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【放送芸能】

原発労働と都会の無関心歌う 寺尾紗穂

 東日本大震災にともなう東京電力福島第一原発事故が起こる前年に、原発労働と都会の無関心を歌っていたシンガー・ソングライターがいる。寺尾紗穂(30)。こぶしを振り上げて訴えるのではなく、どこまでも透明な声で胸を突く。「私は知らない」と題されたその曲は、六月に出した六枚目のアルバム「青い夜のさよなら」(ミディ)に収められ、六日に東京で行うライブでも披露される。 (中村信也)

 けだるそうな雰囲気でピアノを弾きながら歌う寺尾。声が大貫妙子、歌い方が吉田美奈子、ピアノが矢野顕子−。二〇〇六年にソロアルバムを出したときの評判だ。細身の体に長い黒髪。鼻にかかった声でよく笑う。「評伝 川島芳子」という著作をもつ物書きでもある。

 二〇一〇年。たまたまネットで原発労働者の手記を見つけた。写真家・樋口健二さんのノンフィクション「闇に消される原発被曝(ひばく)者」も読み、衝撃を受けた。

 「事故の時だけでなく、安全のための定期点検の時でさえ、被ばく者がつくられていたことを知り、すごくショックでした。“血塗られた電気”なんだなって。この事実を伝えなきゃって思いました」

 大学生時代に先輩から誘われ、日雇い労働者の町、東京・山谷の夏祭りに行ったことがある。「君の大学も建てたよ」と言うオジサンをモデルに歌を作った。原発にも、日雇い労働者が多い。また歌を書いた。

 ♪放射能で被曝したおじさんが/虫けらみたいに弱るのを/都会の夜は黙殺する…

 「私は知らない」と名づけ、ライブで歌った。ステージを下りても「労働者が被ばくしないとできない電気なんだよ」と会う人ごとに伝えた。

 その翌年、三人目の子供に授乳中に大震災が起きた。そして原発事故。あれほど収拾のつかない事態になるとは思いもしなかった。

 「あの曲が3・11後に書いたととられ、歌いづらいなと感じたこともありました。でも、あの歌が二〇一〇年にできていたことの意味を考えると、歌い続けなきゃと思います。原発の問題は、3・11後にガラッと変わったのではなく、前からずっとあって、ずっと見なくちゃいけなかったことですから」

 今回のアルバムに収録するため一〇年にできていた歌に日本人ラッパー、ダースレイダーにラップを重ねてもらいレコーディング。ラップでは「あの子は知らない お外は楽しいの? 太陽はまぶしいの? キャベツは美味(おい)しいの?」などと被災地に思いを寄せている。

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 ライブは六日午後七時半、東京・渋谷のクラブクアトロ。(電)03・3477・8750。

 てらお・さほ 1981年、東京生まれ。3歳からピアノを習い、中学校ではミュージカルサークルを作り、脚本を書いて作詞、作曲、出演。大学ではジャズ研に顔を出し、バンドも結成。2006年、ミニアルバム「愛し、日々」でソロデビュー。07年に出した2枚目のアルバム「御身」で注目される。映画の主題歌やCM音楽、エッセーなども手掛けている。

 

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