所が多々あります、というかしないと無理です。管理人さん、許してくだしあ」

夷「また消されたら?」

ケフィア「退会しますか」

夷「オイ!?」


ケフィア「私の小説はオリ展開、過激な表現、カオスな会話、後は原作崩壊が目立ちます。OKの方はお進みください! 駄目な方はこのままブラウザバック推奨です」



*注意! これは二次創作です! 実際のホライゾンとは違う点が多々あります、それでもいいよと言う方はどうぞ! 実際、こんなの○○じゃねえ! とかありますから、不快な気持ちにさせても一切の責任は負えません、ご了承ください。



武蔵にて

 通りませ 通りませ
 行かば 何処が細道なれば
 天神元へと 至る細道
 御意見御無用通れぬとても
 この子の十の 御祝いに
 両のお札を納めに参ず
 行きはよいなぎ 帰りはこわき
 我が中こわきの 通しかな――


 青い空に一つ大きな影が歌を歌いながら通る……徐々に影がその正体を表す。
 表層に多々の建造物を乗せ、全長八キロメートル、幅二キロメートル、高さ八百メートル、圧倒的な質量が空を泳ぐように進んでいる。知識がある者ならば準バハムート級だとわかるだろう。わからない人はぶっちゃけるとでかい艦と思えばいい。
 八つの船が連結して、まるで一つの都市のように空を泳ぐ様は“バハムート”の名にふさわしい、“竜”のようだ。
 その船一つ一つの艦首に名前が彫られている。
 そんな巨大な艦の名を“武蔵”。
 極東と呼ばれる、ただ唯一の領地。
 それは空に流体の波を作りながら、ゆっくりとその存在を知らしめながら進む。
 そして歌と共に、学校のチャイムが鳴る。
「準バハムート級航空都市艦・武蔵が、武蔵アリアダスト教導院の鐘で朝八時半をお知らせ致します。本艦は現南西へ航行、午後に主港である三河へと入港致します。生活地域上空では情報遮断ステルス航行に入りますので、御協力御願い致します。後、夷様、授業を頑張ってください。――以上」



――――通りませ 通りませ


 夢だ、青年は夢を見ていた。
 夢と言っても彼の過去をそっくりそのまま映しているだけだ、つまりは妄想……かもしれない。
 なんてことはない、二人の少女が共に遊んでいるだけだ。
 二人は笑い合いながら、お互いに追いかけっこをしていた。笑い、はしゃぎ、また笑う、どこをどう見ても仲の良い子供のじゃれ合いだった。
 夢を見ている青年はぼんやりとその様子を見ていた。
 
次の瞬間、目まぐるしく場面は変わる。
 そこは見覚えがある場所だった。
 和服を着た少女が、先ほどまで遊んでいた黒髪の少女を抱きかかえて泣き叫んでいた。
『誰か! 誰でもいいから! ――を助けてよ!』
 彼女は必死に叫ぶ、正常な思考を持つ“大人”ならば少女は、もはや手遅れだということがわかるだろう。現に周りの大人たちは誰ひとり動こうと……いや、動けなかった。
 大人たちの視線は一点に集まっている。それは黒髪の少女を引いた馬車から出てきた男だ。
 眼鏡をかけた白衣の初老の男性だ、なんの変哲もないただの男性――だったなら、大人たちは口々に批判を、怒りを彼にぶつけていただろう。だが、彼はただの男性ではない、それがわかっているから誰も口を開かない、動けない。
 その中、着物を身に着けた少女だけが涙を目にためながら男性を睨みつけた。
『お前のせいで! あんたのせいで!!』
 敵意を剥き出しに、男性に思いつく限りの侮蔑をぶつける少女。
 誰が彼を戒めることができる? いや、出来ないだろう……小さな体から出てくる濃密な敵意は大の大人すら口を噤むほど強烈であり――誰よりもボロボロだったのだから。
 初老の男性は苦笑しながら、後ろに控えていた護衛のような人物に何かを言った。その様子はまるで、楽しみにしていた遊びを邪魔された子供のようだ。
 護衛の人物は頷き、少女の前まで歩き、瀕死の少女をこちらに渡すように言った。
 もちろん彼女は首を振りながら拒否する。
 護衛の人物はため息をつきながら、一瞬で彼女の手から少女をひったくる。その時、少女の血で染まったハンカチが地面に落ちる。
『返せ……返せよぉ!』
 少女は必死に護衛の人物に追い縋ろうとするが、足はまったく動いてくれなかった。
 大切な人の消失と初めて見る血のせいで、少年は極度の錯乱状態に陥っていた。しかし、それでも叫ぶことを止めない少女。
 そんなまるで悪夢のような光景に夢の主である青年は一言も言葉を発することができず、ただそこに立ち尽くしていた。
 彼もまた、少女に手を伸ばそうと、足を動かそうと脳に命令を送っていた。
 だが、脳はそんな彼をあざ笑うかのように動いてはくれなかった。しかし、少しずつだ、少しずつ体の硬直が無くなっていく。
「動けよ」
『返せよ』
「動いてくれ」
『返してくれ』
「動けぇええええ!」
『返せぇええええ!』
 そして青年はようやく動いた体で、少女に向か――――

「起きろ!」
「ウェイクアッ!?」
 そんな声と共に立ちながら寝ていた青年は、腹部に現在進行形でめり込んできている回し蹴りと女性らしい叫び声で起きた、というか起こされた。
 そのまま吹っ飛ぶ青年は、十メートルほど飛んだ後、橋の上に転がる。その様子は馬車に引かれた人間のようで、ある一定の人間のトラウマを抉る光景だったがやられた方はたまったもんじゃない。
 受け身も取れずに青年は転がる、転がって転がって転がり続け、ようやく止まった。十メートルと転がった分十メートル、合わせて二十メートルなので蹴りを入れた女性がどんな化け物なのか見たくなる、しかしながらその女性は出るどころはしっかりと出たとても魅力的な女性だった。蹴られた青年は無事なのかと疑問になる、というかあの細腕のどこにそんな力を持っているのか聞いてみたくなる。
「あら? やり過ぎた?」
 転がったまま動かない青年――が、三秒後、飛び起きながら思いっきり叫ぶ。
「やり過ぎたじゃねえよ! こんのリアルアマゾネス! 密林にかえ――――カルバリズッ!?」
 しかし青年は額に“ナニカ”をぶつけられ、その場に蹲る。
ナニカ……いや、それは長剣だった、もちろん抜刀状態ではなく鞘でだ。抜刀した剣を投げたりしたら、青年はおそらく愉快な死体として天下の往来で、物語の素材(ネタ)となっていただろう、割とマジで。
 黒の軽装甲型ジャージを着た女性、実は彼女は教育者である。そして彼女が投げたのはブランド〝IZUMO〟の長剣、鞘はご丁寧に合金製……当たればどれだけ痛いことやら。
 彼女の名前はオリオトライ・真喜子、“立派”な教育者である。まぁ、普段の彼女を知っている者がいれば全力で否定してくれるだろう、力いっぱいに。
「はいはい、そこの馬鹿は放っておいて。三年梅組集合――は出来てるわね?」
 オリオトライは“イイ”笑顔を浮かべながら、目の前に整列している生徒たちを見る。
 人間ではない者もいるが、それを訝しむ者はいない。
「ではこれから体育の授業を始めます。品川の先にあるヤクザの事務所に全速力で向かうから貴方たちは、死ぬ気で着いてくること。あぁ、ちなみに事務所に着いてからが実技ね」
 それ体育の授業やない、それお礼参りや! ――と言いたくなるが、彼女が授業と言うのならば授業なのだ。ツッコミ役である青年は、額を抑えながら悶絶してるのでツッコむ者などいない。
 とりあえず反応は様々だ。しっかり返事をした者、笑っている者、なぜか妄想している者、そして悶絶している者、一言でいうと無法地帯である。これが教育現場と言われたらギャグにしか思えない、もしくは学級崩壊の現場だ。
「遅れたら早朝の教室掃除でもしてもらおっかな、丹念にね」
『ゑ?』
 皆がその言葉に驚きの声を上げる。
 当然だ、ヤクザの事務所に行くと突然言われ、遅れたら教室掃除など嫌に決まっている。全員のやる気が無理矢理上がるが、いまだ悶絶している青年は聞いていない。このまま悶絶したままだろうか?
「誰か助けろや! 痛いんだよ、誰か治療し――ケアラ!?」
「黙りなさい。――さてハイ返事は? Jud(ジャッジメント).?」
『――Jud.(懲りない奴だなあ)』
 画面にまたもや長剣を投げつけられた青年は、再び悶絶する。ちなみに長剣はブーメランのようにオリオトライの手に戻っている、原理は聞くな。
 全員が了解の言葉を言った直後、誰かの手が上がる。金髪長身の男性だ。制服の袖には“会計 シロジロ・ベルトーニ”と刻んである。
「教師オリオトライ、――体育と品川のヤクザにどんな関係があるのですか? やはり金ですか? どのくらいですか?」
 やはりってどういうことだ、と悶絶している少年は思う。
 二回目なので多少受け身を取れたのだ。まぁ、それでも痛いっちゃ痛い。
「馬鹿ねぇ、シロジロ。体育とは運動することよ? そして殴ると運動になるのよね。そんな単純なことを知らなかったとしたら商人として問題だわ」
 オリオトライは笑みを浮かべながらそう言う。
 そんなのが許されたら、この世界は世紀末でヒャッハーな世界になると思う。
 そんなシロジロに対し、金髪ロングヘアーの女子生徒が彼の袖を笑顔で引っ張る。名札には“会計補佐 ハイディ・オーゲザヴァラー”とある。
 ハイディは笑顔のまま言葉を続ける。
「ほらシロ君。先生、最近さ、表層の一軒家割り当てられて喜んで夷に焼肉奢らせてたじゃない。でも地上げにあって最下層行きに。そして夷に奢らせて暴れて壁割って教員課にマジ叱られたから。――中盤以降は全部先生のせいなんだけど……まあ、初心を忘れない報復だと思うのよね」
「オィイイ!? ハイディ、マジかソレ! それ全部そこのアマゾネスの責任じゃん! 言い方変えるとお礼ま――キャバン!?」
「はい、黙るー。……報復じゃないわよー。先生、ただ単に腹が立ったから仕返すだけだから」
『同じだよ!!』
 今度こそ皆我慢できなかったのか、ツッコミを入れる。当たり前だ、授業と言いながらこれは実質的なお礼参りだ。
 ちなみに青年は再び長剣がクリーンヒットし、悶絶している。額の方は大丈夫だろうか?
 しかし当のオリオトライト本人は、全員のツッコミを無視して話を続ける。
「今日、休んでいるの誰かいる? ミリアム・ポークゥは事情があるし、あと、東は今日の昼にようやく戻ってくるって話だけど……後は」
「ナイちゃんが見る限り、セージュンとソーチョーがいないかな。……後はそこに転がってる、男女は再起不能になったほうがいいと思う」
  口を開いたのは黒い三角帽を被った金髪少女。腕章には“第三特務 マルゴット・ナイト”。金色の六枚翼を持つ魔女だ。
 そして男女と呼ばれた瞬間、青年は飛び上がる。
 彼、いや彼女にも見えるその人物の姿を描写してみると。
 腰まで伸びている黒髪、白磁のように白い肌、そしてツリ目の真珠を思わせる黒目、そしてなぜか女性用の着物を制服に改造している……およそ女性にしか見えないが彼は性別上は“男”だ。俗に言えば男の娘とも言う。
「男女言うな! くそっ……人が丈夫だからって、長剣投げるか!? 俺はあの“バカ”と違ってボケ術式無いっつうのに」
 首を鳴らしながら彼は特に問題無さそうに歩いていく。
異常な光景だ、普通の人間なら首を痛めているはずの攻撃を受けても、彼はまったくそんな素振りも見せずに普通に歩いている。なぜと問われれば、武蔵の住人ならこう答えるだろう。
「さっすが“雑務”の両希夷ね。ストレス解消のいい道具ね。お金払えばかなり高収入じゃない?」
「本当にコイツ、教育者か!? 拷問官の方が向いてるだろ、武蔵に来たのは何かの手違いに違いない! なぁ、そうだろマル!」
「――正純は小等部の講師をしに、さらに午後から酒井学長を三河に送りに行くから、今日は自由出席の筈。総長……トーリは知らないわ、そこの男女が知ってるんじゃない?」
 夷のツッコミを無視してオリオトライトの疑問に答えたのは“第四特務 マルガ・ナルゼ”の腕章をつけた黒い有翼人。彼女もまたマルゴットと同じ魔女である。
 夷は無視されたことにため息をつきながらマルガの言葉を続ける。
「Jud.、知ってる……マル、頼まれてる同人誌打ち切るぞ? あのアホなら、『夷、夷! 俺、今日発売のエロゲ買いに行くから遅れるぜ!』とかほざいてたぞ? 早朝に表示枠で起こされて、眠いんだよ。セージュンも物好きだねぇ……もしかしてショタコ――スタンガッ!?」
 一人の女生徒、具体的には茶色の長いウェーブヘアーの少女が夷に蹴りを入れて突き飛ばす。夷の断末魔で全員の目が行く。
 何を隠そう、彼女の名前は葵・喜美。件の総長、武蔵の総司令官の姉である。
「皆、うちの愚弟のトーリのことがそんなに聞きたい! 聞きたいわよね? 夷は黙ってて頂戴! 私が言うわ! けど――言わない!」
『ええ!?』
「いや、こいつ低血圧だから早起きでしないから、単に知らないだけだからな? そして、ドヤ顔すんな喜美。正直お前、体重が増えたせいで立つときの姿勢がちょっとずれ――ダスビバーニャ!?」
 喜美の渾身のストレートが夷の腹に直撃し、再び転がる。
 周りの男たちは『うわぁ』と青ざめているが、女性陣は若干黒いオーラが出ている。どこの世界も女性に体重の話はNGらしい。
「だって、私が夷の部屋に行って帰ってきたらもういないもの。――確か八時半くらいだったかしら?」
『先に弟に目を向けろよ、と言うか起きるの遅い!? いつもハイテンションなのに!』
「どこのどいつだぁああああ!! この前体重増えて泣きついた奴は――すいませんすいません調子こきましただからその拳を降ろしてくださいお嬢様今度なんでもするからぁああああああっ!」
「ならデートしなさい!」
『なんか急展開!?』
「はいはーい、私語を謹んでね。後、夷は後で教室掃除」
 なんで!? と夷が反論すると、オリオトライトを長剣を投げつけ黙らす。またもや額にクリーンヒットすると地面に転がる夷。
 最早、恒例のギャグになっているがやられている本人にとっては溜まったもんじゃない。額を抑えながら、どうやって復讐するか、むしろあいつの冷蔵庫の中身(肉)を腐らせてやろうか! とか考えているがやった後、ボッコボコにされるので妄想に留めなければいけない。前にそんな手をやったが、バレて強烈なストレートというキツイお返しをいただいた。
「へえ、立派に私事で遅刻かな? 生徒会長で総長なのにこれはいかんねー。でも、武蔵の総長はあんましっかりしてると睨まれるだけだから。……なんせ訳ありだしね」
 訳あり、その一言に梅組の一同は苦笑いとも取れる表情をする。
 それは夷にとっても、腹立たしい言葉だった。なぜなら、トーリを……夷の無二の親友を“無能”にしたのは夷自身だからだ。
 夷は地面に転がりながら奥歯を噛みしめる。思い出すのは、黒髪の“あの”少女。
「……気に入らねえ」
 夷は不機嫌を隠そうともせずに言葉にソレを乗せてぶちまける。
 オリオトライは、そんな夷の言葉に続けるように呟く。
「面倒よね。眼下にある神州は私たちの土地。なのに今や各国に暫定支配されて人々は極東居留地に追い込まれ、神州の直轄領土が、この武蔵だけ……戦力差だったら絶望的ねえ」
 百六十年前に起きた重奏統合争乱のあと、世界各国に占領され、神州は極東と改められた。
 それにより各国は聖譜連盟を立て、政府と軍事機関の代理として教導院という訓練施設を持って乗り込んできた。各国は教導院と最高機関として各地を暫定支配し、君主を利用しながら、本来の領土戦争を学生間抗争として行なっている。
 その中、この武蔵、もっと言えばこの艦が彼らのただ唯一の土地となった。そして最高責任者たる総長と生徒会長には、最も無能な人物がなることになっていた。
 それが葵・トーリ。聖連から与えられた字名は――――“不可能男(インポッシブル)”。
「でも、無能ばっかり選ぶ理由としては、“それが極東が平和であるという事実を証明するもの”なんだよね、残念ながら」
「……ネシン」
眼鏡を掛けた少年“書記 ネシンバラ・トゥーサン”がそういうと、夷はネシンバラを睨みつける。
ネシンバラの言葉を簡単にするとこうだ。
“トップが無能ならば極東などどうでもいい”、つまりだ。極東に戦力と言う牙を生やさないようにするのが目的である。
「そう怒らないでくれよ、君が憤るのはわかるよ? でも、もう百六十年前からそうだもんね。その間、ずっと頭下げたり協力したり金払ったりで、この武蔵は極東の中心になろうにも移動ばっかりで権力骨抜き。戦力も学生だけだから、武力も無い」
「そうねえ、各国の学生は上限年齢が無制限なのに、極東の学生は十八歳で卒業だし、それを超えたら政治も軍事も出来ないんだからねぇ」
 学生は特権階級。極東で良く言われる言葉だ。
 オリオトライトの言葉は事実だ。ここ、極東では十八からはどんな理由があろうと十八歳で政治も軍事も出来ない。ここにいる生徒たちはすでにその最後の年だ。
 だがここいる皆、そんなことには興味がない。明日のことなど誰もわからないのだから。そんなことよりも今を生きなければならない。
「……と、言うかこんな話して大丈夫か? 外に武神いるわけだが。いや、武神の一体や二体程度相手取れるけど」
「君は本当に規格外だね。……船の周囲には武神が飛行して監視中だけど、僕達の声をいちいち拾っている暇はないだろうし、もうすぐに極東の支配者で武蔵の持ち主である松平・元信公の三河圏内。それにここには君がいるじゃないか、夷」
 夷はJud.、と言いながら空を見る。そこには三機ほどの編隊を組んだ武神と呼ばれる兵器が飛んでいた。十字型の四枚翼に、白ボディと赤の装甲服、三征西班牙に所属する"清らか大市"製の航空用重武神“猛鷲”である。
 監視役なので目立った装備は無いが、仮にも武蔵という一つの国をたった三機で監視する者たちだ、技量的に言えばエースクラスである。
 しかしながら、彼らが襲い掛かって来ても夷は簡単に撃退するだろう。
 ネシンバラはため息をつきながら答える。
「三河は聖連を半脱退して敵対中のP.A.ODAと同盟しているから、その付近で聖連は迂闊に動けない。それにもしもだ、“両希夷”の機嫌を損ねたら死ぬと思ってるんだろうね、彼らは」
「……松平・元信、か」
 ネシンバラの皮肉をスルーして、夷はそっと呟く。それに気づく者はいないがオリオトライトはふと思い出したように口を開く。
「そういえば今回、三河には三征西班牙だけじゃなく、K.P.A.Italiaの教皇総長が三河製の個人用大規模破壊武装である“アレ”の新型を無心しに来るって話よ。ちょっと気にしておきなさい」
 アレという言葉に反応する者もいたが、露骨に表現する者はいない。アレの出現は世界を大きく変えた、良い事でもあり、悪い事でもあったからだ。
 オリオトライトは息をつきながら続ける。
「でもまあ、そんな感じに面倒で押さえ込まれたこの国だけど、君らこれからどうしたいか解ってる?」
 梅組の皆が閉口した中、夷だけが口を開いた。
「んなもん決まってるさ。とりあえず、両親を探してぶん殴る。十八年待ったんだ、そろそろ迎えに行ってもいいだろ。“両親を探して五万里”だって九歳でやったんだぜ?」
「……まぁ、転がって言うセリフじゃないわね」
 オリオライトがツッコむと何人かが吹きだす。
「まったく度し難いファザコン&マザコンね!」
「ちょっと喜美さんや、黙ってろ」
 せっかくカッコいいことを言ったのに喜美とオリオトライトのせいですべて台無しであった。
 しかし、先ほどまでの嫌な空気はそこにはない。
「さて、授業のルールを教えましょう。そうねえ……事務所にたどり着くまでに先生に攻撃を当てることができたら、出席点を五点プラス。意味わかるでしょ? 五回サボれるのよ……まぁ、サボれるのは学生の特権よ」
「オイ、この教育者、白昼堂々にサボり公認発言しやがったよ? というか、あんた学生時代にサボりまくったクチだろ」
オリオトライの言葉にみんなが皮算用を始める。
その中で、はい、と手を“第一特務 点蔵・クロスユナイト”という帽子を目深にかぶったままの少年と、その隣にいる航空系半竜の“第二特務 キヨナリ・ウルキアガ”が挙げる。
夷もぶつぶつも文句を言いながら、同じように五回サボれる利点を考えていた。まぁ、夷の場合はもう卒業のための単位は取ってあるので、利点などない、ないのだが普段の鬱憤を晴らすいい機会だと思っただけだ。
「先生、攻撃を“通す”ではなく、“当てる”でいいので御座るな?」
 点蔵の言い分に疑問を持つ者もいるだろう。通すと当てる、似ているようで両者には決定的な違いがある。
 通すとは、攻撃を相手に当てた上でダメージを与えることであり、実戦ならばこれをしなければならない。が、今回は当てるのだ。つまり、オリオトライトの体に攻撃でも、なんでも“触れる”ことができればいい。
 しかし、これは圧倒的な実力がある者であるから言える言葉であり、絶対的な自身が無ければこんな発言は出来ない。そこから、オリオトライトという人物がかなりの技量の持ち主だということがわかる。
「戦闘系は細かいわねぇ。別にそれでいいわよ。手段も問わないわ」
「と言うことは、長距離からの狙撃も可と」
 いつの間にか立っていた夷は、自身の身長ほどある筒状の物体を担いでいた。
 生徒たちとオリオトライトの唇の端が引き攣る。表示枠を展開し、今か今かと発射を心待ちにしている。
「夷、あんたは術式禁止よ。武蔵を破壊するつもり?」
術式禁止と言われた夷は崩れ落ちる。いくら夷が強くてもそれは術式使用を想定してだ。おそらくかなりの戦力ダウンだろう。
「しねえよ!! ……やろうとすればできると思うけど」
『できんのかよ!』
「あー、それと夷は“忍術”も“兵装”も“神道術式”も禁止。つまり生身で戦いなさい……まぁ、魔術は使えないと思うから除外ね」
「この教師を誰かリコールしやがれ! なんもできねえじゃねえか」
「せ、先生、さすがにやりすぎでは? いくらチートな夷くんでもキツイと……あ、でもなんとかなりそう」
「ならねえよ、このズドン巫女! むしろなんで対人戦なのに嬉しそうに弓矢出してんだ、コイ――――申し訳ありませんだからこっちに超ド級弓矢を向けないでくださいお願いします今度奉納するから許してくだしあ」
 長身で長い黒髪、両目の色が異なる少女の名を“浅間・智”。由緒正しき武蔵内神社の主社、一応、巫女は対人しちゃいけないのだが……なぜかニヤニヤ笑いながら、得物である弓矢を出している。
 全員が『ヒッ』とか言いながら慄いている。夷は弓矢を向けられたので即座に土下座を敢行する。
 いくら夷でも、浅間のズドンを連続発射されて耐えきれるわけがない。
「さて、夷。私も鬼じゃないし、拒否してもいいのよ? ――あーあー、でも全力出すんだ、“雑務”が、“世界最強”が、こんなか弱い乙女に」
 挑発するようなオリオトライトの言葉に、何かが切れる音がした。夷の周りの地面が陥没し、体から何かが出ている。それはただ夷の内燃拝気が外に出ているだけだ、これだけでも夷の異常性がわかる。
「―――Jud.。やってやろうじゃん、良い修業になる」
「なら、あんたが私に追いつけなかったら私に焼肉を奢ることと一日クラスの奴隷になってもらいましょう……女装でね、“夷ちゃん”」
 オリオトライトはニヤリと口を歪めながら、そんなことを言う。
 一方、夷は思考停止しながら口から何かが出ているような錯覚が見える。錯覚だと言ったら錯覚だ、神道に精通している者たちが何やら騒いでいるが気のせいだ。
 夷はゆっくりと息を吸って、落ち着き――思いっきり叫んだ。
「は、はめられたぁあああああああっ!」
周りのクラスメートはと言うと以下の台詞を夷に投げつけた。
「馬鹿だな」
「馬鹿ですね」
「馬鹿なのよ」
「アホですね」
「カレーいかかですかネー?」
 まさに外道、むしろ外道しかいない。そして最後の方に変なのが混じっていたような気もするが気のせいだと思いたい。
 当のオリオトライトは、やった、今月ピンチなのよと言いながら入念に準備運動を始めていた。本当に教師でいいのか? 大丈夫だ、大問題です、誰かリコールを。
 夷は『orz』と表現してしまう格好で地面に倒れこむ。その姿を激写している者がチラホラ、意外とファンやその他用途で使われやすい夷、ちなみに本人は知らない。
「う、ウフフ、ウフフフフ」
 突然、夷が笑い始める。
 皆が訝しげに夷を見る、ついに壊れたのか? と。
「あれ? 夷、壊れちゃった?」
「壊れてねぇええええええよ! むしろ、お前ら止めろよ! 俺の財布がマッハで無くなるわ!」
『いや、だって面白いし』
「悪魔しかいねえええええええええええ!」
「はいはい。んじゃ、目的地は“品川魔神会”の事務所、そこ目掛けて走りましょうか? まあ、脱落者が出ないように頑張りなさい」
 オリオトライトは大きく伸びた後、息を吸う……そして
「はい、それじゃ、改めて授業開始よ」
 なんの前触れもなくオリオトライトは背後に跳躍した。目指すは右舷中央通り、〝後悔通り〟と俗称されている場所だ。
 梅組の生徒はいきなり虚を突かれた。これは授業でも“実質は”訓練なのだ。今の一瞬の油断でもしかしたら誰かが死んでいたかもしれない。熟練の戦士であるオリオトライトがそれを突かないわけがない、つまりは見逃されたのだ。
 誰しもその事実に気づき、悔しさを隠そうとせずに一瞬苛立ち、皆が全力でオリオトライトの追跡を始めた……が、夷は普通に走っていた。そりゃあれだけ縛りを付けられたら何もできない、素直にランニングする以外に選択肢がなかった。
 誰か、代わりに移動手段を確保すればいいのだがなりそうな奴はすでに満員である。
「く、くそったれがぁああっ!」
 ただの生身で走る彼は……少し立ち止まった。
 目の前には小さな石碑、夷は膝を着きそれに触れた。そこにはこう書かれていた。
――一六三八年 少女 ホライゾン・Aの冥福を祈って 武蔵住民一同
 小さな、本当に小さな石碑だ。しかし、そこには葵・トーリと両希夷の“後悔”がつまっている。
「……なぁホライゾン、俺ってさ。ちっとは強くなったかな? 未練がましいけどさ、俺はあの日から一歩も進んでいないような気がするんだ。あの時、俺がお前の代わりになればってさ」
夷は目の前の石碑を撫でながら、ゆっくりと言葉を紡ぐ。
そして、少しだけ黙祷をして、立ち上がる。
「……魔術は使えない、って言ってたしな、使っていいんだろ? まったく、“見ておいて”正解だったな」
 夷は懐からナイフを取り出す、今日初めて使うが……“二回見ているから問題ない”。
 知り合いの魔女の強化機殻(フェアシュテルケンシャーレ)の破片を譲ってもらい、修復と強化を行って作った特製ナイフだ。これが無いと“魔術”は発動できない。
 誰も見せていないのでコレが初のお披露目である。言っておくが、二回見ている程度で魔術は出来ない。むしろ使えたら異常だ。
「さてはて、使えるのはマルとナルの加速術式くらい……後は加速術式の応用だけだな。んー、ちょっと心もとないけど大丈夫……かな?」
 少し首を傾げながら言う。それがどれだけ異常か、この場で指摘するものはいない。
 むしろ、夷にとって他人の技術とは“見て”覚える物だと認識している。
『型式呼出:作品名“寝顔の始ま―――“後悔の寝起き”:確認』
 魔術とは最小単位であるATELL単位で細かく詠唱計算して行う術式である。一応、術式だが“魔術は除外”と言質は取ってあるので遠慮なく使う。
魔術の利点はその利便性だろう。術式は焦点具に保存でき、基本的に内燃拝気を基礎とするが外燃拝気も使用可能であるため、一度作った術式ならば簡単に発動できるのだが、作るまでが大変なので夷も知り合いの術式をコピーして、それをほんの少し改良しただけだ。
術式を展開し終えると、夷の背中にはまるで天使の羽のような物がついていた。
体の調子を整えながら、夷は石碑に向き直る。
「んじゃ、ちょいと言ってくるよ」
『いってらっしゃい、夷』
 夷が飛び立とうとした瞬間、誰かの声が聞こえた気がした。
 振り向くが、そこにはただ石碑があるだけだった。夷は少し微笑みながら、空へ羽ばたいた。


 この物語は――
 王になろうとした少年と
 何でも出来て何も出来ない少年が
 ただ世界に喧嘩をうった物語である



 ――通りませ 通りませ



帰ってきました!
ちょっと変えてきた!
だから許してください!
配点(削除)


ケフィア「再び登場、液体作者ケフィア!」

夷「さてはて、消されたことを謝れ!」

ケフィア「今回は私があんまり原作と違うことをしなくてすいませんでした。だって、本格的に変わるのがもうちょい先なんだもの!! というか、説明回は必要なんだよ!!」

夷「まあ、二次創作は原作であーだったらいいなー、を書くのが本流だからな」

ケフィア「そのあーだったらなー、が書けないから困る」

夷「序盤はどうやっても動かせないし、説明しとかないと『?』ってなるしな、原作既読なら問題ないんだがな」

ケフィア「無い物ねだりはしょうがない、では次回までちぇりお!」



ケフィア「後、最初の警告文を読んで感想を書いてください。これから毎回書きますが、何度も言います。不快になられても一切の責任は負えません」

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